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樹の散歩道
 
  超合金衛星要塞<Gンブリオテガ

   
   − ヤブミョウガのミクロコスモス 

             


 実は、表題は支離滅裂である。ヤブミョウガの種子をよくよく見ると、これらの単語を並べたくなってしまった次第である。
 ヤブミョウガは東アジア、日本に分布するツユクサ科ヤブミョウガ属の多年草である。 群落としてまとまりがあると、夏に咲く白い小さな花もきれいで、秋には濃い青色の丸い実を付ける。ヤブラン、ノシラン、ジャノヒゲなどの実(これらは正確にはむき出しの種子≠ニされる。)も一見同じような印象があるが、大きな違いがある。
【2008.3(2008.8追加)】
   


 ヤブランノシランジャノヒゲは表皮をツルンと剥けばスーパーボールのように驚くほどよく弾むのであるが、ヤブミョウガの熟した果実はつぶせば乾いた薄い表皮、粒々の小さな種子はもろとも粉々になって崩れてしまう。こんな乾いた砂のようなものをを食べる鳥はいないのではないかと思えるし、仮に口入れてたらペッ、ペッと吐き出すに違いない。
 しかしである。この青い薄皮に包まれた種子をよく見ると、これは一体何なのだ!!ということになる。


        ヤブミョウガの種子の様子
 ヤブミョウガ果実数個分の種子である。ちょっと見れば粗挽きコショーのように見えるがよく見れば精密部品のような作りである。


 
                  開花期のヤブミョウガの様子
 ヤブミョウガ
Pollia japonica は、ツユクサ科ヤブミョウガ属の多年草。都内の日比谷公園では多く見られる。
 
            ヤブミョウガの花
 両性花と雄花が混ざってつき、萼と花弁はそれぞれ3個で、柱頭をツンと突き出しているのは両性花。 
        ヤブミョウガの成熟果実
  藍紫色で美しい。直径は約5ミリほど。
 
     ヤブミョウガの果実の種子の様子1
 薄皮を剥がすと、石積みのように整列した種子が見える。
    ヤブミョウガの果実の種子の様子2
 個々の種子は不整形であるが、ピッタリ収まっている。石積み職人の技のようである。
 
 
 左の写真は比較用の本物の石積みである。

 お仲間のような印象があるが、視覚的にはヤブミョウガの種子の方が装飾性において優っている。


 バラバラになった状態のものをよく観察するとみんなかたち、大きさが異なったいわば多面体であることが分かる。しかも、一つひとつに全く同じような突起が見られる。さて、まずはこれらはどういった状態で納まっていたのか。

 今度は別の実で青い薄皮を注意深く部分的に剥がしてみる。カサカサでもろい皮であるから細心の注意がいる。しかも剥がしすぎると全体が崩れてしまう。さて、剥がした部分を見ると、配列構造が明らかになる。

 一見無秩序に見えた個々の種子は全体で球体のシェル構造をなしていたのである。かたちの異なった種子は球体のシェルの一部となって、隣同士の種子とは隙間なくぴったりとくっつき合っている。これは驚異的である。

 改めて個々の種子を見ると、球体の外面に相当する凸面の中心部が凹んでいて、その中心に突起があり、その種子の裏側(球体シェル構造の内側)は逆にへそ状にへこんだ部分がある。正に表の反転構造である。

ヤブミョウガ種子の外側の面の拡大写真

ヤブミョウガ種子の内側の面の拡大写真


 さらに、種子表面の質感がいい。決してつるつるではなく、また単にざらざらでもなく、微細な表面加工をしたような鈍い金属的光沢があるのである。これはハイテクの構造体である。

 青い薄皮に包まれていたものは、デススターもびっくりのハイテク素材の衛星要塞のデザインとして十分成立しそうな代物、驚異のミクロコスモスであった。

 さて、これについて調べてみると、こうした種子の構造はツユクサ科の共通した特徴の一つで、種子の乳状突起は「エンブリオテガ」と呼ばれていて、この部分が蓋のようにはずれて発芽・発根するとのことである。
 
 「エンブリオテガ」とは何やら仰々しくて実にいい響きである。しかし、百科事典、植物関係の事典にもない一方で、英語の“embryotega”を検索すると驚くほどヒットする。これは謎である。国内では単に「蓋(ふた)」とでも言っているのであろうか。
(注)「エンブリオ」は本来の「」の意味で普通に使用されている。

<エンブリオテガの補遺>

*英文ホームページで以下の情報例が見られた。

@  embryotegaembryostegaoperculum (果蓋 かがい)
 注:“embryo”は生物学の用語で「」を意味する。
A  エンブリオテガを「胚の帽子」として表現している事例が見られた。
B  以下のように定義している事例が見られた。

 植物学で、ムラサキツユクサの仲間に見られるような植物の種子表面の瘢痕のような小さな丸く厚くなった部分を指す。
 ある種の種子の臍のような仮皮で、発芽に際して離脱する。

*印刷された情報としては以下の翻訳情報例が見られた。

ヘンダーソン生物学用語事典:Eleanor Lawrence編(平成8年5月15日、株式会社オーム社)
embryotega  ある種の種子では珠孔の場所に当たる種皮の硬い小部分が、発芽の際には蓋のようにはずれる。