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木の雑記帳
  〝ゲゲゲの 月桂樹〟の名の材の正体


 東急ハンズの「木のハガキ」シリーズは、ハガキとして利用している人はほとんどいないと理解しているが、樹種・材色が豊富で、このままで銘々木皿やミニ花台にしてよし、小間物の工作材料にしてよしと、なかなか魅力的な存在で、大好きである。久しぶりに製品の樹種構成に変化があるのか眺めてみた。バーズアイ・メープルはあまりいいものが入荷していないなあ・・・フムフム・・・とか感じながら目線を移動していくと、 ゲゲゲッ!!唐突にも「月桂樹」の名が目に入った!! 原産地の地中海沿岸地域では雑用途があるのかも知れないが、国内でもゲッケイジュの材が利用されてきたとは聞いたことがない。この突然の月桂樹の名に驚きつつも、落ち着いて考えてみると、ひょっとしてと思われるものが頭をよぎった。【2014.1】  


 月桂樹の正体   
     
   材を手に取ると、ずっしりと重量感があり、手触りで非常に硬い材であることがわかる。色はブラック・ウォールナットをさらに暗色にしたようで、さらに黒褐色の縞が適度にあって、重厚な雰囲気がある。1枚の価格も何とローズウッドと同額とは驚きである。
 唐木に限りなく近い色と質感は、これだけでグレードの高い材として流通する資格は十分にあると誰もが受け止めるに違いない。

 個性的な材色と、何よりも普通感覚を粉砕する「月桂樹」の呼称から、これが先に別項(参照)で調べ物をしていて浮上したウォールナットもどきの「ロクファー(アジアン・ウォールナット)」である可能性が高いと確信した。さらに、インド系のサイトで調べると、益々明らかとなった。
 
 
     
 
ロクファーの材 1
(インディアン・ローレル)
ロクファーの材 2
(インディアン・ローレル)
 
   
   先にこの樹種について調べて確認したポイントを再整理の上、若干の資料を付加すると以下のとおりである。    
     
 
樹種名  学名  Terminalia tomentosa (シクンシ科 モモタマナ属) 
(以下はSynonym とされる学名の例)
Terminalia elliptica
Terminalia alata
Terminalia coriacea
Terminalia crenulata
Pentaptera tomentosa
和名  クチナシミロバラン
材の流通名: 
ロクファー、アジアン・ウォールナット(業界名)
 
その他 
英語名:  Laurelローレル), Indian Laurel インディアン・ローレル
Black murdah , Crocodile-bark tree
 
(これらは主としてインドでの英語名と思われる。)
インドでの呼称 インドでは地域言語の呼称が多数存在する。
(例) 
ベンガル語 Asan
ヒンディー語  Ain, असन Asan, आसन Aasan, Asain, Sain, Saj, Saja
グジャラート語  Sadar 
タイでの呼称 Rok fa (ロクファー 
ミャンマー呼称 Taukkyan , (Burma laurel) 
カンボジアの呼称 Chhlik 
ベトナムの呼称: Ca-gan , Canc , Lien 
あらまし   樹高は30メートル、径1メートルに達する落葉樹。葉は長楕円から卵形で、7-20センチ×4-10センチで、基部は鈍角でそばしば不等辺、先端は丸から先鋭、無毛から綿毛、側脈は10-16対、葉柄は1-2センチ。花は両性花で径2-3ミリ、くすんだ黄色で葉腋及び枝先に総状花序をつける。果実は核果で卵形で4-6センチ×2.5-5センチ、縦方向に5枚の翼をもつ。樹皮は深く割れて(この様子からクロコダイル・バーク・ツリーの呼称がある。)火に耐える。材の肌目は粗く木理はほぼ通直で、光沢は少ない。心材はわずかな模様のある淡褐色から濃い縞を伴う暗褐色又は黒褐色で、辺材は赤みがかった白色で心材との区分は明瞭。心材の耐久性は中庸で、辺材はヒラタキクイムシの攻撃を受けやすい。
 材は家具、キャビネット、建具、羽目板、ボート材、鉄道枕木、装飾用単板に利用される。
(Wikipedia , worldagroforestry.org , indiabiodiversity.org)  
分布   インド、ネパール、バングラデシュ、ミャンマー、タイ、ラオス、カンボジア、ベトナムに分布。
 なお、モモタマナ属の樹種は、およそ200種が知られていて、熱帯アジア、熱帯アフリカ、中南米、北オーストラリア、太平洋諸島に広く分布するという。 
 
  :「アジアン・ウォールナット」という奇妙な呼称に関しては、こちらを参照。   
     
 なぜ月桂樹なのか

 月桂樹の名が登場した背景は明らかで、この材に対して、インドで(英語で)勝手に Laurel (ローレル)と呼んでいることに由来すると考えられる。この樹種がインドに分布し、なおかつ現在地球を支配している優越国家(民族)の言語である英語名であることで、他の現地語名より優位的に捉えた可能性を感じる。インドではもちろん慣用的に Laurel と呼んでいる樹種が、地中海沿岸原産の本家 Laurel(true laurel)ゲッケイジュ とは全く別物であることなど彼ら自身は十分承知のことと思われるが、日本でLaurel(ローレル)だから即「月桂樹」としたのは反射的反応としての誤った直訳で、滑稽でしかない。
 
 
     
 国内での「月桂樹」の名の使用実態

  先に本樹種について調べた際には、商品の呼称としてのロクファーアジアン・ウォールナットの名が普通に使用されていることは確認していた。しかし、さすがに「月桂樹」の名を筆頭名として商品に使うことなど思いもよらないことであり、特に調べてもいなかったところである。今回、東急ハンズの例(納入事業者は未確認)を見たことから、改めて調べてみると、何と!

「月桂樹」の名が一人歩きしているどころか、既にスキップをして飛び回っているのを確認した!

 やはり、木材の流通名は魔界、カオスの世界である。

 目にした具体的な事例を掲げると以下のとおりである。
 
 
     
 
事 例 概 要 
A 「月桂樹(ローレル)」の名で端材を販売  素性の説明なし 
B 「月桂樹」の名で彫刻材を販売  素性の説明なし 
C 「月桂樹(ゲッケイジュ)」の名で材を販売  樹種の説明を誤って、ブナ科、産地中国と説明
なぜブナ科が登場したのか趣旨不明。 
中国内で製品加工されたものを中国産と誤ったものか?
 
D 「月桂樹フローリング」の名で製品販売  樹種の説明を誤ってクスノキ科のゲッケイジュを解説 
E 「月桂樹床材」の名で製品販売  樹種の説明を誤ってクスノキ科のゲッケイジュを解説 
F 「月桂樹床柱」の名で製品を販売  クスノキ科の月桂樹とは別のシクンシ科の樹種であるとしていて、呼称は別にして正しく区分して説明している。 
G 木材関係サイトでゲッケイジュ(月桂樹)を解説  クスノキ科のゲッケイジュとシクンシ科の樹種の情報が錯綜 
 
     
    事例的に見た範囲では、総じて説明の混乱ぶりは見事であり、案の定、クスノキ科の本家ゲッケイジュと完全に誤認していたり、内容が錯綜していたりで、木材を商う者の製品情報としては残念な実態である。

 そもそも、本種に対して月桂樹、ゲッケイジュなどという呼称を国内で使用するのが誤りであるから、深く反省して速やかに改めるべきであろう。

 なお、英語でなぜ本種を Laurel と呼ぶに至ったのかについてであるが、本種はクスノキ科のゲッケイジュと異なり落葉樹であるほか、画像検索してもそれほどの形態的な類似性は確認できず、この呼称の由来については残念ながらよくわからない。
 
 
     
     
 
注1:   木材関係の書籍等で、「ローレル」、「インディアンローレル」に関する記述で、これがモモタマナ属のある樹種(Terminalia sp. )又は複数樹種(Terminalia spp. )として説明している例が見られた。このように幅のある記述は、ロクファーの学名に多くのシノニムがあって、誤ってそれぞれが別樹種として認識されている場合があるほか、流通段階では混沌として、実際の材から厳密な同定が難しい実態を反映しているのかも知れない。 
注2:  ある木材事業者の手による書籍のローレルの説明の項で、「ローレルは流通商品名(?)で樹種名はターミナリアという樹種(?)です。南米(?)や地中海沿岸に生育するクスノキ科のローレルとは別の樹種ですので混同しないよう注意してください。」として、黄色の杢の出た材の写真を掲載していて、さらに同じ樹種のロクファーを「ロックファー」の名で別の樹種として掲載している。この内容にはかなりの混乱が見られる。 
注3:   タイでの名称ロクファーが日本で広く使用されるのは、材が主としてタイから輸入されていることによるものと思われる。なお、インドからのいわゆるローレル Laurel(ロクファーと同一種)の輸出は、単板加工されたものに限られ、供給は限定されているという。 
注4:   モモタマナ属の樹種は多く存在するも、一般に樹種別にまとまった量の出材があるわけではないため、著名なもの以外は固有の名前で取引されていることはほとんどなく、材色によりグループ分けされて取引される例がみられるという。イエローターミナリアレッドブラウンターミナリアの括った呼称を目にする。 
注5:  クスノキ科のゲッケイジュの材は、葉やその精油で見られるような一般的な利用は見られないが、材には甘い香りがあってすり減りにくく、象嵌細工、ステッキ、火起こし用の火きり棒に利用されてきた【pfaf.org】という。
 なお、本種の原産地は南部地中海沿岸地域であるが、芳香のある葉の生産を目的にして、トルコ、アルジェリア、モロッコ、ポルトガル、スペイン、イタリア、フランス、メキシコで経済的に栽培されているという。