トップページへ   樹の散歩道目次へ 
樹の散歩道
  ハシバミの仲間たち


 かつて、ロッテがヘーゼルナッツチョコレートを販売していていたが、いつの間にか姿を消してしまった。ナッツ類ではピスタチオ、アーモンド、カシューナッツ、マカデミアナッツはふつうに目にするものの、ヘーゼルナッツはやや影が薄くて一般性がない。ローストしたヘーゼルナッツを販売している店自体が少ないためで、製菓用や上質の食材を扱うスーパー等でないとお目にかかれない。たまたま気まぐれに買った殻付きのヘーゼルナッツを食すと、ポリポリと美味しく食べられる。これを機にハシバミ類について調べてみた。【2009.10】 


 写真は日本橋三越マーキュリー像である。手にしたcaduceusカデュケウス)は一説に(セイヨウ)ハシバミの枝とされる。杖には二匹の蛇がまといついている。 さらに杖の上部には一対の翼があるなど、伝説に依るデザインである。
 
 人も羨むこのスマートな像に関して三越から聞いた話の要旨は以下のとおりである。

マーキュリーはローマ神話の商売・富その他の神で、三越の繁栄を期して大正12年7月に設置。戦時中は供出(注:金属供出のこと。)して一旦は失われたが、昭和47年に復元(現在のものは樹脂製)。なお、マーキュリー (Mercury)は英語名で、ローマ神話ではメルクリウス(ラテン名。Mercurius)と呼ばれ、ギリシャ神話のヘルメスHermes フランス語ではエルメスとなる。)と同一視されている。原型はイタリアフローレンス博物館にあるジョヴァンニ・ディ・ボローニャの「飛びかかるメルクリウス」で、その複製である。」


マーキュリー像 
 日本橋三越本店(正面入口上方)
 東京都中央区日本橋室町1-4-1

 ヘーゼルナッツと呼んでいるのは、カバノキ科ハシバミ属の落葉低木であるセイヨウハシバミの栽培品種の果実の仁であることはあまり知られていない。一方、同属の国内自生種として、ハシバミツノハシバミが知られている。何れも樹型は株立ち状となる。
セイヨウハシバミ Corylus avellana
  英国名 hazelヘーゼル) 米国名 Common Filbert
  セイヨウハシバミの樹形 1
 ハシバミの仲間はいずれもこうして株立ち状となる。
  セイヨウハシバミの樹形 2
 樹皮は灰褐色から茶褐色。
    セイヨウハシバミの葉
     
  セイヨウハシバミの樹皮
  セイヨウハシバミの雄花序
  セイヨウハシバミの雌花序
 赤い柱頭を見せている。
     
  セイヨウハシバミの果実
 堅果は熟すとほとんどが果苞から離れて落下する。
 セイヨウハシバミの堅果 1
 まれに果苞と共に落下する。中の種子がヘーゼルナッツである。
  セイヨウハシバミの堅果 2
 殻はドングリやクリに較べればはるかに厚い。 
(概説)
 原産地はヨーロッパ南部、アフリカ北部、西部アジア。果樹として栽培されているハシバミの基本種。ヨーロッパでの栽培種はセイヨウハシバミ と Corylus maxima(ヨーロッパ東南部、小アジア産)の2種及び両者の雑種である。【果樹園芸大百科】
 学名(ラテン語名)の Corylus はギリシャ語の ヘルメットを意味する korys から来ていて、これはナッツを覆う総苞の形にちなむもの。avellana はこのナッツが栽培されていたイタリアの町の Avella に由来する。なお、hazel は古い英語の hasel から来ている。
【Royal Forestry Society】
 ヘーゼル樹には100以上の品種がある。【カラー版世界食材事典:株式会社柴田書店】
 栽培はトルコ、イタリア、スペイン、アメリカなどに産するが、トルコ産が多い。生食もするが、通常煎ってつまみや菓子材料にする。【食材図典U(小学館)】
 米国では欧州種の栽培が主体であるが、一部アメリカ原生の Corylus americana 、Corylus rostrata、Corylus carifornica なども栽培され始め、欧州種との雑種の優良種が栽培されてきた。【果樹園芸大百科】
 米国ではオレゴン州での生産がほとんど。米国のナッツ輸出額では、アーモンド、クルミ、ピスタチオ、ペカンに次ぐ存在(2000)。米国はヘーゼルナッツ輸出国であるが、トルコからの輸入も見られる。【USDA】
 長野県での外来品種の導入栽培の歴史があるが製菓企業の買い取り価格が安いために栽培は衰退した。長野市、松本市周辺でわずかな生産が見られる。初成りまでの年数が比較的長く、結果樹は隔年結果しやすく、生産が不安定である。【果樹園芸大百科】
 完熟し、通常地面に落ちたものを収穫する。乾燥させたたいて殻をむく。薄皮をむくには煎ってまだ熱いうちに布に包んで強くこすり合わせる。購入する場合は殻に割れ目や穴のないものを選ぶ。生の果実は非常に腐りやすく、特に殻をむいたあとは顕著である。
【カラー版世界食材事典:株式会社柴田書店】
(木材の利用等)
 英国ではセイヨウハシバミは過去にも現在でも、フェンス、編み垣、樽のタガ、ステッキ、釣り竿、鞭の柄、茅葺き屋根の緊縛材、ペグ、オーブン燃料、火薬用木炭、家庭用炉火として利用されている。編み垣や屋根葺き用の素材として利用されたのは、材は縦に割り易い上にねじり易いことによる。セイヨウハシバミ棒材の安定的・確実な供給を図るために、低木林として維持したり、7年から15年毎に地際で伐り戻して萌芽を促す取扱いをしている。【Royal Forestry Society】
 セイヨウハシバミは英国で最も一般的な低木の一種で、古くから屋根葺き材料、編み垣、壁塗り材料、網代舟、泥炭沼地の小道の補強など様々な用途に使用されてきた。
 材は強靱ながらかなり軽く、さらに通直材が得やすいことから、間違いなくステッキ作りのための最も一般的な材となっている。この材は水脈探し(注:ダウジング)の木として好まれ、また、住宅を落雷から守る不思議な特性があるといわれている。さらに炎と肥沃のシンボルとされる。
【AllGoodIdeas.co.uk】
 材はやや強靱であるが耐朽性は低い。刃物鞘、鏡敷板、靴底、桶のたが、木毛、はしご材、旋削小細工物、薪炭材などに用いられる。かつて薄い木片をビールの清澄材(剤?)(Finings)に用いた。
【木の大百科】
 セイヨウハシバミの小径木のサンプル

 ヨーロッパ(特にイギリス)では、現在でもこの材でステッキが製造されている模様で、日本にも輸入されている。なぜセイヨウハシバミなのか、何らかの魅力があるものなのかも確認したく、サンプル材を観察してみた。
 材は軽い割りに硬い印象があった。淡色の材で、放射組織が材面に比較的強く出る傾向があるが、特に個性はなく、仮にこれをステッキとするのであれば積極的に剥皮して無個性な塗装仕上げとする理由はないことを理解できる。そもそも、ハシバミ材がヨーロッパでステッキ適材とされたのは、萌芽更新により、目的とする形状の強くて軽い素材が得られたことによるものなのであろう。
 実際に海外の製品では皮付きで曲げ加工をしているものが主体のようである。なお、樹皮の外皮は薄く、樺細工に使用されるヤマザクラのように磨き上げて光沢を出すことは困難である。また、それほど気にはならないが、材の乾燥が進むと、樹皮の表面に浅い縦じわが生じことは避けられない。
(販売されているヘーゼルナッツの例)
 ヘーゼルナッツの販売品 1
 米国産殻付きロースト
  ヘーゼルナッツの販売品 2
 トルコ産剥き実(製菓用・生)
 
 ヘーゼルナッツの販売品 3
 トルコ産剥き実・塩味ロースト
     

 殻付きは、ピスタチオと同様に見かけを優先したものと理解される。ロースト技術によるものなのか、すべて殻に割れ目が入っているため、実を取り出しやすい。
 薄皮はローストすることで何とか除去できるが、半端状態のものが多い。チョコレートではきれいに剥皮されていた。
 生でも食べられるが、ローストすることでカリッとした食感が生まれて、芳ばしい。
 ヘーゼルナッツの加工品
ゴディバ・ミルクチョコレート・ヘーゼルナッツ(原産国ギリシャ)。右の3個はチョコレートのコーティングを剥ぎ取った(舐め取った)もの。
 ハシバミ Corylus heterophylla
  ほかに変種とする学名がある。Corylus heterophylla var.thunbergii
      ハシバミの葉
  紫斑の出た新葉である。
     ハシバミの雌花序
 赤い柱頭をみせている。
    ハシバミの雄花序
(概説)
 北海道、本州、九州、ウスリー、アムール、朝鮮半島、中国に分布。
 若葉にはしばしば紫色の斑紋が出る。
 雌花は芽鱗に包まれたまま開花し、先端に赤い柱頭を見せる。果実は堅果で1.5センチほどの球形。花のあと雌花の小苞は葉状の果苞になり、堅果を包む。【樹に咲く花】
 ハシバミの雄花序は雌花序より上に付く【樹木見分けのポイント図鑑:講談社】
 わが国では江戸時代、菓木の類として掲げているが、農山村でわずかに食用に供した。山野に自生し、長野県では南佐久郡の標高1,000メートルの山野に群生するハシバミがある。自生種の栽培の歴史は見られない。【果樹園芸大百科】
 日本に自生するハシバミは、庭木として野趣味があり、果実生産よりも庭木として茶庭などに賞用される。【小学館:園芸植物大事典】
 藝州廣島之産良丹波次之【和漢三才図会】
(木材の利用等)
 ハシバミの材は、淡黄白色をし、堅硬、強靱で、工具の柄、傘の柄、小器具材、薪炭材として利用されてきた。木炭は火薬や炭筆にも用いられてきた。果実からクルミ油に似た乾性油がとれ、絵の具や香料に用いられてきた。【小学館:園芸植物大事典】
 材はおおよそ緻密である。一般に強靱で折れにくい。大きい樹がないので材の有効な利用はないが、幹の真っ直ぐなものはステッキ、洋傘の柄などになり、また工具の柄、箕の縁その他の小器具材および薪炭材に使われる。【木の大百科】
 
 
 ツノハシバミ Corylus sieboldiana
    ツノハシバミの樹皮
     ツノハシバミの葉
  ツノハシバミの雄花序
     
   ツノハシバミの雌花序
 芽鱗から赤い柱頭を出している。
    ツノハシバミの果実
 堅果を包む果苞の形態の必然性は謎である。表面に微細なしつこい刺がある。
    ツノハシバミの堅果 1
 堅果は小さく、クリのような形をしている。い
     
 ツノハシバミは種子が比較的丈夫な果苞で被われている上に針状の短毛があって、小動物に対するガードが堅く、ハシバミとは全く異なる戦略をもっているようであるが、そのシナリオはよくわからない。
   ツノハシバミの堅果 2
堅果は大きさの割りに殻が厚い。
 比較用写真: 左がセイヨウハシバミ、右がツノハシバミ。
(概説)
 北海道、本州、四国、九州、朝鮮半島に分布。国内では全国に自生。
 雌花は芽鱗に包まれたまま開花するので、赤い柱頭だけが芽燐からのぞく。花のあと雌花の小苞は筒状になって堅果を包み込む。花苞の先端はくちばし状に細くなり、全体に刺毛が密生する。果実は堅果で、長さは1〜1.5センチの円錐形。【樹に咲く花】
 ツノハシバミの雌花序は雄花序の上に付く。 【樹木見分けのポイント図鑑:講談社】
 堅果は非常に小さく、積極的に食べようとする気が起こらない。しかし、食べることは可能で、農山村の子供たちにはよく知られていたという。堅果を包む花苞の細かくてやや硬い毛は素手では痛く、採るためには手袋が必要。
 ハシバミと同様に、経済栽培は見られない。【平凡社世界大百科事典】
(木材の利用等)
 材はハシバミの材に類似しているものと思われる。【木の大百科】
 写真はツノハシバミの材の感触を確認するために、ツノハシバミの小径木を剥皮して磨いてみたサンプルである。オイルフィニッシュとしたため、木口面の色がやや濡れ色となっている。
 材面はやはり特に個性はなく、仮にこれをステッキとするのであればやはり皮付きか。
ツノハシバミの材のサンプル   
 トックリハシバミ Corylus sieboldiana var. brevirostris  
   
   ツノハシバミ様の果実を持つもので、角状の果苞が短いものをトックリハシバミと呼んでいる。 写真はトックリハシバミの名で植栽されていたものである。
   
 
 同じ樹でもずんぐりむっくりの徳利タイプのものからツノハシバミに近い印象の実もみられた。 
トックリハシバミの果実の例 1  トックリハシバミの果実の例 2   
   
<参考>その他のハシバミ類の例
フィルバート Corylus maxima  南東ヨーロッパ、西アジア (Lambert hazel,true filbert)
トルコハシバミ Corylus columa  南東ヨーロッパ、西アジア (Turkish hazel)
アメリカハシバミ Corylus americana (American hazel)
カナダハシバミ Corylus cornuta  (beaked hazel)
シナハシバミ Corylus chinensis  支那西南部産 (Chinese hazel) 中国名:華榛
   【追記 2018.3】 ハシバミ類の花の構造の学習 
   ハシバミ類の雄花序、雌花序の中で、それぞれ個々の雄花、雌花はどうなっているのかは外観からはさっぱりわからない。そこで、ツノハシバミを教材として、その雄花と雌花について図鑑で学習した上で実際の構造を確認・理解しようとしたが、簡単ではないことがわかった。(図鑑情報は「日本の野生植物」による。) 
 
 @ ツノハシバミの雄花序と雄花

 ツノハシバミの雄花序及び雄花に関する図鑑の記述は以下のとおりである。
 「雄花序の1次苞(苞鱗)は瓦重ね状に配列し、背面有毛でその腋に2次苞が2枚つき、背軸側基部で1次苞に合着する。3次苞はない。これらの苞の腋に雄花(注:ハシバミ属では1−3個つけると推定されているとしているが、ツノハシバミの場合についての明記はない。)をつけるが、花被を欠くため、8個の雄しべを持つ1個の花が包まれているように見える。花糸は短く、先は2裂して、先端に各1個の葯室がつき、葯の頂端は有毛である。」
 
     ツノハシバミの雄花序と雌果序
 雄花序では花粉放出前の葯が各苞鱗の下から姿をみせ、雌果序では芽鱗の中から多数の柱頭が伸び出ている。 
      ツノハシバミの雄花序(部分)
 各苞鱗の外に面した側は、淡褐色の短毛に覆われている。葯が裂開し始めている。
   
      ツノハシバミの雄花序の断面
 雄花序の断面の上側を見たもので、裂開し始めた葯が押し合いへし合いの満杯状態となっている。 
 ツノハシバミの苞鱗に包まれた雄花(下面と上面)
1つの苞鱗に包まれた葯はふつう8個確認できるが、雄花には花披がなく、何個の雄花があると理解すればよいのかは不明。 葯の頂端が有毛とされるが、ごくわずかしか確認できなかった。 
 
 なお、図鑑には「花糸は短く、先は2裂して、先端に各1個の葯室がつく」としているが、この表現の詳細はよくわからない。
 
 A ツノハシバミの雌花序と雌花

 ツノハシバミの雌花序及び雌花に関する図鑑の記述は以下のとおりである。
 「雌花序は小型で、数花が頭状に集まって芽鱗に含まれ、花時は柱頭だけが芽鱗の外に現れる。
 雌花は各1次苞に2個ずつつき、2次苞を欠き、2枚の3次苞のみを備えていて、その頂部には不整細鋸歯があり、柱頭は2個、その基部には環状の短い花被がある。
 果序は1−4果が頭状に集まり、各果は筒状の果苞に包まれる。果実は堅果で、木質の果皮があり、3次苞から発達した筒状の大型の果苞に包まれ、子葉は厚くて発芽時は地中にとどまる。 」 
 
   
      ツノハシバミの雌花序 1
 赤褐色の芽鱗がゆるんで、雌しべの赤い柱頭が伸び出ている。花柱と柱頭の境は外形的に確認はできない。
        ツノハシバミの雌花序 2
 雌花は柱頭が2個あるとされるから、柱頭4個で1つの花ということになる。左の写真に比べて、こちらの雌果序では収まっている雌花の数が多いようである。 
   
     ツノハシバミの雌花序 3
 下方から葉が展開し始めているから、雌果序を含む冬芽は混芽ということになる。別に葉芽が存在する。 
         ツノハシバミの雌花序 4 
 雌果序を含む混芽の芽鱗と幼葉を剥ぎ取った状態である。雌花の花柱が束状になった基部は白い毛に覆われている。
 
        ツノハシバミの雌花 1 
 雌花の背面で、2個の雌花が毛のある1次苞に抱かれていることがわかる。
       ツノハシバミの雌花 2 
 雌花の腹面で、子房の部分は貧相で、プックリ膨らんでいない。 
      ツノハシバミの雌花 3
 雌花の背面のアップで、1次苞は白色の艶のある長い毛に覆われている。 
        ツノハシバミの雌花 4
 雌花の腹面(1次苞の反対側)のアップで、、基部に見られるのが3次苞であろうか?   
 
                   ツノハシバミの雌花 5
 図鑑では「基部には環状の短い花被がある。」と表現されているが、子房部分を目を凝らして見ても、花被がよくわからない。。