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樹の散歩道
   身近な有毒植物など 


 有毒植物の知見は先人の貴重な経験の積み重ねによるものであり、これ自体が感動的であり、また何でも口にしたであろうご先祖様のたくましさに感服せざるを得ない。ただ、ささやかな希望をいえば、こうした情報としては例えば、「いやー、のどがかなりヒリヒリして、呼吸もひどく苦しかったねえ・・・」とか、「意識が遠のいていくうちに、何とも美しい天女の顔が見えたんだよ・・・」とかいった生の声が聞けると非常に興味深いわけであるが、これは残念ながら無理なこと。また、最近の子はひもじい思いをすることがないせいか、食べられるとされる木の実さえ口にする機会も減って(そもそも知らない)、ましてやとんでもないものを口にすることはありえないと思われる。有毒植物の知識は普段意識されることもないため、かえって意外性があり、知識としても多少身につけておけば、機会を捉えて子孫に伝えることも可能である。 【2013.12 再編集】 


 最も愛されている毒キノコ ベニテングタケ   
     
 
ベニテングタケ 1  ベニテングタケ 2  ベニテングタケ 3 
 
     
 
 
ベニテングタケ 4 
 
     
   「七人のこびと」と相性がピッタリであると感じてしまうのは、ディズニーあるいはこれに類する図像が頭にすり込まれてしまっているからである。
 ベニテングタケは世界各地に広く分布するといわれる有名なキノコで、これほど色鮮やかで美しいキノコはないといった印象である。このため、おとぎ話の絵に添えるには最適の素材となっていて、一方、あまりにも鮮やかであることから、詳しいことを知らなくても毒キノコなのであろうと認識されている。
 個人的にこのキノコに関心があったのは、これが毒キノコといわれながらも幻覚を見るといわれている点に強い誘惑を感じたからである。ただし、幻覚以外の中毒症状として知られている内容(後出)を見ると、少々躊躇するには十分で、そのために残念ながら未だ口にしたことはない。正確には植物ではなく菌類であるが、トップバッターにふさわしい美しさである。 
 
     
  <参考資料>   
     
 
【天然の毒:山崎幹夫ほか 1985.2.20、株式会社 講談社】
ベニテングタケ:
鮮やかな紅色の傘の外観から猛毒性のキノコと思われているベニテングタケの毒性は、実はそれほど強くはなく、むしろ催幻覚性が問題となる。テングタケにも同様の作用がある。成分としてムシモールムスカリンの存在が知られている。また、面白いことにこれらのキノコにはハエトリタケの異名があり、殺ハエ成分としてイボテン酸が実際に分離されている。

【生物毒の世界:社団法人日本化学会 1992.11.10、大日本図書(株)】
ベニテングタケはその色からして猛毒キノコと思われがちだが、致命的な中毒を起こすわけではない。ロシアにはウオッカ煮付けて薬用酒としているところもあるし、日本でも塩漬けで毒抜きをして食べる地方もある。日本ではハエトリタケの異名を持ち、昔から殺ハエ作用が認められていた。英名も fly agaric という。中毒症状は、食後30分くらいで発汗し、よだれや涙が止まらなくなるという特徴的な症状を呈し、血圧低下、視力障害などを伴う。これはキノコに含まれるムスカリンによるものである。ベニテングタケの中毒症状は実はもっと複雑で、別の作用を起こす物質がたくさん入っていて、このキノコを食べると異常に興奮し幻覚を生ずることもある。 
 
     
 2  三大有毒植物   
     
(1)  トリカブト類(キンポウゲ科トリカブト属)    
     
   トリカブトの名を聞くと、どうしても陰惨な犯罪の臭いを感じてしまうのは、実際にそうした事件の記憶があるからである。それほど古い話ではない昭和60年の「トリカブト保険金殺人」は有名である。テレビのサスペンスドラマでは、毒殺など日常茶飯事であるが、実社会で強力な毒草が明確な意図を持って実用に供されたという事実に多くの人が驚愕するとともに好奇の目を向けた。
 トリカブト類は日本各地に分布していて、トリカブト亜属として40種近くが知られていて、このうち北海道には8種ほどが分布するという。
(注)  単にトリカブトという場合は、トリカブト亜属の総称としている場合と、中国から生薬原料として移入され、栽培されてきたハナトリカブトAconitum carmichaeli (カラトリカブトとも)を指している場合がある。国内にはトリカブトの仲間が多く自生しているが、種名としての「トリカブト」は国内での自生はない。 
 
     
 
 
 エゾトリカブトの花
 
     
 
 エゾトリカブトの葉 1(下部) エゾトリカブトの葉 2(中央部)  エゾトリカブトの葉 3(上部) 
     
    エゾトリカブトの若い果実
 果実は袋果で、形態的には樹木のカツラの果実に似ている。 
    エゾトリカブトの成熟果実
 
既に裂開していて、種子が見える。
     エゾトリカブトの種子
 
多数のヒダと周囲又は片側には翼が見られる。長さは4ミリほど。 
 
     
 
オクトリカブトの花 オクトリカブトの葉 
 
     
     
   まだ背の低い若葉の時点でニリンソウと間違えて食して死亡する事故がしばしばあるという。
 北海道ではエゾトリカブトは道端で普通に見られるが、根を掘り採る人はさすがにいない。仮に好奇心からであっても、辺りを窺うようにして、こそこそ掘っていたら、周囲を不安に陥れ、下手をすると通報されるかも知れない。しかし、かつてアイヌは生活に必要なものとして、狩猟のための矢毒とするためにこのエゾトリカブトオクトリカブトを利用していたとされる。これらの毒性は世界最強レベルにあるとされ、アイヌは矢毒の製法を和人に対しては簡単には明かさなかったとされる。

 トリカブト類の毒性の強度のランキングについては、実は明確なものを目にすることはなく、アイヌが利用したとされるエゾトリカブトとオクトリカブトに関しても、書籍の情報は以下のように一致していない。世界最強決定戦は決着がついていないのであろうか。 
 
     
 
@ 【朝日百科植物の世界】
エゾトリカブト:これまでに知られている限りでは、世界最強の有毒植物で、アイヌの人たちが狩猟に利用したのはこれである。
オクトリカブト:これまでに知られている限りでは2番目に強い毒性を持つ。
 
A 【山に咲く花】(@と全く同じ内容)
エゾトリカブトは今までに知られている限りでは、世界で最も強い毒性をもつトリカブト
オクトリカブトは知られている限り、世界で二番目に毒性の強いトリカブト。 
B 【続北方植物園:朝日新聞社編】
アイヌに聞くと銭函産のオクトリカブトが一番毒性が強いというが、我々が道内のあらゆる地方から材料を集め成分を抜き出して研究してみたところ、事実そうだとわかった。秋か春先、芽がまだ出ないうちにとると毒の効き目が激しいといわれ、アイヌはこの季節にせっせとこの根を掘った。(元北大学長 杉野目晴貞名誉教授談) 
C 【生物毒の世界:日本化学会扁】
知里真志保の語る北海道幌別のアイヌのいう @シノ・スルクは矢毒として使用できる真の附子であり、銭函や蘭島で見られた猛毒なオクトリカブトであり、Aヤヤイ・スルクは普通のトリカブトで、北海道各地で見られるエゾトリカブトを指したということになろう。 
 
     
   実験動物を使った毒性試験の基準があっても、採取時期による変動、地域変異、個体差がある上に、調製方法によっても違いが生じるのかも知れない。一方で、“史上最強”との評価のあるボツリヌス毒を垂れ流すボツリヌス菌は、トリカブトのレースなど全く気にする様子もなく余裕の表情≠みせているようにみえる。さてさて・・・   
     
  <参考資料>   
     
 
【世界有用植物事典】

 トリカブト属:
 主として根に、アコニチンaconitine、メサコニチンmesaconitine、ヒパコニチンhypaconitineなどのジテルペン系のアルカロイドを含み、植物界最強といわれる猛毒があるが、なかにはサンヨウブシのように無毒なものもある。これらの毒性分は加水分解によって無毒化されるため、この毒によって殺された動物の肉を食べることができる。アイヌなど北半球の多くの民俗にとって狩猟の時の矢毒として用いられた。日本には北海道から九州にかけて30種あまりが自生しているが、変異が強くて分類が困難である。

 ハナトリカブト:中国名:烏頭
 ハナトリカブト(注:カラトリカブト、単にトリカブトとも) Aconitum carmichaeli (Aconitum chinense)は中国原産で、日本や中国で薬用、切花用として畑で栽培される。
 生薬のトリカブトは中国産の塊根を用いる。(注)国産もある。
 漢名の附子ぶし:塊根に対する名前)は、母根(ぼこん)のまわりに子根(しこん)のついた状態による。中国名の烏頭(うず)は花の形と色に基づく(注)。
(注)烏頭の名は、乾燥した塊根(母根)が烏の頭の形に似ることによるとする説明を目にすることが多い。 

【アイヌの矢毒 トリカブト:門崎 允昭】

 アイヌは矢毒(漁猟や武器に用いる毒)には主にトリカブト類(亜属)とアカエイ類(属)の毒針を用いていた。
 アイヌが矢毒に使用したトリカブトは、種の分布と採取地の照合とから、主体はエゾトリカブトA. yesoense とオクトリカブトA. japonicum の2 種である。北海道での両種の分布は、エゾトリカブトは亜高山帯以下のほぼ全道に分布している、オクトリカブトは小樽管内の銭函と室蘭市を結んだ地域から以南西部の渡島半島南端に至る地域の海岸付近からその少し内陸部の低標高地域に分布しているに過ぎない。したがってオクトリカブトの採集地はエゾトリカブトに較べ地域が限られていた。
 アイヌは矢毒{スルク」の主剤にトリカブトの塊根を用いたが、それは経験的に茎葉よりも塊根に毒性分(これもスクルと呼んだ。)が多く含まれておりしかも新しい茎葉がまだ出芽しない晩秋から早春の塊根のスルクが強毒であることを知っていたからである。
 (子根の採取に際して)毒の強弱の検査法は、割面の色の変化(注:黒変するものは強毒を含むという。)の他に、ザトウムシの口に毒を塗って脚がたちまちとれるものや指の擦過傷にに毒を付けて、そのしびれ具合などからも判断した。(注:毒の調製に関しては、23種の文献の記述を紹介している。)
 トリカブトによる中毒症状の原因物質は、アコニチンaconitineを主体としてアコニチン型アルカロイドで、生体への作用部位は神経に対してであり、中毒の原因は神経の正常な刺激伝導をアコニチン型アルカロイドが阻害するためである。これによる最も顕著な中毒症状は、時々呼吸性呼吸停止を伴う「しゃくり」様開口運動による頭部の痙攣様運動で、これをトリカブト中毒による「あ症状」といい、この症状は嘔吐運動、呼吸障害、心臓障害が同時に混合した中毒症状だという。

【毒と薬の科学】

 生薬としては一般的に、中国産のものはカラトリカブトAconitum cormichaeli を基原とし、日本産はオクトリカブト、韓国産はミツバトリカブトAconitum triphllum がそれぞれ主に用いられている。トリカブトの主たる有毒成分はアルカロイドの一種のアコニチンaconitine である。

【メモ】
 ・  八味地黄丸(はちみじおうがん)には附子(ぶし)が配合されている。
→ あらかじめ漢方で言うところの「修治(しゅうち)」つまり毒抜きを済ませてあるもの(修治附子・加工附子)が使用されている。 
 ・  トリカブトの名は、その花の形が舞楽で楽人・舞い手がかぶる鳳凰の頭の形を模した冠である鳥兜の形に似ていることからの命名である。属名のアコニツムAconitum はギリシャ語の投げ矢(アコン)に由来(注:諸説あって定説がない。)する。(薬と毒の科学) 
 ・  ニリンソウを山菜としてよく食べる東北、北海道では(トリカブト類の葉とよく似ているため)毎年のように中毒事故が起きている(東京都健康安全研究センター) という。  
 
     
(2)  ドクウツギ(ドクウツギ科ドクウツギ属)   
     
   ドクウツギの実の色合いは実においしそうで、いつもひもじい思いをしていた昔の子供たちであれば、ほとんど手招きされているようなものであったに違いない。特に戦前は、その誘惑に身を任せた子供たちの中毒事故が多かったといわれる。   
     
 
   
                   ドクウツギの葉と果実
 鮮やかな紅色の果実はよく目立ち、だれもが引きつけられる。
    ドクウツギの果実(完熟前)
 
果実は肥大した花弁に包まれた液果状と説明されている。
 
     
 
   
   ドクウツギの熟した果実 1
 果実は紫黒色に熟す。花弁の隙間から中の果実をのぞき見ることができる。 
    ドクウツギの熟した果実 2
 花弁を開こうとすると軟らかな花弁はすぐにつぶれて紫色の液が流れ出す。たぶんポリフェノールたっぷりである。
    ドクウツギの熟した果実 3
 花弁を開くと果皮に包まれた本当の果実(痩果)が現れる。5個の分果からなる。
 
     
   この猛毒とされるドクウツギに関して最も興味深い点は、果実が紅色から黒紫色に熟すが、熟せば毒性は弱くなるといわれている点である。具体的には、「黒紫色に熟した状態では花弁の毒は消失しているため、汁を吸って(まだ毒のある)痩果を吐き出せば中毒しないとされる。」(朝日百科植物の世界)ことである。しかもこの果実は多汁で甘みがあるという。猛毒の果実が時間とともに甘い果実に変身するということになる。しかし、怖くてとても実践できないし、保証の限りではない。   
     
  <参考資料>   
     
 
【世界有用植物事典】
 ドクウツギ Coriaria japonica
 果実を誤食すると致命的なほど有毒な、高さ約2mの落葉低木。
 黒紫色に熟した果実は多汁で甘みがあり、子供が誤食して死亡に至ることがある。猛毒で、コリアミルチンcoriamyrtinやツチンtutinを含有する。
 中国では同属の C.sinica をドクウツギ同様猛毒だが葉を病気に使う。精神分裂症に効果があったという。根や樹皮も薬用に使われる。

【朝日百科植物の世界】
 ドクウツギ:
・ 肥大化した花弁が痩果を包む。
・ 果実は紅色から黒紫色に熟すが、熟せば毒性は弱くなる。
黒紫色に熟した状態では花弁の毒は消失しているため、汁を吸って(まだ毒のある)痩果を吐き出せば中毒しないとされる。

【毒と薬の科学】
 この果実に含まれる猛毒のコリアミルチンやツチンといった有毒化合物は、セスキテルペンsesquiterpene (C5ユニット3個からなるテルペン)類に属する化合物で、中毒すると、延髄の痙攣中枢を刺激し、激しく痙攣を起こして死に至る場合がある。ドクウツギの別名を「市郎兵衛殺し(いちろべえころし)」という。 
 
     
(3)  ドクゼリ(毒芹)(セリ科ドクゼリ属)   
     
   ドクゼリ Cicuta virosa をセリと間違える中毒事故が知られている。   
     
 
ドクゼリの葉  ドクゼリの花 
 
     
   ドクゼリは、@セリよりも葉柄が長く、Aタケノコ状の太い太い地下茎を有する点が特徴とされる。   
     
  <参考資料>   
     
 
世界有用植物事典】
 全草、特に根茎にシクトキシンキクトキシンチクトキシンとも) cicutoxin や一種のアルデヒドなどを含み、有名な猛毒植物である。誤ってなめたり食べたりすると神経中枢が侵され、強直痙攣を起こし、脈拍が増加し、呼吸困難となり一命を落とすこともある。解熱作用も知られるが、薬用にはしない。

【植物の世界】
 ドクゼリには猛毒成分のキクトキシンを含む。セリより大型で、水辺に生育し、根茎が大きいことで区別できる。
 ドクゼリは中枢神経性の猛毒成分キクトキシンを含み食べると痙攣、脈拍増加、呼吸困難などを来す。若い芽を食用のセリと間違えることがある。 
 
     
   毒への誘い

 言葉としての毒、物質としての毒、そのいずれもが人を誘惑する力を持っている。
 毒物、毒薬、毒草、毒牙、毒婦、毒刃、毒蛇、毒殺・・・と、凶悪な闇の世界を象徴するようで、文筆家であればムラムラと創作意欲を掻き立てられる言葉なのであろう。そのまま書籍となって、「毒薬の手帖」(澁澤龍彦)、「毒殺百科」、「日本毒婦伝」、「毒針の怪人」、「ウィンブルドンの毒殺魔」、「毒蛇少女の魔術」・・・と数限りなく毒入り≠フタイトルが存在する。B級映画の邦題では、思わず吹き出してしまいそうな「悪魔の毒々モンスター」(原題THE TOXIC AVENGER」とかなり安易なタイトルまで存在して楽しい。 
 
     
   毒と薬 

 ある特定の毒物に関して、時に興味深い個性を発揮している例が見られる。それは、激烈な有毒植物がしばしば極めて有用な生薬として利用されているということである。こうした経験則から、

 毒と薬は紙一重
 毒と薬は表裏一体
 使い方次第で毒にも薬にもなる
 といったことわざ等が生まれている。

 これは、適正な利用方法さえわかっていれば、有毒物質が極めて有用な薬に転じるものであるといった意味合いであろう。しかし、よくよく考えるとあまり正確な表現ではないことがわかる。つまり、量如何で、毒として作用することもあれば薬として作用することもあるという、明確な両極端の性質を示すという誤解を招く恐れがあるからである。そこでもう少し客観的に言えば、「特定の生体外物質について、摂取量を調整することで、弊害(害毒)よりも得られる効能の方がやや優ると思われる場合がある。」ということなのであろう。この「思われる」というのがミソで、平たく言えば「現在わかっている範囲での評価」によるということである。弊害(副作用)のない薬など存在しないことを、改めて思い起こすべきであろう。 
 
     
   生薬としてのトリカブト類

 猛毒トリカブトがごく一般的な漢方において、さりげなく処方されている。古い歴史を持つ中国の処方箋に忠実に依拠したもので、日本名「八味地黄丸」はその例である。国内では複数の製薬メーカーが製造販売している。具体的には日本薬局方(第15改正で収載)で定めるハナトリカブト又はオクトリカブトの塊根に由来する「ブシ末(附子末)」が生薬の一つとして配合されている。
 さすがに塊根のそのままの粉末ではイチコロであるから、高圧蒸気処理等により毒性を減じた後に乾燥して粉末とするなどの加工したもの(加工ブシ末)が使用されている。 
 
     
 
 ところで、日本薬局方では数あるトリカブト類の中からハナトリカブトカラトリカブトとも)とオクトリカブトの二種のみに限定しているのは意外であると同時に解せない点である。この2種を比べれば、毒性においてはオクトリカブトの方がはるかに格上の印象があり、勝手な思いで言えば、毒のパワーに劣るハナトリカブトは薬用としても迫力に欠けて分が悪いように感じてしまい、両種が並ぶこと自体に違和感がある。

 中国伝来のハナトリカブトが日本の在来種よりも生薬として優れた特性があるとも聞かないから、ハナトリカブトが単に元祖の中国から導入されたもので、生薬として国内で栽培されてきた歴史があり、同時に花が観賞用としても適していたことから、国内で広く栽培されてきたことによるものと思われる。

 オクトリカブトについては本州中部以北、北海道に分布すると言われ、この種に由来する品種(サンワおくかぶと1号)も栽培されてきた経過があって掲載に至ったのかも知れない。いずれにしても、この2種のみが薬効成分としての条件を満たしているということではなく、たまたま栽培実績があって、成り行きで修治加工の実績もあったというに過ぎないのかもしれない。

 ところで、実際に流通する附子が本当にこの2種だけなのか、生薬の多くを中国産に依存する中で国産のシェアがどの程度となっているのかなど、全体像を理解するための情報は目にしない。  
  ハナトリカブト(カラトリカブト) 
 
     
  <参考:エゾトリカブトの花の構造>   
     
   トリカブト類の花は形態が面白い上に中をのぞいても花弁の柄しか見えないもどかしさもあって、ついつい学習のために分解してみたくなる。以下はその様子である。この複雑な形態は、もちろん受粉を確実に行うためにターゲット(マルハナバチ)を絞ってたどり着いた一つの形態と理解されている。   
     
 
 
エゾトリカブトの花の構造
(エゾトリカブトの花を分解した様子)
花弁の様子
 
     
   花の構造は左右相称で、萼片は5枚、花弁状で、頂萼片は兜(かぶと)状。2枚の側萼片はほぼ円形。2枚の下萼片は楕円形又は長楕円形。花弁は2枚で、頂萼片の内側にかくれ、身部の中ほどで長い柄につきイの字をなし、柄の付着点より先はとなって、ふつう上向して蜜を分泌し、舷部は下向する。雄しべは多数、雌しべは3個〜5個。(「日本の野生植物」ほか) 

 この複雑な構造に関しては次のような説明例がある。「カブト形のガク片(頂萼片)は中にある蜜腺から直接蜜を吸われないためのカバーで、下にある2枚(下萼片)はマルハナバチの着陸場、楕円形の2枚のガク片(側萼片)はマルハナバチが必ず雄しべ雌しべの上を通るように左右からガードしている。」(田中肇)
 
     
 
 
                エゾトリカブトの花の縦断面
 上の写真では、頂萼片が真っ二つになっている。花托部分は切っていない。 
  エゾトリカブトの雄しべと雌しべの様子
 写真は雄しべをかき分けた状態。雌しべはふつう3個。花托の奥に花弁の柄が二本見える。
 トリカブトの花は雄性先熟で、雌性期には、雄しべをかき分けなくても雌しべが突き出る。 
 
     
   様々な有毒植物

 身の回りの有毒植物を知るための図鑑類は多数見られ、おおよその知見が簡単に整理されているが、勝手なことを言えば、やはり不満な点は体験談がほとんど見られないことである。以下は備忘録として書籍から拾い上げた情報である。 
 

 *掲載種は木本類
ツヅラフジ科 アオツヅラフジ ・つる性落葉低木。カミエビとも。毒の成分はトリロビンなど。エビヅルやサンカクヅルの葉を知らないとブドウに見える。厚く切れ込みの浅い葉とアサガオと同じ巻きのツルを区別点に誤食しないよう注意が必要。一方で漢方としての利用がある。
・美味しそうに見えるため口に入れてみたところ、全く甘味がない。ふつうの人は、すぐにはき出すであろう。
アオツヅラフジ属
ユキノシタ科 アジサイ ・国内で料理の飾り用として提供されたアジサイの葉を食べて食中毒になった事例が知られている。原因物質に関しては明確になっていないが、厚生労働省が注意喚起の通知を発している。 アジサイ属
ツツジ科 アセビ ・有毒植物であるが、その葉を煎じて殺虫剤に用いる。馬が食べると苦しむといい、馬酔木の名がある。毒の成分はアセボトキシン、グラヤノトキシンV。奈良公園の春日大社ではアセビの木が多く植えられているが、鹿はアセビが有毒であることを知っているようで、決して食べないという。
・牛は賢くてこの葉を食べることはないが、ヤギをこの木につないだら終わりである。【斉藤】
*食べ物がなくなれば、鹿はアセビも食べるとの情報がある。
アセビ属
トウダイグサ科 アブラギリ 種子から採れるキリ油(桐油:トウユともいう。)は優れた乾性油であるが毒性があり食用とならない。毒荏(どくえ)の名がある。 アブラギリ属
イチイ科 イチイ 成分:タキシンtaxin、タキソールtaxol。痙攣,硬直。イチイの学名であるTaxusはギリシャ語の弓を意味するタキソンtaxonに由来し、英語の毒toxinの語源にもなっている。イチイの毒性分は葉、枝、タネすべてに含まれている。しかし、赤く熟した生の実の部分だけは毒を持たずに甘く、食べられる。イチイ属 Taxus(英名 yew)は北半球に8種あり、そのなかでもヨーロッパイチイ(セイヨウオンコ)T.baccata L.(英名 common yew)は欧米で庭園樹としてよく用いられている。イチイ属は有毒なアルカロイドであるタキシン taxin を含有するが、薬用にされることがある。 イチイ属
イチョウ科 イチョウ 落葉高木。フェノール性化合物が銀杏に含まれる。食い過ぎに注意。 イチョウ属
バラ科 ウメ 保有する毒の成分は、アミグダリン、遊離シアン。有毒成分は未熟な実や種子に含まれている。「アオウメは食べるべからず」「梅の種を食べると天神様(菅原道真)が泣く」などの言い伝えがある。アンズも同様。 サクラ属
ウルシ科 ウルシ 樹液,葉が皮膚につくと、強いウルシかぶれの炎症を起こす。人によっては炎症を起こさない場合もある。 ウルシ属
エゴノキ科 エゴノキ 果皮にエゴサポニン。魚毒・溶血作用。魚は一時的に麻痺。昔からサポニン系の毒を含む植物は魚毒として使用されていた。 エゴノキ属
マメ科 エニシダ 毒の成分はスパルテイン、サロタムニン、ゲニステインなどで全草に含まれる。生の枝は強い嫌な苦味がある。胃腸痙攣等の症状。薬学の世界ではエニシダ枝といって、茎や葉を干したものを硫酸スパルテイン(心臓疾患やむくみの治療薬となる)の製剤原料として今でも使われているという。 エニシダ属
キョウチクトウ科 キョウチクトウ  枝葉や花は有毒。強心物質があるが、素人療法は危険。口にすると嘔吐、腹痛、下痢、心臓麻痺などを起こす。明治10年の西南の役では官軍側の兵士がキョウチクトウで箸を作って食事をしたところ多くの中毒者を出したという。
 フランスではバーベキューの串の代わりにセイヨウキョウチクトウの生の枝を使って肉を焼いて食べ死者が出たという。
 毒の成分はオレアンドリン、アディネリン、ギトキシゲン、ジギトキシゲン。主に葉に強い有毒成分を含む。
キョウチクトウ属
マメ科 キングサリ 別名キンレンカ。ヨーロッパ南部原産。明治初期に渡来。黄色の蝶形花を総状に付ける。庭木、花材となるが有毒植物。 クロヨナ属
マチン科 クラーレノキ つる性低木。ストリキノス・トキシフェラと呼ばれる植物。ベネズエラのオリノコ河流域からギアナにかけて分布。呼吸麻痺、筋弛緩作用。平成5年、これが基になって合成された塩化スキサメトニウムを利用(注射)した愛犬家殺人事件発生。筋肉が弛緩し意識があるままで呼吸が出来なくなり死に至る。 ストリキノス属
ロウバイ科 クロバナロウバイ 落葉低木。北アメリカ南東部原産。毒の成分は、カリカンチンで、種子に含まれる。 クロバナロウバイ属
コカノキ科 コカ1 コカインによる麻薬作用・局所麻酔作用。インディオにとって聖なる植物。アンデスでは何千年も前から、ビタミンやミネラルの重要な供給源で、食欲を抑え、痛みや恐怖を和らげ、活力を与え、病気に対する免疫力を強めるという、奇跡の植物だった。コカの葉は口に含んだ後にリフタと呼ばれる灰(カカオやイナゴマメといった樹木を焼いた灰を固めたもの)口に含んで噛み続ける。灰に含まれるアルカリとコカのアルカロイドが反応する。コカの葉の最大の特徴は、歯の裏側にある中央脈を挟んで二本の直線が入っていること。 コカ属
コカ2 初期のコカコーラの瓶は、コカの実の形をヒントにデザインされた。最初のコカコーラは、コカの葉とアフリカのコーラナッツ(興奮作用のある果実)を調合。1902年にジョージア州議会であらゆる形態のコカイン販売全面禁止によって、コカコーラからコカインが取り除かれた。しかし,風味を添えるためのコカイン抜きのコカの葉を含んでいた。現在では、風味付けのコカの葉は含まれていないという。  コカ属
ザクロ科 ザクロ 外来。毒の成分は、ペレチエリン、イソペレチエリンなど。根や樹皮にに含まれているが、果実には含まれない。中枢性運動障害、呼吸麻痺。 ザクロ属
モクレン科 シキミ  9月頃、袋果が熟す。実は猛毒。果実を誤用すると、けいれん毒で、呼吸困難、血圧上昇を起こして死亡する。アニサチンという痙攣性の神経毒を含む。スパイスのスターアニス八角)と混同されて、ヨーロッパで中毒が発生したことが知られている。
 シキミの実は、あらゆる有毒植物の中で唯一「毒物及び劇物取締法」で指定されている。
シキミ属
ツツジ科 シャクナゲ  常緑低木。毒の成分はロードトキシン(アンドロメドトキヂン)など。すべての種類のシャクナゲが有毒。
 日本産のものでは、京都周辺のホンシャクナゲ、東日本のアズマシャクナゲ、東海地方のホソバシャクナゲなどが比較的よく栽培されている。
・有名な奈良室生寺のシャクナゲはホンシャクナゲである。
・大分県朝地町の神角寺のシャクナゲはツクシシャクナゲである。
ツツジ属
ソテツ科 ソテツ 常緑低木。毒の成分はサイカシンで、全株に含まれている。サイカシンは水溶性。サイカシンは体内にはいると酸で分解されてホルマリンになる。 ソテツ属
キョウチクトウ科 テイカカズラ ツル性常緑低木。毒の成分は、トラチェロシドなど。汁液に触れるとかぶれる。名前は藤原定家に由来するという。 テイカカズラ属
ドクウツギ科 ドクウツギ 落葉低木。果実ははじめエンドウぐらいの赤い球形をしているが、あとで紫黒色になり、甘みがある。子供が食べて中毒することが多い。腹痛吐血が激しく、死ぬことも。毒の成分は、コリアミルチン、ツチン。主に実に含まれている。 ドクウツギ属
トウダイグサ科 ナンキンハゼ 白いロウ質に包まれた種子からロウや油を取るが、種子は有毒。 シラキ属
ツツジ科 ハナヒリノキ 落葉低木。クシャミノキとも。毒の成分は、グラヤノトキシン。葉の粉末が鼻に入ると強いくしゃみが出る。 イワナンテン属
スイカズラ科 ヒョウタンボク 果実は球形の液果で赤熟、径8ミリ、2個接合してひょうたん状となり、猛毒。口にすると中毒症状を起こす。 スイカズラ属
バラ科  ピラカンサ  ピラカンサの実は青酸化合物を含んでいて、まとめて食べれば鳥も毒にあたる。渡り鳥のレンジャクが時折、謎の集団死をすることがあり、その一部はこの仲間の実が原因と特定されている。【多田多恵子】  トキワサンザシ属 
ヤシ科 ビンロウ 常緑高木。インド又はマレーシア原産。覚醒作用。インドや熱帯アジアでは、古代からドラッグのような興奮作用をもたらすビンロウの実をキンマ(コショウ科)という葉と一緒に噛む習慣がある。有効成分は、アレコリン。ほかに数種類のアルカロイドが種子に含まれている。 ビンロウ属
キョウチクトウ科 ミフクラギ 植物全体に白色の乳液を多量に含み、この液は有毒で、誤って目に入れると目がふくれるという。果実は卵球形となり、種子も有毒。キョウチクトウと同様の症状。 ミフクラギ属
ミカン科 ミヤマシキミ 果実は液果で、美しい紅色に熟すが有毒。和名は、深山に生え、しかも有毒でその枝の様子がシキミに似ていることによる。葉にアルカロイドのシキミアニンを含み、有毒。殺虫剤として使用もする。葉にはアンドロメドトキシン、花にはロドジャポニンが含まれ、けいれん毒で呼吸停止を起こして死亡。 ミヤマシキミ属
ウコギ科 ヤツデ 常緑低木。毒の成分はベータ・ファトシン、アルファ・ファトシンなど。サポニンの一種で血液毒。 ヤツデ属
ユズリハ科 ユズリハ 常緑高木。樹皮や葉を7〜8月に採取し、日干しにしたものを「交譲木」と呼んで、でき物、去痰、利尿薬、喘息、健胃剤、下剤などに民間薬として使われている。毒の成分はダフニフィリレン、ユズミリン、セコダフニフィリンなど。樹皮や葉。若葉を茹でて食用にする地方もあることから、熱処理で毒性がなくなるという。 ユズリハ属
つつじ科 レンゲツツジ 毒の成分はアンドロメドキシン、ロドヤポニン、スパラソール。葉、花、根皮にそれぞれ含む。花の蜜は甘いがしばらくするとむかむかし始め、気分が悪くなる。庭に植えるキレンゲツツジとエクスバリーアザレアはレンゲツツジと同じ種である。 ツツジ属
(参考1) ・ペルナンブーコ(ヴァイオリンの弓材だが、過去に染料を採るためにブラジルから輸入されていた)で製材工が目や皮膚の障害を訴えていたという記録があるという。
(参考2) ・関東大震災後の木材不足の時、輸入した米スギで加工職人の間で米杉喘息が多発したという。
(参考3) ・シタンの算盤玉を作る職人が目鼻に激痛症状が現れたことが知られている。

【資料】
 1 毒草大百科:奥井真司(2001.5.15,株式会社 データハウス)
 2 毒草を食べてみた:植松 黎(平成12年4月20日,株式会社文芸春秋社) ほか