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木の雑記帳
  ノッティーパインとは一体何なのか


 多くの店舗を擁するあるホームセンターで、「ノッティーパイン」と表示した集成板材が販売されていた。パインだから輸入されたマツ科マツ属の材なのであろうが、なぜ突然の「ノッティー」なのか。聞いたことのないマツの呼称である。既に流通していた特定樹種のマツ材が、装いも新たに新名称で売り出すことになったのか。製品を見ると、柾目のきれいなものもあるが、多くは節のある部分を貼り合わせたもので、製品によってはヤニツボがあって、ベッチョリと脂(ヤニ)で汚れているものも見られるなど、品質としては随分幅が見られるという印象である。利用するにはヤニ止めをしないと危ないかもしれない。【2014.7】 


   「ノット」で思い浮かぶものは「結び目」、「結びこぶ」knot である。しかし、「結び目のある木材」では意味不明である。仕方なく追って辞書で確認すれば、何てことはない、ここでの “knot”「節」の意で、“knotty” 「節のある」、「節だらけの」意であるから、ノッティパインとは、文字のままに理解すれば、単に「節のあるマツ材」、「節だらけのマツ材」ということになってがっかりである。英語の普通の素養があればすぐにわかったことであるが、そうではないために、店頭での条件下では knotty (むずかしい)な課題であった。

 ところで、節だらけであることは見て明らかであり、商品名の意味がやっと分かったとしても理解が深まるわけでもない。意味のわからないカタカナ表記は一見しゃれた印象を持ってしまうが、国内でこうした呼称をそのまま使用(踏襲)しているのは決してわかりやすく親切なものとは思えない。

 これが英語圏での一般的な呼称であったとしても、やはり日本国内では、意味不明あるいは時に人を惑わすことになるような商品名を使うことには疑問がある。ひょっとすると、英語の語感が上級品の錯覚をもたらすことを期待したものなのであろうか。そもそも、本来的に必要は商品表示は樹種名と、念のために記すのであれれば、特に「節あり」とするなどして、その特性あるいは資源を有効活用していることなど補足的な説明を付せばよいと思われる。

 改めて、日本国民がカタカナ英語表示の製品に対して上質な印象を持ってしまう敗戦以来の宿痾からはなかなか逃れられない現実を改めて確認する思いである。 
 
     
         あるホームセンターでの製品例  
 
 
 店舗の商品説明では、これが「ホワイトウッド」とあるから、たぶんヨーロッパトウヒなのであろう。そうであれば、「パイン」とするのは明らかに誤りである。
  製品表示としては、「ノッティパイン集成材」とあるだけで、樹種名の表示はない。   材面を見れば、やはりヨーロッパトウヒか。マツ属樹種ではないものが、流通のどの段階で「パイン」となってしまったのであろうか。
 
   
   折角なので、この機会に日本語サイトと英語サイトでこの語の使用実態を確認してみることとした。   
     
   日本語サイトの事例   
     
 
 事例 具体的な記述内容 
@ 複数事業者の商品説明  「ノッティパイン集成材」の名で商品を広告  (樹種名表記なし) 
A 事業者Aの商品説明  「ノッティパイン」を説明  「生き節ありのレッドパインです。 適度に節を混ぜることにより、天然木特有の風合いを活かした商 品です。」 
→ と言うことは、ヨーロッパアカマツなのか?
B 事業者Bの商品説明  ポンデローサマツの説明で「ノッティパイン」の名に言及  ポンデローサマツ : アメリカの赤松の種類。この材はノッティパインとして入荷している事が多く、松の生き節をデザインした家具、内装壁材などに用いられる。最近では店舗内装に良く用いられている。」 
C 複数事業者の商品説明  輸入した「ノッティパインドア」を広告  (一部の事業者が、この樹種がオウシュウアカマツ(ヨーロッパアカマツと同義)であるとして説明している。) 
D 事業者Cの解説  特定の樹種の呼称のひとつとして説明  (ロッジポールパイン及びコントルタマツの説明で、これらにはノッティパインの名もあるとして説明。) 
 
     
   以上のような例を目にしたが、ノッティパインの呼称の何たるかについては触れられておらず、総じて親切な説明となっていない。パラパラと見たとしても誰もが混乱するばかりで、成り行きで次のような受け止めとなるであろう。

その1: 何やら外国産のマツの種類に違いないと受け止め。
その2: 特定のマツの樹種が掲げられているのを目にして、その樹種として受け止め。
その3: 複数の樹種が掲げられているのを目にして、それらの総称として受け止め。
  
 
     
   英語サイトの事例   
     
   特定の樹種を指すとする説明は少なく、北米原産のロッジポールパインの一般名の一つであるとしている例が散見されたが、これも定着度が高い呼称との印象はない。 
 しかし、Knotty Pine の語は木材、木製品の広告として非常に多く見ることから、呼称としては広く一般的なものとなっていることがわかった。
 
     
 
【ブリタニカキッズBritannica Kids】
 lodgepole pine (Pinus contorta):
 ロッジポールパインはしばしばジャックパイン(注:この名は一般にはバンクスマツを指す。)、スプルースパイン、ブラックジャック、ノッティパイン、タマラック、スクラバブルと呼ばれることがあるマツ科のすらっとした常緑樹で、9〜24メートルになり、樹皮は薄く剥がれ、葉は2本で長さ6.4センチ、球果は楕円形。 
 
     
   そもそも、ノッティパイントは何かという問いに対する簡潔なあるいは丁寧な回答例を目にすることができた。実にわかりやすい説明である。   
     
 
【thefreedictionary.com】
 knotty pine:
 ノッティパイン:名詞。多数の節のあるマツ材で、特に羽目板や家具に利用される。

【wisegeek.com】
 What Is Knotty Pine ?
 ノッティパインとは何か(抄):
 ノッティパインは、カントリー風あるいは田舎、ウェスタン調の住宅建設で多く利用されている木材のタイプである。その材は大きくて多くの節やキズのあるのが特徴で、壁や床、キャビネットに使用されると印象的な模様を表す。多くの種類のマツ材(pine)には強い匂いがあって、これを心地よく感じる人と嫌う人がいる。ノッティパインは羽目板用に加工済みとなったものから装飾的な柱や梁に至るまで様々な形態で販売されている。
 ノッティパインは一般に重要な構造用材としては使用されない。なぜならマツ材(pine)は非常に軟らかい材で、節が原因で割れたり折れたり、あるいは曲がったりする恐れがあるからである。しかし、装飾的な目的であれば(過剰に使用されると閉口させられる面があるが)、実に適当な材である。ノッティパインはキャビンや田舎の別荘で特に人気があって、人工木材パネルの製造業者は、ノッティパインの雄牛の目のように見える外観をまねしている。 
 
     
   結論   
     
   英語サイトを見ることで、要はノッティパインの呼称は特定の種類の節だらけのマツのみを指すものではないことが明らかになった。ただし、広く流通している節だらけのマツ材(たぶん大径木に由来しない、あるいは大径とならない性質の樹種が主体と思われる。)の供給源となるマツの樹種が限られていることから、身近な存在であるマツの仲間の材(節のある板材が広く普及しているマツの種類)がノッティパインとして認識されているものと思われる。つまり、ノッティパインの名は樹種名を意識した呼称ではないということである。また、節が多数出る材はマツ類に限らないから、結果として様々な樹種で節の存在を積極的に受け止めて、これを個性として販売している実態があり、@ knotty cypress (ノッティサイプレス), A knotty alder (ノッティアルダー), B knotty cedar (ノッティシーダー)等々の呼称が見られる。さらに、ABの呼称は国内でも事業者がそのまま使用している例を確認した。

 構造材にとって節は欠点となるから、そうした視点で評価されるが、内装・下地材等では全く問題がないし、国内でも節(生節)が多数出た板類は木材らしい個性として受け止められており、スギ、ヒノキ、カラマツの人工林材では普通の性状で、羽目板、腰板として評価されている。またヒノキの場合は生き節が美しく、比較的大きな節が満遍なく出た材は特に美しく、天然ヒノキの場合はさらに格別のものとなっている。

 ところで、英語のノッティ knotty に対する日本語での実態上の用語となると、一般に補足説明的に付される「節有り(節あり)」の語しかないことに気付いた。さすがに、「節だらけの」の語を冠するのではつらいであろうと思われるが、確かにマイナスではないイメージで受け止めてもらえる適当な言葉がないのは確かである。そこで提案である。「ふなっしー」ならぬ「フッシー」の語を冠してはどうであろうか。  
 
     
   <参考: いろいろな板材の節の様子>  
 
 カラマツの節有りの羽目板
 言わばノッティカラマツ 
 新名称:フッシーカラマツ
  ヒノキの節有りの板材
 言わばノッティヒノキ
 新名称:フッシーヒノキ
ヨーロッパアカマツの節有りの集成材     SPF材の節部分