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樹の散歩道
 
  麗しのカカオ
             


 木の実に由来する加工原料で、これほど人を陶酔状態にさせる製品になるものは他にないのではないか。カカオと砂糖とミルク、この3者が混和して織りなすハーモニー、チョコレートの芳醇で奥深い香りと味に全身がとろけそうになるのを持ちこたえるのは至難の業である。これこそ永遠の地球の恵みそのものである。さらに、カカオマス抜きながらホワイトチョコレートの何とも軟弱でとろける味は瞬く間に舌を包んでため息を誘い、チョコレートのワンダーランドを一層豊かなものとしてくれる。【2008.3】   


         カカオの実の様子  
 チョコレートは身近な存在であっても、生のカカオの実カカオ豆を目にする機会はなかなかない。なぜなら国内では屋外での栽培は困難であるし、輸入されるカカオ豆はすべて発酵後に乾燥されたものばかりであるからだ。ただし、植物園の温室ではしばしば幹から直に大きな果実をぶら下げた奇妙な光景を目にすることができる。

【東京都薬用植物園温室】

   果実(カカオポッド)の縦断面
 イラストと写真を組み合わせたパンフレットで、カカオポッドの部分は写真である。実物大としているが、この大きさはちょうど手の指を閉じた状態での手のひらの大きさと同様である。
【全国チョコレート業公正取引協議会のパンフ】 

    カカオ豆(発酵・乾燥後)
 一見、薄汚れたアーモンドといった風情である。表面の汚れはカカオポッド内の果肉(パルプ)に由来する。また、アーモンドのように薄皮に覆われている。カカオ豆はこの状態で輸入されている。
 以下、この展示品を少し分けてもらって、遊んでみた。
【日本チョコレート・ココア協会展示品】

   カカオ豆・子葉を開いた状態
 発酵後乾燥されたカカオ豆を水でふやかした後に子葉を開いたものであるため、少々濡れている。発酵の過程で色は茶褐色となるようである。内側は落花生のようにつるりとはしていなくて複雑な形状であるが、大きめの幼芽を確認できる。


      カカオ豆・横断面
 これは丸ごとフライパンでローストしたものを二つにカットしたもの。ローストすることで薄皮が剥きやすくなった。薄皮を除いたその表面、切断面共に色も、艶もこのままでチョコレートに見える。そこで、このまま試食してみると・・・・少々苦い上に粉っぽくてココアの面影は全く感じない。しかし、わずかにカカオの香りはある。

     粉末にしたカカオ豆
 ローストした豆を粉にしてみた。押しつぶして粉にしたため、脂肪分のために一部が固まったように見える
 こうすることで、ココアの香りが漂ってきた。なめてみたが、やはり半端な味である。
 これを世界で初めてココア、チョコレートに仕上げた先駆者に脱帽・柏手である。

 さて、備忘録として以下にメモをまとめた。主たる情報源は次のとおり。

チョコレートファンのあなたに:全国チョコレート業公正取引協議会
チョコレート百科:森永製菓(株)広報委員会(昭和60年2月7日、東洋経済新報社)
チョコレートの事典:成美堂出版編集部(2004.12、成美堂出版株式会社)
チョコレートの本:ティータイム・ブックス編集部(1998.2.20,株式会社 晶文社)
ほか
 
樹木としてのカカオノキ
 熱帯アメリカ原産のアオギリ科(Stercurliaceae)テオブロマ属の常緑小高木。学名は Theobroma Cacao (テオブロマ・カカオ)。「テオ」はギリシャ語で「神」、「ブロマ」は食べ物」の意。「カカオ」の名はマヤ族語の「カカウアトル」に由来する。
 カカオノキは、平均気温27度、年間降雨量1300ミリ以上の高温多湿な地域でなければ生育しないため、カカオ豆の栽培は赤道の南北緯20度以内で、しかも、海抜300メートル以下の低地に限られている。木は7,8年で成木になり、8〜10メートルの高さの高木になる。
果実
 実った果実は「ポッド」と呼び、長さ10〜30センチのラグビーボール型をしている。表面の堅い殻の内部には甘酸っぱい果汁を含んだベタ付く白い果肉(「パルプ」と呼ぶ。)があり、その果肉に包まれて20個から50個のカカオ豆が並んで入っている。
 カカオポッドからパルプと共に取り出されたカカオ豆はパルプのついたまま積み上げられて発酵させ、この課程における化学変化で渋みやえぐみが除かれるとともにチョコレート色になり、タンパク質も分解されてチョコレート独特のよい香りのもとになる物質が作り出される。その後保存性を高めるために乾燥して出荷される。
名称
@ 日本語
日本語ではカカオノキカカオ豆「カカオ」と呼び(cacaoに由来)、飲料用の粉末や飲料そのものをココアと呼ぶ(cocoaに由来)。
A 英語
cacao:カカオの実、カカオノキ (もとメキシコ語)
cocoa tree:カカオノキ (cacao tree とも)
cocoa:ココア
chocolate:チョコレート。語源はマヤ族の“Xocolati”(苦い水の意)に由来。
hot chocolate,hot cocoa,drinking chocolate:ココア(固形のチョコレートが考案されるまでは、chocolate といえば飲み物を意味した。)
cocoa beans:カカオ豆

英語名に関しては次のような説明例がある。
カカオの名前はヨーロッパで広く使われたが、イギリスだけは別だった。この国の言語の特徴として、カカオという発音はのどにつかえて言いにくい。そこでカカオはココアとなまり、以来ずっとそのままなのだ。
・ココアという名前はカカオが誤って伝わったもので、チョコレート関連の混乱した、そして今も混乱している名前の好例である。
 
     
チョコレート生地の基準(基本タイプの場合) 昭和46年公正取引委員会認定
 
   区 分    チョコレート生地 準チョコレート生地
基本タイプ ミルクチョコ生地 (基本タイプ)
カカオ分 35%以上 21%以上 15%以上
(うちココアバター) 18%以上 18%以上  3%以上
脂肪分  18%以上
乳固形分 任意 14%以上 任意
(うち乳脂肪) 任意  3%以上 任意
水分  3%以下  3%以下  3%以下
脂肪分には、ココアバターと乳脂肪を含む。
 
 チョコレート菓子/準チョコレート菓子とはチョコレート生地/準チョコレート生地が全重量の60%未満で、ナッツやフルーツなどの他の食材とを組み合わせたチョコレート加工品を指す。 
 
参考:ヨーロッパでは、植物性油脂が5%以上含まれているとチョコレートとして認められない。


【2011.1 追記】 

 
     ウォンカチョコレートのスペシャルパッケージ
 奇妙な映画(「チャーリーとチョコレート工場」)で有名になったウォンカチョコレートの、これはスペシャルパッケージである。なぜかオーストラリア産で、 裏側の説明書きを見ると、準チョコレート≠ナある。かなり個性的な強めの甘さで、チョコレート、キャラメル、クリスピーのハーモニーが絶妙でくせになる。日本人が慣れ親しんだ昔からの各メーカーの板チョコに比べると、ずっしり重く、デブになる危険を感じつつも、ついつい誘惑に身を任せてしまう魅力がある。不思議なことに重量表示はなく、通販の説明では190g らしい。

 ところで、オーストラリアと言えば、このチョコには入っていないが、マカダミアナッツはオーストラリア原産で、生産量も世界一という。
 
【2013.3 追記】 
 
ウォンカチョコレートに変化、異変が!!

 
久しぶりにウォンカチョコレートを無性に食べたくなって、早速調達して包装を見て、すぐに異変に気がついた。
 「オーストラリア産」であったものが「国産」に変わっている。販売者はネッスル日本であるが、製造者は不明である。
 さらに、包装裏側の製品表示蘭の名称が、「準チョコレート」から「チョコレート菓子」に変わってる。そして中味を取り出してみると、チョコ山が従来は映画をイメージしたシンボリックな「シルクハット型」であったものが、あっさりとその個性を捨て去り、のっぺりした山型となって、例えるならば、なだらかな「方墳型!」となっていた。

 悪い予感を感じながら口にしてみると、不安は的中した! 激甘であったキャラメルは変にあっさりしてしまって、量も減ったような印象で、かつての個性的な味が全く失われており、思わずため息をついてしまった。明らかにかつての製品とは全く別物で、既に “ ウォンカチョコレートもどき ” と化していたのである! 「本家ウォンカチョコレートは姿を消した!」と言わざるを得ない。方墳型となったのは自らを埋葬した象徴なのかも知れない。

 この “ 変化 ”、“ 変質 ”、“ 改変 ” は実に残念なことである。聞くところによると、従前のオーストラリアでの製造がなくなり、2012年度から国産に切り替えたとのことである。多くの落胆の声がある模様であり、何とか昔の味を再現してもらいたいものである。 
 
【2016.6 追記】 
 
 祝 オーストラリア産のウォンカチョコが復活していた ? 
 
 
 オーストラリア産の新たなウォンカチョコレート  蘇ったシルクハットのデザイン(部分)
 
 
   オーストラリア産は2012年に生産をやめたと聞いていたが、店頭でたまたまデザインの異なるウォンカチョコのパッケージを目にして、原産国名をみたところ、「オーストラリア」となっていた。何とオーストラリア産の復活である。そこで表示の名称を見ると、「準チョコレート」に戻ったわけではなく、国産版と同じ「チョコレート菓子」となっている。この辺のところの事情は不明で、何とも評価不能である。 
 パッケージ裏の製品表示  
 
 
 まずは喜んで買って帰り、早速開けたところ、うれしいことにチョコ山も(Wonka の文字は省略されているが)伝統のシルクハット型に戻っている。そこで肝心の味である。激甘のクセになる味が蘇ったのかである。実は昔の味はもう忘れてしまったが、改変された製品とは明らかに異なっている。ただし、キャラメルの量と甘さはかなりの抑制気味で、率直に言えばふつうのチョコレートになったという印象で、完全復活とはいえない。さらなる努力を期待したいところである。

 ネスレのHPによれば、2015年11月に復活した模様である。宣伝文にはかつてのファンを取り戻したい気持ちが滲み出ていて、 発売以来、WONKAファンを虜にし続けたあの味が4年ぶりに復活! パッケージもシックなデザインとなり、より一層スペシャルなオーストラリアの「あの味」をお届けしますとある。消費者の声に素直に応えようとしている点だけは評価できる。
 
【2014.6 追記】 
 
 カカオの満開の花と鈴生りの実 
 
 年齢を問わず、みんなチョコレートが大好きであるから、植物園温室のカカオも付けるべきものをちゃんと付けていれば人気者である。 
 
             カカオの花
 幹や太い枝から直接花がぶら下がっている風景は奇妙であるが、花は慎ましやかできれいである。木の全体に驚くほど多数の花を付けていた。
          カカオの花と果実
 カカオの大きな実と花が同居する風景も奇妙であるが、花は現地では年中つけるといわれるから、南の国では普通の風景なのであろう。 
   
   上の2枚の写真は筑波実験植物園温室にて。

 左の写真は都立薬用植物園にて。

 都立薬用植物園のカカオの木はそんなに大きくはなくて、以前に見た時には、辛うじて実をつけている程度であったが、久しぶりに見たところ、見事に実をつけていた。

 周期的なものなのか、管理する職員の努力によるものなのかは確認していない。


 さて、またチョコレートを食べたくなってきた。  
         鈴生りのカカオの実