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樹の散歩道
 
  プリザーブドフラワーの秘密
             


 何年か前に家族が何かの機会にもらって持ち帰った陶製容器入りの切り花。長持ちするらしいとの情報だけであった。確かに長持ちした。しかし、1ヶ月ほどでやや衰えが目立ってきたため、観察させてもらった。切り花は何やら弾力性のない発泡体に突き刺してあった。この台はかさかさであるから、何も秘密はなさそうである。ということは、花自体の処理に長持ちの秘密が隠されているということである。【2008.6】   


 そこで調べてみると、「プリザーブドフラワー」と呼ばれているものであることがわかった。
preserved flower”である。日本語でわざわざ発音に忠実に「ド」の音を入れているのには少々違和感がある。
scrambled egg”は「スクランブルエッグ」であって、神経質に「スクランブルエッグ」などとはふつう言わない。などと、不満を感じつつ、近所の花屋で聞いてみたが、作る立場での知識がないためよくわからない。多分、試行錯誤に基づき企業秘密としているマル秘薬剤で処理しているのであろうと考えたが、そのままになっていた。しかし、最近よく目にするようになったことから、少々調べてみた。




 プリザーブドフラワーの例
   写真はお手頃価格の一輪もの。 
  左の製品のアップ写真
 全く不自然さはなく美しい。現在、経過観察中。 


 プリザーブドフラワーとは

 プリザーブドフラワーの説明としては、フロールエバー(FLOREVER)の日本版(株式会社アスク)の説明がわかりやすい。以下のとおりである。
「プリザーブドフラワーとは、生花の組織を保ちながら、水分とプリザーブド液をすりかえる特殊な加工方法、すなわち生花の水分を抜くことでバクテリアの発生を抑え、抜いた水分に代わるプリザーブド液によって瑞々しさと柔らかさを保ち、生花のようなしなやかさを長い間楽しむことができる加工をしたものです。」

 なお、国内では「プリザーブドフラワー」の語一本であるが、英語サイトを見ると、Preserved productsPreserved botanicalsPreserved foliage,trees and flowers 等の表現があり、Preserved flowers 一点張りではない。

 流通している製品はそもそも花に限定されたものではないわけであるが、花の場合はバラが主役となっていて、カーネーション、ハイドランジアなどもある。大きさも様々で、とりわけ色の調整が自由自在であるため、品数が多い。高温多湿に注意すれば、ふつう2,3年はもつといわれる。

 製造販売企業

 以下を四大企業として紹介している例が見られたので、企業情報を紹介する。
@  ヴェルモント(Vermont)
 フランスの企業で、ケニヤのナイロビを拠点としている。
 http://www.vermont-design.com/
 http://vermont.jp/ (ベルモントジャパン)
A
 株式会社大地農園(兵庫県丹波市山南町和田字中縄手699)
 http://www.ohchi-n.co.jp/
B  フロールエバー(Florever)
 コロンビア内に農園を有する企業。
 http://www.florever-canada.com/(フロールエバー・カナダ)
 http://www.florever.jp/index.php(株式会社アスク:国内取扱い)
C  ヴェルディッシモ(VERDISSIMO)
 フランスの企業で、 本部をフランスのLes Cayols に置く。
 http://www.verdissimo.com/
 http://www.verdissimo-japan.com/(ヴェリッシモジャパン)

 加工技術

 プリザーブドフラワーのルーツはフランスとされる。
 ヴェルディッシモが本社ホームページで、次のように説明している。

「よい製品を生み出すために、材料とする枝、葉、花は最も美しい時期に採取される。植物は混合液を満たした特別の長いトレーの中に投入される。この液体はグリセリン、水、食用染料で作られている。この過程で植物の水分が抜けて混合液に置き換えられる。数日後(植物の種類や季節により、3日から7日間で調整)水分は完全に混合液に置換される。その上で洗浄し数日間乾燥室に吊す。」

 この例では、脱水のみを目的としたプロセスはないように見えるが、詳細は不明である。

 また、プリザーブドフラワーを作成するための市販の液剤や特許情報を参考にすると、手法としては次のような技術的な選択肢があるようである。

@  最初に脱水処理をする場合

 物理的な原理としては簡単で、100%のエチルアルコールに浸漬すれば脱水される。その後に不乾性の液体に浸せばアルコールは飛んでしまう。

 その他、想像したとおり、フリーズドライの手法で処理している企業もある。なお、フリーズドライ処理のみで製品として出荷しているものもあることがわかった。この場合は、プリザーブドフラワーと違って、ガラス容器に密閉保存が可能である。

 色素を逃がさない脱水方法として、素材を乾燥剤のシリカゲルに埋めて、電子レンジで短時間加熱する方法もある。(公開特許公報)

A  脱水処理なしで、水を置換する場合

 技術的な詳細はわからないが、不乾性の液体による浸透、置換が促進されるような何らかの添加物が必要なのではないかと思われる。

B  着色 
 
 脱水過程で本来の色素がある程度溶脱し、あるいは特に高温多湿の環境下での退色が避けられないため、不乾性液で置換する際には染料を混入している。
 このことは、逆に自由に着色できること意味し、製品の多様性につながっている。
 なお、白いバラの白色を維持するために、チタニウムホワイト等の白色顔料を使用する方法がある。(公開特許情報)

C  表面処理

 つやの調整剤を混入したウレタン樹脂で表面をコーティングする方法がある。(公開特許情報)
 製品を生産している企業の技術には様々なものがあると思われるが、それこそが企業秘密であろう。
 個人向け商品

 プリザーブドフラワーの教室も各地にあって、自分で製作あるいはアレンジすることを学んでいる人も多いようである。

 こうした需要に応えて、製作のための各種溶液が販売されている。理屈をこね回すのではなく、具体的な目的別に各種の製品が供給されていて、例えば以下のようなタイプのものが見られる。

・製作溶液その1(A液、B液の二種類を使用するタイプ)
・製作溶液その2(1種類の液で簡易処理するタイプ)
・各種染料  
・蛍光剤
・紫外線防止剤
・防かび剤

なお、既製品の製作溶液は非常に価格が高いのが現実である。
 
 プリザーブドフラワーを使ったアレンジメントの世界は、ハサミ、生花用接着剤、ワイヤリング用ワイヤ、フローラルテープ、グルーガン、ウレタン製のフローラルフォームを動員して、処理済みの素材をブーケやコサージュ、飾りに加工する大変な仕事のようである。個人的には縁がなさそうであるが、遊び半分でプリザーブドフラワーもどき作りをいつか実験してみたいと思っている。

 手元にはいつでも汚れ落とし用として100%エチルアルコールはあるが、グリセリンは・・・そうだ!浣腸液と同じではないか!しかし、買い置きはないし・・・・またにするか・・・
 
<追記 2015,10> 
 冒頭で紹介した経過観察中のバラのプリザーブドフラワーであるが、既に7年を超えているが、驚くことに外観上の劣化は全く見られない。