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樹の散歩道
 
  ヒッコリーの仲間たち

   
ペカン、ピーカン、ヒッコリー??
             


 袋入りのおつまみとして、いろいろな種類の輸入ナッツが見られる。アーモンド、クルミ、カシューナッツ、マカダミアナッツ、ピスタチオと、ここまではおなじみであるが、「ピーカンナッツ」は比較的なじみが薄くて、ミックスナッツにも普通入っていない。輸入量も少ないのか、クルミなどより価格もやや高い。
 一方「ペカン」の名の樹木を植物園などでたまに見ることがあるが、ピーカンナッツとはこのペカンの木の果実であることを実は最近知った。「ペカンナッツ」とも呼んでいる。
【2008.12】
 


 ある会社の扱うピーカンナッツの小袋には品名を「ヒッコリー」としていて、原材料名を「ピーカンナッツ」としている。ヒッコリーといえばかつてはスキーの素材として、現在でも柄材や各種木工にも利用されているという木もいわゆるヒッコリーであり、薫製用のチップとしてもヒッコリーは一般的で普通に販売されている。ヒッコリーには複数種あることは承知しているが、「ぺ」であったり「ピ」であったり、さらにはヒッコリーの呼称の使い方もわかりにくく、何やらややこしいため整理してみることにした。
 ペカンとピーカンナッツ

 日本でペカンと呼んでいる樹木は、北アメリカ南東部原産のクルミ科カリア(Carya)属の落葉高木 Carya illinoensis である。
 
 写真はいずれも岡山県内で植栽されていたペカン及びその果実。

              ペカンの樹の様子     ペカンの羽状複葉
   
 堅果を落とす寸前のペカン果実    ペカン堅果の外観  縦に半割りしたペカン堅果
   
 英名が Pecan で、国内でのペカンの呼称はこの英名に由来するものであるが、英語の発音は「ピカーン」又は「ピカン」であるから、原音と少々異なり、さらにナッツの方は「ピーカン」の呼称が定着してしまって、ややこしくなってしまった。もう仕方がないことで、ちょうど Gum に対して(実用上の区分の必要性からか)ゴムガムの異なる呼称をつくってしまったのと同様である。
 
 さて、日本育ちのペカンの木のピーカンナッツ(ペカンナッツ)と輸入販売されているものを以下に比較してみる。
 
@は米国産のナマの剥き実
Aは米国産のローストした剥き実
Bは岡山県内育ち

 形状は一部がつながった2枚の子葉からなりクルミと似ているが縦に長い。また、縦の深い皺が目立つ。
 米国産は選抜された栽培品種であることは間違いないが、岡山産は栽培品種か野生種かは不明。
 
 いずれも味はクルミによく似ている。
               ペカンの種子の様子
 岡山育ちのものがやけに小さいが、系統なのか生育条件が悪いのか原因は不明である。ローストしたものは独特のカカオ香があっておもしろいが、少々苦味がある。
   
 
 
     ピーカンナッツのチョコレート(表側)
 シーズ(See's)のピーカンバッド。ピーカンとバニラキャラメルのミルクチョコレート包み。
    ピーカンナッツのチョコレート(裏側)
 裏側からピーカンナッツの姿を見ることができる。キャラメルがナッツを結合している。 
         
<ピーカンナッツ(ペカンナッツ)のデータ>
 19世紀末に商業的な栽培が始まった。現在では米国の大農園で広く栽培され、とくにテキサス州では州樹に選ばれている。500を超える栽培品種がある。(知の遊びコレクション 樹木)
 ペカンはヒッコリーの中でも最も優れた殻果を産し、わが国には1915年に農林省園芸試験場に初めて導入された。戦後長野県でも栽培が奨励された経過があるが、国内で経済栽培には至っていない。(果樹園芸大百科16より)
 国内ではまれに試験的な栽培の痕跡が見られる。
 ウィキペディアではペカンについて「日本では九州・天草のものが有名であるほか、各地に生えている。」との記述(2008.12現在)があり、これが広く「コピペ」されて一人歩きしている。かつての導入栽培の痕跡が各地に見られる可能性はあるが、天草市役所でも全く心当たりがないそうである。ただし、戦時中に天草市内の在住者が「ペカン」の木約10本を植栽し、数年前に一回だけ実がなったことはあるが、その後は実がならず販売はしていないとする情報が市役所から得られた。

 なお、ピーカンナッツの商品名をヒッコリーとしていた先の例については、単に認知度の高い単語を採用したということであろう。
 オーバータヒッコリー

 ペカンと同様に北アメリカ東部原産のクルミ科カリア属の落葉高木(Carya ovata)で、植物園等でしばしば見かける。ペカンと異なり実は小さく、殻は固い。
 果実はもちろん食べられるが、むしろ優良材としてのヒッコリーのひとつとして認知されている。
 英名は shagbark hickory シャグバークヒッコリーで、けばだった樹皮の意で、実際、ムクノキの老木よりもガザガザし、ペカペカと剥離している様子を確認できる。このことから「アラハダヒッコリー」の和名もある。
   
 
    オーバータヒッコリーの樹皮の様子     (北海道立林業試験場)
  
      オーバータヒッコリーの葉
   葉は大きめである。(北海道立林業試験場)
   
 
     黄葉したオーバータヒッコリーの葉
  小葉はふつう5枚である。(小石川植物園)
      オーバータヒッコリーの果実
 果実はカボチャのようにやや扁平で、非常に厚い外果皮は4裂する。    
   
 
     オーバータヒッコリーの堅果の外観
 中央のものは横に半割りしたもの。殻に稜線があるのが特徴である。(小石川植物園)
  堅果を縦に半割りしたところ(小石川植物園)
 果実は小さい上に殻が硬くて割りにくい。したがって、食用には向いていない。味はクルミと同様である。
 オバリスヒッコリー  【2011.12 追記】
   これも北アメリカ東部原産の同属の落葉中高木 (Carya ovalis)。英語名は Red Hickoryレッドヒッコリー)又は Sweet Pignut Hickory(スウィート・ピグナット・ヒッコリー)。分布はそれほど多くなく、Pignut Hickory (ピグナット・ヒッコリー Carya glabra)に似るが、小葉はふつう7枚とされる。 (写真はいずれも北大植物園植栽樹)
   
 
    オバリスヒッコリーの樹皮の様子          オバリスヒッコリーの葉
 葉柄は赤いとする説明を見かけたが、これは赤くない。はて、どういうことなのか?
   
 
      オバリスヒッコリーの果実
 落下していた果実で、この時点で割れ目は入っていなかった。
    オバリスヒッコリーの3裂した外果皮
 オーバータヒッコリーより外果皮は薄い。目にしたものはいずれも3裂していたが、外果皮の筋は4本あるので、裂開数は一様でないかもしれない。  
   
 
     オバリスヒッコリーの堅果の様子
 オーバータヒッコリーとは形状が異なる。 
         縦に半割りした堅果
 これも、小粒のくせに殻が厚く、食用には向いていないようである。味はクルミと同様である。
   
 力尽きたヒッコリー

 札幌市内の北大植物園には、開園以来約百年にわたって園とともに歴史を刻んできた大きなヒッコリーがあったが、平成16年9月8日に台風で残念ながら倒れてしまった。根株はしばらくの間は説明看板を付して展示されていたが、現在では撤去されて見られない。種は同定されていなかったそうである。倒れたヒッコリーは試験挽きされたようであるが、材としては残念ながら魅力的なものではなかったと聞いた。胸高直径で65センチ、樹高は30メートルあったという。
              
  看板に「ヒッコリーの切り株」と表示  危険防止のためワイヤーとアンカーで固定
 
 ヒッコリーについて

 ヒッコリーに関する手近な情報を以下に整理してみる。各内容には一致しない点がある。
 カリア Carya 属は北アメリカ大陸に約20種、中国に1種分布し、北アメリカ産のものでは全ての一般名に hickory の語を含み、ヒッコリーの呼称はこの属と一致している。(平凡社世界大百科事典ほか)
 ヒッコリー(カリア属)とクルミのわかりやすい違いは、クルミは枝の髄に階段状の仕切膜(chamberd piths)があるのに対してヒッコリーにはこれがないこと、クルミは外側の果皮が裂開しないのに対してヒッコリーは裂開すること、クルミは雄花は分岐しないのに対してヒッコリーは3分岐することを掲げることができる。また、クルミの最も簡単な識別点は、葉を押しつぶして匂いをかぐと、強い心地よい匂いがあることであり、タンニン色素によって手が黄色く染まる。(テネシー大学)
 米国農務省のホームページでは、米国内のカリア属(ヒッコリー)について、交雑種9種を含めて22種を掲載している。
 ヒッコリー材について、 shagbark ( C. ovata ), pignut ( C. glabra ), shellbark ( C. laciniosa ), mockernut ( C.tomentosa ) の4種のヒッコリーを"true hickory"(本ヒッコリー又は真正ヒッコリーとでも言えばいいのか)と呼び、bitternut ( C. cordiformis ), pecan ( C. illinoensis ), water ( C. aquatica ) , nutmeg ( C. myristiciformis )の4種を"pecan hickory"(ペカンヒッコリー)と呼ぶ。【Gene Wengert】
 ヒッコリーの種には"true hickories"(Eucarya)"pecan hickories"(Apocarya)の二つの亜属がある。最も簡単な両者の区別は小葉にあり、pecan hickories の典型的なものは小葉は7枚以上あり、これに対して true hickories では小葉は7枚以下である。(テネシー大学)
 テネシー大学の植物標本にはテネシー州に一般的に見られる以下の6種の true hickory がある。Pignut hickory (C. glabra),Shellbark hickory (C. laciniosa) , Calolina hickory (C. ovata var. australis), Shagbark hickory (C. ovata var. ovata) ,Sand hickory(C. pallida), Mockernut hickory (C. tomentosa)【テネシー大学】
 これら2グループの材を区別することは科学的・顕微鏡的な検査なしでは困難であるが、多くのユーザーは "true hickory"の方が色がよく扱い易いと考えていて好まれている。【Gene Wengert】)
 true hickorypecan hickory について、材質は実質的にどちらでも同じで、通常区別せずに販売されている。【アメリカ広葉樹輸出協会】
(注)カリア属では近縁種が多い上に自然交配種も多く、分類についていろいろな考え方があって混乱しているという。さらに、英名の Common name も統一性がなく交通整理不能である。
 ヒッコリーの用途は野球バット(かつてtrue hickory が好まれた)、工具の柄(耐衝撃性がある)、ドラムスティックtrue hickory のみ)、ラクロスのスティックハンドル、家具、かつてのゴルフシャフト、かつてのスキー板、キャビネット、フローリング、弓、ホイールスポーク、木製悌子、太柄(だぼ)、運動器具など。【Gene Wengert、アメリカ広葉樹輸出協会、Wikipedia】
 Shagbark hickory の木材は肉の薫製に利用される。
 日本国内でのヒッコリーの呼称は特定の種を指している場合(狭義)とそれよりも広いとらえ方をしている場合(広義)が見られる。

(例1) Carya tomentosa (=C. alba) 英名 mockernut hickory モッカーナット・ヒッコリーのみを指しているもの。(平凡社世界大百科事典「ヒッコリー」の項)。
(例2) カリア属の数種類を例示してヒッコリー材としているもの。
ブリタニカ:C. laciniosa , C. ovata , C. tomentosa など
日本木材総合情報センター:本ヒッコリー→C. tomentosa など、ペカンヒッコリー→C. illinoensis など
府中家具協同組合:C. glabra , C. tomentosa , C. lacimosa(注:C. laciniosa の誤りか?) , C. ovata , Carya spp.
(例3) カリア属全体を指しているもの。
(例4) 芽の鱗片が4〜6枚で核の殻のうすいものをペカン類,鱗片が6枚以上で殻の厚く硬いものをヒッコリーと呼んでいるもの。(平凡社世界大百科事典「ペカン」の項)
   
 ヒッコリーの材の様子

 ヒッコリーの材は洋式斧・手斧(アックス axe 、ハンドアックス hand axe )の柄 handle として一般的で、材の感触を確認できる。きれいな材で、斧はまた刃物としても実に根源的な存在で、1本欲しくなってしまうが、日常の用途が全くないことが何より残念なことである。 
   
 
         ヒッコリー柄の斧
 スウェーデンに本社を置くハスクバーナ Husqvarna)のハンドアックス(手斧)である。
 ヒッコリーの樹種はわからないが、材色には濃淡の変化が見られる。
   ヒッコリー柄の斧(同左部分)  
 同じ種類の製品の別製品の柄の様子である。ペケ印の表示は使用禁止行為の注意書きである。
 Hickory としっかり表示している。