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続・樹の散歩道
  タラノキの芽と材


 タラの芽山菜の王様と言われてきただけあって、理屈抜きでおいしく、とりわけ天ぷらの味は最高で、思い浮かべるだけで生唾が出てしまう。個人的には山菜採りに対する情熱はないが、タラの芽とウドに関しては、できることなら労せずして手に入れて賞味できれば、これほどうれしいことはない。
 こうしてヒトから常に強い圧迫を受けているタラノキは、仮にそっとしておいた場合にどの程度大きくなるものなのか興味を感じるところである。ところが、目にするタラノキは丁度お手頃な背丈ほどの小さなものばかりで、したがってその材がどんなイメージなのかも見る機会もなく全くわからないため、是非とも機会を捉えて確認しておく必要がある。【2016.4】 


                   タラノキのジャングル(開花時期 9月下旬)
 一時期、人為的に疎開状態となったためにタラノキの出番となった風景である。少々踏み入りにくい条件にあることから、スクスクと育っている。タラノキは、崩壊地や人為的に攪乱されたところ、伐採跡地などで見られることが多い陽樹先駆樹種である。種子繁殖のほかに根に芽をつくって繁殖するという。
 ウコギ科タラノキ属の落葉低木。Aralia elata
 
 
 お馴染みのタラノキの様子  
 
 
    タラの芽 NO.1 
 大きな頂芽が特徴である。
    タラの芽 NO.2     タラの芽 NO.3      タラの芽 NO.4 
       
   
    タラの芽 NO.5    タラの芽 NO.6    タラの芽を摘んだ跡     比較用:ハリギリの芽
 
 
 タラノキのムッチリ大きな芽は見ただけでウキウキする。上の若芽の生長経過の写真について、No,5 の時点で摘んで食べてしまったので、No.6 は別個体である。芽を摘んだ後の断面からはとろみのある樹液がにじみ出ている。少々気の毒である。  
     
            花をつけたタラノキ
 郊外の道端ではよく見る風景であるが、この状態では誰も気に止めない。
              タラノキの葉
 刺は樹皮表面のほか、2回羽状複葉の葉柄や小葉の軸にも見られる。刺の多寡には個体差があり、刺が少ないか全くないものを品種として メダラ f. canescens と呼んでいる。 
 
 
      タラノキの両性花 1
 1個の花序には両性花雄花とが混生し、一般に花序の上部に両性花の小花序を、下部に雄花の小花序をつけることが多い(日本の野生植物)とされる。 雄花についてはよくわからない。
★ この件についてはこちらを参照
     タラノキの両性花 2
 両性花は雄しべ先熟で、このとき雌しべは5本が寄って1本になっているが、花弁や葯が落ちてから雌しべが熟す(植物観察図鑑)とされる。写真の蜂はコガタスズメバチ。 
       タラノキの果実
 果実は液果で黒熟する。5本の柱頭がきれいに残っている。右側に見える放射状に残った花柄は結実のなかった両性花の跡と思われる。
 
     
 タラノキが背負った宿命  
 
 タラノキはヒトの活動圏にあっては宿命的な条件に置かれている。タラノキは背丈ほどの高さで、道端にツンツンと立っていることで人々に喜ばれる存在であり続けてきた。条件がよいところに存在するタラノキは人々が争うようにその芽を取り尽くしてしまう。中には、不埒にも競争相手を出し抜くため、芽がふくらむ前にスッパリと扱いやすい長さに切り取ってバケツで水挿しし、ちょうどいい具合になるのをちゃっかり自宅で待つ不届き者まで存在する。

 確かに芽を吹いたタラノキは採って下さいといわんばかりの美味しそうな印象がある。もちろんタラノキにとってみれば、これまで春に向けてエネルギーを蓄え、ぬくもりを感じ取るや一気に葉を広げ、出来るだけたくさんの実をつけ、一族の繁栄のために全力を尽くそうという気持ちが高ぶっているときに、いきなりポキッとやられるのは何とも痛ましいことである。中には二番手、三番手の芽まで採り尽くされて、枯れてしまうものもあるという。
 
 
 タラノキの栽培用種根の例  
 
 実は、そもそもこうしたものがホームセンターで一般向けに販売されているのを知ったのはつい数年前である。ホームセンターを3月頃に覗けば、タラノキ栽培用の根を短く切った「種根」が水を含んだ水苔やおがくずに包まれた状態で販売されている。確かに、タネよりも確実で効率的ある。  
 
 
タラノキの種根の販売品パッケージ A
 生産地は長野県としている。
タラノキの種根の販売品パッケージ B
タラノキの種根の販売品パッケージC 
 
     
  B、C の製品には「とげなしたら」、「とげなしたらの芽」の名を記しているが、メダラの商品名として一般に使用される呼称である。「刺なしタラノキ」ともいい、栽培品は基本的にメダラの系統が選抜されている。

 A,B の製品は2株入りで、価格は1株当たり200円程度である。C の製品は1株入りで400円程度と、少々高いが株はやや大きめである。

 写真 A の製品を体験用として購入してみた。
 
 説明書きには、
 植え時:12月~4月 
 収穫期:翌3月~5月 とある。
 
     
         タラノキの種根(製品A の中味)
 まるでゴボウのしっぽのように貧相に見えてしまう。これで1本200円とは高い気もするが、授業料と思えば、我慢の範囲である。
            種根からの発芽の様子
 2本とも間違いなく芽を出してくれた。一般に、種根は太いと芽が大きく初期成長はよいが発芽率が低く、細いと芽は小さくても発芽率はよいとされる。  
 
 
 あくまで体験用として購入したのであるが、よくよく考えてみると、当年度のものにならないようなもどかしいものに頼るよりも、さっさと現物を採取に出かけた方が明らかに手っ取り早い。どちらかといえば、プランターでのお遊び用といったところであるが、いい勉強になった。  
 
 タラノキの材  
 
 そもそも本種が先駆樹種で、やがては他種に圧倒される運命にあって、寿命も長くないようであり、図鑑でも樹高は4,5,6,8m 止まりのようである。個人的には胸高径10cmほど、樹高6~7 m ほどのものを見たのが最大である。(次の写真)  
 
 
       太いタラノキの樹皮
  刺は見られない。
          同左上部
 上部の方で枝分かれしていた。 
         樹皮のアップ
 皮目の部分から、なぜかコルク質が吹き出ていた。 
 
     
    板になった製品などもちろん見たことはないが、たまたま除伐された径6cm 程度のタラノキの断面を目にすることはできた。  
     
 
   
           タラノキのサンプル材
      タラノキらしい樹皮である。 
           同左タラノキの断面の様子
 心材はやや暗色で、中心の随が大きい。材は柔らかめの印象であった。   
 
     
   書籍情報ではいろいろな用途が掲げられているが、一般的には小径木ばかりであるから、例えば下駄材の採材などは現実には難しいと思われ、こうした制約から実際のところは木材としての存在感は極めて希薄であったと思われる。ただし、この材が比較的軟らかい上に、随が大きいのを利用した柄材の事例は面白く、また、スリコギにも利用されたとされるほか、アイヌが物干し竿として利用したとされることなども興味深い。   
     
 
 ・  材は器具(箱・茶盆・下駄・杓子・経木・マッチ軸木・小細工物)、船(櫓)、家具(机)などになり、若芽は食用。(原色木材大図鑑) 
 ・  材は仲仕(なかし:港や河川で、船の貨物のあげおろし作業に従事する人。)の用ゆる鉤の柄に最も適し又小細工用及下駄材に供す(大日本有用樹木効用編) 
 ・  材はスリコギに作る。(樹木大図説) 
 ・  若芽は食用とし、幹は随が大きく鋸の手元(注:中子)を差し込みやすいので鋸柄に適する。(椎葉村大河内集落における聴き取り調査)【九大演報 89:51-62,2008】 
 ・  の木はまっすぐで節がなく、おまけに軽いのでよく物ほし竿に使った(幌別)。(分類アイヌ語辞典) 
 
     
 5  タラノキの薬用利用   
     
   タラノキの樹皮は、生薬としての位置付けはないが、民間薬として利用されてきた実態がある。   
     
 
 樹皮(主に根皮)は民間で糖尿病、腎臓病、胃腸病に効果があるとして、家庭薬の原料にされる。(植物観察図鑑) 
 漢方では中国産のタラノキに似た A. chinensis L.(シナタラノキ)の材を楤木(そうぼく)樹皮を楤木白皮として薬用にするが、タラノキの材や樹皮も同様に利用される。また根の皮はたら根皮という。サポニンを含み、民間で糖尿病に応用する。(世界大百科事典) 
 薬用には新芽が出る前の根を掘り上げて皮をはぎ、樹皮も利用する。煎汁の服用で血糖値を下げる作用があり、利尿効果もあるとされる。(ヤマケイポケットガイド薬草) 
 胃痛の時には、根を取って煎じて飲んだ。(分類アイヌ語辞典) 
 中国にも分布し、中国名は遼東楤木。中国では根皮または樹皮を精神不安、関節リウマチ、糖尿病、腎陽の不足などに用いる。(中国本草図録) 
 
   民間での薬用利用のためのタラ木皮又はタラ根の粉末が国内で販売されている。  
     
  <参考1:シナタラノキとアメリカタラノキ>   
     
 
①   シナタラノキ Aralia chinensis
 中国名:楤木 中国に分布。(本属は中国に30種分布)
 かん木又は喬木で、高さ高さ2-5m、まれに8mに達し、胸径は10-15cmに達する。
 根皮・茎皮を肝炎、リンパ節炎、糖尿病、胃痛、リウマチ痛、腰脚痛に用いる。(中国植物誌、中国本草図録) 
②   アメリカタラノキ Aralia spinosa
 Devil's Walkingstick(悪魔の杖)の名を持つ。北米東部原産。
 若芽は刺が硬くなる前に食べることができる。(Wikipedia) 
 
     
  <参考2:タラの芽の栽培方法に関するメモ>   
     
   タラの芽は山菜として最も人気が高いことから、天然採取に依存しない人工栽培の研究が長く、多くの選抜品種があり、栽培技術に関しても露地栽培からハウスによる早出し栽培、枝条を使った「ふかし栽培」等、既に基本的な技術は確立している模様である。   
     
 
①   品種
 駒みどり、新駒、蔵王1号、高根1号の名をよく目にする。何れも刺の少ないメダラの系統のようである。 
 増殖
 増殖は基本的に「種根」による「根ざし」が容易で効率的とされる。 
③   栽培
 露地栽培では2年目から頂芽や側芽を収穫。併せて必要によりふかし栽培用の穂木を採取。栽培サイクルはいろいろ。
 ハウスによる早出し栽培は露地栽培の応用編である。
 枝条による「ふかし栽培」は、芽のある枝条を短く切って、ハウス内でおが屑又は水に挿して育て、出荷時期を幅広く自在に調整する手法で、長期間にわたる供給が可能。