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続・樹の散歩道
  ツワブキの花でお勉強


 花の少ない時期に咲くツワブキは、下方の艶やかで大きな葉とスッと伸ばした花茎につけた鮮やかな黄色い花がよく目立って美しく、公園や庭園でもこれを意識して適宜配置している風景をよく見かける。虫たちにとっても有り難い存在であろう。しかし、珍しくも何ともない花であるから、普段は目を凝らして観察することのなかった花であった。ただ、比較的大きな花を付けるから、キク科の花の事例としてその構造を勉強するには好都合と考え、基礎シリーズのよい教材とさせてもらうことにした。 【2016.2】


          ツワブキ(都内植栽)
キク科ツワブキ属の常緑多年草 Farfugium japonicum
       オオツワブキ(高知市 牧野植物園)
 ツワブキの大型品種 Farfugium japonicum f. giganteum
 
 
 
 ツワブキの頭花の様子  
     
   ツワブキの頭花(頭状花)舌状花筒状花の2種類の小花で構成されている。舌状花は雌花で頭花の外周に1列に並び、筒状花は両性花で中央に多数集まっている。   
 
 
         ツワブキの頭花 1
 
この段階では、周囲の舌状花のみが雌しべを見せているが、中心の筒状花はほとんど開いていない。 
            ツワブキの頭花 2
 筒状花が外周側から次第に開花している。合着して筒状となった褐色がかった雄しべの葯の筒の先から2裂した雌しべの柱頭が出ている。 
   
          ツワブキの頭花 3 
 中心部の一部の除きほとんどの筒状花が開花している。ただし、中央寄りの頭状花では、まだ雌しべが出ていない。
 ツワブキの頭花 4(部分)
 雌しべに押し出されて、ふっくらと盛り上がった花粉の様子である。 
 
 
 ツワブキの小花の様子  
 
(1)  ツワブキの舌状花  
     
   舌状花は雄しべを欠いた雌性花で、花冠は筒を切り開いたような形状となっている。
 花冠の先端部はタンポポのような5枚の花弁が合着した痕跡は確認できない。
 雌しべの柱頭は通常2裂しているが、まれに完全に3裂しているものも見る。 
 
 
        舌状花 1
  
 くの字に曲がっている。
     舌状花 2
   正面からの様子。
            舌状花 3(部分)
   
  2裂した雌しべ柱頭の様子である。
 
 
(2)  ツワブキの筒状花  
     
   筒状花は両性花で花冠の先端が5裂し、下部は合生している。中心に先端が2裂した雌しべが1本あり、それを5本の雄しべが取り巻いている。雄しべは縦に長い葯と花糸からなり、葯は癒合して筒状になっている。これは集約雄しべと呼ばれ、筒状の部分を葯筒と呼んでいる。(植物の世界)    
     
       
       筒状花A
 花冠がまだ閉じた状態である。
     筒状花B−1
 開いた花冠から雄しべが伸び出し、葯の筒(葯筒)から花粉が溢れている。
      筒状花B−2(部分)
 同左。花冠はラッパ状で先端が5裂。  茶色の葯の下方には花糸が見えている。
 
       
     
   筒状花B−3 (部分)
 葯筒の内側で葯室が裂けて花粉が出て、これを下方から雌しべが外へ押し出している。
      筒状花C−1
 葯筒の先端から雌しべの柱頭が伸び出ている。
     筒状花C−2 (部分)
 伸び出た柱頭部分で、閉じた柱頭の外側には上向きの毛が見られ、花粉を捉えて押し出すのに役立っているようである。写真では毛が花粉にまみれている。
 
       
       
         筒状花D
 葯筒の先端から姿を見せた雌しべの柱頭が開きかけている。 
     筒状花E−1
 雌しべの柱頭が完全に2裂し、他の筒状花からの花粉を受粉する形態となっている。  
      筒状花E−2(部分)
 ラッパ状の花冠を剥ぎ取った状態で、束状の白い雄しべの花糸が姿を見せている。もちろん中心には花柱が通っている。 
 
       
    
   筒状花E−3(部分)  
 柱頭の様子である。開いた面に花粉が付着している。丸味のある先端部は無毛で、その直下は特に長い毛が見られる。(C−2写真を併せ参照) 
 
 
 
3   ツワブキのパラシュート(そう果)   
     
   ツワブキのそう果のボンボンは、乾燥した花がらが名残惜しそうに暫くの間しがみついている姿がふつうに見られる。姿としては本当は余分なカスは早々にふるい落としてしまった方が冠毛のボンボンが美しく見えるのであるが、これは勝手な感想である。   
     
 
   ツワブキのそう果
 この段階では、花がらはわずかな風でポロリと落ちる。
 そう果には子房の白い毛がそのまま残っている。
       ツワブキのそう果
 小花が収まっていた総苞片が反り返って花盤が丸くなり、冠毛のボンボン状態となっている。
(手前側のそう果は剥ぎ取っている。)
  【比較用】カントウタンポポのそう果
 タンポポではそう果と冠毛の間が随分離れている。この方が冠毛を大きく広げられるメリットがありそうである。
(手前側のそう果は剥ぎ取っている。) 
 
     
   タンポポでは子房と冠毛の着生部の間に最初は短い冠毛柄があって、花後にこの冠毛柄が長く伸び、そのお陰か繊細な冠毛を大きく広げるため、はるかに飛行距離を稼ぐことができそうである。一方、ツワブキでは冠毛柄はなく、結果として冠毛はそう果に直付けの状態となっているため、散布距離は短そうである。   
     
 ということで、キク科のサンプルとしてのツワブキの花のおおよその様子を体感的に理解できた。筒状花で雄しべが花粉を放出した後におもむろに雌しべの柱頭が開くという手の込んだ流れは、同花受粉を防ぐためのシステムとして理解されている。同花受粉を防ぐことになる雌雄異熟(雄しべ先熟)の花の例は多く見られるが(こちらを参照)、それらとは少々仕組みが異なっている。

 同じキク科の花でも、例えばタンポポの仲間では、頭花は雄しべも有する両生の舌状花だけで構成されていて、また、アザミの仲間では、頭花は両生の筒状花のみとなっているなど、グループによって違いが見られ、さらに種子散布に際して落下傘のような浮遊機能を持つ冠毛を持つものとないものがあるなど、いろいろである。

 そもそも、キク科は種子植物のなかでは最も種の数が多く、世界に2万3000を超える種がある(日本には72属370種)とされ(植物の世界)、また、現時点の知見では、双子葉植物の中でもっとも進化した科(日本の野生植物)と考えられている。

 身の回りのものを思い浮かべてみても、キク科植物は園芸的に好まれているもの、食用・薬用としての有用植物、道端の野草、攪乱された空き地や造成地を覆い尽くす外来種など、その多様性とたくましさには改めて驚かされる。 
 
 
<参考>  
   ツワブキは庭園や鉢植えとして古くから利用されていて、葉形や葉色の様々な変異を選抜した多様な葉芸品変わり花の存在も知られている。   
     
 
 斑入り葉のツワブキ 八重咲きのツワブキ