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木の雑記帳
  ニガキはどの部分がどのように利用されているのか


 ニガキについては苦味成分が薬になることが広く森林観察会的常識となっているが、キハダのように樹皮(内皮)がいかにも薬効がありそうな鮮やかな黄色(キハダの樹皮はこちらを参照)というわけではない。また、キハダは樹皮を煮詰めた液が漆黒の個性的な胃腸薬となっているのに対して、ニガキは単体の胃腸薬としては存在せず、どのように利用されているのかは一般には知られていない。さらに、多少とも生薬に関心があればニガキが生薬として太田胃散等にも使われていることは比較的知られていることであるにもかかわらす、やはりどのような性状のものが配合されているのか、全くイメージがわからない。そもそも、ニガキのどの部位を利用してきたのかについても、実は講釈が色々でわかりにくい。さらに、海外では同じニガキ科の樹種が薬用とされていて、これについても少々知りたいところである。 【2013.8】


   ニガキの様子   
     
   (ニガキの樹皮)  
     
 
 ニガキの樹皮 1(大径木)   ニガキの樹皮 2(小径木)          樹皮を剥がした枝の様子
  (左:樹皮表、中:樹皮裏、右:樹皮を剥がした枝)

 樹皮を剥がした材面は、乾燥すると細かい縦皺が生じ、まるで新しい畳表のような感触があって、手触りがよい。
 
     
   (ニガキの葉)   
     
 
 
               ニガキの葉 ニガキの小葉(上:葉表、下:葉裏)
 
     
   (ニガキの雄花、雌花、果実)   
     
 
  開葉直後のニガキの葉
 冬芽は裸芽。
     ニガキの雌花 1
 
花弁3枚のタイプ
 子房3裂、雌しべ3裂
     ニガキの雌花 2
 花弁4枚のタイプ
 子房4裂、雌しべ4裂
    ニガキの雌花 3
 花弁5枚のタイプ
 子房5裂、雌しべ5裂
 
     
 
    ニガキの雌花 4
 
花弁6枚のタイプ
 子房4裂
     ニガキの雄花
 花弁5枚、雄しべ5本の
 タイプ
    ニガキの若い果実
 果実は核果
   ほぼ成熟した果実
 
果実は青くなった後に緑藍色に成熟する。
 
     
 
   5つ並んだニガキの果実
4つから5つの果実が並んで成熟する例は少ない。果皮にもやはり苦味がある。 
     果柄・萼片の赤いタイプ
 果実の成熟前に果柄、萼片が赤くなっている例が見られた。 
     ニガキの核(種子)
 用語として、このうずら豆のような模様のある堅い殻をと呼び、この中に種子があるとして説明される。種子にも苦味がある。 
   
 
     
   ニガキニガキ科ニガキ属の落葉高木で、北海道から九州まで広く分布し、中国でも薬用利用が見られる。雌雄異株。
 花を見ると、花弁は3から6枚(ふつうは4から5枚)と幅があり、雌花の子房も3から5裂していた。果実として分果が4~5個そろって成熟しているものは少ない。
 植物体全体に苦味をもっているとされる。樹皮、材、若い果実をかじると確かに非常に苦いが、葉はそれほどでもなかった。
 剥皮した際の樹皮下の樹液も非常に苦く、手を洗っても苦味が残るほどである。
 学名 Picrasma quassioides の属名はギリシャ語で「苦味」の意で、種小名は「カシア(Quassia → 後出)属に似た」という意とされる。

 ニガキの材の様子についてはこちらを参照。
 
 
     
   図鑑等での説明事例

 ニガキは一般向けのポケット図鑑でも採り上げているほどふつうの樹木で、胃腸薬として利用されることもほぼすべての図鑑で触れている。しかし、日常生活において、自分で(所有者の了解の下に)採取して利用することなどふつうはあり得ないから、利用部位について個人的にもそれほど強い関心はなかった。ただし、図鑑における記述には色々あることに気付いていた。具体的には樹皮が薬用となるとしている場合と材が薬用となるとしている場合の両方が見られるのである。たまたまニガキの花の写真を撮ることができて、このことを思い出したことから、この機会にニガキの利用情報を確認してみることとした。
  
 
     
 (1)   樹皮を健胃薬に利用するとしているもの  
     
 
 【朝日百科植物の世界】
 ニガキ:ニガキ Picrasma quassioides は枝、葉、材などに苦味成分を含み、和名も「苦い木」の意味である。また、属名のピクラスマも、ギリシャ語で「苦い」を意味する「ピクラスモス」に由来する。ニガキでは、その
樹皮健胃薬消化剤黄色染料殺虫剤として利用する。民間では毛ジラミ駆除にも使われたという。ニガキ科全般に含まれる苦味成分は、この属名にちなみクァッシンと呼ばれる。黄色で緻密な材は、器具や象嵌に使われる。 
   
 【日本の樹木(学習研究社)】
 ニガキ:
内樹皮には胃腸薬に用いられるキハダに似た薬効がある。  
   
 【樹木ハンドブック(池田書店)】
 ニガキ:材は細工物などに利用され、
樹皮を乾燥させたものは健胃薬として用いる。 
   
 【樹木図鑑(日本文芸社)】
 ニガキ:
樹皮胃薬殺虫剤になる。 
   
 【ヤマケイポケットガイド 薬草】
 ニガキ:利用部位
樹皮。胃腸薬に用いられるキハダに似た薬効がある。健胃剤に配合されたり、粉末として服用したり、煎じて服用する.消化不良、下痢、胃腸炎などに効能があるとされる。また、煎じた液は駆虫薬ともなり、農作物の殺虫効果もあるという。 
   
 
 (2)  材を健胃薬に利用するとしているもの   
     
 
⑥   【原色日本植物図鑑・木本編(保育社)】
 ニガキ:
は器具、車などを作るのに用い、また結晶性苦味質 quassin を含み、苦味健胃薬に用いる。 
   
 ⑦  【樹木もの知り事典(平凡社)】
 ニガキ:
木部を粉末にして健胃剤とする。 
   
 ⑧  【葉で見わける樹木(小学館)】
 ニガキ:
健胃薬として利用される。 
   
 ⑨  【落葉広葉樹図譜(共立出版)】
 ニガキ:
は淡黄色をし、きわめて苦く、胃腸薬になる。 
   
 
 (3)  樹皮や材を健胃薬に利用するとしているもの   
     
 
 ⑩  【木の大百科】
 材は器具(曲げ物、箱、農具、天秤棒など)、下駄、荷車、薪炭に使われる程度であるが、黄色味の強いものは寄木、木象嵌に用いられる。
中にクワッシンを含んでいて日本薬局方にも苦木としてあげられており、エキスのかたちで健胃剤に多く用いられる。北海道がその主産地である。また駆虫、殺虫剤にもなり、樹皮・根皮も同様に薬効があり、樹皮は染料にも用いられる。 
   
 ⑪  【樹に咲く花】
 ニガキ:全体に苦味成分を含む。
樹皮や材健胃薬殺虫剤などに利用する。北海道~沖縄、朝鮮半島、中国、台湾に分布 
   
 
 (4)  樹皮や葉のその他利用を記述しているもの   
     
 
 ⑫  【樹木大図説】
 ニガキ:野外にあるものには多く
が剥がされているのは毛ジラミの駆除用にされているからである。 
   
 ⑬  【新版北海道樹木図鑑】
 ニガキ:
枝や葉薬用 
   
 ⑭  【日本の樹木(山と渓谷社)】
 
ニガキ:
材や葉は苦味があり、薬用にする。
 (注)旧版では「枝や葉は苦味があり、薬用にする。」としていた。
 
   
 ⑮  【北方植物園(朝日新聞社)】
 ニガキ:(薬用としてのニガキについて)日本では北海道がその主産地である。ニガキは
だけでなく、を煎じた汁は殺虫剤、根の皮は回虫の駆除剤として使われる.アイヌは木の皮を煎じた汁で着物を洗濯した。こうするとシラミがつかないそうだ。 
   
 
   正解は?
 
 
 (1)  利用部位の実際

 一般的な図鑑では、木材の用途と同様に、薬効についても補足的な情報であるから、正確性を期すためにあまり手間をかけていない印象がある。あるいは、より知名度の高い事例の先入観から誤解が生じている場合もありそうである。しかし、本当に古くから知られている特定の植物の薬効に関する信頼性の高い情報を得たい場合は、きわめて簡単なことで、薬学系や漢方系の書籍を参照することで、たちどころに問題が解決する。

 調べた結果を整理すれば、概ね以下のとおりである。
 
 
     
    ニガキの部位別の主たる薬効  
 
区分 日本 中国
 樹皮 殺虫剤、毛ジラミ駆除、回虫・ぎょう虫駆除
疥癬治療、染料
有清熱燥湿、解毒殺虫的功効、用于湿疹、瘡毒疥癬、蛔虫病、急性胃腸炎
 根皮 (樹皮と同様と思われる。) (樹皮と同様と思われる。)
 材部(幹・枝) 健胃薬(消化不良、下痢、胃腸炎)、 殺虫剤、疥癬薬、ウジ駆除 有清熱解毒、殺虫的功効、用于上呼吸道感染、肺炎、急性胃腸炎、痢疾、胆管感染、瘡癤、疥癬、湿疹、水火燙傷、毒蛇咬傷
 葉 家畜の駆虫、農業用殺虫剤
(健胃薬・木部の代用品)         
有清熱解毒、燥湿殺虫的功効、用于瘡癤癰腫、体癬、燙傷、外傷出血
 
     
 
 ・   日本薬局方ニガキ及びニガキ末並びに漢方の苦木(くぼく)は、いずれも(樹皮を取り去った)材部が利用される対象としていて、実際の健胃薬にも処方されている。

 ・   単に「樹皮を健胃薬とする。」とした記述は、キハダのイメージが先入観となった誤りに発するコピペの連鎖と思われ、国内での一般的な記述としては適当ではないと思われる。
 ただし、材と樹皮のそれぞれ薬効・特性について、単独の成分に着目した、あるいは複合成分についての評価がどうなっているのか明確ではなく、樹皮が健胃薬に全くならないとは言い切れない印象がある。

 ・   中国の薬用樹の図鑑では、樹皮材部の両方について急性胃腸炎を含む多くの薬効を掲げている例があり、また、一般的な図鑑の「中国樹木誌」では樹皮根皮のみについて、疥癬治療、殺虫等の薬効を掲げた例が見られるなど、資料により記述内容には幅が見られる。

 ・   同類生薬として南方系の二種のカッシア木が存在し、日本薬局方解説書では健胃薬としての利用部位を心材としているが、これについても記述情報が錯綜している。(このことについては後で触れる。
 
     
    <メモ>

 資料の記述はアウト
 の「エキス」という表現は、煎じ薬とした場合に限定されるから、若干わかりにくい。
 の毛ジラミの件は、たぶん水銀軟膏と共に昔お世話になった人が大勢いることが想像されて面白い。
 
     
 
      ニガキの木粉 (正確にはニガキの鋸屑)
 太田胃酸には、ニガキの材部の粉末(ニガキ末)が配合されている。
 ミルで微粉末とするのは難しそうであるから、抹茶を作る際のようにスリスリしているのであろうか?
 会社HPによれば、「太田胃散は、明治12年に当時来日していたオランダ人名医ボードウイン博士の英国処方を 譲り受けて、製造発売したもので、その後百余年の間、時代の推移と共に研究改良が加えられ今日に至っております。」としている。
太田胃散のおなじみの缶   
 
     
(2)   部位による成分分布の違い

 ニガキに関しては薬学系の研究者によって古くからの研究の積み重ねがあって、苦味成分を含む多数の成分が単離・構造解明されている模様である。先の経過から、樹皮、材部、葉別にどうなのかを知りたいところであったが、研究対象は材部に集中しているようで、欲しい情報は得られなかった。
 例えば、材部での成分分布に関して、以下の記述がみられた。
 
     
 
 ・  ニガキ中のアルカロイドは、部位別には心材、樹皮、辺材の順に減少し、辺材には微量しか存在しない。健胃活性を目的にニガキの利用を考えたとき、心材を多く含む生薬が良品と考えられる。【ニガキ科植物の成分と生物活性について】
 
 ・  ニガキの(黄褐色の)心材には苦味のないアルカロイドが多く、辺材は(薬効のある)苦味成分が多いため、ニガキは辺材が利用されました。【株式会社ウチダ和漢薬】 
 
     
    これを見ても、薬効部位に関して相反する内容となっていて、混乱するばかりである。日本薬局方では特に心材と辺材の区別をしていないのは先に示したとおりである。  
     
    <参考資料>

薬学・漢方系の書籍での記述例は、以下のとおりである。
 
     
 
【日本薬局方及び同解説書】
 ニガキ Picrasma Wood PICRASMAE LIGNUM:本品はニガキ Picrasma quassioides Bennet (Simaroubaceae)の
木部である。
 生薬の性状:本品は淡黄色の切片、削片又は短い木片で、横断面には明らかな年輪及び放射状の細い線がある。質は密である。本品はにおいがなく、味は極めて苦く、残留性である。
 ニガキ末 Powdered Picrasma Wood , PICRASMAE LIGNUM PULVERATUM:本品は「ニガキ」を粉末としたものである。
 生薬の性状=本品は灰白色~淡黄色を呈し、においはなく、味は極めて苦く、残留性である。
 〔来歴〕日局第一版では外国産カッシア木の代用として用いられたが、家庭薬の原料として用いられるので収載されている。
 〔成分〕quassin (nigakilactone D)の他 nigakilactone A-N , picrasi A-G など多数の苦味質を含む。その他 nigakihemiacetal , 2,6-dimethoxy-p-benzoquinone , トリテルペノイドを含む。なお、苦味のほとんどない心材からアルカロイド(nigakinone , methylnigakinone , β-carbolin 誘導体)が分離されている。
 〔適用〕苦味健胃剤として配合剤(胃腸薬)の原料とする。粉末1日最大分量0.5g。(煎剤5~10g)
 
【原色日本薬用植物図鑑(保育社)】
 幹や枝の皮部を除いた
材の部分苦木(ニガキ、Picrasma Lignum)と呼び、苦味健胃薬として消化不良、食欲不振、胃炎、細菌性下痢などに使われ、また、駆虫薬として回虫、ぎょう虫の駆除、殺虫薬として疥癬の治療などに用いられる。
 中国では同一植物の材ではなく
樹皮をほぼ同じ目的に使っており、苦樹皮(くじゅひ)または山熊胆(さんゆうたん)と呼んでいる。
 成分はニガキ科独特の苦味質で、quassin(カッシイン) , picrasin-A , nigakilacton-A , -B , -C , -H , -I , -J,-K , -M , -N , nigakihemiacetil-E , -F , さらにアルカロイドの nigakinone , metylnigakinone , harmane などが見出されている。
 
【日本薬草全書(新日本法規出版株式会社)】
 ニガキ:
 薬用部位:
。6~7月に収穫する。小枝を切り、樹皮を剥いで適当な長さに切断する。縦割りにし乾燥する
 苦味物質:クアシン(=ニガキラクトンD)、ニガキラクトンA~F、J~N、ピクラシンA~G、ニガキヘミアセタールA~C、E、F)、アルカロイド(ニガキノン。メチルニガキノン、ピクラジンC~E、アセチル-β-カルボリンなどの種々のβ-カルボリン誘導体)、タンニン、脂肪油(ペトロセリン酸、パルミチン酸等)、2,6-ジメトオキシベンゾキノン
 薬効・薬用法:苦味健胃薬として胃腸炎、消化不良、下痢に応用する。また駆虫薬として回虫、ぎょう虫の駆除に、疥癬の治療にも用いる
 消化不良、食欲不振、下痢等消化器疾患にはニガキを煎じ又は粉末を服用する。
 
の煎汁は家畜の駆虫、農業用殺虫剤に用いる。
 煎じて服用して、回虫、ぎょう虫の虫下しにする。
 
【日本の薬草(学研教育出版)】
 ニガキ:6から7月、枝を切り、樹皮を剥ぎ取って、
木部を輪切りにして、さらに縦に刻んで、日干しにする。これを苦木(くぼく)と呼ぶ。
健胃薬として、乾燥した
木部5~10gをカップ3の水で半量になるまで煎じて1日量とし、3回に分けて毎食後に服用する。
乾燥した木部を粉末にし、0.2gを1回量として毎食後に服用してもよい。
木部の代用として
を日干しにして用いてもよい。
(注)漢方の処方である。
 
【和漢薬の事典(朝倉書店)】
 苦木(にがき)、苦木末:
 「カッシア木」(QUASSISE LIGNUM)の代用品として、「第3次改正日本薬局方」(1907年)に外国産カッシア木とともに収載され、第4改正(1020年)以来今日まで日本産ニガキ(苦木)のみが収載されるようになった。
 基源:ニガキ科ニガキの樹皮を除いた
を乾燥したもの。通常削片または短い木片のかたちで市販される。
 成分:苦味質(ニガキラクトン nigakilactone A,B,C,D,G,H,I,J,K,L,M,N, ニガキヘミアセタール nigakihemiacetal E,F )、及びアルカロイド(ニガキノン nigakinone , メチルニガキノン methylnigakinone )を含む。
苦味健胃薬として粉末、チンキ、煎剤にして、消化不良、下痢、胃腸炎などに応用する。また、殺虫、、疥癬薬とする。通常家庭薬原料とする。
 
【新訂原色牧野和漢薬草大図鑑(北隆館)】
 ニガキ:
 薬用部分:樹皮を除いた
(苦木〈ニガキ〉日本薬局方)。5唐年生の樹幹を6~7月頃、根元から切り倒し、小枝と樹皮を除いて輪切り、又は縦割りにし、適当な大きさにして日干しにする。
 成分:苦味質のクワッシン、ニガキラクトン類、ニガキヘミアセタールE,F、ネオクワッシン、ピクラシンのほか、ニガキノール及びアルカロイドのニガキノン、メチルニガキノンなどを含む。
 クワッシンに唾液、胆汁、尿の分泌を促進する作用があるため、苦味健胃薬として粉末、チンキ、煎剤にして下痢、胃腸炎、消化不良に用いられる。葉の煎汁は家畜の駆虫、農業用殺虫剤になるほか、枝を削って便層に入れてウジの駆除にも用いられる。
 多量のクワッシンは咽喉、胃の疼痛、嘔吐、めまい、下痢を起こすことがあるため、注意が必要。
 
【和漢薬百科図鑑Ⅱ(保育社)】
 苦木(にがき)PICRASMA:
 カッシア木(QUASSIAE LIGNUM)の代用品として、「第3改正日本薬局方」に外国産カッシア木と共に収載され、第4次改正以来今日まで日本産のニガキ(苦木)のみが収載されるようになった。(中国では用いないが、苦楝皮(川楝皮)→センダンの偽品としてPicrasma 属のものが用いられることがある。)
 基源:ニガキ科のニガキの樹皮を除いた
を乾燥したもの。通常削片又は短い木片のかたちで販売される。
 成分:quassin(nigakilactone D)のほか、nigakilactone A~N , nigakihemiacetal A , C , neoquassin , picrasin A~G など多数の苦味質を含む。その他 4 , 5 - dimethoxycanthin - 6 - one 及び 2 , 6 - dimethoxy - p - benzoquinone を含む。苦味のほとんどない心材からアルカロイド nigakinone , methylnigakinone (= 4 , 5 - dimethoxycanthin - 5 - one) 、β - carbolin 誘導体が分離されている。
 用途:苦味健胃薬として、粉末、チンキ、煎剤にして、消化不良、下痢、胃腸炎などに応用する。通常家庭薬原料とする。
 
 
     
    <参考:中国の場合の例>

 ニガキの中薬名の一般名は「苦木皮」であることなど、樹皮や根皮が主たる基原といった印象である。
 
     
 
【中国樹木誌】
苦木科 苦樹属 苦樹(南京)苦皮樹(四川)苦檀木(河南)
心材黄色、辺材黄白色、結构細、紋理直或斜、心材耐腐;供製家具、農具、器材、彫刻等用。
樹皮及根皮含苦樹○(しきがまえ+甘)與苦木胺、有毒、入薬能瀉湿熱、殺虫治疥;也可作殺虫農薬。 
【薬用木本植物野外鑑別手册】
苦木科 苦樹(苦木)Picracima quassioides (D. Don) Benn. (注:日本のニガキと同一) 
木材入薬、有清熱解毒、殺虫的功効、用于上呼吸道感染、肺炎、急性胃腸炎、痢疾、胆管感染、瘡癤、疥癬、湿疹、水火燙傷、毒蛇咬傷;
樹皮有清熱燥湿、解毒殺虫的功効、用于湿疹、瘡毒疥癬、蛔虫病、急性胃腸炎;
有清熱解毒、燥湿殺虫的功効、用于瘡癤癰腫、体癬、燙傷、外傷出血。 
【中薬大辞典】(中国の書籍の翻訳版-抄)
 中薬名:クジュヒ(苦樹皮)
〔異名〕苦皮子(クヒシ)山熊胆(サンユウタン)赶狗木(カンクボク)
〔基原〕ニガキ科の植物、苦木(クボク 和名ニガキ)の
樹皮、根皮あるいは木部
〔薬理〕クワッシンの味は非常に苦く、健胃剤とあり、食欲を増進させるが、量が過ぎると嘔吐を引き起こす。
〔薬効と主治〕清熱し湿を燥かす、解毒し殺虫する、の効能がある。細菌性下痢、胃腸炎、胆道感染、回虫病、急性化膿性感染、疥癬、湿疹、火傷を治す。
〔用法と用量〕<内服>1~3銭を煎じて服用する。<外用>煎液で洗うかあるいは研って粉末にし塗布する。
〔配合と禁忌〕妊婦は服用してはならない。
〔備考〕[南方主要有毒植物]苦木の有毒部位は根皮、樹皮及び葉。多量に食すとのどや胃部の疼痛、嘔吐、下痢、めまい、痙攣の中毒症状を引き起こし、重篤の場合にはショックを起こす。
 
 
     
   海外のニガキ科の薬用樹種

 
 (1)  カッシア木について 

 中南米原産のこの「カッシア木」は日本薬局方の解説書によれば欧米では知名度が高く、普遍的に利用されていたことを窺わせる記述内容となっていて、当初の日本薬局方ではニガキはカッシアの代用品扱いであった模様である。
 ところで、カッシア木の利用に関して、同解説書ではその
心材を利用するとしていて、またしてもニガキの場合と同様に、それが本当なのか少々気になっていた。そこで、関係2樹種(スリナム・カッシアジャマイカ・カッシア)について調べてみた。
 
     
 
 
区分 スリナム・カッシア
アメリカニガキ とも)
ニガキ科カッシア属の常緑小高木
ジャマイカ・カッシア
ジャマイカニガキ とも)
ニガキ科ニガキ属の落葉高木
 学名 Quassia amara Picrasma excelsa
 英名  Surinam quassia Jamaica quassia
Quassia
Quassia wood
Bitter wood
Bitter ash 
 樹高 数メートル 25~30メートル
 分布 ブラジル、ペルー、ベネズエラ、コロンビア、アルゼンチン、ガイアナ ジャマイカ、カリブ海沿岸諸国、小アンティル諸島、ベネズエラ北部
 
     
 
           スリナム・カッシアの葉
 ニガキと同じニガキ科で、同様に羽状複葉であるが、随分様子が異なっている。(都立薬用植物園)
         スリナム・カッシアの葉(部分)
 葉の中軸が個性的で、ヌルデのような翼が見られる。
 (都立薬用植物園)
 
     
 
           スリナム・カッシアの花序 1            スリナムカッシアの花序 2
 
     
 
 ・  カッシア木では心材(heartood)を使用するとした情報がしばしば見られたが、一般に心材と辺材が区別されたり、心材が有利に取引されている印象はない。
 
 ・  日本でもニガキ材の刻み粉末が生薬として一般に販売されているが、カッシア木についても海外では材のチップ(刻み)やパウダー(粉末)、樹皮が通販されていているのを確認した。その場合、心材と辺材を特に区別して販売している例は見られない。
 
 ・  カッシア木は主としてが利用される模様で、一方樹皮を利用するとしている情報も多くあって、樹皮の販売事例も見られたが、材と樹皮の本質的な違いや特性は一般的な情報としては明らかではなく、国内外の記述情報もまちまちで、これらの使い分けについて明確にした情報は得られなかった。
 
 ・  関係2樹種については、現実にはほとんど区別なく取引されている実態にあるとされ、それぞれの樹種の成分、特性、薬効の違いについて、整理された情報は確認できなかった。
 
 ・  Quassia の和名表記については、カシア、カッシア、クァッシア、クワッシア、クァシアと様々で全く定まらず、Q の発音表記に苦労している。
 
   カシアの表記については以下のとおり紛らわしい。
  属名としてのカシア 
 A  ニガキ科のQuassia 属を一般にカシア属と呼んでいる。  
 B  マメ科のジャケツイバラ属 Cassia を慣用的にカシア属又はカッシア属と呼んでいる例が見られる。なお、本属は最近はナンバンサイカチ属 Cassia L., センナ属 Senna Mill. 及びカワラケツメイ属 Chamaecrista Moench に分類されているという。
  種小名、呼称としてのカシア
 クスノキ科クスノキ属の Cinnamomum cassiaカシア又はトンキンニッケイと呼んでいる。 
 
     
   なお、カッシア木については中南米各国の原住民がそれぞれ様々な目的に利用してきた歴史があることに加え、それがヨーロッパに伝わってさらなる研究・評価がなされて、科学的知見に基づく多様な利用が見られることから、伝統療法や臨床研究に係る多くの英語情報を目にすることができて、非常に興味深い。   
   
  <国内情報の例>   
     
 
【日本薬局方解説書】
〔ニガキ同類生薬〕
①ジャマイカ・カッシア木 Jamaica quassia はジャマイカ、バルバドス、セントビンセントなどに産する(ニガキ科ニガキ属の) Picrasma excelsa PL. (Aeschrion excelsa Kuntz) の
心材で、苦味健胃薬とする。
②スリナム・カッシア木 Surinam quassia (American bitterwood) はギアナ、ブラジル北部、西インドなどに原産し、熱帯地方に栽培する(ニガキ科カッシア属の) Quassia amara L. の
心材で、味苦く、(イギリスでは)慢性消化不良などに用いるといわれている。 
【和漢薬百科図鑑Ⅱ(保育社)】
カッシア木には西インド諸島に産するジャマイカ・カッシア木 Jamaica quassia (ジャマイカニガキ Picrasma excelsa の
心材)と中南米に産するスリナムカッシア木 Surinam quassia (Quassia amara の心材)があり、共に苦味健胃薬として用いられている。ヨーロッパには17世紀後半に紹介され、18世紀中葉から医薬及び工業用に用いられるようになった。 
【朝日百科植物の世界】
クァッシア・アマラ Quassia amara は南アメリカ原産の高さ6~7メートルの常緑高木で、薬用として熱帯地域で広く栽培され、
樹皮から健胃剤、解熱剤、駆虫剤をつくる。苦い成分はビールを製造する際のホップの代用にもなるという。花は紅色で美しく、庭園樹や生け垣としても植栽される。葉は奇数羽状複葉で、小葉は3~5枚。葉軸に翼状のひれが発達している。細長い花弁を4枚もつ花を総状花序に多数付ける。果実は5分果からなる石果。
(注)利用部位として樹皮のみを掲げているのは適当ではない。
 
【世界有用植物事典】
Quassia amara
英語名:Surinam Quassia , Bitter Wood
 非常に苦い低木。南米熱帯原産で、薬用にするために熱帯圏で広く栽培される。
材や樹皮は苦味質カシン quassin を含有し、解熱剤や駆虫剤に利用され、苦味はホップの代用品としてビールの製造にも利用されるという。生け垣にも使われる。
 
     
  <海外情報の例>   
     
 
【Tropical Plant Database】
AMARGO (Quassia amara) アマルゴ(スリナムカッシア)(抄訳)
 一般名:amargo, bitter ash, bitterholz, bitterwood, bois amer, bois de quassia, crucete, quassia, cuassia, fliegenholz, guabo, hombre grande, jamaica bark, kashshing, maraub, marup, palo muneco, pau amarelo, quassia amarga, quassiawood, ruda, simaruba, simarubabaum, quassiaholz, quassia de cayenne, quassie, quina, simaba, Suriname wood
 使用部位:
木材、葉
 Amargo(注:スペイン語由来の呼称) は樹高2~6メートルの小さな熱帯の小木である。ブラジル、ペルー、ベネズエラ、コロンビア、アルゼンチン、ガイアナ原産である。美しい赤い花をつけ、果実は熟すと赤くなる。植物学的にはQuassia amara として知られるが、別の樹種のPicrasma excelsa と区別なく取引・利用される。quassia カッシアの名は共通して使用され(多くの成分や利用も共通しているが)Picrasma excelsa はより樹高が高く(25メートルに達する。)、より熱帯北部のジャマイカ、カリブ海沿岸諸国、小アンティル諸島、ベネズエラ北部に分布している。米国やヨーロッパにおいて、生薬としてはこれら二種類の樹種はほとんど別扱いされず同様に利用され、単にquassia カッシアと呼んでいる。amargo アマルゴ の名はスペイン語で“bitter(苦い)”を意味し、非常に苦い味を表現している。
 アマゾンの熱帯雨林では、amargo はキニーネ樹皮(マラリア・発熱用や苦味消化剤となる。)とほとんど同じ利用がなされている。この樹は(キニーネとは違って)低木である上に、キニーネと同様の多くの抗マラリヤ植物性化学物質を含んでいる。加えて、殺虫、強壮剤、肝炎用にも利用されている。ブラジルのインディオは抜歯後の口内洗浄だけでなく、麻疹に対して葉を浴槽で使っている。スリナムのインディオは樹皮を発熱や寄生体(parasites)利用している。南アメリカを通じて、amargo は衰弱、消化器系の問題、発熱、肝臓の問題、寄生体、マラリア、ヘビ咬傷、背中の痙攣に対する部族の療法となっている。スリナムの熱帯雨林地帯では、地域市場でamargo の材から削り出したカップが見られる。これは“bitter cups”(ビターカップ=苦いカップ)と呼ばれ、土着の伝統療法Saramaka サラマカの中で、薬として使用されている。このカップから飲むことで、木から浸出した苦味が消化を助けるとしている。
 現在のブラジルの生薬体系では、amargo は強壮剤、消化促進、血液浄化、殺虫、穏やかな下剤の薬効があると見なされている。下痢、腸内寄生虫、赤痢、消化不良、粘液過剰、駆虫、腸内ガス、腹痛、貧血、肝臓や胃腸障害に対して推奨されている。
 ペルーではamargo は発熱、結核、腎臓結石、胆石はもちろん、胃やその他消化分泌物を刺激する苦味消化補助剤として用いられている。
 メキシコではこの木材が肝臓、胆嚢の病気や腸内寄生体に対して使用されている。
 ニカラグアではamargo はマラリヤや貧血はもちろん、寄生虫や腸内寄生体の駆除に利用されている。
 南アメリカを通じて、amargo の苦味成分は寄生虫や腸内寄生体の駆除はもちろん、食欲・消化液の分泌促進に使用されている。
 米国やヨーロッパの生薬においては、amargo は胃腸、胆嚢、その他消化器系の問題に対する苦味強壮剤(胆汁、消化液、唾液の分泌を促すことによる。)として、また下剤・抗アメーバ薬・殺虫剤として、さらに腸内寄生虫の駆除用として用いている。
 ヨーロッパではしばしば胆嚢、肝臓、その他消化器系の機能を活性化する様々な生薬における構成成分となっている。
 英国では木材からの水抽出物が局所的に疥癬、ノミ、シラミ、その他皮膚寄生虫に対して使用されている。(以下近年の動向についても追記しているが省略。) 
 
【wisegeek.com】
What Is Quassia Amara ? スリナムカッシアとは?(抄訳・一部明らかな誤りは修正)
 Quassia amara はスリナム、ブラジル、西インド諸島原産の樹木である。ニガキ科の植物で、一般名としてamargo アマルゴ, bitter ash ビターアッシュ, bitter wood ビターウッドの名がある。この樹は消化不良、発熱、回虫の処置のための生薬として利用されている。また、局所的な昆虫駆除にも利用される。
 カッシア木には2種類あって、いずれも医療目的で利用・栽培されている。
 Quassia amara(スリナムカッシア)は小さく、普通は約8フィート(5.5メートル)ほどである。Picrasma exelsa(ジャマイカカッシア)は樹高が100フィート(30.5メートル)に達し、いずれも樹皮は平滑な灰色で小さな花を付け、黒いエンドウ豆型の実を着ける落葉樹である。これらの樹は樹皮に極めて苦い樹脂があるため、昆虫にによる食害はほとんど見られない。

(以下スリナムカッシアについて)
 生薬やホメオパシー療法として利用されるのはQuassia amara の
樹皮である。一般に、樹皮はすりつぶしたチップとして販売され、トニック又はチンキがつくられる。トニックとチンキは一般に、樹皮を長期間冷水に浸漬することで作られる。この樹脂は地球上で最も苦い物質の一つで、酒、ジャム、プリンの香り付けにも利用できる。Quassia amara 樹皮の細かい削り屑は、ビールやエールの醸造に際してのホップのように利用されているかも知れない。
 この樹は数百年にわたって様々な胃腸病や消化障害の処置に利用されてきた。Quassia amara のトニックは吐き気を抑え、消化不良や胸焼けを起こす胃酸を抑える。しばしば病後の食欲増進のために投与されるが、多量に使うと下剤の効果を引き起こす。樹皮は効果的な解熱剤にもなり、マラリアの流行に対処するキニーネの代わりにもなる。現在の生薬としては、Quassia amara は消化や肝機能促進に利用されている。
 Quassia amara はまた、多くの種類の昆虫や寄生虫に対して効果があり、ギョウ虫や回虫のような腸内寄生虫の駆虫剤となる。へアリンスとすれば、フケを抑制することができ、またかつては頭ジラミの一般的な処置であった。水和剤に混和すれば局所的な防虫剤となり、Quassia amara 煎汁は天然の防虫剤、殺虫剤として噴霧利用できる。
 
【myxc.weebly.com】
QUASSIA WOOD カッシア木(抄訳)
 Quassia の名は、カッシア木の解熱効果を最初に発見したQuassi の名の男に由来すると考えられている。彼は1756年に、スウェーデンの歴史家Daniel Rolander にその発見を明かした。カッシア木の標本はヨーロッパに運ばれ、解熱、胃腸病、その他多くの病気に対する薬効成分を有することが明らかとなった。
 Quassia Wood(Picrasma excelsa)は、Bitter Wood ビターウッド, Jamaica Quassia ジャマイカカッシア, Bitter Ash ビターアッシュ, Quassia Lignum カッシアリグナムの名もある。ジャマイカ、西インド諸島さらにはスリナム、ガイアナ原産である。樹高が50~100フィートに達する。灰色がかった平滑な樹皮を持ち、小さな黄緑色の花を付ける。
 Quassia Wood はQuassia tree カッシアの木の
樹幹と枝から調製され、これらが薬や治療目的に利用される主たる部位である。この樹には効果的な殺虫剤となる揮発性精油、タール、ミネラル、塩類、硝酸塩を含んでいる。Quassia Wood は様々な殺虫剤製品の主たる成分として確認できる。
 近年、Quassia Wood の様々な特性が発見されて、発熱、風邪、咳、インフルエンザの治療利用につながっている。その抗炎症性特性から、Quassia Wood はリューマチ治療に使われている。関節痛、腫れ、発赤、immobility もこの樹から調製された調剤で減少する。
 Quassia Wood はまた腸内寄生虫の療法となり、回虫やギョウ虫を駆除できる。また、アルコール依存症を抑止する効果に関する研究もある。Quassia Wood から作られたローションやシャンプーはフケ、シラミその他多くの肌や髪の処置に利用される。この樹の材は植物用の昆虫スプレーとなり、室内や庭の効果的な殺虫剤にもなる。
 カッシアの樹皮は外用だけでなく内服用として別の病気の治療に使用されているようである。風邪の煎じ薬やチンキとして服用される一方で、外用として浣腸に利用されているようである。
 
【世界薬用植物百科事典(翻訳本)】
ジャマイカニガキ(ジャマイカ・カッシア) Picrasma excelsa
英語名:Quassia (クァシア)
使用部位:
樹皮
 樹皮は1756年、オランダの植民地であったスリナムからヨーロッパに伝えられたのが最初である。その治療薬としての価値をヨーロッパ人に教えた現地の治療者の名を取って、クアッシー(Quassi)と名付けられている。
 強烈に苦いジャマイカニガキは弱い消化器を強化する。胆汁、唾液、胃酸の分泌を促進し、消化過程全体を改善する。食欲促進、特に食欲減退の治療に通常使用される。その苦味がマラリアや他の発熱時に使われ、カリブでは赤痢のために使われている。樹皮はぎょう虫や他の寄生虫駆除に浣腸という形で使われている。樹皮の煎じ汁は防虫剤として使われる場合もある。
 
【ハーブ大百科(翻訳本)】
Picrasma excelsa(ピクラスマ・エクセルサ)
英名:Jamaica quassi , bitter ash
利用部位:
木部。木部は細かく砕いて乾燥させたものを濃縮浸出液、粉末、チンキにする。
 非常に苦い、非収斂性、無臭のハーブで、解熱、食欲増進、消化促進作用があり、殺虫、殺寄生虫効果がある。また白血病にも有効といわれる。
回復期の衰弱、食欲不振、マラリア、線虫に服用する。過剰摂取は胃炎、嘔吐を起こす。外用薬としてシラミなどの駆除ローション、ぎょう虫用の浣腸剤がある。
クァシアはビールソフトドリンク蒸留酒の香味料、またハエ、ハダニ、アブラムシ、ワタムシなどの殺虫剤に使用される。
 
【Britannica Online】
 ニガキ科は薬用植物として知られているが、Kirkia acuminata (southern African white syringa) の場合は木材が家具、フローリング、家庭用品に用いられている。
 Quassia amara (quassia wood) の
樹皮や木材の煎剤は、熱帯アメリカにおいては抗マラリア薬に調製される。本種は赤い花をつけることと苦い樹皮をもつことから広く栽培されている。同様に苦味成分は中央アメリカのSimaba cedron や西インド諸島のPicrasma excelsa (Jamaica quassia) の樹皮からも得ることができる。かつては西インド諸島や中央アメリカのPicramnia antidesma (cascara amarga) の苦味のある葉と甘草の香りのある樹皮が性病の治療用として輸出されていた。Brucea amarissima とB. sumatrana の収斂性のある果実は、東南アジアでは赤痢に用いられた。 
 
     
 (2)  食品添加物としてのカッシア抽出物   
     
    ジャマイカカッシアから得られる「ジャマイカカッシア抽出物」は、苦味料等の食品添加物として認められている。その概要は次のとおりである。  
     
 
 1.食品添加物名  ジャマイカカッシア抽出物
 ジャマイカカッシアの幹枝又は樹皮から得られた、クアシン及びネオクアシンを主成分とするものをいう。 
 2.基原、製法、本質   ニガキ科ジャマイカカッシアPicrasma excelsa )の幹枝又は樹皮より、水で抽出して得られたものである。有効成分はクアシン及びネオクアシンである。
 3.主な用途  苦味料等 
 
     
   ところが、食品添加物としてはスリナムカッシアの名は見当たらない。

 実は、輸入・流通しているものはスリナムカッシアがほとんどであるとの見解もある。当のジャマイカカッシアはIUCNが絶滅危惧種に区分しているとされるが、栽培樹であれば全く心配はない。そもそも両者は明確に区分されて流通しているものではないともいわれており、実態は輸出者の事情・都合次第と言えなくもない。どちらなのかで悩むより、A又はBと記述すれば問題はない。

 かつてはニガキ由来の「ニガキ抽出物」も苦味等の食品添加物として認められていたが、2011.5.6 に、既に外国産がほとんどを占めているという理由でリストから削除された経緯がある。食品関係でも極めてファジーな世界となっているようである。ついでながら、使用部位は幹枝又は樹皮としているが、基源が実際のところはどうなのかも気になるところである。 
 
 
<追記>   
   ニガキ樹皮で虫除けスプレー???   
 
 東芝の「ゑれきてる」に、出所は明らかではないが、「ニガキの樹皮の液は手足に塗り、蚊、ブヨの防除に用いた。」とある。化学合成の「ディート」に頼る必要のない天然の虫除け剤ということになる。

 これは是非とも確かめてみなければならない。

 そこで、ニガキの樹皮を利用した自家製の虫除けスプレーを試作することとした。

 材料はもちろん刻んだニガキの樹皮であるが、草木染めではないから煮詰めて色素が出過ぎては具合が悪いため、25度の焼酎(甲類)にしばらく漬け込むこととした。

 仕上がったものが右の写真である。早速試してみると、残念ながら顔にまとわりつく虫に対しては全く効果がないことを確認した。濃度が足りないのか、別の抽出法でないとだめなのかはさっぱりわからないが、とりあえずは玉砕であった。
   
 
          自家製ニガキ樹皮スプレー
 
  (さらなる追記)   
   顔(目)にしつこくまとわりつく虫は「メマトイ」の名があり、複数種の総称で、合成のディートを有効成分とする一般的な虫除けスプレーでも効果が及ばないことを追って知った。確かに、市販製品の効能としては「蚊、ブユ(ブヨ)、サシバエ、ノミ、イエダニ、アブ、トコジラミ(ナンキンムシ)の忌避」とあり、メマトイの名はない。

 そこで、改めて、この自家製スプレーが、蚊に対して忌避効果があるのかについてであるが、簡便な試験では、残念ながらディートの効果には及ばなかった。さらにもう少し正確に言えば、明確な忌避効果は確認できなかった。