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続々・樹の散歩道
  タイミンタチバナの不思議な種子


 タイミンタチバナは花も実もあまりにも地味で、緑化木として使われることもないようである。たまたま植栽されていても、人の目を引くような存在ではない。それほど大きくなるわけでもないから、材も特別の評価はない。人にとってはまるっきり存在感のない樹木であるが、かつては一部地域で樹皮が家畜の駆虫薬に使われたという。こんな退屈な樹種でも何か変わった個性がないものかと、タイミンタチバナの果実を手にして、爪でパックリ割ったところ、奇妙なものを目にした。丸くて硬い胚乳の内部または表面に食い込むような状態で、オレンジ色の小さな粉の塊が10個ほど散在しているのを確認した。まるで胚乳の中に花粉をもった葯が取り込まれているかのような風景で、タイミンタチバナの種子に意外な個性があることを確認した。はて、一体これは何なのか? 意味のない構造が存在するはずがない。 【2019.8】 


 タイミンタチバナの様子  
 
   種名の「タイミン」の部分は想像してもさっぱりわからないが、牧野日本植物図鑑(昭和34年)には次のようにある。

 「和名は大明橘なり。大明は明国(みんこく)にして橘はマンリョウ属のタチバナを指すならん、即ち明国産タチバナの意にして其国の産なりと認めしに由るならん呼。 

 つまり、国内に自生があるにもかかわらず、中国から渡来した橘と誤認したものと解されている。
 
     
  (以下、植物体の性状については日本の野生植物、樹に咲く花を参考。)  
         タイミンタチバナの様子
 ヤブコウジ科(APG サクラソウ科)タイミンタチバナ属(ツルマンリョウ属)の常緑小高木 Rapanaea neriifolia 、Myrsine seguinii  非常に地味で知名度も低い。
         タイミンタチバナの幼樹
 千葉県の鋸山の登山道にはふつうに見られた。葉は革質、狭卵形又は線状長楕円形で、鈍頭、全縁。
 中国、台湾、ベトナム等にも分布。中国名は蜜花樹
   
   
       タイミンタチバナの葉裏の様子
 葉裏の様子で、縁には褐色の腺点?が見られる。
        花と果実が同居した状態 
 果実が翌年の春まで残るため、花(雌花)と同居することになる。(3月下旬の様子)
 
 
  タイミンタチバナの雌花の蕾 
 花は雌雄異株で、雌雄とも前年の葉腋に束生する。
  タイミンタチバナの雌花 1 
 花冠は5裂、雌花の5個の雄しべは退化していて、花粉を出さない。
   タイミンタチバナの雌花 2 
 雌花の柱頭は個性的で、やや扁平に広がり、短い舌状となり、しばしば先端が反曲する。
     
   タイミンタチバナの雄花の蕾
 雌花と同様に、蕾の段階では赤みのある花冠の外面の色がが反映して赤く見える。
  タイミンタチバナの雄花 1 
 5個の雄しべの葯はむっちり大きいが、雌しべは痕跡も見られない。写真では葯が1つだけ裂開している。
   タイミンタチバナの雄花 2
 裂開した葯からは、花粉がサラサラと流れ出る。写真では葉に花粉がたまっている。
     
  タイミンタチバナの果実 1 
 果実は球形で、径5~7ミリ、黒紫色に熟す。果実は核果様の液果(図鑑により核果とも)。
  タイミンタチバナの果実 2 
 果実には5裂する萼が残る。 
   タイミンタチバナの種子 1
 殻状の内果皮に包まれ、縦方向の線状紋が見られる。
 
     
2   タイミンタチバナの種子内の胚乳の様子   
     
 
  タイミンタチバナの種子 2
 内果皮と種皮の一部を剥がした状態で、白い胚乳がのぞいている。胚乳は非常に硬い。
  タイミンタチバナの種子 3  
 胚乳の表面には奇妙な赤褐色、粉状の塊(以下粉塊と呼ぶ。)が点状に分布している。
  タイミンタチバナの種子 4  
 胚乳はしばしばゆがんだ球形となり、また、その表面は平滑ではなく、浅い溝が走っている。
 
     
 
   タイミンタチバナの粉塊の様子 1(種子表面)
 胚乳の表面から見える粉塊は、やや窪んだ胚乳の中に形成されている。
  タイミンタチバナの粉塊の様子 2 (種子断面)
 胚乳の表面に分布した粉塊の断面で、内部まで食い込んでいる。
   
     タイミンタチバナの果実の縦断面
 胚乳の断面(縦断面))を見ると、粉塊が内部にも分布していることがわかる。胚乳内の白色の円形のものは胚の断面である。不思議なことに、果実の縦断面で胚の横断面が現れる。
    タイミンタチバナの果実の横断面 
 写真は果実の横断面であり、円柱状の胚が横向きに収まっていることがわかる。こうして、胚が横生である点に関しては、中国植物誌で、本属(密花树属 Rapanea)の共通の属性であるとしている。 
 
     
   こうした粉の塊が胚乳の中で点在する形でどのように形成されるのかについては、有用な情報が得られない。しかも、これがどのような意味、あるいは機能を有しているのかについても、もちろんさっぱりわからない。

 花粉を残した葯が胚乳に取り込まれるなどということは、論理的にも構造的にもあり得ないことであり、そもそもタイミンタチバナの雌花の雄しべは退化していて、その約は花粉を出さない。粉塊を拡大して見てもその粉の質感は構造物ではないように思われるが、お手上げである。残念ながら、本件は有用な情報が得られるまで保留である。  
 
     
 
      タイミンタチバナの種子の胚 1 
 胚乳から取り出した胚であるが、胚は寸胴状(円柱状)で、胚軸と子葉の外観上の区分がはっきりしない。
      タイミンタチバナの種子の胚 2 
 左の写真と同様に、幼根側に短い鱗片状のものが見られるが、詳細は不明。 
 
     
  <追記:子房と若い果実の断面の様子>   
 赤褐色の粉塊が何なのかはわからないにしても、それがいつ頃形成されるのかが気になったことから、翌年に改めて花の子房と若い果実の断面の様子を観察してみた。  
     
   
         花後の子房の縦断面 
 よく見ると、花被片の縁の部分や、子房の先端付近に赤褐色の点が散在している。
          若い果実の横断面
 胚乳の種皮に近い部分で、赤褐色の小さな点が散在している。これが次第に大きくなるようである。