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樹の散歩道
木と塗料 木の実,樹液等に由来する塗料


 木から採取された樹液や木の実から採取された成分を再び木に塗布して,木製品などを保護し,長持ちさせるというのは,よくよく考えてみると非常に面白いことで,例えば,ある場合は木自身が自らを守るために自らが作り出した物質をヒトが頂戴して利用させてもらっているという構図も見られる。


 漆(うるし)は古来利用されている最も機能的にも優れた塗料と言われている。もちろんこれは「ウルシ」の木の皮に刻みを入れて,しみ出した樹液を掻き取ったもので、その優秀さは耐熱性,耐候性,耐薬品性などにおいて,現在でも化学塗料は足元にも及ばないといわれている。

 漆器の製品価格はピンキリで,例えばがっちり下地を施した輪島塗の汁椀は数万円するが,スーパーでは中国産の拭き漆(木目が見えるように仕上げた塗り)のものは数百円である。これらは日本の漆器の産地で塗りを手直ししているともいわれるが,漆器産地をめぐる環境には厳しいものがあるようである。

 ウルシの木は古代に中国から渡来したといわれ,さらに,漆器の技術も中国から学んだとされ,正に元祖中国そのものであるが,なぜか漆器を英語では japan と称している。
 なお,漆は乾燥に際して一定の温度と湿度を要求するなど条件がやっかいであるが,お遊び用のチューブ入りの生漆,色漆も市販されていて,ちょっと体験するには便利である。

 桐油(きりあぶら,とうゆ)はアブラギリ属植物の種子の油で,実際の採油には,ニホンアブラギリ(生産地は北陸,山陰,南関東),シナアブラギリ(中国),カントンアブラギリ(中国南部)の3種が用いられる。古くから油紙雨合羽用などに使用されていたが,近年は工業用用途として,ペイント,ワニス,リノリウム,印刷用インキ,焼付塗料に広く用いられている。日本の需要の大半は中国からの輸入である。江戸時代には江州(近江国)と濃州(美濃国)が特産地であったという。

【注】アブラギリシナアブラギリと同様に中国原産と考えられていたが,@中国のものは別種である(植物観察事典),A近年,古い地層からこのタネの化石が発見され,日本古来のものとわかった(昭和60年,井波),日本に野生しているものは,本来の自生かどうかは不明である(山渓)等の見解を見る。

 柿渋(かきしぶ)マメガキ(シナノガキ,コガキ,ブドウガキともの青実を搾った液を発酵させることにより得られる防水・防虫・防腐性の液で塗料,染料に用いられる。紙類に塗布し風乾させると防腐性と硬度を増し,紙衣(かみこ)紙布がつくられる。和傘団扇にも利用された。また,漆下地渋下地)としても利用され,本堅地の本格的な下地よりも安価であるが丈夫な下地とすることができるという。柿渋に含まれるシブオール shibuol による防腐性と,タンニンによる収れん性の相乗効果は古くから注目され,渋糸として漁網や釣糸にも用いられ,友禅や小紋などの型紙に利用された。

 なお,植物性の塗料として,草本であるがシソ科の荏胡麻(えごま)の種から得られる荏油(えあぶら。荏の油とも)は古くから燈油としての利用と並び,雨合羽提灯の防水加工塗料として,また油紙の製作にも使用された。さらに漆に混ぜて透明漆の原料としても利用されている。近年,自然塗料が見直される中で,内装や家具のオイルフィニッシュ用の塗料として少数の国内メーカーが製造販売している。精製されたものは食用にもされる。近年、この油に含まれるαリノレン酸の健康効果が注目されている。 
 
 左の写真は一般向けに販売されている植物性の天然油脂の例で、もちろん、柿渋も販売されている。

 アマチュアがどこまで使いこなせるのかはわからないが、こうして昔からの製品がいろいろ供給されていて楽しめることは結構なことである。