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樹の散歩道
  クロミノウグイスカグラの商品は
   なぜ〝ハスカップ〟と呼ばれるのか


 北海道ではハスカップの名の瓶入りのジャムをしばしば見かける。ジャム以外にも羊かん、クッキー、ゼリー等々多様で、北海道の個性ある特産品を利用した商品として定着している。ところでこの名称であるが、和名としてクロミノウグイスカグラとかケヨノミの名があるが、商品はあくまでハスカップであり、これ以外の名を使っていない。外来語のような響きのある名前であるが、なぜ北海道では断固としてハスカップなのだろうか。【2011.12】 


 
   ふらの産ハスカップジャム
   (生産農家による製造品)
有限会社 小澤農林
 北海道富良野市南布礼別1062番1
   ハスカップの里ジャム
販売者 道央農業協同組合JNS
 北海道恵庭市島松仲町2丁目10番1号
    ハスカップゼリー
株式会社もりもと
 北海道千歳市千代田町4丁目
   
   図鑑類で調べてみれば、わずかな違いに着目して、クロミノウグイスカグラケヨノミのほかに、マルバヨノミの名も見られる。ということであれば、

 ハスカップとは、このうちどれを指した呼称なのか。
 また、ハスカップとして北海道内で一般的に栽培されているのは、このうちのどれなのか、あるいはどれが多いのか。
 さらに、ハスカップの名はどこの誰が使い始めて北海道内で定着したものなのか。

   
 
       ハスカップの葉
 スイカズラ科スイカズラ属の落葉低木で、葉は対生である。
      ハスカップの花
 花は2個セットでつける。先端は5裂。
     ハスカップの果実A  
 ハスカップ製品の直売に際して生産者が展示していたもの。生産種である。 
     
 
     ハスカップの果実B
 この個体の果実は、先端がすべてカルデラ火山型になっていた。(北海道内)
     ハスカップの果実C
    (北海道内)   
      果実の先端部
 
果実の先端部には、花の跡がふたつ見られる。
   
   図鑑における3種の区分

 区分すべきか否か自体について見解が分かれているが、分けている場合は毛が多いものを ①ケヨノミ、ほとんど無毛のものを ②マルバヨノミ、これらの中間形を ③クロミノウグイスカグラとしている。
 
 変種等の関係は、次のように整理している例がある。なお、学名上の基本種 Lonicera caerulea がどこに存在するのかはわからない。 
   
 
 ①を亜種、②、③をそれぞれ①の変種としているもの。(朝日百科 植物の世界、平凡社 日本の野生植物)
 ①、②、③とも亜種のそれぞれ変種としているもの。(山渓 樹に咲く花)
 ①、③ともそれぞれ変種としているもの。(北海道樹木図鑑)
 これらのうちのどれを北海道でハスカップと呼んでいるかについては必ずしも明確に記述されていないが、クロミノウグイスカグラ、ケヨノミのいずれも北海道ではハスカップと呼ばれている模様である。図鑑での記述例は最後に紹介する。 
   
   名称の由来、起源、栽培の経過等

 ハスカップの名称や経過等に関しては豆本「ハスカップ物語」に詳しい。他の資料を含めて、関心部分の記述を以下に紹介する。 
   
 
ハスカップ物語:奥津義広(昭和54年10月30日、苫小牧郷土文化研究会まめほん編集部)


 苫小牧市民はハスカップまたはユノミと呼んできた。
   かつて他地域ではハスカップの呼称は一般的でなかったという。

 勇払原野はただ1カ所のハスカップ大群生地。
  現在では非常に限られた規模のものになっている模様。現地の様子を知った者に聞いたところ、ハスカップの知名度が高まるにつれ、みるみる株が減っていったという。 

 ハスカップの語源はアイヌ語の「ハシカップ」で、「低木の上にたくさんなったもの」という意味。木全体の表現ではなく果実だけを指す。アイヌ語では「エヌミタンネ」(前出の「ユノミ」の語源でもある。)とも。
 和名はクロミノウグイスカグラまたはケヨノミという。ハスカップはたいていケヨノミクロミノウグイスカグラのどちらかである。
 勇払原野のハスカップはクロミノウグイスカグラと見られているが、異論もあって未だに決着がついていない。
 ハスカップは多分、シベリアなどから渡ってくる鳥が、向こうで実をついばみ糞とともに、原野に種を落としたものだろう。
 ハスカップはアイヌ民族の間でもよく食べられていた。
 三星(注:みつぼし。北海道苫小牧市の菓子メーカー)のパンフレットには「不老長寿の実としてアイヌたちが珍重した。」と記されているが、苫小牧周辺のアイヌの古老たちに聞いた限りでは、そうした話は出てこなかった。
 ハスカップにはイチゴやリンゴなどに含まれているペクチンがないため、家庭でジャムを作るとなると案外難しい。(注:ペクチンは販売品がある。)
・   北海道に自然に生えた果物として一番最初に栽培が軌道に乗ったのがハスカップとされる。 

【ハスカップのおはなし:胆振支庁産業振興部農務課

 ハスカップの果実は2つの花から1つの果実ができる。果実の形は変化に富む。果実にはビタミンC、カルシウム、鉄分、アントシアニン(ポリフェノールの一種)が豊富。
 農業としてのハスカップ栽培は、1970年頃、千歳市から始まったようです。 
 昭和48年頃から北海道立林業試験場がハスカップの増殖・栽培の試験を開始。農家でも栽培が徐々に拡大しだが、価格変動の波の中で栽培面積も大きく変動している。
   
   呼称に関して概括すれば以下のとおりである。 
 
   
   ハスカップジャムの例
 冒頭で紹介した有限会社小澤農林の製品。凝固剤のペクチン等の添加物を使用していないタイプで、ヨーグルトに加えるには具合がいい。鮮やかな色が美しい。
 ハスカップ(haskap)の名はアイヌ語に由来して、北海道の特定の地域での呼称となっていた模様で、語感の良さから関連商品の呼称として広く利用されるようになったものと考えられる。アイヌ語辞典では ハシhas は柴の意で、カシカオマプ は柴の上のもの、その実などを意味するとしている(萱野 茂のアイヌ語辞典)。
 ハスカップの名はクロミノウグイスカグラかケヨノミか(はたまたマルバヨノミか)何も気にすることなく総称的に使えるから便利である。栽培農家にとっても毛が少し多いか少ないかはどうでもいいことで、一般的には別に識別で悩むような内容でもなかろう。
 
 語尾のカップのせいで、同様のパターンの商品名等の印象もあって、英語的な響きを感じる。他のカップのつく名称等としては、①トカップ②エスカップ③Dカップ・・・等が頭に浮かぶ。①は北海道池田町が有するワインの登録商標で、②はエスエス製薬のドリンク、③はもちろん、思わず顔をうずめたくなる魅力的なものである。
   
  <参考1:ハスカップの味-生食とジャムの試作>

 少ないながらも、ハスカップの果実が手に入ったことから、味を検分してみた。
 生食の場合は、甘さはやや弱く、酸味が強めである。やはり生食ではブルーベリーにかなわない。

 ついでに、ハスカップジャムを試作してみた。鍋にハスカップの果実と砂糖を投入してわずかな時間火にかけただけで、簡単に作ることができた。皮が軟弱さを感じるほどに薄いことから短時間でもできたものと思われ、また、薄い皮は食感を損ねることもなく、ヨーグルトにはぴったりの味であった。赤紫の色は非常に鮮やかで美しい。 
   
  <参考2:アロニア・メラノカルパの味-生食とジャムの試作> 

 アロニア・メラノカルパは北米原産のバラ科アロニア属の落葉低木で、北海道、東北の一部で栽培が見られる。これも、製品が赤(紫)色の色合いを呈するアントシアニン系果実のひとつで、〝アントシアニンがブルーベリーの2倍以上含まれる〟というのが、この果実・製品の申し合わせたようなキャッチコピーである。この果実が少々手に入ったことから、これも味を検分してみた。
 
 
 果実を付けたアロニア・メラノカルパ 果実は地味な印象で、おいしそうには見えない   色は黒色に見える。  生食では全然おいしくない。このままでは見向きもされない存在である。
 
   
 


 近年栽培が少し見られるようになったという。したがって、製品はそれほど一般的ではないが、通販でジャム、酢、乾燥果実等が販売されている例が見られる。

 見た目の印象どおり、やや堅めの果実で、生食するとわずかな甘みはあるが、苦みが先に立ち、食感も悪く全くおいしくない。

 市販品もあるから砂糖を加えてジャムにしようとしばらく煮込んだが、味も食感も悪いため、ミキサーにかけたところ、ますます食感が悪くなった。仕方なく砂糖を増量した上に食味改善のためクエン酸を加えて煮込み、布で漉して(大量のカスが漉し取られた)〝加糖果汁〟とした。これによりハスカップといい勝負の鮮やかな赤紫色の果汁となって、ヨーグルトに加えるにはまあまあの味の使える素材となった。

     加糖果汁の色合い

 色は鮮やかな赤紫色である。果実をつぶした場合の果汁の色は淡色であるが、ミキサーにかけたことにより皮に由来する色素が出たもののようである。
   
   追ってアロニアのジャムを試食することができた。地域物産のテント販売で製造者が持ち込んでいたもの(写真下)である。短時間で自家製造しようとして失敗したため、市販の製品がどの程度のものか気になっていたが、これを確認することができた。 
   
 

アロニアジャム
   砂糖をたっぷり投入して煮れば、大抵のものは(たとえ固有の糖分を含んでいなくても)おいしくなってしまうと思われるが、問題は食感・食味である。

 アロニア・メラノカルパについては、その食感に不安があったが、製品を口にしてみると、不思議と違和感はなかった。やはり、時間をたっぷりかけて煮込めば、克服できるものなのであろう。ジャムとしてふつうに利用が可能であることを確認できた。なお、もちろんわずかに苦みがあるが、これはこの果実の個性として受け止めるべきであろう。

製造者:自然工房 ななかまど 松倉洋子
 北海道旭川市東鷹栖10線16号
 
   
 
(参考品1)アロニア酢
製造者 中川酢醸造有限会社 上湧別工場
北海道紋別郡湧別町北兵村1区105-1
    (参考品2)アロニア寒天
   販売者 (株)壺屋総本店
  北海道旭川市忠和5-6-5-3
     (参考品3)アロニアグミ
   販売者 有限会社ピュアフーズとうや
  北海道虻田郡洞爺湖町洞爺町59-4
 
   
<参考3:ハスカップに関する図鑑等での記述内容(抄)>

(学名)

クロミノウグイスカグラ 
Lonicera caerulea ssp. edulis var. emphyllocalyx (樹に咲く花)
Lonicera caerulea var. emphallocalyx Naki (北海道樹木図鑑)
Lonicera caerulea ssp. edulis var. emphyllocalyx (朝日百科植物の世界)
Lonicera caerulea L. subsp. edulis (Turez)Hultén var. emphyllocalyx (Maxim) Nakai (平凡社日本の野生植物)
Lonicera caerulea L. subsp. edulis (Regel)Hultén var. emphyllocalyx (Maxim) Nakai (新牧野日本植物図鑑)
Lonicera caerulea Linn. var. emphyllocalyx (Maxim) Nakai (北海道植物教材図鑑)

ケヨノミ
Lonicera caerulea ssp. edulis var. edulis (樹に咲く花)
Lonicera caerulea var. edulis Turczaninov (北海道樹木図鑑)
Lonicera caerulea ssp. edulis (朝日百科植物の世界)
Lonicera caerulea L. subsp. edulis (Turez)Hultén (平凡社日本の野生植物)
Lonicera caerulea ssp. edulis Hultén (新版北海道の樹)

マルバヨノミ
Lonicera caerulea ssp. edulis var. venulosa (樹に咲く花)
Lonicera caerulea ssp. edulis var. venulosa (朝日百科植物の世界)
Lonicera caerulea L. subsp. edulis (Turez)Hultén var. venulosa (平凡社日本の野生植物)


(個別種の記述内容(抄))

クロミノウグイスカグラ

 スイカズラ科スイカズラ属の落葉低木。北海道、本州(中部地方以北)、千島、朝鮮半島、中国に分布。葉は両面とも有毛。花は黄白色、2個ずつ下向きにつく。花冠は漏斗状で先が5裂。果実は粉白を帯びた黒紫色に熟し、甘みがありおいしい。
ケヨノミ var. edulis とは識別が困難で、分布上も明らかな相違はない。ケヨノミの典型的なものは若い枝に長い軟毛がある。マルバヨノミ var. venulosa は全体にほとんど無毛で、葉脈が裏面に突出する。北海道ではハスカップと呼び、ジャムなどに利用する。【樹に咲く花】

・ 別名ハスカップとも。湿地周辺や亜高山帯に生える落葉樹。高さ2m、若枝や葉柄などは無毛、ケヨノミは毛が多い。
果実をジャム、果実酒名などに利用。【増補新盤北海道樹木図鑑:佐藤孝夫(亜璃西社)】

・ 北海道、本州(中北部)、朝鮮の山地に点在する。枝や花柄に細毛または長毛があり、ときに無毛。【平凡社日本の野生植物】

・ 本州北中部および北海道の亜高山帯の日当たりのよいところに生える.落葉小低木で高さ1mに達しない.若いとき、全体に長軟毛を密生するものをケヨノミ var. edulis Regel といい、北海道以北に産するが区別点は必ずしもはっきりしていない。ケヨノミとともにハスカップともいう。【新牧野日本植物図鑑】

・ 類似種ケヨノミ(ハスカップ)に比べて、全体に毛が少ないのが特徴。【北海道植物教材図鑑:北海道新聞社】


ケヨノミ

・ 別名ハスカップとも。高山や岩場、湿原周辺に生える落葉樹。高さ1m、若枝や葉、葉柄は有毛、全体に青白色。葉は両面有毛、時に裏面粉白色。対生する。【増補新盤北海道樹木図鑑:佐藤孝夫(亜璃西社)】

・ 日本では北海道と本州中・北部にあり、千島、サハリン、朝鮮半島北部、中国北部、モンゴル、シベリア東部に分布する。実の先に花冠が落ちた跡の“口”が二つあるのが特徴。
変種に、北海道南部から本州中部の高山に生えるマルバヨノミ(ふつう葉にも花にも毛がない。) var. venulosa と北海道中・北部と朝鮮半島の山地に分布するクロミノウグイスカグラ var, emphyllocalyx がある。【朝日百科植物の世界】

・ 北地の湿地に産する高さ1m以下の落葉低木。北海道の所々に産し、千島、樺太、朝鮮半島北部、中国北部、モンゴルシベリア東部に分布している。枝には長毛と短毛が混生。葉は両面に毛が多く、葉柄は短く毛がある。果実は青黒色に熟し、甘みがあり生食に適する。【平凡社日本の野生植物】

・ 高さ1~2mほどの落葉樹。花冠など全体に毛が多い。葉は対生(注:他の類似種も対生)葉形は変異が多い。果実はハスカップの名で栽培される。花冠など全体に毛の少ない型を変種マルバヨノミといい、ケヨノミとの中間の型を変種クロミノウグイスカグラとされるが区別は難しい。【新版北海道の樹:辻井・梅沢、北海道大学出版会】

・ 高さ1m前後の落葉低木。若い枝には軟毛が多い.葉は両面に毛が多い。花は新枝の葉腋から出る柄の先に2個ずつつき、基部には2対の小苞に包まれ合着した子房がある。花冠は長さラッパ状で先が均等に5裂し、外面に毛がある。果実は青黒く熟して食べられる。葉や若枝がほぼ無毛の型を変種クロミノウグイスカグラといい、ハスカップとして栽培される。【新北海道の花】


(栽培種) 「特産果樹」(社団法人 日本果樹種苗協会)より

・ 一般に、低地にはクロミノウグイスカグラが多く、ケヨノミは標高の高いところで多く見られる。栽培されているものは大部分がクロミノウグイスカグラである。

・ クロミノウグイスカグラの国内選抜品種としては、北海道立中央農業試験場が、昭和42年に苫小牧市の自生地から採取した株及びそれらに由来する実生株の中から選抜し、平成4年に品種登録された「ゆうふつ」がある。