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樹の散歩道
 
  ナワシログミの美しき鱗状毛                


 図鑑におけるグミ類の葉の説明では、必ず星状毛鱗状毛の名が登場する。これらは葉の表面にある毛の形状を類型化した呼称である。しかし、特に鱗状毛は肉眼ではその形態の詳細は全くわからない。イメージを持つためにはやはり小道具が必要である。【2009.7】


     ナワシログミの果実         葉表の鱗状毛
 星状毛は形態的には予想以上の驚きはなさそうであるため、とりあえずは後回しにすることとして、まずは対象を鱗状毛に絞り、ナワシログミを素材とすることとした。

 葉表をルーペ観察すると、鱗状毛は星状毛とは少々様子が違うことがわかる。お椀型の縁がギザギザの半透明の膜が多数配列していることまでがわかる。しかし、肉眼で見ればまるで汚いフケのように見える。 案の定、ごしごし擦ればぼろぼろと剥がれ落ちるのだ。何でこんなものを身にまとっているのであろうか。しかも、全然毛に見えないのに、鱗状毛とはどういうことなのか。倍率が全く足りないのでデジタル顕微鏡に登場願うこととした
  ナワシログミの鱗状毛(葉表) 
 デジタル顕微鏡による写真で改めて見るとイメージは一新する。汚いフケのような椀型の薄膜は精緻な放射状の筋目を施したクリスタルグラスの高級デザインボウルと化したのである。筋目模様が放つ輝きは眩しいほどである。いつものことながら、自然の造形には驚嘆するのみである。

 ところで、果たしてこれが毛なのかについては、一部のボウルの縁に当たる部分が繊維状にほぐれているのが認められるため、全体の筋目模様は繊維状の要素で構成されているものと思われる。

 そもそも、植物の毛の役割については、よくわからないことだらけのようである。植物の種によっても機能に違いがあることが推定されている。一般的には、@ 撥水機能(気孔の閉塞防止)、A 虫除け機能、B異物の付着防止機能、C 寒冷地での断熱機能、D 乾燥地での乾燥防止・日除け機能等が想定されている。

 さて、ナワシログミの鱗状毛は葉裏ではさらに多く、若い枝や花にまで鱗状毛がびっしりある。この形状の付属物で体を覆っているということは、何らかの重要な機能があるはずであるが、何を目的にこうした進化を遂げたのかよくわからない。植物はもちろん、生物は未だにわからないことだらけ、謎だらけである。
   
  【追記 2013.5】  
   USB顕微鏡でも十分その質感を確認できた。照明の光質で少々印象が変化する。ナワシログミの葉裏は肉眼では銀白色にしか見えないが、拡大すると美しい鱗状毛にビッシリ覆われていることを確認できる。  
   
 
  ナワシログミの葉表の鱗状毛 
   
   
  ナワシログミの葉裏の鱗状毛 
   
  【追記 2016.4】 
   念のために、ナワシログミのまだ小さな幼葉の鱗状毛を確認してみたたところ、葉表で鱗状毛がすき間もなく形成されていて、印象としては葉が大きくなれば鱗状毛はこのまま拡散するだけなのではないかと思われた。また、幼葉の方が鱗状毛は美しい!!  
   
   
  ナワシログミの幼葉の鱗状毛(葉表) 
   
   
  ナワシログミの幼葉の鱗状毛(葉裏) 
   
  【追記 2013.6】 
   アキグミの葉表を見たところ、美しい星状毛が見られた。アキグミの場合は、一般には葉表には鱗状毛が存在し、毛が星状毛のものをカラアキグミという(日本の野生植物)とされるが、この個体に関する真相は不明であるため、ここではアキグミとして扱うことにする。

 星状毛をよく見れば、鱗状毛に決して負けることもなく、限りなく美しい。こちらもまるでガラス細工のようである。一方、葉裏はやや立体感のない鱗状毛であった。

当初はトウグミ(ナツグミの変種で、葉表に星状毛をもつ。)と勘違いしたが、花時期の花は明らかにアキグミであった。
    
 
                         アキグミの葉表の星状毛
   
   
                         アキグミの葉裏の鱗状毛 
   
  【追記 2016.4】 
   次はトウグミである。葉表は模範的な星状毛で,葉裏はびっしりと鱗状毛におおわれている。 
   
   
   トウグミの葉表の星状毛
   
 
  トウグミの葉裏の鱗状毛
   
  【追記 2016.4】 
    意外やツツジの仲間のヒカゲツツジ(ツツジ属)でも鱗状毛が見られる。特に若い葉の葉裏に多く見られ、成葉では淡褐色となる。形態はカルデラ型のようにみえる。「ヒカゲ」の名前にふさわしく、かなり地味な印象である。これを腺状鱗片と表現している例(樹に咲く花)があるが、“腺状”の趣旨は確認できない。
   
 
                       ヒカゲツツジの幼葉の葉裏の鱗状毛
   
 
                         ヒカゲツツジの成葉の葉裏の鱗状毛
   
    <比較用>
   
 
        カシワの葉裏の星状毛
 カシワの葉裏には星状毛が密生していることが知られている。こうした形態的が本来の星状毛の名前にふさわしい。
       アカメガシワの葉裏の星状毛
 アカメガシワでも星状毛が見られる。これもいかにも星状毛といった形態である。その一方で、椀形の小さな鱗状毛らしきものが点在していた。赤い新葉では赤い星状毛が密生してふかふかしている。
   
 
    シロイヌナズナの根生葉の星状毛 1
 葉表で見られる星状毛で、ほとんどが三つに分枝している。 
   シロイヌナズナの根生葉の星状毛 2
 さらに拡大した写真である。立ち上がってから分岐している。 
   
 
       イスノキの雌しべの星状毛 1
 イスノキの雌花の子房と花柱は星状毛に覆われている。
      イスノキの雌しべの星状毛 2
 花柱を拡大した写真で、星状毛が美しい。鮮やかな紅色部分が柱頭に相当し、ここには星状毛は見られない。
   
   ウツギは全身が星状毛で覆われていることが知られており、念のために確認してみた。すると、何と雄しべの葯にも星状毛が見られた。
   
 
        ウツギの葉表の星状毛
 5〜6個に分岐している。
        ウツギの葉裏の星状毛
 やや小型で、10〜13個に分岐している。
   
      ウツギの花序軸の生状毛       ウツギの雄しべの葯の星状毛 
   
    なお、アベマキの葉裏にも星状毛が見られるが、密生してもじゃもじゃ状態であるため、形態が観察しにくいのが難である。 
   
   <参考:ナツグミ、ビックリグミ、ツルグミ、オガサワラグミの様子>
   
 
        ナツグミの葉表
 ナツグミの葉表の毛は鱗状毛とされるが、限りなく星状毛風である
         ナツグミの葉裏 
 葉裏は鱗状毛風である。鱗状毛と星状毛を区分した呼称は中間的なものにはなじまない印象がある。  
   
 
         ビックリグミの葉表
 これはアキグミの鱗状毛に近い印象である。
          ックリグミの葉裏
   
           ツルグミの葉表
 これは鱗状毛とされている。
          ツルグミの葉裏
 葉裏も鱗状毛とされている。
   
         オガサワラグミの葉表
 これはいかにも鱗状毛である。輝く放射状の筋目が見えないため、少々地味な印象である。
        オガサワラグミの葉裏
   
   
   
   グミ属の葉の毛の形態に関しては、明確に長い刺状で放射状になったものについては星状毛の名が定着していて、その他カシワアベマキアカメガシワ等の葉の毛についても一般に星状毛と呼んでいる。

 一方、幅はあるものの、一定の面的な広がりのあるものについては、@鱗状毛A鱗片B鱗毛、 C星状鱗片の語が見られ、一定していない。

 ざっと見た限りでは、グミ属では表面の鱗片(毛)の形態には連続的な変化が見られるから、呼称を区分する線引きは困難である。心情的には限りなく星状毛に近いものを「鱗」の語で表現するのは違和感があるが、呼称がごちゃついているのは不便があり、実用的にはグミ属の鱗片(毛)は一括して「星状鱗片」と呼んだ方がよいと思われる。そもそも、星状毛か鱗状毛かで悩むのは意味がない。英語でも単に scales (鱗片)である。
 
 一方、星状毛の呼称はあくまで、毛が基部から放射状に広がった例えばトウグミの葉表やカシワの葉裏などに対して使用するのがふさわしいと思われる。
   
 <参考メモ:グミ属の葉の毛に関する図鑑類での表現例> 
ナワシログミ ・展開したばかりの葉の表面には銀色の鱗状毛があるが、のちに落ちる。裏面は銀色の鱗状毛が密生し、その上に褐色の鱗状毛がまじる。(樹に咲く花)
・常緑低木。葉の表面は深緑色で光沢があり、裏面は汚白色ないし帯黄白色の、ささくれたような鱗片におおわれて光沢がなく、その上にさらに褐色の鱗片を散生する。(日本の野生植物)
・花は10−11月に咲き、果実は4−5月頃に紅熟する。(日本の野生植物)
・葉の裏面には灰白色の鱗毛が密生する。(植物の世界)
・葉の上面は緑色でつやがあり、下面には褐色または銀色の星状鱗片(旧版では鱗甲)が密に分布する。(牧野新日本植物図鑑)
アキグミ ・葉表面は銀色の鱗状毛があり、果実が熟すころに脱落する。葉裏面は銀色の光沢のある鱗状毛が密生し、褐色または淡褐色の鱗状毛がまばらにある。子房上部のくびれが目立たない。(樹に咲く花)
・葉の裏面は銀色の鱗片に厚くおおわれ、その上に淡い、ときに濃い黄褐色ないし赤褐色の鱗片を散生する。表面にもはじめ鱗片が厚くある。(日本の野生植物)
・花は4−5月に咲き、果実は9−11月に紅熟する。(日本の野生植物)
・葉の表面の毛が星状毛のものをカラアキグミといい、本州(東北地方及び近畿以西)、朝鮮の産。(日本の野生植物)
・葉裏には銀色の鱗毛が密生する。(植物の世界)
・葉は銀白色の星状鱗片(旧版では細鱗甲)におおわれている。(牧野新日本植物図鑑)
ナツグミ ・葉表面は銀色の鱗状毛がある。葉裏面は銀色の鱗状毛が密生し、赤褐色の鱗状毛がまばらにまじる。(樹に咲く花)
・葉の表面にははじめ銀色の鱗片があり、裏面には比較的薄く銀色の鱗片をしき、その上に帯黄赤褐色の鱗片を散生する。(日本の野生植物)
・花は4−5月に咲き、果実は5−6月に紅熟する。(日本の野生植物)
・葉や萼筒の外面には鱗毛だけがあり、星状毛はない。(植物の世界)
・北海道、本州の日本海側、近畿地方のものは葉の表に鱗毛がなく星状毛があり、変種のトウグミとされ、特に果実が大きいものをダイオウグミビックリグミと呼び、食用に栽培される。(植物の世界)
・葉の表面は緑色、裏面は淡茶銀白色で、放射状の星状鱗片(旧版では小鱗甲で一面おおわれる。(牧野新日本植物図鑑)
トウグミ ・若いうちは表面に鱗状毛ではなく星状毛が生え、果期には落ちる。葉裏には銀色の鱗状毛が密生し、褐色の鱗状毛がまじる。(樹に咲く花)
ナツグミの変種。庭木としてもよく植えられる。葉の表面に鱗片がなくて、早く落ちる星状毛があるので区別される。(日本の野生植物)
・下面は白色の鱗片およびこれにまばらに混る淡褐色の鱗片におおわれる。若い葉は上面に銀白色の星状毛を生ずるが、のち脱落して緑色になる。(牧野新日本植物図鑑)
ダイオウグミ トウグミの選抜種。(樹に咲く花)
ナツグミの変種。別名ビックリグミ。(植物の世界)
ツルグミ  ・葉表面にははじめ銀色の鱗状毛があるが、のちに落ちて無毛になる。葉裏面はふつう赤褐色の鱗状毛が密生するが、ときに銀色の鱗状毛が密生し、赤褐色の鱗状毛がまじるものがある。(樹に咲く花)
・葉裏面は赤褐色(ときに銀色)の鱗片をしく。(日本の野生植物)
・葉の裏面には赤褐色の鱗毛が密生し、光沢がある。(植物の世界)
・葉の上面は緑色、下面には赤褐色の星状鱗片(旧版では鱗甲)を密に分布する。(牧野新日本植物図鑑) 
オガサワラグミ  ・葉表面は、はじめは銀灰色の鱗片におおわれ、のち無毛、裏面は帯黄褐色または灰色をおびた銀色の鱗片に密におおわれ、光沢があり、さらにその上に黄褐色の鱗片を散生する。(日本の野生植物)