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チョウセンゴヨウの球果
ヤニだらけで、ヤニが水のようにしずくを作っていた。 |
チョウセンゴヨウの葉
葉の内側の気孔帯が特に白いため、全体が青白色に見える。 |
チョウセンゴヨウの樹皮 |
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チョウセンゴヨウの球果
球果は大型でずっしり重い。種鱗の先端部はヤニでべたべたである。 |
同左アップ
種鱗は肉厚であるが、乾燥すればぺらぺらになって、褐変する。 |
同左 種鱗を押し下げた状態
翼のない種子が2個顔を見せる。球果が乾燥してもこぼれ落ちない。 |
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球果単体 新鮮な球果の種鱗は厚みがあってずっしり重い。
種鱗の先端部はヤニでべたべたである。
チョウセンゴヨウはアカマツやクロマツと違って、球果が乾燥しても種子は放出されない。運ぶのは貯食行動が知られているリスなどである。 |
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球果は長さで15~16センチほどである。
個々の種鱗の奥に2個ずつの種子が収まっている。必ずしも2個ともムッチリ大きいものではなく、片方が発育不良である場合がしばしばある。
とにかく落ちたばかり(落とされたばかり?)の球果はヤニがひどく、手はひどくべたべたになる。そのヤニはアルコールでも簡単に落とせないし、散々な目にあった。今度やる時は、ヤニが乾燥してから作業すべきであることを十分思い知った。
右の写真はエゾリスがチョウセンゴヨウ球果の種鱗をすべて剥ぎ取って下準備を終えた様子である。この状態のものを頂戴できれば手っ取り早いが、さすがにこれを横取りすることはできない。 |
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| 1 |
市販品の松の実
まずは市販品(ほとんどが中国産で、一部に韓国産が見られる。)の様子から紹介する。松の実はつまみのナッツ類のひとつとして、あるいは健康食品として市販されているが、普段購入する機会はほとんどない。改めてサンプルとして小袋の商品を購入したが、量の割りには価格が高い。その理由はあとで実感できた。 |
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市販の中国産松の実
上段はへた状の付属物(名称不詳)がついたもの。下段はそれが剥離している。 |
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よく見ると、実の3分の1程度のものに、ナスのへたのような付属物がついている。たぶん何らかの呼称があるのであろうが、承知していない。神経質になるほどのことではないとしても、わずかに食感を損ねている。手で簡単に取ることは可能である。しかし、人件費勝負の中国でもそこまでできないのか、それとも特に気にならないのかはわからない。
ところで、市販品の松の実は生なのか、ロースとしてあるのかであるが、たぶん生と思われる。ナッツ類の専門店として知られる上野アメ横の小島屋では、松の実は軽くローストすればさらにおいしく食べられるとして説明している。
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| 2 |
球果から採取した種子の松の実
松の実もいわゆるナッツであるから、ナッツ類の一般的な処理方法を念頭に置けば、まずは適度に水分を飛ばすために天日乾燥した方がよいことは想像できるが、今回は体験であるから、新鮮な実も試食してみた。 |
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| (1) |
実(胚乳)の取り出し |
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| チョウセンゴヨウの種子 |
種皮を割って取り出した薄皮付きの胚乳
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薄皮だけをむいだ胚乳
へた状のものが残っている。 |
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種子の殻(種皮)はしっかり厚みがあって非常に硬いため、ラジオペンチの刃の裏側の空洞部分を利用して割ることにした。数をこなすなかで、、やはり、エゾリスもがっかりする空っぽのいながしばしばあることを確認した。なお、へた状の付属物は、鮮度がいいうちはゴムのように伸びる柔軟性を持っている。 |
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| (2) |
採りたて・剥きたての松の実 |
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薄皮は、炒った落花生のようにはむけない。小さな実を食べるために何でこんな苦労をしなければならないのかと、考えてしまう。
薄皮を剥ぎ取ると市販品でも見られたナスのへたのようなものが残る。
薄皮がついた状態で、へたのあたりをつまんで引っ張れば、気のせいか薄皮をむくためのとっかかりになるようで、併せてへたの部分もとれるが、依然面倒であることは変わりない。
(注:以下の写真では、へた状のものはすべて取り去ってある。)
採りたての松の実は、やや水っぽくて、味はいまひとつである。他のナッツ類と同様に、やはり天日乾燥等で余分な水分をとばした方がよい。
なお、薄皮がついたまま食べると、薄皮が口に残って、やはり食感を害する。薄皮は面倒でもむく必要がある。 |
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| (3) |
薄皮のままロースト・剥皮 |
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水分がとんだためか、幾分薄皮がむきやすくなったが、やはり落花生のようにつるっとむけない。味は生よりローストしたほうがおいしいのは確かである。写真の実には焦げ目がついている。 |
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| (4) |
殻付きのままロースト |
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蒸れたのか、火が通ったギンナンのような色合いとなった。ローストするには殻を取り去った方が良さそうであり、殻付きでローストするメリットは感じられない。味は全く問題ない。
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松の実を商品とするためには、小さな種子の硬い殻をひとつひとつ割り、さらにまとわりついた薄皮を剥ぎ取らなければならない。機械化できるような印象はないし、せいぜい天日乾燥して、幾分か薄皮をむきやすくするぐらいのことしか考えられない。
中国では現金収入を得るために、このとんでもなく面倒な作業をしている人がいることを思うと、松の実の製品を見る目が変わる。なお、米国では松の実の収穫は主としてアメリカ・インディアンが担っている模様である。 |
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【参考資料:松の実】
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チョウセンゴヨウ:球果が大型で、長さ10~15cmになる。種子も大きく、朝鮮では広く食用にされ、そのために植林もされる。【平凡社世界大百科事典】
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チョウセンマツ(チョウセンゴヨウ):朝鮮では 栢子といひ、外殻を去り仁を用う。油脂多く滋養強精に役立つ、生食、炒食とし菓子種ともする。古来精力増進無病長寿の糧又は救荒食物とする、昔朝鮮使節来聴にはこれを持参した、朝鮮古諺に「良妻は夫に松実をすすむ」というのがある。【樹木大図説】
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チョウセンゴヨウ:別名チョウセンマツ。ロシア沿海州のシホテ・アリン山脈から中国東北部、朝鮮半島北部にかけての針広混交林帯と、本州中部、四国の一部に分布している。種子には翼がなく、球果は成熟しても開かない。そのため、動物が球果から種子を取り出さない限り、種子は散布されない 【朝日百科植物の世界ほか】
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紅松(中国でのチョウセンゴヨウの名称。松の実は 松籽と表記している。):
辺材淡黄白色、心材淡黄褐色或淡褐紅色、紋理直、結構中至細、易加工、較軽軟。力学強度適中、耐腐力稍強、是建築、造船、車輌、家具的上等優良用材。樹皮可提栲膠;
紅松球果成熟後種鱗不張開、種子不脱落、整個球果落下;
種子為“松籽”、供食用或食品工業的配料、入薬為“海松籽”、有滋補、袪風寒等效。」【中国樹木誌】
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日本で市販されるマツの実はチョウセンゴヨウの種子である。マツの実としてはチョウセンゴヨウ (Korean pine)Pinus koraiensis のほか、地中海沿岸のイタリアカサマツ(イタリアカラカサマツとも。Stone pine) Pinus pinea、アメリカのアロカビアン(注:この呼称のマツは確認できない。)の種子のほか、メキシコのナットパイン Nut pine(メキシコマツ Mexican Pinyon)Pinus cembroides からとれる インディアンナッツ Indian Nuts ( Pinon Nuts とも。)などがよく知られる。炒ってつまみにしたり、高級な佃煮や菓子に使う。【食材図典Ⅱの記述に英語名、学名を追加】
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外国ではポルトガルマツ(注:この呼称のマツは確認できない。英語名で Portugal pine の名も存在しない。ヨーロッパでは前出の Pinus pinea が一般的とされる。)、コロラドマツ Pinus edulis 、メキシコマツ(前出)などが食用となる。マツの実は古くから仙人の霊薬とも言われ、脂肪、たんぱく質、鉄、カリウム、ビタミンB1・B2・E を豊富に含む。【食材図典】
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マツの実(Pine nut)はマツ科マツ属のマツ類の食べられる種子である。20種ほどのマツは収穫に値する大きな種を生産する。
アジアでは北東アジアのチョウセンゴヨウ Korean Pine (Pinus koraiensis) (国際取引上最も重要な種となっている。)と西ヒマラヤのジラードマツ(チルゴザマツ) Chilgoza Pine (Pinus gerardiana) の2種が広く収穫されている。ほかにも4種(略)が量的には少ないが利用されている。
ヨーロッパでは イタリアカサマツ Stone Pine (Pinus pinea) 由来のマツの実が最も多く、6千年以上にわたりマツの実を目的に栽培されてきた。自生するものからの採取の歴史はさらにさかのぼる。スイスマツ Swiss Pine (Pinus cembra) もごく僅かながら利用されている。
北アメリカでは3種類のピニョンマツ pinyon pines、すなわち コロラドピニョン(単にピニョンとも) Colorado Pinyon (Pinus edulis)、 アメリカヒトツバマツ(ヒトツバピニョン) Single-leaf Pinyon (Pinus monophylla)、 メキシコマツ(メキシコピニョン) Mexican Pinyon (Pinus cembroides) が主となっている。【英語版 Wikipedia に和名を加筆】
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中国樹木誌で、種子を食用に供すとしている中国に産する松属の樹種は以下のとおりである。⑥のみ3葉の松で、他はすべて五葉の松である。
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中国名 |
学名 |
関係部分(抜粋) |
| ① |
紅松(東北)
海松(本草綱目) 果松 |
Pinus koraiensis |
種子為“松籽”、供食用或食品工業的配料、入薬為“海松籽” (前出)
和名:チョウセンゴヨウ |
| ② |
新疆五針松 |
Pinus sibirica |
種子可供食用及搾油 |
| ③ |
偃松 |
Pinus pumila |
種子可供食用或搾油
和名:ハイマツ |
| ④ |
華山松 |
Pinus armandi |
種子食用、出油率 22.24% 、食用或工業用
和名:タカネゴヨウ |
| ⑤ |
海南五針松 |
Pinus fenzeliana |
種子供食用或搾油供食用及び工業用 |
| ⑥ |
白皮松 |
Pinus bungeana |
種子可食用 |
| 注: |
屋久島及び種子島で見るヤクタネゴヨウ(屋久種子五葉)(Pinus amamiana 、Pinus amandii var. amamiana)をタカネゴヨウ(高嶺五葉) と同種とする見解もある。 |
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| ・ |
マツの実は脂質が主成分で、脂肪酸組成はリノール酸45%前後、オレイン酸25%前後であるが、オクタデカトリエン酸が15%前後含まれるのが特徴的である。ビタミンEが多い。【食品図鑑】 |
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<参考1:中国では如何にして松の実を生産しているか> |
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ナッツ類を輸出するほどの生産量のある国で、収穫から製品に至るまで、どのような方法で処理しているのかは興味があるが、直接見る機会はない。
胚乳等を取り出す必要がある場合は、収穫、外果皮の除去、種皮の除去、薄皮の除去、選別等々の工程が必要となる。多分、各工程で、工夫を重ねた機会が可能な限り利用されているのであろう。収穫段階でも、かつてアーモンドの製品のCMで、車輌系重機のアームが樹幹をむんずとつかみ、強引に振動を与えて果実を落とす風景を紹介していたのは驚いた。
中国でのチョウセンゴヨウの実の生産についてであるが、松の実を輸入販売しているサンナッツ食品株式会社(神戸市)が取引先の中国の工場での作業風景を写真と動画で紹介しているホームページは大変参考になった。(他のナッツ類についても紹介している。)
チョウセンゴヨウの球果の収穫は、大きな樹では、何と人がリスのようにスルスルと木に登って球果を落とし(これはもうビックリ!)、小さな木では鈎付きの竿で落としている。
球果からの種子の脱粒から薄皮むきまでの各工程(球果割り、殻むき、薄皮むき)ではそれぞれ専用の機械を使用するとともに、手作業を併用し、最終選別は手作業により行っていた。小規模な作業場では手作業の比率が高まることになるであろう。 |
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<参考2:パインマウスとは?> |
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栄養豊富で大変おいしい松の実であるが、欧米の食品安全当局が、松の実に係わる味覚障害の症状に関して情報提供している。英語でパインマウス( Pine Mouth )、パインマウス・シンドローム( Pine mouth syndrome)として知られているという。松のタネが大好きなネズミと勘違いしそうであるが、松口(くち)である。国内での報告例は目にしないが、日本政府関係機関でも欧米における情報を転載・提供している。
【米国FDA(米国食品医薬品国)】
「昨年、FDAは松の実にかかわる苦い金属的な味に関する多数の消費者の苦情を受理した。この味は “パインマウス pine mouth ” として知られていて、通常、松の実を食べた後の12~48時間後に始まり、平均すると数日から2週間続く。この間、何を食べてもいらだち、食欲と食べる楽しみが著しく減退する。この症状は、特段のよくない臨床上の作用を伴うことなく少しずつ消失する。
消費者の苦情が増加していることに応えて、FDAでは詳細な質問票を作成し、苦情を申し出た消費者の事例を収集・分析した。その結果、パインマウスにかかる大多数の松の実は、生の状態で(スナックとして、あるいはサラダやペストソースの材料として)食べられたものであることが明らかとなった。さらに、消費者は松の実を食べている時には、いやな味ともまずいとも感じていなかったことも明らかになった。最終的に、FDAとしては、パインマウスは松の実に対するよくない食物反応であって、典型的な食物アレルギーとは全く別のものであることを確認することができた。
FDAは、パインマウスの可能性のある原因を明確にし、引き続き消費者の苦情を分析し、症状の激しさと発症の可能性が松の実の摂取量に関係するのか否かを明らかにする。
FDAは、この問題の監視を続け、すべての新たな知見を一般に公表する。」 (Page Last Updated : 03/14/2011)
なお、内閣府食品安全委員会がフランス食品環境労働衛生安全庁(ANSES)の記事を紹介していて、その中で、この味覚障害が中国から入った種、特に中国産の
Pinus armandii (中国名は「華山松」、和名は「高嶺五葉 タカネゴヨウ」)が原因である可能性を指摘している。 |
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【追記1】 拾った球果から種子を取り出すには・・・
チョウセンゴヨウの球果から種子を取り出すのに、当初はヤニで難儀したが、頭ではなく“足”を使えば簡単であることが判明した。つまり、こういうことである。
球果を発見したら、左足で球果の先端を押さえ、右足で球果の基部から踏んづけながら種鱗をしごき落とすのである。こうすれば簡単に種鱗が軸を残してバラバラに落ちるため、あとはおもむろに種子を拾い集めればよい。 |
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【追記2】 チョウセンゴヨウ種子内の胚の様子 |
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チョウセンゴヨウの種子は大型であるため、種子の内部を観察するにはいい教材となる。種皮を取り除いた実(胚乳)を割ると胚乳の中心部の「胚」が姿を現す。
左の写真は取り出したチョウセンゴヨウの種子の胚である。
胚を包んでいた胚乳は、発芽に際しては胚に養分を供給する栄養貯蔵部位であり、食べる場合の主要部分である。
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種子の成熟過程で 胚は発芽の準備を整えてた後に休眠状態になっているのだという。芽生えに際して最初に姿を現す初期葉の準備が既に整っていて、葉の数を数えることもできる。
マツ科各属の樹種の芽生えは、皆同じような印象であるから、他のマツ類を含むマツ科各樹種の種子の胚もこんなイメージと思われる。 |
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