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続・樹の散歩道
  何でもビシバシ飛ばす 飛ばし屋クワクサの素顔
  あまりにも地味な雑草でありながら、ちょっと面白そうな・・・
   しかし目を凝らしてもよくわからないもどかしさ・・・   


 クワクサはどこにでも見られるありふれた雑草で、花らしい花をつける訳でもなく、また特にひどくはびこるわけでもなく、人からは全く見向きもされることもなく、ひっそりとたたずんでいるとことん地味な存在である。どんな花なのかを見ようとしたところでグチャグチャと丸くかたまったものを確認できるだけで何だかよくわからないからどうしても観察する意欲が萎えてしまう。しかし、図鑑を見ると小さい雄花は自力で花粉をビシッと飛ばし、果実が成熟すればバシッと勢いよく種子を飛ばすと興味深いことが記述されている。そこで、可能な範囲でその周辺について確認するために改めて観察してみることにした。【2015.11】 


              クワクサの様子
 イラクサ科(クワ科)クワクサ属の1年草 Fatoua villosa
 葉腋に雄花と雌花がまじった集散花序をつける。目が慣れれば道端でよく見つかる。
           クワクサの葉の様子
 和名クワクサ(桑草)は葉がクワに似ることによるとされる。草でも従来はクワ科とされていた。
 
 
     クワクサの集散花序 1
 受粉時期の雌花は雄花よりも小振りでわかりにくいが、紅紫色の花柱でその存在を確認できる。白く見えるのが雄花の雄しべで、まだ伸びきっていない。
     クワクサの集散花序 2
 これは受粉後のようで、花被に包まれた雌花が膨らみかけている。雄花は花後で葯は萎んでいる。
     クワクサの集散花序 3
 雌花の子房が膨らんでいる。雄花は花後で、紫褐色の花被が閉じている。
 
 
 クワクサの雄花の様子  
 
      クワクサの雄花 1
 花糸は内側に湾曲して、葯は下向きになっている。花被は4裂し、雄しべは4個ある。
      クワクサの雄花 2
 花糸をピーンと伸ばした状態。 
      クワクサの雄花 3
  同。花粉はほとんど放出済みのはずである。
     


 花粉をピーンと飛ばす瞬間を目撃するのは難儀で、写真で記録できない。
 できれば、高速度カメラで動画撮影すれば一番で、NHKに是非とも登場願いたいところである。 
     クワクサの雄花4
 花粉を放出した後は、役目を終えて膨圧が低下し、花糸は吹き戻しのように再び内側に巻き込むようである。 
   
 
     
 図鑑では次のような説明例を見る。  
 
@  雄しべはつぼみの時には内曲していて、開花時に反転する勢いで花粉をとばす。(世界文化生物大図鑑) 
A  花糸は初め内側に巻き、開花と同時に急に伸びて花粉をはじき飛ばす。(植物観察図鑑) 
 
 
 雄しべの花糸が1本ずつビシッ!と伸びきって花粉を飛ばすとされるが、その瞬間を目にするためには根気が必要なようで、結局のところ目撃することはできなかった。

 同じくイラクサ科カラムシ(カラムシ属の多年草)やカテンソウ(カテンソウ属の多年草)でも内側に巻き込んだ雄しべの花糸がビシッ!と伸びて花粉を飛ばすことが広く知られているが、これらのメカニズムについて詳説している例が見つからない。

 少なくともビシッと伸びるためには、例えばカルミアのように雄しべの葯が花冠のポケット状の凹みに引っ掛かっていれば見た目にもわかり易いが、クワクサの花糸が伸びる力がどういう仕組みでギリギリまで溜められるのかは見ただけではよくわからない。   
 
 
<参考比較:カラムシとカテンソウの雄花>    
 
  
      カラムシの雄花 1         カラムシの雄花 2       カテンソウの雄花
 
 
   調べてみると、クワクサ、カラムシ、カテンソウなどを含むイラクサ科の植物では、雄花はつぼみの時に花糸が内側に曲がっていて、開花すると外側に弾け、その勢いで花粉をまき散らすとされ、例えば、カラムシでは雄花の花糸の横じわがばねの働きをするという(野に咲く花)としている。

 上のカラムシの写真でも伸びきった花糸で横じわは確認できるが、どういったきっかけで圧力が開放されるのかは見てもよくわからない。ただ、花はシンプルな構造であるから、弾けようとする花糸は閉じた花被片に抑えられていて、花被片が少々緩んだときにバランスが崩れて雄しべが弾き出るものと思われる。

:「野に咲く花」にはカテンソウの雄花が花粉を上方に飛ばした瞬間の写真が掲載されている。 
 
     
クワクサの雌花、果実の様子  
     
(1)  雌花   
     
   クワクサの雌花は4裂(「日本の野生植物」では「やや6裂する」とある。)する閉じた花披片のすき間から紅紫色の糸状の花柱をチョロチョロと出しているだけでである。   
     
    花被に覆われた雌花
 雄花にくらべて非常に小さい。
      受粉後の雌花 
  やや膨らみが見られる。
   花序内の受粉後の雌花
  用済みの花柱が花被片の間から出た状態のままとなっている。
     
   若い果実(花被を除去) 
 この時点では外果皮はまだ肥厚していない。
  成熟間近の果実(花被を除去)
  くちばし状に肥厚した外果皮が果実をくわえた形態となっている
    クワクサの成熟果実
 いぼ状突起のある2面を見せている。 
     
   果実放出後の外果皮
 閉じたくちばし状の外果皮の両脇に薄膜状のものが残っている。 
    くちばし状の外果皮
 無事に果実を放出した後の様子。
   同90度コマ状に回転した様子
 
 
   そう果放出後の外果皮のくちばしの両脇からビラビラの薄皮が見られる。これが何かは説明例が見つからないが、たぶん、くちばしの両サイドをつないでそう果を覆っていた外果皮の一部と思われる。

 なお、一般に「雌花の花柱は子房の側方につく」として説明されるが、この形態の由来は、くちばし状に肥厚した外果皮の片方に花柱がつながっていることによるものと理解できる。この花柱はそう果が成熟し・放出される時点でも残存する。 
 
     
(2)  果実(そう果)  
 
 果実は小さく、その形状はわかりにくいが、じっくり観察すれば理解できる。この外観は種子と言いたくなるが、そう果とされるからあくまで “果実” である。また、くちばし状の外果皮から放り出されることから、このそう果の表面は内果皮となる。  
     
    クワクサの果実 1
 果実の成熟時には外果皮から裸出するイボ状突起のある3稜形の2側面の様子。
   クワクサの果実 2
 外果皮と接していた面の様子。(左の写真の裏側)  
一条の溝が見られる。
   クワクサの果実 3
 果柄の反対側から見た様子で、おおよその3稜形であることが確認できる。   
   クワクサの果実 4
  果柄の面の様子。切り形で中央はやや凹んでいる。
 
     
   そう果の形状については表現が難しいが、次の説明例が詳しい。   
     
 
 そう果の長さ1.1±0.1mm、幅0.9±0.0mm、厚さ0.8±0.1mm。そう果は広卵状3稜形、基部は切形。背腹両面は3角形。3稜形の2側面にはいぼ状の低い突起が散生し、残りの側面には浅い1縦溝が通る。そう果は灰黒色地に灰色斑紋(いぼ状隆起)、縦溝は灰黒色、光沢はない。(日本植物種子図鑑) 
 
   
 3  そう果がバシッと飛ぶ仕組み(クワクサの種子散布)   
     
   果実が成熟した状態で、果序の表面に軽く触れると、小さなそう果が次々とはじかれるように飛び出すことは指先の感触で確認できる。しかし、目では全く追尾できない。

 これについて、図鑑では次のような説明例を見る。 
 
     
 
@  果実は透明な多汁質の外果皮堅い内果皮の2層からなり、外果皮の膨圧によって内部は挟みつけられて、はじきとばされる。(世界大百科事典) 
A  果実の下半分はふくらんで液質になり、膨圧によって種子をはじき飛ばす。(野に咲く花) 
B  果実の下部および前後は舟形に肥厚し、多汁質となって膨圧で種子をはじき出す。(原色日本植物図鑑) 
Aの「果実の下半分」とかBの「果実の下部および前後」の表現は、これだけを見たら当初は何のことかさっぱりわからなかったが、@の世界大百科事典で謎が解けた。 
 
     
   要は膨潤したくちばし状の外果皮がそう果を強く挟んではじき飛ばすという仕組みである。種子を飛ばす方式には色々あるが、この方法も面白い。外果皮に面したそう果の表面には適度にざらつきがあり、これによる摩擦でしばらくの間は外果皮による締め付けにギリギリまで耐えて、その後一気に発射されるのであろう。手で触った途端に果実が飛ぶのは、この緊張状態が外力で開放されたことによるものであろう。

 裸眼ではとても観察できないほど小さなクワクサの花が、風や昆虫の力を借りずに自らの精緻なメカニズムのみで花粉や果実を器用に飛ばしていることを知ると、改めてその地道な努力振りに感動してしまう。