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続・樹の散歩道
  ヤナギの花序のふわふわの毛は何に由来するのか


 ヤナギ類(ヤナギ属)の花序の繊細な毛や同じくヤナギ類、さらにはヤマナラシ類(ヤマナラシ属)の種子の豊かな綿毛の例については別項(こちらを参照で採り上げたところである。しかし、ヤナギ類の花序の毛が何(どこの部位)に由来するものなのかは、じつは自分の目で確認したことがない。何しろ、ヤナギの花序の個々の花はあまりに小さくて、花を1つだけ取り出して観察する根性がなかったということである。ところが、植栽されたクロヤナギの花序(雄花序)をしばしば目にして、この花序が母種たるネコヤナギとは全く異なっていて、どう見てもヤナギらしくない原因が判明した。クロヤナギはじつは花序にふわふわの黒い毛を持っているわけではいのである。これがきっかけで、ネコヤナギとクロヤナギを比較してみる気になった。 【2017.4】 


 ヤナギ類の花序の柔らかくふわふわした毛は思わずなでなでしたくなる外観で、実際に実に感触がよいため、古くから親しまれていて花材としても愛用されている。樹種によりそのモッコリ具合の大きさは異なるが、特に雄花序では葯の色と花粉の色が異なるため、さらに色の変化も楽しむことができる。このためなのか、切り花としてはネコヤナギの交雑種(ネコヤナギとバッコヤナギの雑種)であるフリソデヤナギ(アカメヤナギとも)の雄株(雌株はそもそも少ないとされる。)がその時期には普通に販売されているという。  
 
 ネコヤナギの花序の様子  
 
 ネコヤナギの雄花序  
ネコヤナギの雄花序 1  ネコヤナギの雄花序 2   ネコヤナギの雄花序 3
     
ネコヤナギの雄花序 4  ネコヤナギの雄花序 5   ネコヤナギの雄花序 6
 
     
 ネコヤナギの雌花序  
 
 ネコヤナギの雌花序 1  ネコヤナギの雌花序 2 ネコヤナギの雌花序 3 
 
 
   ネコヤナギのフワフワの花序はこうして愛おしいが、外側を見てもこの毛がどこから生えているのかはわかりにくい。    
 
 ネコヤナギの雄花と雌花の様子  
 
 ネコヤナギの花の構成要素のあらましについては図鑑を見ればそのおおよそは理解できる。直感的には、子房が長い毛を持っているのかと感じていたが、図鑑によれば花序の毛は個々の花の「苞」に由来するようである。さらに、イメージしにくいが花には「腺体」があるとしている。

 今回着目すべき「苞」や実態のよくわからない「腺体」も一般的な図鑑では写真も図も掲載されていないのがふつうであった。そこで、こうしたときにひょとすると期待に応えてくれるのが小学館の「園芸植物大事典」である。この図鑑がエライところはわかりにくい部分が銅版画のような細密画風イラストでしばしば表現されていることである。この点は他の図鑑を圧倒している。そこで見られたのが以下の図である。(部位の名称は記号を漢字で置き換えた。)
 
 
 ネコヤナギの雄花
(小学館 園芸植物大事典より)
ネコヤナギの雌花
(小学館 園芸植物大事典より) 
 
 
    ネコヤナギの雄花と雌花に関しては、一般に次のように説明されている。  
 
  ネコヤナギの雄花   ネコヤナギの雌花 
 ・  雄しべは2個
 ・  2本の雄しべは完全に合着して1本になっている。 
 ・  葯は紅色、花粉は黄色 
 ・  披針形で鋭先頭、両面に白色の長毛が密生する。上半分は黒色、下部は帯紅色、基部は淡黄緑色 
 ・  腺体は指状で淡黄緑色 
 ・  雌しべは1個 
 ・  子房に白色の短毛を密生 
 ・  柱頭は短く、全縁ないし2浅裂 
 ・  腺体の様子は雄花と同様 
   
 
     
   この学習をした上で実際に見た花の様子は以下のとおりであった。   
 
    ネコヤナギの雄花の様子   
    ネコヤナギの雄花 1
 葯が裂開する前の状態である。写真倍率は右の写真より大きめとなっている。腺体はずんぐりしている。 
    ネコヤナギの雄花 2 
 雄しべは、花糸が伸びきって葯が裂開するときは、花糸の先端が2裂するものと、2裂しないものが見られた。
    ネコヤナギの雄花の苞
 苞を分離した状態の写真である。
 苞の両面、全体が白色の長い毛で覆われている。
 
 
 
    ネコヤナギの雄花の腺体 1
 図鑑のイラストよりずんぐりしたイメージであった。
    ネコヤナギの雄花の腺体 2
 
雄花序の断面を上側から見た状態である。雄花では蜜は確認できなかった。
 
 
  ネコヤナギの雌花の様子  
    ネコヤナギの雌花 1 
 子房は短い毛に覆われている。腺体は雄花よりやや細長いかもしれない。
     ネコヤナギの雌花 2
 苞の側から見た状態である。苞の様子は雄花と同様である。
   ネコヤナギの雌花の柱頭 
 柱頭は小さな突起で覆われている。 
     
  ネコヤナギの雌花序の断面 1
 雌花序の断面を上側から見た状態で、腺体が輪状に並んでいる。
  ネコヤナギの雌花の腺体
 左側の一部を拡大した写真で、やや見にくいが、腺体が分泌した蜜で付近の毛がべたべたにぬれている。
   ネコヤナギの雌花序の断面 2
 雌花序の断面を下側から見た状態で、腺体が分泌した蜜が水滴状になって毛に付着している。この腺体は蜜腺として機能していることになる。    
 
 
3   クロヤナギの花序(雄花序)の様子   
     
   クロヤナギはネコヤナギの雄株の突然変異に由来するものと考えられている。そのとおりであれば、雌株で全く同様の突然変異が発生するとは考えられないから、クロヤナギの雌株が存在しないのは当たり前であると理解できる。 
 植栽されている例は多くないが、花材として利用されているという。
 
     
 
     クロヤナギの冬芽 1
 ネコヤナギと同様に赤い芽鱗に包まれている。 
    クロヤナギの冬芽 2
 芽鱗を人為的に剥ぎ取った状態で、鮮やかな紅色の苞が姿を見せる。 
     クロヤナギの雄花序 1
  苞は日にさらされると黒くなる。先端部は芽鱗が残っていたため赤い。
 
     
 
     
   クロヤナギの雄花序 2
 雄しべが花粉を出し始めた状態。 
   クロヤナギの雄花序 3
 花粉は淡黄色でネコヤナギよりやや白い印象がある。  
    クロヤナギの雄花序 4
 葯が伸び出ると、苞の黒い色が次第に目立たなくなる。  
 
     
4   クロヤナギの雄花の様子   
     
 
  クロヤナギの雄花 1
 花粉放出前の状態。 
 クロヤナギの雄花 2
 花粉放出時は花糸が伸び出る。
   クロヤナギの雄花 3
 苞の縁にだけわずかに毛がある。
 クロヤナギの雄花の苞
 苞の背軸面の様子である。 苞の表面には毛がない。 
 
     
 
       クロヤナギの雄花序の断面 1
 上方から見たもので、雄しべの花糸や腺体はまだ伸び出していない。
    クロヤナギの雄花序の断面 2
 腺体は伸び出しており、右側及び上方の花糸も伸びきっていて、花粉放出状態にある。 
 
     
 
 クロヤナギの姿をはじめて見ると、何やら濡れネズミのような印象があって、フワフワ感が全くない。調べてみれば、苞の毛が非常に少ないというのがこのヤナギの個性となっているようである。細かく言えば、苞の縁にはまばらに毛があるものの、苞の両面には毛がないことから、母種のネコヤナギのようなフワフワ感がないということである。

 さらにこの苞に関しては、上半分が黒く、下部は帯紅色、基部は淡黄緑色で、この点に関しては母種のネコヤナギと何ら変わらないことがわかる。つまり、ネコヤナギとクロヤナギの苞の色合いは同様であるが、ネコヤナギでは毛が多いために黒い苞がほとんど意識されないほどに見えない状態となっていて、一方、クロヤナギでは毛が少ないために、苞の上半分の黒い色をそのまま目にすることになっている。こうした姿からクロヤナギの名をもらったものであることがわかる。

 なお、クロヤナギでは苞に毛が少ないことに加えて、枝や葉もほぼ無毛であることが知られている。  
 濡れネズミのようなクロヤナギ