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  ことばあそび

     へらず口/無理問答/三段なぞ



   日本の伝統的ことば遊びを引き続き紹介する。ほとんどが古典である。


へらず口
日常の実用性は失っているものの古き日本の風情を感じます。
ありがとう!   ありが十(とお)ならいもむし二十はたち
汚いじゃないか!   北がなけりゃ日本は三角
おっかない!   おっかがなけりゃ子ができない
あぶない!   虻(あぶ)がなけりゃ痩せ馬が肥える
気の毒な!   木が毒ならお櫃(ひつ)のご飯は食えん
ありがたい!   蟻(あり)が鯛なら芋虫や鯨
それは誤解だ!   五階も六階もない


無理問答
構造がシンプルで,最も創作しやすいシリーズです。
赤い花でも葵(青い)とはいかに    見る物だに菊(聞く)というが如し
悪場所をさして吉原とはいかに    濁りたるも隅(澄)田川というが如し
雨傘を唐(空)傘とはいかに    一度着ても三度笠というが如し
雨具でもないのに美濃(簑)とはいかに 舟の具でもないのに甲斐(櫂)というが如し
着物でもないのに煙管(キセル)とはいかに   葉のないものを煙草(多葉粉)というがごとし
芸人にあらずして侯爵(講釈)とはいかに    勝手道具にあらずして子爵(柄杓)というが如し
米を炊きながら飯を炊くとはいかに    水をわかしながら湯をわかすといえるが如し
商家でもないのに質(七)屋とはいかに     一人住んでも住(十)人というが如し
土に生じて蚕(空)豆とはいかに    天にあらわれて帚星というがごとし
鳥でもないものを夜鷹とはいかに    洗う物を束子(たわし)(鷲)というが如し
古き橋を新橋とはいかに   
下谷(したや)にあっても上野というが如し
【注】上野は,もと下谷区
枕にもならぬものを枕草子とはいかに 
編み目もなくして御簾(みす)紙というがごとし
【注】すだれ(簾)の高級なものを御簾という。御簾紙は奈良県吉野に産する上等の薄紙。
見て楽しむ物を菊(聞く)とはいかに        飲むものでも聞き酒(利き酒)というが如し
やかましい嬶(かかあ)を山の神とはいかに   
飯炊(ままたき)の女子衆(おなごしゅ)を菩薩というが如し
【注】菩薩=朝鮮語から来て,米の異称。さらに飯炊き女のこと。
山ばかりだに山梨(山無し)県とはいかに    木も沢山あるに畿内(木無い)というが如し
陸軍大将の細君がのんでも中将湯(ちゅうじょうとう)とはこれいかに  継母がのんでも實母散(じつぼさん)というがごとし
【注】中将湯・實母散ともに婦人薬。中将湯は津村順天堂(現ツムラ)の礎を築いた薬。實母散は一般名で,多くの種類が売り出されていた。
(無理問答 − 数のシリーズ)
  このシリーズは,前段の問でも,後段の答えでも適宜使われています。音に依存することから,作品の幅には自ずと限界があり,言い古された感があります。したがって,定番をこうして並べてしまうと面白くも何ともないわけですが,要は新作に挑戦する場合は,下記以外のものとすることに心がけましょう。
 なお、子供向けで次のものも知られています。
「一本でも〜にんじん、二足でも〜サンダル、三艘でも〜ヨット、四粒でも〜ごま塩、五台でも〜ロケット、六羽でも〜七面鳥、七匹でも〜蜂、八頭でも〜鯨、九杯でも〜ジュース、十箇でも〜苺」

一つでも饅頭/数多少にかぎらず饅頭(万十)
一つの鐘でも半鐘
一つの品でも荷(二)        
一羽でも千鳥
一羽の鳥でも鶏(二羽鳥)
一戸あっても八百屋
一人でも後(五)妻          
一人でも産(三)婆
一人でも仙(千)人         
一人でも船(千)頭
一人でも百姓
一人者でも士(四)族
一枚あっても煎(千)餅
一枚でもせんべい
一本でもニンジン
金を掛けても山門(三文)
三段なぞ
例の「○○とかけて何ととく・・・○○ととく・・・心は・・・」というものです。演出としては,与えられたお題に対して競作することでなお一層盛り上がるものですが,人をうならせる新作は難しいもの。まずは古典を楽しみましょう。
いがんだ松と掛けて 郵便屋と解く 心は はしら(柱・走ら)にゃならぬ
威張る嫁と掛けて 肥取り柄杓と解く 心は 婆婆(糞)突き廻す
お寺の門と掛けて 破れた褌(ふんどし)と解く 心は 坊主がちょいちょい頭を出す
小野小町と掛けて 柄の抜けた破れ傘と解く 心は 誰にもさせぬ
堅い娘と掛けて 段違いの将棋と解く 心は めったに手が出せない
将棋好きと掛けて 悪性女と解く 心は 何処でもさす
狸のきん玉と掛けて 鎮西八郎と解く 心は 八丈(八畳)に広がる
【注】鎮西八郎は源為朝の通称で,島流しされた。タヌキのきん玉は俗に八畳敷きといわれる。
通し駕籠と掛けて たまたまの出会いと解く 心は 乗り続ける
夏の夕涼みと掛けて 楠正成と解く 心は あしかが(足利・足蚊が)せめる
婆(ばばあ)の芸者と掛けて 強い関取と解く 心は 転ばしてがない
美人の集まりと掛けて 算盤(そろばん)と解く 心は 玉ぞろい
冬の芹と掛けて  茶臼と解く   心は 根まで入る
破れ障子と掛けて 冬のうぐいすと解く 心は はる(貼る・春)を待つ
破れた褌(ふんどし)と掛けて 佐渡の金山(かなやま)と解く 心は 金が出る
若後家と掛けて 熟し柿と解く 心は 触ると落ちる