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木の雑記帳
  縁側と濡れ縁


 NHKの「チコちゃんに叱られる」はそこそこの視聴率を確保している模様である。この番組の中に「ひだまりの縁側で・・・」と題したお便りコーナーがある。ところが、チコちゃんと岡村が座っているのは、一般的に認識されている縁側ではなく、ふつうは「濡れ縁(あるいは単に縁とも)」と呼んでいる。
 縁側は大正から昭和期のごくふつうの一般住宅でも採用されていた仕様で、雨戸とガラス戸の内側の板張り部分を指している。一方、濡れ縁は、ふつう軒下の屋外に張り出した(短手方向に)板張りした縁(えん)を指していている。【2019.5】


       NHK「チコちゃんに叱られる」の一場面 「ひだまりの縁側で・・・」のコーナーの風景
 板張りのものを、ときに十把一絡げで「縁側」としてしまう例も見られるが、写真のものはふつう「濡れ縁」あるいは単に「縁」と呼んでいて、一般に「縁側」と呼んでいるものとは少々異なる。
 写真をさらによく見ると、この濡れ縁は作り付けに見えないから、据え置きの「縁台」に近い存在である。
 
 
 近年の大手メーカーの住宅では、縁側はすっかり見られなくなってしまった。かつての縁側は寒い時期はサンルームになるし、立ち寄った知り合いに座ってもらってお茶を飲むのもよし、ごろごろと昼寝をするのもよし、ねこちゃんと遊ぶのもよしで、安らぎの空間を演出していた。

 最近は縁側のない住宅で育ち、これを知らない世代が多くなっているから、改めて縁側のある情緒に満ちた風景を学習するには、とりあえずはサザエさんの住宅がよい教科書になる。
 
 
 1  サザエさんの家の縁側のある風景   
     
 
             サザエさん(磯野家)の家の縁側のある風景
 かつては一般住宅でも見られた縁側の風景である。庭に面しているから、出入り口にもなり、そのための沓脱石(くつぬぎいし)がある。もちろん縁側はガラス戸の内側であり、縁側の内側は障子に区画された畳部屋である。縁側は猫のタマも大好きに違いない。チコちゃんにも教えてあげて欲しいところである。  (「サザエでございま〜す!:扶桑社」より)
 
 
 上の絵のある書籍でも「猫も喜ぶ日当たりの良い縁側は、ひなたぼっこに最適」とある。

 なお、都内世田谷区桜新町に「長谷川町子美術館」があって、この通りは「サザエさん通り」の名がある。ひょっとして、この美術館には磯野家の縁側のある住宅の一部が再現されていたり、サザエさんに因む楽しい展示物が多数あるのではないかとの期待を抱く人も多いと思われるが、実はサザエさんの作者の私的な嗜好に基づく収集品をわずかに展示するささやかな(その割りに入館料が高い)美術館で、サザエさん目的で行くと期待はずれとなるから、注意が必要である。
 
     
 現物の縁側や濡れ縁のある風景  
 
   地方都市には純和風の縁側のある住宅はふつうに見られ、新築のものも珍しくない。都内ではこうした住宅は多くないと思われるが、現物の縁側濡れ縁のある建物を保存展示している場所がいくつかある。    
     
(1)  旧朝倉家住宅  
 
 渋谷区猿楽町に東京府議会議長等を歴任した朝倉虎治郎が大正8年に建てた住宅が残っていて、現在は文科省の所有となっていて、渋谷区の管理下で公開されている。平成16年には国指定の重要文化財に指定されている。   
 
          旧朝倉家住宅の縁側         旧朝倉家住宅の縁側(二階部分)
 
 
 
            旧朝倉家住宅の畳部屋から庭を見た風景
 
            外からのぞき込んだ旧朝倉家住宅の様子 
 
     
   
         旧朝倉家住宅の濡れ縁 1          旧朝倉家住宅の濡れ縁 2
 ここでは意識して大きな節のある厚板を使用している。  
 
 
 
 
               濡れ縁越しに回遊式庭園を望んだ風景
 濡れ縁の手前は、現在はカーペット敷きとなっているが、本来は畳敷の縁側となっていたという。代官山駅の直ぐ近くにこうした立派な木造住宅と緑豊かな庭園が残っているとは驚きである。立派な沓脱石に大きな飛び石が続いている。大勢の客がここから出入りできる仕様と思われる。  
 
 
(2)  将軍様の御茶屋  
     
   都内中央区の浜離宮恩賜庭園には豪華な仕様の御茶屋が複数棟復元されていて、一般住宅ではないが、美しい縁側を鑑賞することができる。この御茶屋が将軍やその招待客に使われていた江戸時代にはもちろんガラス戸はなかったから、写真で見られるガラス戸風のポリカーボネートの戸は開園時間中の保全と採光を確保するための措置で、閉園時間中は戸袋に収められている本来の雨戸をはめ込んでいるとのことである。   
     
 
           松の御茶屋の縁側           燕の御茶屋の縁側 
 
     
 
              松の御茶屋の縁側の内側と外側の様子
 これはツガ材の縁側で、本当はペタペタと裸足で歩いたら気持ちがいいに違いないが、管理上の理由から裸足厳禁である。縁側につきものの沓脱ぎ石も置かれている。
 縁側のある空間はほんとうにうらやましー!! 
 
     
  <独り言>   
   NHKの(あるいはその下請けの)若いスタッフはふつうの縁側を知らないようであるが、やはり、多くの子供も見ている番組のようであるから、「縁側」というのであれば、NHKの責任において、一般性のあるスタジオのセットを構成して欲しいものである。「縁側」の語が死語になりつつある現実の中で、児童、青少年がかつての日本の住宅の普遍的な様式について、ふつうの認識が持てるような配慮が欲しいところである。   
     
  <参考資料>   
 
【木造建築用語辞典】
縁側(えんがわ):建物の畳敷き部屋の外側にある板敷の部分をさし、単に縁(えん)ともいう。現在は、建物内部にあるものを縁側といい、壁や建具の付かない濡れ縁を縁ということが多い。 
【建築大辞典】
縁側(えんがわ):和風住宅の畳敷きの室の外部面した側に設ける板敷きの部分。元来、縁と縁側は同義であったが、現在では縁はどちらかといえば濡れ縁式の建物の外部に設けられるものを指し、縁側は建物内部に設けられるものを指して用いられることが多い。廊下や上がり口の延長として使われる。単に「縁」ともいい、民家では「えんね」、「えんの」、「えんや」など地方によって各種の呼称がある。
濡れ縁(ぬれえん):家屋の外側に設けられる雨晒しの縁側。普通の縁側は長手方向に縁板を張るが、濡れ縁では縁と直角方向に張ることが多い。「縁」、「雨縁」ともいう。