トップページへ   樹の散歩道目次へ
       
樹の散歩道
 
  魔法のCTMダンボール箱の謎
             


 CTM苗木貯蔵箱CTM苗木箱CTMダンボール箱苗木用CTM段ボールケースとも)とは植栽するための苗木の輸送にしばしば利用されるダンボール箱で、苗木が長持ちする不思議な箱として広く知られている。苗木を生産する者は理屈はさっぱりわからないままにその効用は明かであるため、特に植えるまで少々間がある場合には値段が高くても利用されている実態がある。
 既に登場して数十年の実績を有しているが、現在に至るも何らかの漢方薬を使っているらしいとの噂があるのみで、どんな秘密が隠されているのか誰も知らない。しかも、これまでの間、他社の対抗する製品が全く登場していないというのも驚くべきことである。

【2008.12】 


          
 単価は平成20年現在で1個1,400円程度で、ただのダンボールと比べればもちろん高価である。この箱に土を振るい落とした裸根の苗木を入れて、目張りのテープを貼るだけである。

 ダンボールの内面は薬剤が塗布されていて、やや灰色がかった色で、その下層には密閉性能を確保するための薄いポリプロピレンフィルムがラミネートされている。

 ■レンゴー株式会社
   本社:大阪市北区中之島2-2-7 中之島セントラルタワー
   
 CTM苗木貯蔵箱が登場したのは昭和40年代である。かつては国有林で必要とした苗木を自ら生産する事業所が多数あって、事業地に苗木を出荷する際に本製品が広く利用されていたそうである。大量に苗木を受け入れた場合であっても、仮植する手間も要せず、相当期間経過しても苗木には全く問題が生じないのは魅力であったはずである。

 近年は林業生産が不振に陥り、伐採も間伐が主体となっている状況から、苗木の需要が大きく減じていること、さらには国有林における植栽の仕事も委託形態が主となっているため、苗木箱の需要は随分減少したと聞く。輸送環境も改善され、短時間で発注者に届けることも可能となっていて、通常は昔からの方法であるコモ包みが主体となっていて、落葉広葉樹ではポリエチレン袋も併用されていると聞いた。しかし、この苗木箱の機能、利便性に対する評価に変わりはない。

 さて、この苗木箱について、販売代理店が昭和47年に作成・配付した資料があって、限られた内容ではあるが、まずは以下に紹介する。
   
               C.T.M苗木貯蔵箱について(抄)

                                 財団法人 林野弘済会

 
C.T.Mとは Cntrolled Temperature Method を意味した略号で台湾人医師陳登謨(チントウボ)という人が発見した植物鮮度保持に画期的な効果のある漢方新薬であります。C.T.M苗木貯蔵箱の薬剤をポリロックAという薄い膜を使用して空気の流通を遮断した(原料はポリプロピレン)特殊ダンボール内に塗布したものであって、この箱に苗木を入れ、ビニールテープ(幅5cm)で密封すれば箱の内部に塗布してあるC.T.Mが苗木から蒸散する水分を借りて溶解し、これによって箱内に炭酸ガスが充満し、これが植物のエチレン物質等の酵素の働きと拮抗し、酵素抑制剤として作用するとともに、ガス貯蔵の原理(CA貯蔵法(Controlled Atmosphere Storage))による気密包装により、ケース内の酵素と炭酸ガスの量をコントロールし、植物の呼吸作用と蒸散作用を抑制して酵素の働きをコントロールし苗木を仮眠状態にしてその鮮度を保持するもので、これらの優れた諸作用により苗木はその活力を保持したままで長期間貯蔵することができるものであります。

 この薬剤の本体は明らかにされていませんがピリン系の解熱作用を持つ植物性の漢方薬から抽出されたものであるといわれています。また、この薬剤の安全性については包装内にやや水滴を生ずるがこれは脱水防止の役をしており、この場合発生するのは酸素、二酸化炭素のガスだけで開封後は散逸するので無毒であります。このことは熊本県衛生試験場ならびに同工業試験場の試験成績書によって証明されています。したがって安全性については何の心配もないようです。

 このC.T.M処理については熊本営林局では昭和43年頃から着目して国立林業試験場九州支場とタイアップして実用化試験を行い、その結果を学会誌等に度々発表し大きな反響を呼んでいます。

 当会はこの事業に着目しダンボールケースメーカーであるレンゴー株式会社と提携してこの箱を林業関係に一手販売することとし昭和46年7月より取り扱うことに致しました。造林成績の向上と作業量や労務の平準、単純化による省力作業のためぜひ使用されるようお薦め申し上げます。(昭和47年)
   
 資料には研究機関による調査報告等が添付されている。
 生薬成分について情報が出回っていないということは、情報が公開されることとなる特許を敢えて取得していないということなのであろう。

 念のために、特許、実用新案に関する情報を確認すると、青果物保存を目的とした「青果物のC.T.M処理法」に関して、1件の実用新案と1件の特許を確認した。申請者はいずれも先の資料で見られた開発者の陳登謨(チン トウボ)氏(中華民国台北市)である。

 貯蔵・輸送用としての密閉可能なポリエチレン加工包装容器について1975年5月29日に実用新案登録(登録番号:1082509)
 エチレンと化学構造式が近似するクロール剤を酵素拮抗抑制剤として青果物代謝中のエチレン物質の触媒作用を妨害し、もって青果物の追熟及び老化作用を抑制し、生鮮青果物の鮮度持続と貯蔵時間を延長する技術について1973年4月12日に特許登録(登録番号:0685967)
 実用新案の容器については苗木貯蔵箱と基本的には共通しているが、特許の部分はC.T.Mの漢方薬そのものを対象としていない。したがって、謎は謎のままである。

 メーカーはC.T.Mの成分に関しては、「C.T.Mの主効分は6種類の漢方薬だが、いずれも薬用として使用されているもので、特に毒性があると知られているものではない。」とだけ触れている。化学的成分については企業秘密ということなのであろう。

 残念ながらこれ以上はわからない。現在の企業、研究機関の分析力をもってすれば成分の特定は容易であると考えられるが、新規参入も見られない。ということは、開発コスト、宣伝コストをかけて新規参入するには既に魅力のない市場規模となっているということなのであろうか。

 なお、メーカーはダンボールの最大手であるが、取引に直接関連のない照会については一切応じない方針のようである。
   
  【追記 2012.5】 
    こちらは魔法の苗木梱包用シート!!
   
   これも昔から存在し、苗木生産・林業に係わる者であれば誰もが知っている製品である。CTM苗木箱(CTMダンボール)と同様の機能を有する苗木梱包用の魔法のシートで、名前は「ライフパック」という。

 大きさは2メートル四方で、ポリエチレンシートの内側に特殊な加工紙をラミネートしたもので、CTM苗木箱のように、包んだ内部を炭酸ガスで満たし、苗木の呼吸作用と蒸散作用を抑制するなどの効果があって、輸送に際して苗木の活力が維持されるとしている。  
   
 
 「ライフパック」シートの質感


 
ライフパックの素材の質感は、左の写真のとおりである。

 
左半分にに見えるのがベースとなっているポリエチレンクロスシートで、右半分に見えるのがシートにラミネートされたクラフト紙で、薬剤処理されているという。
   
   使用に当たっては、苗木を包んだら密封することが求められていて、具体的にはライフパックで巻き込んで、いわばハムのような状態に仕上げるよう指示している。つまりシートで苗木を巻き込ん状態で3箇所を縄掛けし、さらに両端をミルキーのように絞って縄締めするのが指定された作業方法である。

 価格は少々高く、50枚で1梱包となっていて、1枚当たりは1400円弱の販売価格事例があり、CTM苗木箱に近い価格となっている。

 大量の苗木を山に植栽する場合に、こうした高機能梱包資材を利用するのは、CTM苗木箱と同様にコスト的には少々厳しい印象があるが、大事なものを輸送する際に便利であることは間違いない。

 ライフパックの使用薬剤についてはCTM苗木箱と同様の機能となっているからほぼ共通した印象があるが、詳細はわからない。CTM苗木箱と同じ事業者が受託生産していても不思議ではないような類似性である。

 少々古い資料であるが、製造者等の情報が以下のとおりとなっていた。

 製造元平成ポリマー株式会社 東京キ中央区日本橋
 (注)会社合併で、合併後の社名は次のようになっている。
 東洋平成ポリマー株式会社 本社:高知県高知市 本部:茨城県かすみがうら市

 発売元丸善薬品産業株式会社 東京都千代田区内神田