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続・樹の散歩道       
 イヌマキの雌花の構造は図鑑を見てもよくわからなーい!!
 さらに受粉部位(珠孔)は一体どこにあるのか?


 イヌマキは遠州地方ではかつては住宅の敷地を囲む防風垣としてふつうの存在で、名前はその葉の形態から「ほそば」と称し、また実をなぜか「やんぞう・こんぞう」と呼んでいる。この名が何に由来するのかはさっぱりわからないが、昔の子供達は実の赤い部分(花托)が甘くて食べられることを代々伝承していた。ということで、この実自体は珍しいものでも何でもないが、雄花や雌花は注意して見たことがないままとなっていたため、改めでじっくりと検分してみることにした。特に雌花は面白い形態であるが、個々の部位については図鑑では詳しい説明をしている例は少ない上に部位の呼称もまちまちでもどかしく、さらに受粉部位や受粉の仕組みに関してもほとんど触れられていない。おおよそのことを理解しようにも何とも困ったことである。 【2017.9】 
注:  植栽木では葉がやや小形で変種扱いされているラカンマキも多用されている印象があるが、ここでは原則としてイヌマキとラカンマキを特に区別しない。花と種実は両者では区別できないともいわれる。 


 防風生垣としてのイヌマキは、すき間なく列植された両面、頂部も真っ平らにきれいに刈り込むのが本来の仕様で、単木を庭木とする場合は枝を適度に広げて形を整えるのが一般的で、年数を経たものは実に風格が漂う仕上がりとなる。
 特に社寺の境内ではしばしば大径木(後出)を見ることができる。
 
 
 イヌマキの様子  
 
 
   
       遠州地方のイヌマキの生垣の例
 こうしたきれいに刈り込んだ状態を維持するためには、相応のコスト負担に耐えなければならない。
       都内ビル周りのイヌマキ植栽例
 ビルの周辺にイヌマキが利用されている例は珍しい。日本庭園での仕立てとは全く異なる。
 
 
     
           イヌマキの葉の様子
 イヌマキは日本、中国、台湾に分布するマキ科マキ属の常緑高木 Podocarpus macrophyllus (var. macrophyllus)。中国名は罗汉松(羅漢松 ラカンマツ)である。
            イヌマキの雄花
 イヌマキの花は雌雄異株で、雄花は穂状でよくありがちな形状で、全く興味を惹かない。左は花粉放出前で、右はほとんど花粉を放出した状態である。
   
           イヌマキの雌花
 雌花は非常に小さくて地味であるため、目を凝らさないと気がつかないほどであるが、その形態は奇妙である。 
(改めて後ほど観察する。)
         イヌマキの種子と花托 1
 成熟した花托多肉化した珠柄とも)は赤くて目立つ。次第に暗色となり萎む。花托は甘くて食べられるとされていて、やや甘いがあまり美味しくない。
 
 
 
    イヌマキの種子と花托 2
 種子は緑色の套被(とうひ)に包まれていて、有毒とされる。表面は粉白色である。全体がまるで色づけしたコケシのようである。 
   イヌマキの種子と花托 3 
 赤い花托は鳥散布用の餌とされる。  花托にも薄く白粉が見られる。緑色の套被も餌になっているとの見解も見る。
  套被花托が乾燥した状態
  花托の乾燥が進んでも花托の軸が種子を保持していることがあるが、乾燥した種子は発芽力を失うという。
 
     
   以下の写真は普段見かけるものよりもひとまわり大きい種子、花托の例で、長さは3.5センチほどあった。都内の住宅地で見かけたものである。特に花托が横にも張り出してムッチリ大きいが、一般に花托はねっとりして薄甘い程度であまり美味しくないのは残念なことである。  
     
 
 
         イヌマキの種子と花托 4
 非常に発育のよい実ばかりで、驚きであった。たぶん樹の個体差に由来するものと思われる。
             イヌマキの種子
 は套被に包まれた状態、は套被を半分剥がした状態、は剥がした套被、種子 
 
     
 
    イヌマキの種子と花托 5    イヌマキの種子と花托 6      イヌマキの種子と花托 7
 
     
   イヌマキの雌花の各部位の名称が統一されていない印象がある(後出)が、実についても「套被に包まれた種子の全体を指す呼称」「套被に包まれた種子と花托の両方を指す呼称」に適当なものがないようで、イライラする。何とかしてもらいたいものである。   
     
 
 イヌマキの実は、種子部分のみをつまんで取ろうとして引っ張ると、花托と柄の着生部が簡単にはずれて種子部分について来てしまう。種子部分と花托の着生部分は非常に細いがしっかりしている。しかも花托の中心には右の写真のようにしっかりした軸が通っている。

 イヌマキの種子は鳥によって散布されるものと理解されている。花托はよい餌となるのはわかるが、套被も被食部であるとする見解がある。しかし、果たして種子を被う套被が鳥にとって魅力のあるものかは疑問がある。套被は薄くてヤニっぽいなめし革質であるからである。実際には鳥が花托を食べる際に花托から落下しにくい種子も一緒に食う羽目になる可能性は感じるが、鳥による種子散布を期待するために、果たしてこのややこしい形態が合理的なものなのか心配になる。むしろイチイのような仮種皮に包まれた種子の方がシンプルで合理的であるように見えるのであるが、余計なお世話か・・・    
    花托の肉を剥ぎ取った
    イヌマキの実
 
     
 
   イヌマキの樹皮 1(西伝寺)
 浅く縦裂して、薄く剥がれる。
  イヌマキの樹皮 2(剣八幡社)
 しばしばねじれが見られる。 
   イヌマキの樹皮 3(妙相寺)
 
 
     
   庭木用としては、樹形が小振りで短葉タイプの変種であるラカンマキ(羅漢槇)Podocarpus macrophyllus var. maki が多く利用されているとされる。ラカンマキは原産地がはっきりしないが中国でも広く栽培されていて、中国名はイヌマキが罗汉松(羅漢松)であるのに対して葉が短いことに着目して 短叶罗汉松(短葉羅漢松)と呼ばれ、両種の名前の区分がわかりやすい。

 日本ではラカンマキについてのみイヌマキの中国名の羅漢松の一部だけを取り入れているため、名前の由来に係わって、ラカンマキの種子のみが坊主頭の羅漢に似ていると誤解される恐れが生じかねない、ちぐはぐな名前の構成となってしまっている。
 
     
 わかりにくいイヌマキの雌花  
 
 イヌマキの雄花は形態的には興味を惹かないが、雌花は奇妙な形態で、しばしばコケシにたとえられるほか、さらに細部に着目して合掌したお地蔵さんあるいは僧侶にもたとえられている。個人的には全体が白い粉(たぶん蝋質と思われる。)が付着している様子から、合掌スタイルのお地蔵さんにたとえるのを支持したい。

 さて、特に雌花の各部位を何と呼んでいるのかであるが、図鑑によって色々である。そもそもも針葉樹の場合は便宜的に例えば「雌花」としているが、これ自体もしっくり来る名称がないのはよく知られているところである。こうしたなかで、さらにイヌマキではお仲間が少ないためか、雌花の各部位の呼称も定着していないように思われ、加えて形態的なわかり易い説明を目にすることができない。各図鑑とも形態的なことに関しては積極的に解説することを避けているようにさえみえてしまう。

 そこで、特にイヌマキの雌花について、そのおおよそを理解するため、仕方なく複数の図鑑から関係する部分の記述を抽出して、以下に整理してみる。
 
 
    イヌマキの雌花の構造の説明例  
区分 雌花の状態 成熟した実の状態
全体 雌球果(園芸植物大事典、中国植物誌)
雌花(樹に咲く花、新牧野日本植物図鑑)
球果(草木図説)

マキ科の雌性生殖器官を何と呼ぶかは意見の分かれるところである。(植物の世界)
・ 雌花は葉腋に出るが小さな柄を具え、緑色の花托があり、その基部には鱗片がある。(新牧野日本植物図鑑)
球果(園芸植物大事典)
コケシ型の胴部分 種子鱗片(園芸植物大事典)
1枚の大胞子葉(福岡教育大・福原)
花床(樹に咲く花)
花托(植物観察事典、日本の野生植物)
珠柄(花からたねへ)

種子鱗片は成熟すると種子を包む。(園芸植物大事典)
・ ふくらんだ花床の上に鱗片が2個あり、そのうちの1個に青白い胚珠がつく。(樹に咲く花)
の上はふくれて、その先に小さい苞鱗片が2個あり、そのうちの1つの葉腋から出た種子鱗片が1つの倒生の胚珠を包む。まれに2つの種子鱗片をつける。(草木図説)
・ 長さ約1センチのふくらんだ花床が緑色の雌花を単生する。(植物の世界)
花托は肥大し、基部には数枚の苞片がある。(中薬大辞典)
発達した花床(園芸植物大事典)
花床(草木図説)
果托(植物観察事典)
多肉化珠柄(花からたねへ)

花床は肥大して倒卵形となり、紫紅色で多汁で甘く食用になる。(園芸植物大事典)
・ 成熟するにつれ鱗片が肥大して種子を包み込む。(樹に咲く花)
・ 種子の基部には肉質の花床がつき、これが熟すと赤紫色となり食べられる。(樹に咲く花)
花托は花後に果托(仮種皮)となって、初め緑色でのちに赤色になる。(植物観察事典)
・ 種子の成熟と同時に花托は肥厚して暗紅色の液質になり、甘みがあってたべられる。(日本の野生植物)
・ 10月に成熟すれば、柄の上のふくれた部分(花床)は倒卵形、長さ15ミリ、暗紅色となり、甘くて食える。(草木図説)
球果の基部に果床が発達する。(植物の世界)
・ 成熟種子の下の花床は肥厚して赤紫色に熟して甘くなり食べられる.(植物の世界)
花托は大きく倒卵形となり、暗赤色に色づき、甘くて食べられる。(新牧野日本植物図鑑)
コケシ型の頭部分  倒生胚珠(園芸植物大事典、日本の野生植物)
雌花(樹に咲く花)

胚珠は一見露出しているように見えるが,外袋(套皮)をかぶっており、付け根にある三角形のすきまから胚珠の先端だけが覗いている。(福岡教育大・福原)
雌花は長さ1センチほどの花床の上につく。(樹に咲く花)
・ 1cm 内外の花柄の先にある2個の鱗片の1つに1個の倒生胚珠がつく。(日本の野生植物)
雌花は1枚の鱗片が1つの胚珠を包み込むようにしてなる。(中薬大辞典)
・ イヌマキは受粉滴を分泌することが知られている。(高相)
 
套被に包まれた種子(園芸植物大事典)
種子(樹に咲く花)

種子は直径約1センチのややいびつな球形で、核果状。緑色の皮(雌花の鱗片が肥大したもの)をむくと黄色の種子が出てくる。(樹に咲く花)
種子は肥大した花托の上にある。(植物観察事典)
種子は肉質に肥厚した鱗片(套被)に包まれて成熟し、倒卵形~球形の核果様となる。(日本の野生植物)
・ 胚珠が受精して10日ごろ成熟して種子となると、雌鱗片が肥厚して白緑色肉質になり(套被)、種子全体を包んで核果様になる。(日本の野生植物)
種子は球形、種子鱗片に包まれて緑白色、径8ミリ。(草木図説)
仮種皮が発達して種子を覆い、核果状になる。(植物の世界)
種子は10月頃に成熟し、套被が発達して緑白色のエンドウ大の楕円形となる。(植物の世界)
種子は球形に近く、10月に熟しても緑色である。(新牧野日本植物図鑑)
・ マキ属では種鱗が変形して、肥大して套皮 epimatium となって種子を包み、液(核?)果状を呈する。(図説植物用語事典)
・ ときどき種子が樹上で発根をする。このようなものを胎生種子という。(植物観察事典)

一部に有毒とする記述が見られるが、信頼できる情報が得られない。 
基部の小苞のようなもの 苞鱗片(園芸植物大事典)
鱗片(植物観察事典、新牧野日本植物図鑑)
(草木図説)
苞片(中薬大辞典、中国植物誌)

・ 花托の基部に4個()の鱗片がある。(植物観察事典)
・花托の基部に4個()の線状鱗片を有する。(原色日本林業樹木大図鑑)
・ 長さ1センチの柄の先に被針形のが対生する。(草木図説)
・ 基部には少数の苞片がある。(中国植物誌)
(花托の成熟時点でも残る)
 
 
 構造に関する説明のポイントを自分の理解で整理してみると、  
 
 コケシ状の頭の部分:
 受粉部位である珠孔を下向きにした胚珠は花床の先端に2個ある鱗片のひとつに包まれた状態となってついている。胚珠を覆ったものを套被(外袋、套皮)と呼んでいる。受粉時期には珠孔から受粉滴(受粉液、珠孔液)を出す。
 胚珠が成熟して種子となっても、套被は緑色のままである。 
 コケシ状の胴の部分:
 花床は成熟・肥大すると紫紅色(の果托)となり、多十質で食べられる。
 これを鳥が食べて、結果として上についた種子が散布されると信じられている。ただし、鳥が種子部分を実際にどうしているのかについては詳細な情報が得られない。
 花床の基部には苞片(苞、鱗片、苞鱗片)がふつう2個ある。 
 
 
 雌花の部位の呼称が統一されていないのは現状では仕方がないが、実は図鑑の説明を読んでも理解しにくい点がある。
 こうした事情にあるが、図鑑等の情報を参考にして、イヌマキの雌花の構造を最大公約数的に暫定的に示せば以下のとおりとなろうか。ただし、胚珠の基部辺りの表現については色々あるようである。
 
     
   <イヌマキの雌花の構造(暫定版)>    
     
        イヌマキの雌花の構造 1     イヌマキの雌花の構造2(同左拡大)
 
     
 
 イヌマキ雌花の珠孔(と思われる部分)  受粉滴(珠孔液)で濡れたイヌマキの雌花か?  受粉滴(珠孔液)で濡れたイヌマキの雌花か? 
     
 受粉滴(珠孔液)が表面張力で盛り上がった状態を期待して、その様子を撮影したかったが、理想のタイミングをとらえるのはなかなか困難である。 
 
     
   【追記 2018.5】   
   イヌマキの雌花の珠孔部分で受粉滴(珠孔液)が分泌されてこんもり盛り上がっている姿を確認したく、都内の観察拠点としたイヌマキの並木を継続観察してみた。雄花序が花粉を飛散する時期の前後に足繁く通ったのであるが、不思議なことに複数ある雌株の雌花で受粉滴は全く確認できなかった。ひょっとするとソテツのように、夜に分泌するのであろうか。   
     
   <イヌマキの雌花の写真集>   
    イヌマキの雌花手を合わせたお地蔵さんの写真集である。花托や鱗片が写真のような形態に形成される形態学的な理由は説明例がないためわからない。まれに胚珠を2つ持つものが見られ(写真8,9)、個体によっては同様のものが多数見られた。  
     
 
      イヌマキの雌花 1       イヌマキの雌花 2       イヌマキの雌花 3
     
      イヌマキの雌花 4       イヌマキの雌花 5        イヌマキの雌花 6
     
     イヌマキの雌花 7         イヌマキの雌花 8       イヌマキの雌花 9
 
     
 雌花の説明で理解しにくい点  
 
 胚珠とそれをを包む鱗片(套被)の関係について、そもそも花床上部の「鱗片」の概念自体がよくわからないのであるが、
  成熟するにつれ鱗片が肥大して種子を包み込む。(樹に咲く花)
  種子鱗片は成熟すると種子を包む。(園芸植物大事典) 
 
 
  とする記述が見られ、あたかも、当初は胚珠が裸出していて、次第に種鱗(套被)が発達して胚珠(種子)を包み込むという意味に受け止められる内容となっている。

 これが言葉足らずなのか、こうした表現もありうるということなのかはさっぱりわからない。少なくともイヌマキの場合は、イチイの種子で見られるように、当初は胚珠の基部にあった仮種皮が次第に発達して種子のほとんどを覆うというような経過をたどることはないのは見て明らかであるからである。この件はこれ以上ジタバタしてもらちがあかないから、当面保留である。        
  イヌマキの雌花の断面(横向きで右が胚珠)
 受粉部位の珠孔は胚珠の下部で下向きになっている。 
 
     
   また、「苞の上はふくれて、その先に小さい苞鱗片が2個あり、そのうちの1つの葉腋から出た種子鱗片が1つの倒生の胚珠を包む。(草木図説)」とする独特の表現もわかりにくい。

 さらに、「花托の基部に4個(?)の鱗片(線状鱗片)がある。」と表現している例が複数みられるが、どういった捉え方なのかはよくわからない。 
 
     
    <比較用:イチイの種子の成熟経過>  
 
       イチイの雌花 1
 基部は鱗片に包まれていて、仮種皮はまだ見えない。
     イチイの雌花 2
 胚珠は裸出している。鱗片の内側から仮種皮が姿を見せていて、これが次第に肥厚して、胚珠を覆う。    
  仮種皮に包まれたイチイ種子
 赤くて甘い仮種皮は鳥散布のための餌である。  
 
 
 イヌマキの種子の様子   
     
   イヌマキの種子はしばしば枝についたまま発根(胎生)するものがあって、これを胎生種子と呼んでいる。この様子を再確認するとともに、の様子を観察してみた。  
     
 
     イヌマキの種子と花托の断面
 胚を傷つけずに縦割りしたものである。
          イヌマキの種子の断面
 胚を手前に引き出した状態で、子葉部分を見ると先がわずかに2枚に割れているのが確認できる。
 
     
    イヌマキの胎生種子の場合   
 
 
                       イヌマキの胎生種子の例
 しばしば見る風景で、樹上で種子が花托との接合部と少しずれた箇所から根のような(茎のような)ものを出しており、さらに時間が経過すると、子葉の間から芽(本葉)が出るようである。この状態の種子を指して胎生種子と呼んでいる。また、こうした光景を指して、芽に着目して「胎生発芽」とか、初期の根のようなものに着目して「根を出す」と表現されている。しかし、この伸び出した部分は根とは少々異なる印象があるが、実態に即したふさわしい呼称がないため、以下便宜上「根」と呼ぶことにする。

 種子から伸び出た部分を指して、これが担根体であるとした一部の講釈がそのままコピペされている例が見られるが、用語の適用としては疑問がある。
 
     
 
   イヌマキの胎生種子の様子
 種子が枝についたままで根を出したもので、地上に落ちた際に有利になる場合もあるのであろう。根は緑色であるから光合成を行っていることになる。
  イヌマキの胎生種子の内部
 胚乳に包まれているのは子葉部分で、既に普通の種子の子葉よりも濃い緑色となっている。
 同左胚乳から取り出した子葉
 子葉も既に胚乳内で長さ方向に成長していて、普通の種子の子葉よりも切れ込みが深い状態となっている。写真は人為的に子葉を開いた状態である。
 
     
   種子の胚乳の中の胚の形態は同じ裸子植物のマツと同様のイメージであることが確認できる。また子葉の形態からイヌマキの場合は、芽生えに際しては双葉を出しそうな印象がある。(追って次項で確認)

 しばしば胎生種子が見られるのは、この形態が常に有利性をもつとは思えないが、種子がたどる様々な運命を前に、多様なな条件の下で生き残るための一つの対応と理解できる。

 なお、イヌマキを実生で増殖する場合に 「果肉(注:ここでは種子の套被を指していると思われる。)を取り去ってしまうと、芽生えの大きさが半分ぐらいになってしまう(森林総合研究所九州支所)」とした記述が見られるが、詳しい説明がなくて意味がよくわからない。実は、単に胚乳が乾燥して養分が十分に供給できなくなるというだけのことなのかもしれない。
 
     
 イヌマキ種子の芽生え(発芽)の様子  
     
   イヌマキの胎生種子2個を植木鉢で軽く覆土して、室内でその発芽の様子を観察することにした。春になってから芽を地上に出すものと思っていたところが、室内環境のためか、11月上旬に茎が種子を地上に持ち上げた。    
     
 
   イヌマキの芽生え 1
 種子が持ち上げられて地上で露出した状態である。
  イヌマキの芽生え 2
 子葉は種子の殻をまだ脱ぎ捨てていない。  
   イヌマキの芽生え 3
 胚乳がどんな状態なのかは確認できないが、種子は次第にしぼんできた。
   イヌマキの芽生え 4
 種子殻はしわくちゃになってもまだ落ちない。ということは子葉の先端は姿をみせない。
 
     
 
      イヌマキの芽生えの根の様子(胎生種子の場合 12月下旬・室内
 
     
 
 
            成育中のイヌマキ(3月中旬・室内
 ここに至っても、種子殻は落ちていない。既にまとわりついたゴミのような存在である。子葉も種子殻を脱ぎ捨てる気がないようである。
 
     
   芽生えに際しての子葉の挙動を見るために観察したものであるが、胚乳の収まった種子を持ち上げたものの、子葉が種子殻を早々に脱ぎ捨てる様子は全くなく、やや開いた子葉の基部から幼芽を出して本葉が次々と展開した。

 根を出した胎生種子は既に胚乳に対する依存度は低いように見える。持ち上げられた直後の種子は硬くて充実しており、時間の経過とともに胚乳の養分を吸収され、あるいは同時に乾燥が進んでいるように見える。子葉は細くて大きくなることはなく、胚乳に上部を突っ込んだままで光合成で貢献する気は全くないようである。ということは、イヌマキの子葉は本葉展開後も胚乳内に先端部を突っ込んだままで引き続き胚乳からの(幾分かの)養分を運搬する臍の緒の役割を果たすとともに幼芽を保護するために存在するように見える。こうなると、姿を全く見せないものを子葉と呼ぶのが果たして適当なのか疑問が生じてしまう。

 芽生えの形態は「胚乳内子葉残留型」で、種子を持ち上げるタイプである。ちなみにイチョウでも同様に「胚乳内子葉残留型」であるが、種子を持ち上げない「種子地表存置型」である。(★イチョウの芽生えの様子についてはこちらを参照)

 なお、イヌマキ種子を畑地にまき付けた場合の発芽期間は長く、5月上旬からはじまり11月にも認められる(日本の樹木種子)とした記述がみられる。  
 
   
 イヌマキの名前   
     
   和名のイヌマキは犬槇で、コウヤマキ(ホンマキ)と共に槇(真木)として最も有用な樹種とされたが、コウヤマキよりは劣るという意味で犬の接頭語をつけた(APG原色牧野植物大図鑑)というのが現在推定されている由来である。ただし、「マキ」の名は様々な樹種に対して使用されてきたといわれ、スギ、コウヤマキ、イヌマキなどを指したとされるほか、方言としてクヌギ、コナラ、ミズナラ、カシワ、ケヤキ、マユミなども指している(木の名の由来)といわれる。そして、例えば万葉集の「マキ」も特定の木を指したものではないというのが定説とされる。   
     
 イヌマキの材   
     
 
    イヌマキの材は普段身近で目にすることはないが、耐朽性、耐湿性に優れていて、シロアリに対する抵抗性もあるため、特に沖縄では環境に適応した重要な建築用材として伝統的に利用されてきたとされ、沖縄ではイヌマキの人工造林地も存在し、林業用造林樹種となっている。
          イヌマキの材面の様子
      
(森林総研木材データベースより)
 
 
     
 
 材は家屋の建築用材としてその勁剛力の点より稍々スギに劣るも、地中及び水中に使用すれば保存期限長きを以て、昔より棺桶を製するに用ひたり。又天井板、碁盤、椽[タルキ]板、落掛、箱材、桶材、井框(井戸の枠)、水槽に用ゆ。又これを枌ぎて屋根板とすればサワラより強し。又伊豆地方にては炭材となす。【大日本有用樹木効用編】 
 材はその耐水性より桶・水槽・呑口等によく、器具(碁盤・指物・箱・下駄)、建築(屋根・縁板・天井板)、土木(とくに水工)材になる。【原色木材大図鑑】  
 
     
 ラカンマキの原産地に関する諸説   
     
   ラカンマキの原産地に関しては図鑑ではバラバラで、要ははっきりしないようである。図鑑における記述例は以下のとおりである。日本原産説(中国の図鑑)も見られて、ほほえましい。    
     
    ラカンマキの原産地は?  
 
樹に咲く花  ラカンマキの自生地ははっきりしない。 
植物の世界   ラカンマキの野生品は知られていない。 
世界の植物 ラカンマキの原産地ははっきりしない。枝からしばしばふつうのイヌマキ状の葉を出すものがある点から、一つの園芸品種と考えた方がよいかも知れない。 
新牧野日本植物図鑑   ラカンマキは中国原産。  
日本の野生植物  ラカンマキは中国原産といわれている。 
樹木大図説  ラカンマキは中国の産といはれるが、同国には自生するものがないというのが一般の定説である。 
原色日本樹木図鑑  ラカンマキは本州中部の蛇紋岩地帯に生える矮小型である。 
中国植物誌  ラカンマキは日本原産 
 
     
 イヌマキ類の葉の多様性   
     
 イヌマキの仲間を目にして、本来のイヌマキなのか、それともラカンマキなのか、あるいは中間型なのかなどと神経質になることもないが、参考として目にしたイヌマキ類の様子の異なる葉を並べてサイズを測ってみた。それぞれ、平均的な葉をつけている枝から2枚ずつ葉を採取したものである。  
       
            イヌマキ類の葉のサンプル  
 
 の葉の大きさの違いは、通常のイヌマキの変異の幅と思われる。

 は非常に細長いタイプで、時にホソバマキとの変種(品種)名をもらっているものかもしれない。

 は一般にラカンマキと呼ばれている変種と理解してよいと思われる。典型的なラカンマキは、短い葉がツンツンと上向きになっていることが多く、遠くからでも区別ができる。

 なお、ラカンマキの系統では多様な葉形、斑入り園芸品種が存在することが知られている。 
 
     
   なお、イヌマキとラカンマキの実を比較した場合、目にした範囲ではイヌマキの花托がやや大きいような印象がある。   
     
  【2017.11 追記】 イヌマキと同属の外国産樹種の例(葉と雌花の様子)  
   ポドカルプス・ネリイフォリウス Podocarpus neriifolius   
   和名:ヤママキ(インドマキ、ヒマラヤマキ、ネリイマキ とも)  :「ヤママキ」の名もほとんど定着していない。    
   中国名:百日青、竹葉松、脈葉羅漢松、桃柏松、英羅柏、竹柏松、油松、白松、大葉竹柏松    
     
 
     ヤママキの葉の様子
 イヌマキより葉が長く、成葉で20センチ前後ある。
      ヤママキの雌花 1 
 イヌマキは5月頃に開花するが、こちらは10月に花が見られた。柄がかなり長い。
      ヤママキの雌花 2 
 胚珠が2つついたタイプである。イヌマキと同様に種子が成熟する頃に花托が暗赤色になるという。 
 
     
   インド、ミャンマー、支那南部、台湾、タイ、マレー、フィリピン、東インド諸島、ニューギニア、フィジーに分布(木の大百科)。   写真は小石川植物園の植栽樹で、結実は見られなかった。あとで奥にもう1本植栽されていることに気づいたが、結実がなかったということは、それも雌株と思われる。

 木材は黄褐色で、紋理は通直で構造は緻密、硬度は中等、比重は0.54-0.62 で、家具、楽器、文具、彫刻等の用材となり、また庭園樹となる(中国植物誌)とされる。