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続々・樹の散歩道
  ケヤキの花の様子と種子の成熟経過


 ケヤキの花はたぶんムクノキやエノキと似たようなものであろうと想像していたが、これまでじっくり観察したことがなかった。ケヤキは公園やビルの谷間の植栽木として多用されているが、目の高さに枝が垂れていることはほとんどなく、花をじっくり観察する機会がなかったことによる。たまに枝が低く垂れた個体を見かけても、ケヤキは隔年でしか花をつけないような印象があって、もどかしい思いを持っていたが、2018年は都内のケヤキの花付きが良好な年であったことから、枝が垂れた個体にターゲットを絞って、花と種子の成熟経過を観察してみた。  【2022.11】 


 ケヤキの花の様子  
 
 全く驚くべきことであるが、2017年は都内の数箇所で確認した範囲では、ケヤキの花は全くついていなかった。確か、2016年はケヤキの果実を見ている。調べてみると、以下のような記述が見られた。

 「ケヤキの結実の豊凶については、@ 隔年結実の傾向があり、凶作年が多く結実しない年がある、 A 1〜2年おきにほとんど結実しない年がある、 B 3年間で凶作年が2回、 C 2〜3年目に豊作年がある などの報告がある。ケヤキは、年によって結実量の変動が大きく、ほとんど結実しない年があると考えられる。」(日本の樹木種子)

 以下は都内では結実年であった2018年に観察した個体の花の様子である。
 
 
      新鞘についたケヤキの花の蕾
 春に伸び出した新鞘に展開し始めた葉と蕾が同居している。花は雌雄同株で、新鞘の上部に雌花が、下部に雄花がつく。 
            ケヤキの雄花 1
 雄花はごちゃごちゃと多数ついていてわかりにくいが、1つの雄花は4〜6裂する花被と4〜6個の雄しべからなるとされる。写真では花糸が伸び出て葯が裂開し、花粉をサラサラと出し始めている。  
   
            ケヤキの雄花 2
 この写真の雄花では、雄しべが5個確認できる。 
            ケヤキの雄花 3
 1個の雄花を分離したもので、この花では雄しべが4個確認できる。 
   
           ケヤキの雌花 1 
 葉腋に1〜2個の雌花が確認できる。雄しべは確認できない。貧相な雄しべをもった両性花がついている場合は、雄花と雌花の中間の部位に見られるという。
           ケヤキの雌花 2
 白色の花柱は2裂している。雌花はときに葉腋に3個つくとされる。 
   
            ケヤキの雌花 1 
 花粉が付着する2裂した花柱上面の柱頭部には、乳頭状の突起が密生している。 
         ケヤキの雌花の花柱
 柱頭面の乳頭状突起の様子である。ゴミも張り付いている。  
 
 
観察した個体では、単性の雄花と雌花を確認したが、両性花様の花もときに見られるようである。改訂日本の野生植物では次のように説明している。

 「花は4月、新葉とともに開き、単性で雌雄同株雄花は新枝の下部の葉腋に束生または単生し、4〜6裂する花被と4〜6個の雄蕊からなる。雌花は上部の葉腋に単生、またはまれに3個ほど束生し、雄蕊をまったく欠くか、または両性花となって小さい1〜数個の雄蕊を備え、雌蕊は1個、花柱は2裂し、上面に乳頭状突起を密布し、柱頭となる。」(改訂 日本の野生植物)

 つまり、貧相な雄しべをもった両性花をつけているものも見られるということである。ちゃんと雄しべを退化させていない雌花が存在するというのは、非常に中途半端で迷惑であるが、総論としてはあくまで「ケヤキの花は雌雄同株(雌雄異花同株)である。」とすることで問題ないと思われる。しかし、半端で退化しきれていない雄しべのある両性花様の花も存在する実態からか、しばしば、ケヤキでは雄花、雌花、両性花をもつ三性同株であるとして記述している場合があるのは、少々誤解を招きかねない表現である。

 なお、観察した個体では、少なくとも樹冠下部で見られた雌花には雄しべが見られなかったが、厳密に見た場合に、雄しべのある雌花をもつものが個体ごとの個性なのか、個体内でわずかに見られるものなのかについては確認していない。
 
     
ケヤキの果実(種子)の成長経過  
 
   以下の果実は都内での2016年又は2018年産のものである。   
     
         ケヤキの若い果実 1(4月下旬)
 花後に程なく果実は一見すると成熟時とほぼ同じくらいの大きさとなる。しかし・・・・・ 
       ケヤキの若い果実 2(4月下旬)
 この果実の基部には、葯が裂開した雄しべが残っている。ということは、花の段階では貧相な雄しべをもった両性花状のものであったということになる。(先に花を紹介した2016年産の個体とは別の個体。) 
   
    ケヤキの若い果実内の種子 1(5月中旬)
 厚手の果皮だけがさっさと大きくなるが、種子(胚)はまだごく小さくて、中はスカスカである。しばらくの間は花柱が残存する。 
   ケヤキの若い果実内の種子 2(6月下旬)
 果皮の内側の内面が網目模様の薄皮状のものは、内果皮であろうか? 
   
     ケヤキの若い果実内の種子 3(7月上旬)
 種子(胚)が成長して、しだいに大きくなり、果皮内の空間が減少している。無胚乳種子で、中の子葉は奇妙なかたちとなっている。(以下を参照) 
   ケヤキの種子(果皮を取り除いたもの)
 
9月下旬の様子で、褐色の薄い種皮に包まれて、胚が収まっている。 写真左はやや凹んだ側の面で、右は丸く膨らんだ側の面である。この真相は次のとおりである。
   
          ケヤキの種子の胚 1
 種子内の胚は、2枚の子葉がぴったり閉じて椀状となっている。写真は、2枚の子葉を少しずらして撮影したものである。
          ケヤキの種子の胚 2
 写真は、胚の2枚の子葉を引き離して撮影したものである。胚軸と幼根は短い。 
   
      果実を付けて落ちた小枝 (11月上旬)
 果実は直接落果したり、小枝(短枝)についたまま落ちて、風で転がったりして散布される。 
     ケヤキの成熟した果実 (11月中旬)
 果実であるが、慣用的にはこの状態のものを種子と呼んでいる。果実の形状は、不斉な偏球形と表現されている。図鑑ではこれを核果と呼んでいたり、そう果と呼んでいたりと、まちまちである。 
   
     ケヤキの果実をついばんでいる?ハト
 公園ではよく見る風景である。果皮がざらついているから、丸飲みするとしても、のど越しがよろしくないと思われるのであるが、ハトがどう思っているのかはわからない。 
    ケヤキの種子をついばんでいる?スズメ
 しばしば、スズメも果実をついばんでいると思われる姿を見かける。 
 
 
 参考  
      斑入りケヤキ(フイリケヤキ)の葉
 よく知られているケヤキの斑入り葉の品種であるが、選抜の経緯ははっきりせず、樹木大図説にも記載がない。
       ムサシノケヤキの植栽例(都内)
 昭和46年に埼玉県日高市の農家の敷地にあったものが品種として認知されて以来増殖されて、近年特に目に付くようになった。枝が広がらないため、市街地のせせこましい空間の緑化木として重宝しているようである。登録品種とはなっていない。
   
          ケヤキの盆栽の例 
 ある園芸店の展示販売品で、樹齢約30年、価格30万円とあった。
 ケヤキを実生で育てて、これほどまでに仕立てるとは、大変な根性と技術である。幹が太く、枝振りがすごい!
         ケヤキの材面の様子
 ケヤキの材は古くから(かつては)広葉樹の王様と言われた歴史があり、特に美しい木目、杢の材は工芸、化粧材として高額で取引され、 また強靱でもあることから社寺の建築用材などはもとより、器具、道具材などとしても広く利用されてきた。