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続・樹の散歩道
  ユキヤナギの花をよーく見ると・・・
  
 ユキヤナギの花の細部の構造を観察してみよう!   


 ユキヤナギは公園の歩道沿いなどでふつうに植栽されていて、春先の咲き始めのときは季節を感じるひとつの風景をなしているが、開花期間中はそれほど目を引く存在とはなっていない。というのは、一般に強く剪定されていることが多くて、地味な存在となっているように感じる。ところが、空間的な余裕がある条件下でしばしば枝を自由奔放にゆったりと長く伸ばしている場合は、見事な風景となっている。こうしたユキヤナギであるが、径が8ミリほどの小さな花の中心部をよく見ると、部位によって異なる色の組み合わせがなかなか美しく、さらに時間の経過に伴う色彩的・形態的な変化も興味深い。そこで、図鑑に照らして、少々観察してみることにした。 【2019.4】 


                  開花期の華やかなユキヤナギの様子(3月下旬)
 長く伸ばして弓なりとなった細い枝に小さな白い花をびっしりつけた姿は美しい。
 バラ科シモツケ属の落葉低木 Spiraea thunbergii 別名コゴメバナ 
 
 
 
                  彩り鮮やかなユキヤナギの花の様子(3月上旬)
 個々の花は径が6〜8ミリと非常に小さいが、各部位の色の組み合わせが非常に美しい。
 虫達も思わず引き寄せられそうである。
 萼片5個花弁5個雄しべ模範的な配置の場合は20個雌しべ5個、円環状の花盤は縁が10個に分裂して、蜜腺体となっている。
 
     
 1  ユキヤナギの花の変化の様子   
     
   ユキヤナギの花の変化 1
 
雄しべの花糸が外側から花盤に巻き付いている。 
    ユキヤナギの花の変化 2 
 雄しべの花糸が徐々に立ち上がって葯が姿を見せ始める。
   ユキヤナギの花の変化 3
 白い大きな葯が裂開前で、黄色いものが花粉を放出中の葯である。
     
ユキヤナギの花の変化 4      ユキヤナギの花の変化 5
 5個の柱頭がはっきり確認できる。
   ユキヤナギの花の変化 6
 
花粉を放出した葯は萎びて褐色となる。 
     
    ユキヤナギの花の変化 7 
 最も美しい時期である。
   ユキヤナギの花の変化 8 
 花盤は次第に退色している。 
   ユキヤナギの花の変化 9 
 
赤くなった子房がよく目立つ。
     
   ユキヤナギの花の変化 10 
 雄しべは役割を終え、子房が大きくなって外側に広がっている。
   ユキヤナギの花の変化 11 
 裂開前の果実(袋果)の様子である。雄しべと蜜腺体はほぼ消失している。
  ユキヤナギの花の変化 12
 
各花5個の果実(袋果)が裂開して、種子がこぼれている。  
 
 
 花の変化のおおよその経過は確認できるが、せっかくの機会なので、花盤の様子雄しべの展開様式を観察してみる。   
   
   ユキヤナギの花盤の蜜腺体の様子と雄しべの配置・挙動   
     
 
     ユキヤナギの花盤の蜜腺体の蜜の輝き
 蜜腺体で光っているのは蜜と思われる。
         ユキヤナギの雄しべの様子
 この段階で花粉を放出中の葯は、すべて内輪の雄しべのものであることが確認できる。 
   
    ユキヤナギの蜜腺体と雄しべの配置の様子
 花弁を除去した状態。外輪の雄しべは蜜腺体と対生し、内輪の雄しべは蜜腺体の間に位置している。 
      ユキヤナギの花盤の蜜腺体の様子
 花弁を除去し、雄しべの花糸を切り取った状態で、10個の蜜腺体が確認できる。
 
     
 
 
                ユキヤナギの栽培種の花の中心部の様子
 ピンクユキヤナギの名で流通しているものと思われ、花はわずかにピンクがかっていて、やや大きい。10個の蜜腺体20個の雄しべが観察しやすい。蜜腺体は蜜でしっかり濡れている。
 
     
   (ユキヤナギのつぼみの中の様子)  
     
 
    ユキヤナギのつぼみの中の雄しべの様子 1
 つぼみの中では外輪の10個の雄しべのうちの1個おきの5個のおしべの葯が最上段に位置している。雄しべは20個確認できる。
    ユキヤナギのつぼみの中の雄しべの様子 2
 この花のつぼみでも5個の葯が最上段に位置しているが、雄しべは18個しか確認できない。  
 
     
まとめ 
 ・  蜜腺体の形態は、やや大小があるが、ほぼ俵型で10個ある。 
 ・  雄しべは典型的な配置であれば20個存在する。これらは2輪生し、外輪の雄しべ10個は個々の蜜腺体の中央部・外側に対生し、内輪の雄しべ10個は蜜腺体の間のやや外側に配置している。 
 ・  これらの雄しべはいずれも当初は円環状になった花盤の蜜腺体に外側から花糸が密着して巻き付き、葯は雌しべと花盤の間にほぼ収まっている。 
 ・  雄しべの展開経過を見ると、モデル的に整理すれば、外輪生の10個の雄しべが先に先に立ち上がり、次に内輪生の10個の雄しべが立ち上がる。 
 ・  つぼみの時点で、中をのぞき見ると、20個の雄しべの葯が雌しべと花盤の間の狭い空間で押し合いへし合いの状態となっているが、遅れて展開する内輪の雄しべの葯は整然と奧に収まっている。外輪の10個の雄しべのうちの(ひとつおきの)5個の雄しべ(20個の雄しべの花糸に着目すると、3つおきとなる。)の葯が最上段の位置に収まっている。展開のトップを担う雄しべである。案外几帳面な収納状態となっていることに驚く。 
 ・  なお、蜜腺体の形態に関して、しばしば中ほどがくびれているが、これは外輪の10個の雄しべの花糸がちょうど蜜腺体の真ん中に巻き付いていたことに関係しているようである。 
 
 
<ユキヤナギの花に関する参考資料>  
   原色日本植物図鑑に、ユキヤナギの萼筒の展開図や花式図などが掲載されていて、花の構造の理解に有用である。   
 
     ユキヤナギの花の萼筒の展開図
     (原色日本植物図鑑)

 10個の蜜腺体と20個の雄しべの位置がキッチリ表現されている。 
      ユキヤナギの花式図
      (原色日本植物図鑑)

 2輪生の雄しべがキッチリ表現されている。