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木の雑記帳
   材色の多様性と利用


 木材の多様な自然色を上手に組み合わせたデザインは、各地の工芸品や多くのクラフト作家の作品でしばしば見ることができて、理屈抜きで美しいと感じる。
 ヨーロッパでも格調高い家具の象嵌細工は伝統的な装飾技術である。日本では江戸時代に始まったとされる箱根の寄木細工の技法が現在に至るも継承されている。 
【2010.1】


 色の異なる材を並べただけでも様になる。
 箱根寄木細工の文箱である。様式化された文様が多くあり、作家固有のデザインも見られる。複数のデザインの組み合わせも見られる。
 左の文箱の部分で、この文様は「黒麻」の名がある。
 箱根寄木細工に使用される樹種は50種以上にも及ぶといわれる。

 具体的には、以下に掲げるような樹種を使用しているという。(樹種名の表記はそのまま掲載した。)
寄木無垢名刺入れ
 
<箱根寄木細工の使用樹種> 【神奈川県産業技術センター工芸技術所 等より】
                       注:下線は色区分をまたがって重複掲載されている樹種
白色系 アオハダ、シナノキ、ハリエンジュ*1)、マユミ、ミズキ、モチノキ
淡黄色系 ニガキ、マユミ
黄色系 ウルシ、クワ、シナノキ、ニガキ、ハゼノキ、モビンギ(Movingui ムビンギとも)
赤色系 チャンチン、ナトー(Nato,Nyatoh ニャトーとも)、パドック(African padouk パドウクとも)、レンガス(Rengath)
紫系 パープルハート(Purple heart)
緑色系 ホオノキハリエンジュ
茶色系 アカグス(*2)、アサダ、イチイ、エンジュ(*3)、カツラ、クスノキ、クルミ(*4)、クワ(*5)、ケヤキ、ケンポナシ、サクラ(*6)、シナノキ、タブノキ、チャンチン、モッコク、アルマシガ(Agathis spp. アガチス、ナンヨウカツラ、ダマール、カウリとも。)、ウォールナット、ナトー、マコーレ(Makore マコレとも)
褐色系 ウォールナット、ケヤキ神代、カツラ神代、マンソニア(Mansonia)
灰色系 アオハダ、アオハダノシミ(*7)、サンショウバラ(ハコネバラとも)、ホオノキ
黒色系 カツラ染色、黒柿、カツラ神代、クリ神代、黒檀、マンソニア
*1:  センノキとも。業界では単にセンと呼ぶことが多い。
*2  赤楠。中国名も赤楠。フトモモ科フトモモ属の常緑小高木。
*3  標準和名はイヌエンジュであるが、業界では一貫してエンジュと呼ぶ。本当のエンジュは中国原産で、国内にもしばしば植栽されている。
*4  単にクルミと呼んでいるのはオニグルミである。
*5  単にクワと呼んでいるのはヤマグワ及びケグワである。
*6  単にサクラと呼んでいるのはヤマザクラである。
*7  アオハダとは別に列挙されているからこれは楽しい謎解きである。わかりやすく表記すると「アオハダの染み」と思われる。具体的には「アオハダの材を泥中に夏は1〜2週間,冬は1か月ほど漬けておいて青緑色に変色させたもの【木の大百科】」を指すと考えられる。この件に関しては、実際の木象嵌の技術を有する者の次のような記述がある。
  「自然染色法とは箱根、小田原では一般にどぶ漬けと呼ばれている方法で、ミズキアオハダなど白色系の木材をどぶに漬けて、染色するというよりは変色するのを待つという原始的は方法である。したがって、思いどおりの色に染色することは不可能で、やや青みがかった暗灰色に染色されることが多いが、どぶの状況や樹種により条件がそれぞれ異なるため、経験に頼る以外にない。」【木象嵌の歴史と技:橋本元宏】
 多様な材色の組み合わせの織りなす美しいデザインの例としては、箱根寄せ木細工以外に、木象嵌寄木クラフト、家具の割れ防止のちぎりチギリ千切り蝶千切り)や部分的なアクセント的利用等々を目にすることができる。木材の魅力が遺憾なく発揮されている。
        木象嵌の絵画
     (北海道旭川市 木工芸笹原
  デザイン化されたクサビ
創作家具ウッディライフ草苅
 岡山県勝田郡奈義町高円1962−1
  ホゾのクサビ締め
     
      
    多段引き出し
        
     箸置き
木工房クラフトゆき
  大分県由布市挾間町赤野1703-1
   ピエロの人形
      
     小引き出し
さしこう家具店
  岡山県津山市加茂町桑原55
 チギリ@ (甲板はケヤキ)
       
 チギリA (甲板はカエデ)
        
 チギリB (甲板はサクラ)
       
 チギリC (甲板はサクラ)
       
 チギリD (甲板はマコーレ)
       
 チギリE (甲板はミズナラ)
       
   
   
 黄色の材の例についてはこちらを参照。