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樹の散歩道
 
  針葉樹の気孔帯はなぜ白いのか?
  そして その役割は?

    
            


 植物図鑑では、ヒノキとサワラを葉の外観で識別する方法として、白い気孔帯がヒノキはY字型に、サワラはX字型になっているとする記述が共通して広く採用されている。しかし、その気孔帯がなぜ白いのか、さらに、そのこと自体にどういった意味があるのかについては特に説明されていない。これらに関して、既に科学的に明らかになっているのであろうか。【2009.5】 


 ヒノキの葉裏を見ると、白い気孔帯は鱗片状の葉が接するところに線状に見られる。
 サワラの葉裏を見ると、白い気孔帯は鱗片状の葉の平面にあって、これがX字型(チョウチョ型とも)に見える。
 アスナロでは鱗片状の葉がサワラよりも格段に大きいため、葉裏の白い気孔帯も大きく、特にクッキリとしたその形態を目で確認できる。
 これらヒノキ属のほか、モミ属、トウヒ属、ツガ属、コウヤマキ属、カヤ属などでも白い気孔帯(気孔線)が見られる。
 しかし、前からわからないままになっている点が3つある。
 ここまで「気孔帯」の語を当たり前のように使ったが、それは一般に言われているからであって、実はこの部分に気孔が集合している写真は一度も見たことがないし、気孔帯以外の部分に気孔が存在するのか否かも全く知らない。一体、どんな状態で気孔が分布しているのか。
 気孔帯の白い色はワックスに由来するという話を聞いたことがあるが、気孔帯とそれ以外の部分について、境界線がクッキリ明確になっているが、その微細構造にどのような違いがあるのか。
 気孔帯の部分に特異な形状のワックス分が多いとした場合に、それはどんな役割を果たしているのか。
 まずは、遊び半分に、ヒノキ、サワラ、アスナロ、トガサワラの葉について、ドライヤーにより熱風の洗礼を与えて、多分粒状等であろうワックス分を溶かしてべったり状態にしてしまうことにした。
ヒノキ葉表
ヒノキ葉裏
ヒノキ葉裏・加熱後
サワラ葉表
サワラ葉裏
サワラ葉裏・加熱後
アスナロ葉表
アスナロ葉裏
アスナロ葉裏・加熱後
トガサワラ葉表
トガサワラ葉裏
トガサワラ葉裏・加熱後
 写真のとおり、いずれも白い色が失せてしまった。これで、気孔帯の白い色が微細な粒状等のワックスであろうことが想像できる。白かった気孔帯の部分は緑色がやや薄いのが確認できる。多分、この部分の葉緑体の密度が薄いのであろう。

 お遊びとしてはこの程度で、微細構造は試料に損傷を与えないデジタル顕微鏡によらないと観察は困難である。しかし、これによってもワックスが邪魔をして、気孔自体を確認しにくいことがわかった。そこでネットで論文を検索をすると、葉面ワックスの微細構造と葉の濡れについて研究した報告が見られた。明快に整理できるまでの情報はないが、例えばヒノキの葉を電顕で見ると、網目状のワックスの構造が見られ、裏側は表側よりも厚く絡み合っているという。

 素人的に想像すると、特に気孔帯に存在するワックス構造は、気孔の開口部の物理的な閉塞を回避する、いわばフィルターの機能があるのではないだろうか。つまり、二酸化炭素、酸素、水蒸気の通路である気孔がふさがらないようにしつつ、変なものが入るのも防いでいるのではないだろうか。

 必要とする情報が得られないため、日本植物生理学会の質問コーナーに投稿したところ、返信をいただいた。

 結論的には、針葉樹の葉のワックスに関する研究はまだ歴史が浅く、その役割に関しては十分な知見が得られていないようであった。
 ただ、可能性としては、気孔の蒸散を含むガス交換の機能の調節、あるいは環境への適応調節の役割を担っていることが考えられるとしていた。

 しばし、この件については今後の解明を待つこととしたい。