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樹の散歩道
     アカゲラ君のパワー炸裂!
        「さあ 何でも突っつくゾ−!」
      


 北海道のアカゲラは正確には亜種の「エゾアカゲラ」とされ、ドラミングの音をしばしば聞くことができる。たまたまその姿を比較的近い距離で見ることができればラッキーで、慌ててカメラを向けることになる。鮮やかな色彩の愛嬌のある鳥で、首尾よく写真に収めることができれば喜びもひとしおである。しかし、このエゾアカゲラ君であるが、とんだ厄介者の一面もある。
【2012.4】 


 エゾアカゲラ君のドラミングの音を文字で表現することは難しい。「コンコンコン」などという生易しいものではなく、「コココココココココン」と記して、さらにこの文字間隔を可能な限り詰める必要がある。この打撃のピッチの速さは尋常ではなく、ヒトが指を立てて、同様の速さで机をつつくことは絶対に不可能である。垂直な面にしがみ付くことができる能力とあわせて、誰もが感じている“驚異”である。 
 
                     エゾアカゲラのメス
 赤い帽子をかぶっていないからメスである。白黒のコントラストと、下腹の紅色が美しい。
 (キツツキ目 キツツキ科 アカゲラ属 エゾアカゲラ Dendrocopos major japonicus
 
          エゾアカゲラのオス
 オスはおしゃれで、赤い帽子をかぶっている。
       足指を突っ張ったエゾアカゲラ ♂
 後ろ指2本のうち1本を外側に突っ張って体を安定させているのだそうである。   
   
      尾羽を突っ張ったエゾアカゲラ ♀
 
垂直の樹幹にしがみ付くため、両足プラス尾羽のつっかい棒の3点で安定させている。
      
        エゾアカゲラの背中の模様 ♀
 アカゲラ類は、背中の逆八字形の白斑が特徴。
 
 あるとき、身近な車庫の妻壁部分を見上げたところ、暗色に塗装した羽目板に腐れが生じたのか、継ぎ目に沿って点々と木地色が露出しているのに気が付いた。目を凝らしてさらによく見ると、何と、部分的に“穴状”になっているのである。これでピンときた。容疑者はエゾアカゲラである。

 そこで、念のためにぐるり回って被害状況を確認すると、軒の鼻かくしの部分に、ぽっくり4〜5センチほどの穴が開いているのである。うーん、ここまでやるのか! とうなり声が出る。

 裏付けのための聞き取り調査をすると、頭の赤い鳥が以前に飛び立つ姿が目撃されているというから、間違いなくエゾアカゲラが自ら断りなく施工した自宅である。(現時点で、現住所をここに置いているかは確認していない。)

 罪状は器物損壊、不法占拠 ・・・・・ か。それにしても、この平らな羽目板にどのように取り付くのか、感心してしまう。 
        車庫の妻壁
 総じて、板の継ぎ目の被害が多い。
        同左部分
 継ぎ目以外の部分も突かれている。
        同左
 ああ・・・穴が・・・
     
      軒の鼻かくし部分
 ううっ・・・大穴が・・・
       軒の角部分
 一体、何をしようとしたのか・・・
     軒の破風部分
 この部分は微害である。 
 
 まずは、どうやって垂直なツルッとした面にしがみ付くのか、これは驚きである。
 次に、巣穴を開けるのは明確な目的としてわかるが、その他の突き傷は一体何なのか。板壁は音響効果がよいと知って、単にドラミングの対象としただけなのか。ヒトにとっては明らかに嫌がらせに等しい。 
 
 
 
 自然豊かな環境での風景ではあるが、BB弾を飛ばすのはまずいし、キツツキの忌避剤が存在するとも思えない。置かれた状況によっては、ニコニコと慈しみのこころと表情で見つめ続けるのも難しい事態もある。建物は、竣工直後から劣化が始まるのは避けられないが、本件のケースでは、明らかに建物の劣化に拍車がかかっている! 
 
<参考1:キツツキ類の特徴>

 以下はキツツキ類の特性等に関するメモ帳である。 
 
 ・  樹幹に垂直に止まって採食する場合は、羽軸のかたい尾羽で体を支え、さらに強力な短い脚で体を幹近くに引き寄せ、前2本、後2本の対趾足(たいしそく)のうち、前2本の足指の鋭いつめを樹皮にひっかけ、後向きの外側の1本を真横に向けて、体が左右にぶれるのを防ぐ。【平凡社世界大百科事典ほか】 
   
 ・  木をつつくときの衝撃から守るために、くちばしの根元の骨が分厚いほか、頭蓋骨自体に衝撃を吸収する機構を有する。 【鳥類図鑑(東京書籍)ほか】
   
 ・  軟骨状の舌骨(ぜっこつ)は下あごから頭骨をまわって右の鼻子あたりまで達していている。筋肉が弛緩すると、舌が嘴の中にしまわれ、筋肉の収縮で、舌が前方に長く突き出される。
【鳥類図鑑(東京書籍)、日本大百科全書(小学館)ほか】 
   
 ・  細くて長い舌の先端には逆向きのとげがついていて、これを穴の中に入れ、舌の先端に甲虫類の幼虫をひっかけ、引き出して食べる。【平凡社世界大百科事典ほか】 
   
 ・  特にアカゲラは、背中にある逆八字形の大きな白斑がよく目立つ。 
   
 ・  ドラミングに関しては、縄張り宣言や異性の呼び寄せのためといわれるほか、近くの仲間とコミュニケーションも図っているとの見解がある。
   
 ・  枯れ木のみならず、健全な植林木にも穴を開けることがあり、この場合は林業家から見れば害鳥となる。さらに、電柱(もちろん木製であるが)に穴を開けることもあるという。  
   
 ・  寺などの古い建物に穴を開けることがあり、「寺つつき」の名もある(グランド現代百科事典)という。さすがに鐘つつきはできない。  
 
 キツツキ類の高速打撃がなぜ可能なのかについては、答えを目にしていない。この速さは、コツン、コツンと叩く動作の繰り返しでは決して実現できないことを感覚的に感じる。印象としては、もはや震動に近い。そのピッチは電動エアガンの連射速度並みである。是非とも、そのメカニズムを知りたいものである。
 なお、キツツキのコツコツに関して真面目な研究もあるようで、以下のような論文の表題を目にした。

 ・ キツツキのドラミング機能とその力学的考察
 ・ キツツキの構造組織に学ぶ耐衝撃機構の検討
 ・ キツツキの骨格構造に学ぶ耐衝撃システムについて
 

 読んではいないが面白そうな世界である。
 
【追記 1】 
 襲撃を受けた車庫からそれほど遠くないところに、厳しい試練を受けている樹を目にした。いずれも枯死寸前である。
 特に左の写真の採餌木はアカゲラよりはるかに体の大きい種類のキツツキ君、頭の赤いいカラスともいわれるクマゲラ君による仕事であろうか。 
 
 ボロボロのタニガワハンノキ
 この状態でも、間もなく花粉を飛ばす雄花を多数ぶら下げていた。見事な採餌木状態である。
  深い穴の空いたトドマツ
 この樹も既に衰弱しているようで、穴の上方にはキノコが出ている。
       同左トドマツの根際
 比較的大きい木くずが散らかっていて、パワーを感じる。
 
【追記 2】 働き者のエゾアカゲラ君を発見!!
 エゾアカゲラが実際に仕事(巣づくり?)をしている姿をじっくり観察することができた。  
 
 
 仕事をしながら、キュー、キューとよく鳴いているから、自らの所在を広くお知らせすることになっている。これでは危険を招いている様な印象があって心配になる。

 巣穴の様子は左の写真のとおりである。水平に奥に深く掘り進んだ後に下方に伸ばしている。 水平部分の穴はきれいな円筒形で、内面の仕上げは非常にきれいである。入り口部分の形状は標準的な仕様のようで、下部を斜めにカットしてあり、出入りいやすい形状であることが伺える。
 穴を開けられた木は、オオバボダイジュである。 
 
【追記 3】 キツツキのおチビちゃん 
 
 エゾアカゲラに較べると随分小柄なエゾコゲラの姿をしばしば見かけるが、精細な写真が撮れないでいた。 
 エゾコゲラ 1 エゾコゲラ 2   
 
  あるとき、窓ガラスに激突音があったため、見てみれば、これ幸いエゾコゲラ君である。脳震盪を起こして気の毒な状態であったが、観察するにはよい機会であった。

 観察を終え、ついでに撫で撫でしてから、木の股にそっと置いておいたところ、いつの間にか飛び去っていた。よかったよかった! 
              気絶中のエゾコゲラ君
 
【追記 4】 
 奄美大島ではオーストンオオアカゲラが生息していて、シイタケ榾木(ほだぎ)に穿孔したコチャイロコメツキダマシを餌食するために榾木を突きまわし、大切な榾木の樹皮が剥離する被害がみられ、シイタケ発生の阻害要因となっている(鹿児島県林業試験場業務報告第44,45号)そうである。シイタケ生産農家にとっては大変なことであるが、キツツキ君たちは各地でツンツクやっているようである。 
 
<参考2:逆さに樹幹にしがみつく小鳥ちゃん> 
 
 樹幹に垂直にしがみ付くキツツキ類もたいしたものであるが、実は、垂直な樹幹に逆さまにしがみ付くのが得意なかわいい小鳥ちゃんがいる。以下のとおりである。 
 
シロハラゴジュウカラ 1  シロハラゴジュウカラ 2  シロハラゴジュウカラ 3 
 素性は、スズメ目 ゴジュウカラ科の「シロハラゴジュウカラ」である。この体勢でチョロチョロ動き回るから、たいしたものである。(ゴジュウカラでも同様。)写真では確認しにくいが、足を前後に突っ張っているような印象である。
 知り合いの鳥博士に聞いたところ、尾羽の下の部分の下尾筒が焦げ茶色であることから、オスであろうとの見立てであった。
 ちなみにメスはこの部分が黄土色で、オスより薄い色に見えるとのことである。