トップページへ  木の雑記帳目次

木の雑記帳
 
  播州の鑿柄の素材としての「グミ」
    
            


 兵庫県三木市の金物まつり(2008)を見物していて、現在でも芸術品のように美しい鑿(のみ)が多く製作されていたことに驚くとともに、十分に目の保養をさせてもらった。そうした製品の中で、しばしば鮮やかな黄色の柄を持つ鑿が見られた。はて、まさかツゲ材がこのように潤沢にあるはずはないし、目を凝らしてみてもわからないから、店のお兄さんに聞いてみることにした。【2009.2】 


 答えはなんと、意外にも「グミ」であった。最近では「グミ」といえばゴムのような色鮮やかな菓子を指していて、赤い実を付ける樹木としてのグミは子供達にとっては忘れられた存在となってしまった。
 さて、グミ材の利用に関しては例の「木材の工芸的利用」にも記述がないし、「木の大百科」でもこうしたマイナーな低木は扱っていない。しかし、それでも百科事典にはわずかであるが、グミ材の利用に関して記述が見られた。例を挙げれば次のとおりである。
 @ 平凡社世界大百科事典:グミ材はねばりがあり、農具の柄などにする。
 A ブリタニカ国際大百科事典:グミは食用のほか、材を工具や器具の柄などに用いる。

 その他、北海道渡島支庁のホームページで、以下のようにもう少し詳しい説明が見られ、「グミ材はねぱり強いので、炉の上にかける自在鉤、農具および大工道具の柄などに利用された。」としている。(出典は不明)
 例えば、アキグミであれば全国的に分布しているところであるが、柄材として利用している例を見るのはこれが初めてであった。ひょっとして、鑿では三木市で作られるものだけで利用される柄材なのかもしれない。

 鑿柄としては、シラカシがもっとも一般的で、強度もあり何ら問題はないが、少々遊び感覚で、高級感を醸し出すための演出として個性的な色の材も使用されている。アカガシ、イスノキ、黒檀、紫檀などが見られ、稀にツゲもある。そして、先のグミも淡色で綺麗である。以下は三木市で見かけた各種の鑿柄である。
       紫檀の鑿柄        黒檀の鑿柄        イスノキの鑿柄
       赤樫の鑿柄        白樫の鑿柄     白樫(芯持ち)の鑿柄
           グミの鑿柄
         グミ柄の部分
 グミは小枝、トゲが多いため、小節が出がちであるが、グミの証拠のようなもので気にならない。目の外観から芯持材であることを確認できる。

 三木市立金物資料館
  兵庫県三木市上の丸町5番43号
 道の駅みき 金物展示館
  兵庫県三木市福井2426番地先
     グミ柄鑿のセットの一部
 ところで、なぜグミなのか。地域性があるのは明らかであるが、古くから道具類の柄材をして利用されてきたということは、強度と粘りが認められているのであろう。また金物まつり会場でのお兄さんに聞いたところでは、手に優しく衝撃が和らげられるといわれているとのことである。また、別の鑿製作所で聞いたところでは、芯持ち材であるため、強度があることも挙げていた。確かに、カシ材等は挽割材が普通であるが、グミは一般的にそれほど太くならないから自ずと芯持ちの場合が多いであろうことは理解できる。
 さらに詳しく知りたくなり、三木工業協同組合に照会したところ、丁寧な回答をいただいた。要旨をまとめると次のとおりである。


グミ柄の鑿は三木市で生産されるものだけで見られるのか?
 昔から、播州鑿はグミ柄が多く、越後鑿にはそれに代わる黄楊(ツゲ)柄が見られる。
多数見られるグミの種類のうち、実際に使っているのは特定のものか?
 材木業者からは混じって入るが、材の茶色のものや材色が均一でないものは敬遠される傾向がある。
(注)たぶん、西日本に広く見られるアキグミやナワシログミが多いのではないかと推測される。柄素材の納入者、柄の加工者、鑿の製作者、鑿の販売者が分業体制となっている上に、柄素材の納入者自体も各地に分散していることもあって、利用されているグミの種類の全体構図を確認するのは難しいようである。
グミ柄は全て芯持ちとしているのか?
 全て芯持ちとしていて、太めの材も細く加工している。芯持ちは強度に優れ、さらにグミは衝撃を吸収するので手に響かず、手触りも良いことが知られている。
国産のグミを使用しているのか?
 兵庫、和歌山、中国・四国地方から入ってくる。

 グミの材の実際の感触や未塗装での材の色合いを確認するため、手近にあった素材を入手した。サンプルはアキグミナワシログミである。

 アキグミ
 アキグミの細枝で箸を作ってみることにした。
 本当は中心の髄を外したいが、枝では太さ不足で、この場合は不本意ではあるが芯持ちとなった。曲がりがあるのは仕方がない。材色は淡黄色で非常に美しい。クリーム色に近い上品な色である。

  アキグミの樹皮の様子               アキグミの自家製箸
   
 ナワシログミ
   ナワシログミの樹皮の様子
 アキグミと違って常緑のグミで、樹皮の外観も異なる。
 
       剥皮したナワシログミの材面
 剥皮した状態で、小さい枝(トゲ)跡が出がちであるが、淡黄色できれいな材である。
        ナワシログミの材面 1
 ブナよりも小さい放射組織の点状の模様が出る。これがグミを識別する時のポイントにもなる。
        ナワシログミの材面 2
 板目面、剥皮面、木口面の3面の外観。
 こうして、初めてグミ材を鉋掛けしたり磨いたりする過程で、すっかりグミ材が好きになってしまった。できれば少々確保して、工作材料としてストックしたくなった。