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樹の散歩道
   アートする虫たち
    枝先の白いメビウスの環 ほか


 植栽樹の枝先に白いものがぶら下がっていた。よく見ると純白の美しいリングである。さらに目を凝らしてみると、そのリングは微細な繊維質で形成されていることが確認できた。アクセサリーのパーツを誰かが引っかけたのか・・・それとも未知の生物か・・・初めて目にする謎のメビウスの輪に、ワクワク、ドキドキ、久々の興奮を覚えた。 【2009.12】 順次追記


   ヒモワタカイガラムシ 
 ヨコバイ目,カタカイガラムシ科
 Takahashia japonica Cockerell
 繊維状の卵のうの中には焼きタラコのような卵がたっぷり入っている。

 
 ぶら下げていた樹はマンサク科フウ属の落葉広葉樹である「フウ」である。そして、ぶら下がっていたのは、後ほど調べてみると「ヒモワタカイガラムシ」(紐綿貝殻虫)とわかった。正確に言えば、白いメビウスの環は、ヒモワタカイガラムシが産んだ(形成した)「らんのう」(卵嚢)とわかった。
 
 
 白い卵のうの質感は、ノズルから射出された極細のハイテク化学繊維のように見える。ムシ自身が多数の高性能の高圧ノズルを装備しているかのようである。
 
 図鑑等には概略、次のように説明されている。  
 

@
 
 メス成虫は体長5〜7mm、広い楕円形、淡黄色で背面には微少な暗褐色の斑点が散在し、中央に桃赤〜紫赤色の縦線をあらわし、ごくわずかに白粉をつける。成熟するときわめて長い卵のうをリング状に形成する。
【保育社原色日本昆虫図館】
 

A
 
 6月ころに卵のうから幼虫が孵化し,葉裏に寄生したのち,落葉前に枝に移動して幼虫で越冬する。
【森林総合研究所】
 

B

 寄主植物は、ヤナギ、ハンノキ、ケヤキ、エノキ、クワ、コブシ、スモモ、マルメロ、キガギ、ネムノキ、カエデ、カンキツ類、カキ、フウなど。【(社)農林水産技術情報協会】
 
 
  ふと目に止まった植物にカメラを向けようとしたときに、撮ろうとしたものよりも格段に魅力的な虫たちに気を取られることがある。自分が大切にしている庭木が被害を被っていれば憎き害虫でしかないが、直接的な被害がなければ虫たちを客観的、冷静に、さらに実に気楽に観察することができて、美しければ素直に美しいと感じることができる。たまたま見かけたそんなアートする虫たちのいくつかを以下に紹介。  
 
   オオキンカメムシ
 腹の縞模様も美しい。カメムシの中では人気度の高い種だそうである。虹色の輝きがすばらしい。マサキの花上で。
   セアカツノカメムシ
 金属的な質感と色合いが美しい。ホオノキの葉上で。
   アカスジカメムシ
 赤黒の縦縞がおしゃれでハイセンスである。ウイキョウ(フェンネル)の若い果実上で。
   チャバネアオカメムシ
 これも金属系の仕上がりで、青ではなく鮮やかな緑色である。チリメンジソの葉上で。
   ヒメホシカメムシ
 こちらはガラス質系の色合いである。アカメガシワの雌花上で。
   キバラヘリカメムシ
 ファッションセンスの良さでは抜きん出ている。長い足に黒いブーツがよく似合う。マユミの葉上で。
     ルリシジミ
 縁取りがアクセントになっていて、美しさが増している。センダイハギの花上で。
     ベニシジミ
 羽の裏表の対比もきれいである。おしゃれな横縞模様の靴下もよく似合っている。
     ラミーカミキリ
 不思議な模様で、黒丸が目に見えて、あとは人によりいろいろなものに見えるようである。カラムシの葉上で。
      クマバチ
 この場合はクマバチ君が美しいと言うより、美しいルリジサの花との対比がいい。
    コマルハナバチ
 ふかふかとした黄色い毛皮のショールが豪華である。「困る♂ヤ蜂」ではないと理解。イタチハギの花上で。
    イタドリハムシ
 触覚の大きめのギザギザに特徴があって、色彩的にも美しい。イタドリではなく、ヨブスマソウの葉上で。
   イセリアカイガラムシ
 ミツマタの枝に大勢しがみついていた。白のドレープ付きの衣装を纏うこの二人は寄り添う恋人たちのように見える。ひだの中は実は卵のうという。
   キイロカワカゲロウ
 いつの間にか窓ガラスにとまっていたもの。繊細で弱々しくも不思議な形態である。
    キバナオニグモ
 美しいと感じた蜘蛛はこれが始めてである。ツートンからの脚と腹部の模様は芸術的である。北海道産。
   キイロスズメバチ
 戦うための無駄のない形態で、引き締まった精悍なデザインのバランスがいい。針を見ると鳥肌が立つ。
   カマキリの子供
 ヒトの子供と違って、チビでも生きるための緊張感があり、凛々しささえ感じる。
  エサキモンキツノカメムシ
 漢字表記は、「江崎紋黄角亀虫」だそうで、これも恋人同士のようである。一緒にいるだけで高まる気持ちが背中のハートマークとなって浮き出たかのように見える。
(増山真美さん提供)
    ルリモンハナバチ
 青い蜂を見たのは初めてで、トルコ石を連想する美しい青色である。アキノタムラソウの花蜜を集めるのに忙しく動いていて、この写真を撮るのがやっとであった。
   マダラナガカメムシ
 特に北海道ではよく見られる美しいカメムシ。似たものが数種みられるが、模様がそれぞれ異なる。ノラニンジンの花序上で。
 
   セアカツノカメムシ 2
 前出のものと色合いが異なって、全体の赤味が強く、これはこれで美しい。
     
 アカスジキンカメムシの幼虫
 このカメムシの成虫はギンギンのど派手な模様で知られるが、5齢幼虫は控えめでシックなデザインであるが、人面模様と見る向きもある。
    トホシカメムシ
 シンプルな装いであるが、わずかな黒点の存在で、ハイセンスに仕上がっている。
   ツヤアオカメムシの幼虫
 ツヤアオカメムシの幼虫で、齢期によりデザインが少々異なる。スギやヒノキの球果が大好きである。写真はスギの球果上で。成虫は素っ気ない緑色である。
     
   カラマツカサアブラムシ
 フワフワの白いロウ物質に覆われた成虫の様子であるが、牡丹雪が載っているように見える。
  シロモンフサガヤの幼虫
 成虫は美しくない蛾であるが、幼虫は形態、模様共にユニークである。決して、腸閉塞で腹が膨満したものではない。
    トンボエダシャク
 姿から素性がわかりにくいが、名は蜻蛉枝尺で、姿がトンボを連想させることによる。シャクガ科。
     
      マイマイガ
 悪名高い害虫であるが、寄生したコマユバチが脱出して小さな繭を作った状態である。こんな目にあっても幼虫はじっとしている。
   クスサンの幼虫(部分)
 水色の斑点の中心に青い点のデザインは美しい。幼虫の絹糸腺からはテグスのような丈夫な糸がとれるという。
    クスサンの蛹
 網状の繭はユニークで、スカシダワラの名もある。繭をほぐしたものは栗綿(くりわた)といって、紡績の原料になるという。
     
     アゲハの幼虫
 形態的にはモスラの原型に見える。白い斑紋のデザインが美しい。  
   シンジュサンの幼虫 
 前出のクスサンのデザインの色使いと似ていて、水色が印象的である。 
    キアゲハの幼虫
 美しさではアゲハに及ばないが、黒いシマに黄色の点はよく目立つ。 
     
    アケビコノハの幼虫
 アニメ調の目玉模様にはビックリである。アケビやムベの葉が大好きである。成虫は枯れ葉のような姿でまたビックリする。
  アカボシゴマダラの幼虫
 きれいなチョウであるが中国から人為的に持ち込まれたものと考えられている。ツノと背部の突起が個性的である。写真では見えないが顔も個性がある。
  ビロウドハマキの成虫
 左上が頭側で、鮮やかなデザインである。さらに後翅もオレンジの地に黒の斑点があって派手である。触覚も白黒の縞模様がある。
     
    ショウジョウトンボ♂
 眩しいほどの鮮やかな赤色でよく目立つ。唐辛子よりも赤い。
              ベニイトトンボ♂
 東御苑産である。生息地が限られていて、準絶滅危惧となっている。 
 
 キバラヘリカメムシの幼虫 
 成虫は先に登場したとおりで、幼虫は足のデザイン以外は別物である。ツリバナの葉上で。
            セスジイトトンボ♂
 各地に広く分布するとされ、瑠璃色の模様が美しい。 
     
     シオヤアブ♂
 他の昆虫を襲って体液を吸い尽くす荒っぽいアブとして知られる。雄の尻の白い毛はアクセントとして面白いが、何の役割があるのかは未確認。
     キイロテントウ
 植物に取り付いた菌を食べるテントウムシで、うどんこ病にやられたナシの葉裏にとまって食事中である。胸部の黒い点が目のようでかわいい。 
     オンブバッタ
 お母さんが赤ちゃんをおんぶしているのではなく、小男が大女に馬乗りになっているのだという。よく見ると愛を確認しあっているところである。 
     
      シャクガの仲間の幼虫
 ヤマハギの茎でじっとしていて、擬態しているつもりなのかも知れないが、色が違うから全然ためである。 
     フタナミトビヒメシャクの幼虫
 これもシャクガ類で、ミズヒキの茎でじっとしていたが、この角度では見え見えである。小突いたところ、怒った?のか飛び降りてしまった。頭は右側である。
     
  アザミウマの一種の幼虫
 小さなアザミウマの幼虫で、ツタバウンランの花の中で見られたもの。色が何とも鮮やかである。 
  ジャコウアゲハの幼虫
 大胆な色使いに驚く。食草のウマノスズクサの葉をかじっている。成虫は麝香のようなにおいを出すらしい。  
      ルリタテハ
 翅の裏面は見たとおりの枯れ葉模様であるが、表面には瑠璃色の帯模様が見られるという。残念ながら見せてくれなかった。
     
  ハモグリバエ幼虫の落書き
 
小さな幼虫(うじ虫)が葉の中を食い進み、農作物の葉も損なうため嫌われているが、食い跡は子供の落書きのようである。エカキムシの名ももらっている。写真はシラヤマギクの葉である。
     ナミテントウ 1
 漢字表記は「並天道」で、その名のとおりどこにでもふつうに見られるテントウムシであるが、デザインの多様性を誇示することで有名である。特に黒地に赤の紋は漆塗りのような色合いである。 
     ナミテントウ 2
 これもナミテントウであるが、赤の紋の中に黒点を配したデザインとなっている。
 そのほかに赤地に黒の紋、オレンジ色の地に黒の紋など、バリエーションが非常に多い。ネムノキの葉上で。
     
  ニジュウヤホシテントウ 
 本種はテントウムシのくせに捕食性ではなく食植性で、ナス科植物が好きなため、害虫の烙印を押されているが、デザインは悪くない。名前は二十八星天道。テントウムシの中には後背位で激しく腰を使うものがいるらしい。ヤブガラシの葉上で。
     サラサリンガ
 コブガ科リンガ亜科の蛾類であるが、洗練された手書きのデザインのように見える。色使いがなかなかよろしい。しかし、群れる幼虫はとんでもなく気味悪いことで知られ、コナラ属樹種の葉を食害する。名前は漢字名の更紗実蛾”を含めて謎である。
    サツマノミダマシ
 「サツマノミ」とは、ハゼノキの実のことで、腹部がハゼの実のように見えることからこの名があるコガネグモ科のクモ類である。 きれいな緑色はカムフラージュなのであろうか?
     
   
   マルカメムシの卵
 成虫はカメムシらしからぬ丸っこい体で、色も地味であるが、卵のデザインは個性的である。わざわざこんな複雑な形態としていることに必然性があるのか、さっぱりわからない。クズの托葉上で。