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樹の散歩道
  名前と分布・原産国の怪
 植物の和名でしばしば地域の名称が頭に付いたものがあり,図鑑類で名前の由来が,その地域で発見されたことによる等の説明を目にする。しかし,地域名が付いていてもその地域固有のものではないことの方が多く,この点は本当に迷惑な話である。要はある分類学者がその地域で採取したものが他のものと違うことに着目したという沿革を示しているだけで,分布の実態とは無関係に特定の地名を取り込んだ命名をしていることに問題がある。学名でも同じようなことが見受けられる。等々に関する樹木名のメモである。



 国内の地域名
エゾエノキ 名前から,北海道固有種と思ったら大間違いで,なんと九州にまで存在する。エノキと違って,葉の先端から5分の4程度まで鋸歯があり,果実は黒色に熟す。
  エゾマツ 北海道の固有種ではなく,北海道からサハリン,南千島,朝鮮,中国東北部にも分布。アカエゾマツも北海道と本州の一部(早池峰山)のほか,南樺太,南千島,に分布。
  エゾユズリハ 本州から北海道の多雪地の林床に多い。例の知床伐採箇所でも群落が見られる。
エドヒガン 本州から九州,東アジアの山中に自生する。エド(江戸)の名前が付いているが,これは東京周辺でよく栽培されていたことによるもので,原産地が江戸ということではない。
  オオシマザクラ 名前は伊豆諸島の大島などに多く産することによる。桜餅を包む葉はこれ。
クマノミズキ 名前は初めて発見された三重県熊野にちなんだものとされる。分布は本州,四国,九州のほか,朝鮮半島,中国等。
  コウヤマキ 高野槙の意で,高野山に多いことから名付けられたもの。分布は,福島県以西の本州,四国,九州。
  ソメイヨシノ エドヒガンとオオシマザクラの交配種とされる。江戸時代末期に江戸染井村(現在の東京都豊島区)で最初は吉野桜の名前で売り出されたとされる。これは,吉野山がサクラの本場(サクラの種類はヤマザクラ)とされていたことによる。その後,1900年(明治33年)に出版された雑誌の論文で,国立科学博物館の前身である博物局に勤務していた藤野寄命氏が吉野山のサクラと間違えやすいということで,染井吉野と命名したということである。
なお,駒込駅近くの西福寺境内に「染井吉野の里」の碑があるという。
  ツクシシャクナゲ 紀伊半島以西の本州,四国,北部九州に分布。ツクシ(筑紫)の名の通り,九州の中・北部に多い。花の美しさ,華やかさでは,シャクナゲの中で一番ともいう。
  ツクシヤブウツギ 筑紫藪空木。その名のとおり九州に分布。花はクリーム色から紅色に変わる。
  トウゴクミツバツツジ 本州(宮城・山形県東部以南〜近畿地方東部の太平洋側)分布。ミツバツツジより標高の高いところに多い。名前は関東地方の山地に多いことから。
  サイコクミツバツツジ 九州(中部)に分布。
ハコネウツギ 箱根の山に分布しないため,この名前は誤認によるものと考えられていたが,近年,箱根の低地には自生することがわかったという,ウソのような話。
花は白色から紅色に変化する。
ヒュウガミズキ 日向にはないといわれていた。しかし,日向の自生が確認され,それでも日向には少なく,近畿北部から北陸,岐阜に多く自生することに変わりはないという。
  トサミズキ 土佐に多く,高知市北辺の山地及び高岡郡の錦山の石灰岩地に特に多いという。

唐(カラ)
  カラタチ 中国(華中)原産。和名はカラタチバナ(唐橘)の略されたもの。
  カラタネオガタマ 中国原産。バナナのような甘い匂いがあり,公園樹,記念樹として見かける。
カラマツ 新葉の形が唐絵のマツに似るので江戸末期に植木屋が唐松と呼び始めたという。

唐(トウ)
  トウカエデ 中国原産。樹皮がガサガサと剥がれ,カエデらしくないのが特色。強健で都市の劣悪な環境に耐え,萌芽力が旺盛なため街路樹,都市部の公園樹として多く使われている。
  トウネズミモチ 中国及び済州島産。公園樹としてげっぷが出るくらいに植栽されている。
  トウモクレン モクレン(中国原産)の変種。モクレンより小型で,葉の幅が狭く,花被片のの内側は白っぽく,先端がややとがる。
トウヒ 漢字で唐檜と書くが,なぜ唐(から)の檜(ひのき)なのか。 
牧野は「和名唐檜は之れをから様(中国風)のヒノキと見立て此稱あり・・・」としているが,何を言っているのかよくわからない。ただし,材は古くからヒノキの代用とされたことはよく知られている。

支那(シナ)
  支那:外国人が中国を呼んだ称。「秦(しん)」の転という。中国で仏典を漢訳する際、インドでの呼称を音訳したもの。日本では江戸中期以後、第二次大戦末まで称した。【大辞林】
英語の China も由来は同じであるが,日本ではなぜか国の呼称としての支那は御法度となってしまった。従って,シナは各種の単語に残るのみ。
  シナアブラギリ 中国原産。明治初期に渡来。アブラギリ(これも昔は中国原産と思われていたが,現在は在来種として理解されている。)と同様,キリ油が得られる。果実はアブラギリより大型。
  シナサワグルミ 中国原産。明治の初期に渡来。生長が速く乾燥にも強いため,公園,庭園,街路樹などに植えられている。
  シナレンギョウ 中国原産。公園等での植栽が多い。では,「レンギョウ」は国産かと思えば,さにあらず,これも中国原産でした。
  シナマンサク 中国原産。枯れ葉を付けたまま花を咲かせるため,枯れ葉がチトじゃま。
シナノキ これは「支那」ではなく,アイヌ語(繊維を意味するシニペシ)から。

南京(ナンキン)
  ナンキンハゼ 中国原産。かつては種子から蝋を採るために栽培されたが,現在は,暖地でも美しく紅葉するだめ,公園樹,街路樹として広く利用されている。
ナンキンナナカマド この場合の「ナンキン(南京)」は小さいという意味の形容詞で,中国を意味する用例ではない。花序の基部に扇形の大きな托葉があり,果期にも残る。

朝鮮(チョウセン)
チョウセンゴヨウ 分布は朝鮮半島のみならず,我が国の本州(中部地方),四国に分布するほか,中国北東部も分布する。種子はいわゆる松の実で,食用となる。なお,ロシアから輸入される丸太のベニマツ(紅マツ)は本種の材である。
チョウセンマキ 朝鮮槙。名前に「チョウセン」が付いても,朝鮮とは全く関係がない。イヌガヤの枝変わりに由来する日本の園芸品種。


 その他,「セイヨウ」,「アメリカ」の語が付く外来種は数多く,また次のような例もある。
イタリアポプラ:イタリアで早期の木材生産を目的に品種改良された多くの品種で,かつて我が国でも導入を試みたが,成績は良くなかったという。
ドイツトウヒ:明治中期以降に北海道へ林業用,鉄道防雪林用として導入された経過がある。現在ではヨーロッパトウヒ,又はオウシュウトウヒの名の方が使用される。
ホルトノキ:ホルトノキとは〈ポルトガルの木〉で本来はオリーブを意味したものであるが,平賀源内がまちがえて本種にこの名を与えたとの説があって真偽はわからないがおもしろい。


学名までが・・・ 公園樹としてもおなじみのこれらの学名を見ると
エンジュ 中国原産であるが,学名は Sophorq  japonica で,日本産を意味する種小名の japonica が使われている。
ニワウメ 中国原産であるが,学名は Prunus japonica で,英語名まで Japanese bush cherry である。
ハクチョウゲ 中国原産であるが,学名は Serissa  japonica
ヒイラギナンテン 外来(ヒマラヤ,中国,台湾に分布)であるが学名は Mahonia  japonica  
公園,市街地のビル回りの植込みに多用されている。