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木の雑記帳
 
  皇居新宮殿にはどんな銘木が使われているのか


 大日本帝国憲法が発布された前年に完成を見た皇居の宮殿(明治宮殿)は木造建築の粋を結集したものであったと聞くが、残念なことに米軍による無差別爆撃の犠牲となって昭和20年に焼失している。その後、新宮殿の再建までにはしばらくの年数が経過し、やがて昭和39年に建設が着工の運びとなり、工期4年4月を要して昭和43年に昭和宮殿の完成している。
 銘木に関する記述を読んでいると、しばしば新宮殿での使用について触れていることがある。以下は手近な文献で確認した内容である。 【2009.2】 


 新宮殿は最終工費130億円とされ、SRC(鉄骨鉄筋コンクリート)造であるから、木材はあくまで内装での利用ということである。仕上がりについては国家としての威信がかかっていたから、一級品の仕様とすべく、素材についても厳選したものと思われる。現に、「使用木材は樹齢何百年という銘木ばかりで、二年がかりでヘリコプターまで飛ばし日本中を調査して集めたもの」(原 敏編纂:「皇居新宮殿」)としている。
 新宮殿をじっくり見る機会は未だに得ていないが、資料を整理すれば以下のとおりである。 
新宮殿における銘木の使用例
使用場所 内  容
長和殿 南溜(みなみだまり) 【原 敏】
壁面、天井には熊本県の一房杉(いちぶさすぎ)
長和殿 北溜(きたどまり) 【銘木史】
壁面の羽目板は熊本営林局小林営林署産日向(霧島)松(アカマツ)
天井は熊本県市房杉
長和殿 春秋の間 【銘木史】
付柱、長押は熊本営林局小林営林署産日向(霧島)松(アカマツ)
船底折板天井は奈良県吉野杉中杢
長和殿 波の間 【銘木史】
付柱、長押は静岡県沼津御用邸内の沼津松(クロマツ)
長和殿 石橋の間、松風の間 【銘木史】
付柱、長押は大阪営林局山口営林署産滑松(アカマツ)
天井は熊本県産市房杉
正殿 松の間 【原 敏】
天井は木曽ヒノキ、床はケヤキ(床面がそのまま出ているのは宮殿中ここだけ)
正殿 千鳥の間・千種の間 【銘木史】
付柱、長押は神奈川県大雄山最乗寺境内の道了松(クロマツ)の積層合板張
局面天井は奈良県春日神社の春日スギ
正殿 階段 【銘木史】
天井板は熊本県産市房杉
豊明殿 【原 敏】
天井は鳥取県の若桜杉(わかさすぎ)
業平格子(なりひらごうし)の欄間などは宮崎県のツガの銘木
表御座所 【原 敏】
主棟の内装は吉野杉(陛下の要望で質素な化粧板が使用されている。)
出典 【銘木史】 銘木史:銘木史編集委員会(昭和61年2月20日、全国銘木連合会)
【原 敏】 皇居新宮殿:原 敏編纂(昭和45年8月1日、株式会社岡山日報社)
 また、各種銘木類の使用量に関しては次のような記録があるという。  
新宮殿の主要木材産地別購入量 宮内庁:宮殿造営記録解説編
材種 品名 産地 数量・本 材積
立方メートル
ヒノキ 木曽ヒノキ 長野県 64    266,293
木曽ヒノキ 岐阜県 16     64,141
小計   80    330,434
ツガ ツガ 宮崎県 16     75,285
スギ 伊勢スギ 三重県 2     20,737
春日スギ 奈良県 3     44,015
市房スギ 熊本県 6     52,510
若桜スギ 鳥取県 12     68,160
スギ 京都府 1      4,611
談山スギ 奈良県 5     27,751
吉野スギ 奈良県 71    165,176
小計   100    382,960
マツ 道了マツ 神奈川県 4     44,320
小田原マツ 神奈川県 2     13,770
日向マツ
(注)
宮崎県 47     134,987
滑マツ 山口県 7     17,050
津軽マツ 青森県 6     42,265
大三輪マツ 奈良県 6     12,722
宇陀マツ 奈良県 2      6,770 
沼津マツ 静岡県 21     101,000
小計   95     372,884
ケヤキ 日向ケヤキ 宮崎県 1      6,241
秩父ケヤキ 埼玉県 3      31,173
市房ケヤキ 熊本県 4     21,668
茨城ケヤキ 茨城県 4     12,240
高鍋ケヤキ 宮崎県 1      4,445
綾ケヤキ 宮崎県 7     38,148
小計   20     113,915
タモ タモ 北海道 3      7,490
注: 表中の「日向マツ」は造営記録の名称で、一般呼称では「霧島マツ」に該当する。