トップページへ  木の雑記帳目次

木の雑記帳
 
  黄楊(ツゲ)と桑(クワ)の島 御蔵島
   この島のツゲとクワはなぜ評価が高かったのか
             


 こうした標題を掲げてはみたものの、伊豆七島のうちの3つには上陸したことがあるが、御蔵島は全く知らない。しかし、いろいろな記述情報では江戸時代以降、御蔵島のツゲ材とクワ材は非常に評価が高かったことがわかる。現在では資源が細って、御蔵島産であることを売りとしたツゲ材の話はほとんど聞かない。しかし、クワ材についてはしばしば御蔵島産島桑であるとした製品説明を見かける。在庫限りの素材による製品なのであろうか。 
【2008.10】  

 伊豆諸島黄楊材桑材を指してそれぞれ「島黄楊(島ツゲ)」「島桑(島グワ)」の語があり、このいずれについても御蔵島産が評価の筆頭扱いである。これらについて、原木あるいは製品を見て即座に識別できるものなのかを未だ知らない。ツゲの場合はとりわけその材質が注目されるのに対して、クワの場合はその外観に由来する価値であるから、特に桑については見慣れていればその特性について講釈できるのであろう。

写真左 御蔵島産島グワ駒入れ(将棋の駒を駒袋に入れた上でこれに収納するもの)。一般には箱型が多く、「駒箱」と呼んでいる。

写真下 御蔵島島グワ(左)と普通のクワ(右。多分ヤマグワ)の比較。
特に木口面の印象はかなり違う。



川口碁盤
 岡山県津山市皿633−4
こうして並んでいると、右の普通のクワがクリに見えてくる。


 さて、ではなぜ御蔵島にかつてツゲやクワの大きな木が存在し、なおかつ特に材質、美観が高く評価されるものに育ったのであろうか。
 大きな木の存在に関しては、多分島の人口が少なく土地利用や資源利用が限定的であったことによるものと考えられる。現在でも常緑広葉樹の巨木が多数残っているという。そもそも日本の本土も昔は鬱蒼たる森林に覆われていたのである。
 次に、島の材の評価が高いことに関しては、その特性の成因は明らかでない。一般に材はその系統の遺伝的な特性と環境条件で形成される。島グワの材に関しては目が詰まっているとする記述も目にするが、必ずしもそうではない。むしろ、クワのような環孔材では一般に目が詰まったものは材質、評価が低くなる。
 そこで、改めて島グワとヤマグワの違いを確認するために、都内日本橋の碁盤店で両者の複数の製品を観察しつつ、店主の講釈を聞いてみた。その説明によれば、島グワとヤマグワの違いは一目でわかり、島グワは木目の変化、それによる光の反射の変化が見られるということであった。では、そうであればヤマグワの杢が出ているものとの違い、評価差はどうなのであろうか・・・・さらに修行して目を慣らし、肥やさないとなかなか難しそうである。

 以下は両者に関する記述情報を抜粋したものである。

 島桑(島グワ)
 とりわけ伊豆七等の御蔵島三宅島の樹齢何百年といった「本場もの」、「島桑」は,その昔から斯界で珍重されてきた。
 御蔵島産が最も光沢に富み,三宅島産はこれに次ぎ,「地グワ」の中では日向産が最も光沢がある。【浜田】
 三宅御蔵産を上等となし光沢の点に於て前者優るというものあるも多くは後者を最上とせり堅さは同じきも色宜しく光沢も宜し 御蔵産は黒き胡麻班あるを特色とす「アク」多し故に石灰にてアク出しをなせば色を呼び出し茶色となる 北海道産は材質柔くキハダ材より少しく堅し 小笠原産は孔環なく木理引立たず材堅くして細工容易ならず クロクワ、カラクワの二種あり指物には後者を用ふ地クワは材色宜しからず靱性に富むも柔かにしてクワ材として最も劣等品なり【木材の工芸的利用】
 注: ここで慣用的に「島桑」と呼んでいるものは、分類上のシマグワMorus australis (沖縄、台湾に分布)ではなく、分類上はハチジョウグワ(八丈桑) Morus kagayamae Koidz. (伊豆半島南部、伊豆諸島産)と呼んでいる樹種と思われる。

 島黄楊(島ツゲ)
 鹿児島の薩摩ツゲが良質で,その次は伊豆諸島の三宅島,御蔵島産島ツゲがよい。
 御蔵島産のもの(「本島もの」といふ)は材質軟にして三宅島産のものは硬し三宅島のツゲには根及幹の下部に虫孔あり御蔵島産にはこれあるを見ず然れども天然木にして直径一尺以上のものには心腐れあり薩摩のツゲ三宅島産に似るも木理疎にして材質硬し主として関西にて使用せらる【木材の工芸的利用】
 薩摩産は木理疎にして質平等ならず,三宅御蔵両島産を可とす【木材の工芸的利用】
 昔時ツゲは島の産物なりといふを以て屋敷向にて之を嫌ひイス櫛のみを使用せしが現今に至りては余り行はれず【木材の工芸的利用】
(注)この内容は、伊豆諸島がかつては流刑地でもあったことを背景としたもの。
 伊豆七島には自生品とともに植栽されたものもあって,ことに三宅島御蔵島では櫛材として東京に出すツゲが明治中期における島第一の産物であった。【木材大百科】