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続・樹の散歩道
  人知れず密やかに花をつけ実を結ぶ植物
  ハラン(葉蘭)の奇妙な個性の一面を観察する


 ハランはふるさとの家の庭の隅に粗放的に植栽されていて、めでたいときの料理の敷物(搔敷 かいしき)にしばしば利用されていて、ごくふつうの生活に密着した存在であった。都市部の大きな公園でも意識して見れば随分多く植栽されているのを確認できるが、グランドカバーのアクセントような存在で、誰も鑑賞の対象としては見ていない。このハランが随分地味な花を地際につけているのを見たことはあるが、花の構造が一体どうなっているのかがふと気になり、さらに果実についても確認したことがなかったため、遅ればせながらまずは春の開花時期を狙って、ややほこりっぽく決して美しくもないハランをガサゴソとあちこちかき分けてみた。 【2017.5】 


 ハランのある風景  
     
    ハラン(葉蘭)はキジカクシ科(ユリ科)ハラン属の常緑多年草 Aspidistra elatior  バラン(馬蘭)とも。九州南部の宇治群島、黒島、諏訪之瀬島に分布。和名「葉蘭」は広い緑葉の様子からとされ、中国名「蜘蛛抱蛋」は、つぼみをクモが卵のうを抱えた様子にたとえたものという。多様な葉形・斑入りの品種が存在する。
 ハラン属は近年、種の記載が急速に進み、現在、日本~ヒマラヤ東部~マレー半島に約100種が認められていて、そのうち、中国の広西壮族自治区とベトナムに約70種が集中する(日本の野生植物)という。 
 
 
           大群落状態のハラン
 この公園内ではクスノキなどの樹下にハランが大量に植栽されている。ハランは裏方植物であるから、大量のハランについて枯れ葉をこまめに処理する余裕など無いようで、ワイルドに粗放管理(放置)されている。
           ハランの小さな株 
 ハランはワイルドなジャングル状態よりも、小振りな株の方が品があってよい。
   
          ハランの根際の様子
 ハランは地上茎をもたず、地下にほふく性の太い根茎(横に這う地下茎)があって、その節から直接葉柄を直立して披針形の大きな葉身をつける。主脈が隆起し左右不相称。また、葉柄は180度回転して(逆向きになって)出る(植物観察事典)とされるが、90度回転しているケースは確認したものの、180度回転しているかは根を掘らなければ確認できないのであろうか?
           衰弱気味のハラン 
 最近整備された公園で、日当たり良好な場所に珍しくも平面的に広く植栽されていたハランである。ハランはそもそも日があまり差さない環境に適応した植物と思われ、常時直射日光がカンカン当たる環境ではやはり厳しいのではないだろうか。葉が黄変(葉焼け)して元気がないようで痛ましい。素人仕事のようである。
 
 
2   ハランの花、果実、種子の様子   
     
   公園のハランは、上部に大きな木があると落葉が丈夫な茎の間に入り込んでしまって、根際の様子を確認するのに難儀する。また、都市部ではポイ捨てされた食品包装ゴミなどがしばしば混入していて、探索意欲が少々削がれてしまう。   
     
 
      ハランのつぼみ
 地面に接した蕾はキノコの親戚のような印象である。紫色の斑点がある。 
       ハランの花 1
 開き始めた状態である。 
       ハランの花 2
  紫色の大きな柱頭が姿を見せている。
     
      ハランの花 3
 花被は紫色(エビ色)・肉質・鐘状で8浅裂。傘状の柱頭がフタをしていて、中はまったく見えない。  
      ハランの果実 1
 この果実は半分土に埋まった状態である。やや小振りの果実では未成熟なのか淡褐色のものも見られた。上方に小さな蕾が複数みられる。 
       ハランの果実 2
 果実の成熟期については情報が得られない。花柱の痕が突起となっている。大きい果実では径が30ミリ前後であった。
     
    ハランの裂開した果実
 果実は液果とされるが、果皮は薄くて柔軟で、簡単に剥くことができ、液果らしくない。この果実では種子が14個入っていた。種子がまだ若い印象があるから、この果実は物理的な傷害を受けて割れたものと思われる。(4月上旬)
      ハランの若い種子
 薄い種皮を持つ種子は半透明の淡橙色で、特に若い種子は弾力のあるゼラチン菓子のようである。胚がうっすら透けて見えるため、その位置を知ることができる。乾燥が進むと萎縮してしまって茶褐色となった。
   ハランの若い種子の断面 
 種子の胚乳の中には白色の胚が見られる。位置はへその反対側で、その形状はたとえれば座薬風のロケット型である。
 
     
   4月時点で探索したところでは、写真を掲げたような果実とは別に、わずかな数の茶褐色で硬くなった種子が転がっているのが見られた。へその部分が灰褐色で陥没した形態で、これがいつ、どのようにばらけたものなのか、また、これこそが本当の成熟果実なのかは確認できない。

 ハランの増殖については通常株分けによるとされ、実生に関する情報は得られなかった。 
 
     
3   ハランの花をさらに観察すると・・・   
     
 
                花茎についた花の様子
 根茎の節(鱗片葉の腋)から花茎(花梗)を出して花をつける。花茎にも鱗片葉をもつ。
    ハランの花の基部の様子
 花の基部の鱗片状のものを何と呼んでいるのかは不明。
 
     
 
        ハランの花の蕾の断面
  柱頭はキノコのように見える。
          ハランの花の断面
 傘のように広がった柱頭が花筒の内部をキッチリ隔離したような形態となっている。雄しべは8個ある。黄色い花粉が底部に溜まっている。
 
     
 
   ハランの花筒の手前側を 
   除いた状態

 ハランの花筒を取り除いた状態 
 花柱の放射状の凸部は花被片と同じ8本ある。柱頭にはわずかにベタつき感があったが、正確な受粉部位はどこなのか明確な見解を見ない。
 ハランの花の柱頭の裏側の様子
 柱頭の裏側には傘の骨のような補強構造が見られる。 
 
     
 
    花被の内面についた雄しべ(葯)の様子
 花の解剖作業の影響で、花粉が葯の回りに散らかっ他と思われる。8個のうちの4個の葯の様子である。
      ハランの花の雄しべの付着状態
 ごく短い花糸か確認できる。葯はまだほとんど花粉を出していないため、湾曲した楕円形の葯の形がわかる。 
 
     
 小さな蕾、花、果実が同居するハランの生育パターンはどうなっているのか  
     
 長期にわたって観察する根性はないため、書籍での情報に依存しようとしたが、花期の情報にはややばらつきがあり、果期についてはまったく情報が得られなかった。春に観察したところでは、小さな蕾と、花、果実が同居していて、まとめて見ることができたが、特に果実について、本当の成熟期及や成熟過程の詳細がはっきりしないため、しばらくの間経過観察することにした。忘れなかったら、追って追記することとしたい。  
 
・  花はに地表すれすれのところで開く(園芸植物大事典) 
・  花は4-5月(原色日本植物図鑑、世界大百科事典) 
・  花は12月下旬~5月に地表で上向きに咲く(日本の野生植物) 
・  11月頃、茎の先端につぼみができ、翌年の4月に暗紫色の花が土ぎわに開く。(植物観察事典) 
・  果実は翌年まで残ることがある。(植物の世界) 
 
 
   【追記 2017.8】ハラン果実の成熟時期  
   ハランの果実の成熟経過を観察して、おおよその様子が判明した。花後に1年をかけて翌年の4月頃にむっちり大きな緑色の果実となり、さらに8月には褐色の果実や果皮が消失して種子が露出した状態のものを目にした。つまり、花は春に開花し、翌年の8月頃にやっと果実、種子が成熟するものと理解してよいと思われる。

 薄い果皮は裂開するものではなく、全体が劣化して消失する印象がある一方で、果皮の穴や欠損の形態から、虫が食べている可能性も感じた。若い種子は淡褐色でグミ菓子のような弾力を有していたのに対して、成熟種子では淡褐色の色ややや濃くなるとともに、かちかちに硬くなっていた。また、種子の一部が欠損しているものも見られ、これも虫がかじったのかも知れない。8月時点で確認した色々な状態の果実の写真は以下のとおりである。 
 
     
   <ハラン果実の成熟経過>   
 
ハランの果実 1
(比較用:4月時点) 
ハランの果実 2 
(以下は8月時点の様子)
ハランの果実 3  ハランの果実 4 
       
ハランの裸出した種子 1   ハランの裸出した種子 2
種子の一部が欠損している。
 ハランの裸出した種子 3  ハランの裸出した種子 4
 
     
   成熟種子は年を越して4月時点でもわずかに目にすることがある。逆にわずかしか残らないということは、何物かが種子を食べている可能性がある。地面に転がったままでは種子の散布ができないから、ひょっとすると種子を食べた何物かが散布しているのかも知れない。

 なお、ハランの種子を何度も植木鉢に播種して発芽試験を行っているが、胚乳部が腐敗する傾向があって、芽生えに至っていない。ところが知り合いの話では、種子を水に浸漬しておいたところ芽を出したため、植木鉢に移したものがスクスクと育っているとのことである。
 ハランの植栽地でも自然の実生は見かけないから、一応種子は作るものの、たくましい根茎で繁殖することに専念していて、実生繁殖にはほとんど頼っていないように見える。  
 
     
 ハランを巡る一般的な講釈で 近年軌道修正された内容  
 
(1)  ハランの原産地に関する見解  
 
 従来は中国原産と思われていたが、国内での自生があるとの説が示されている。具体的には九州南部の宇治群島、黒島、諏訪之瀬島のものが自生であるとの見解があり、これが認知されてきている。

 では、中国の図鑑では自国を原産としているのかであるが、中国植物誌をみると、中国の各地の公園に多数植栽されているとしているが、自国での野生種の存在に関する記述は見られない。
 
 
(2)  地際につけるハランの花の花粉媒介者(送粉者)に関する見解  
     
   ハランの花は葉に隠れて、しかも地面に張り付くようにして咲く(さらに落葉に隠れていることが多い。)ことから、従来はカタツムリ(蝸牛)やナメクジが花粉媒介者(ポリネーター)であろうと推定されていた中で、甲殻類の目のひとつの端脚類(陸生のヨコエビ類)が花粉媒介者である可能性を指摘する報告が発表されている。この報告が天下のNature ネイチャー に掲載されたものであったことから、その見解がしばしば引用されている。概要は以下のとおりである。   
     
 
    The aspidistra and the amphipod ハラン類と端脚(たんきゃく)類
      加藤 眞 Nature 377, 293 (28 September 1995 scientific correspondence)

 (抄訳)
 ハラン類は単子葉植物・キジカクシ目・キジカクシ科の変わり者で、地面に接して鐘型の花をつけ、ナメクジによって花粉媒介される珍しいものと考えられてきた。しかしながら、ハラン類の受粉の仕組みについては東アジアの本来の自生地での直接的な報告は未だ見られない。日本の自生地における最近の観察から、ハランは花粉を食べる陸生の端脚類によって受粉することが示唆された。

 ハラン類の最も珍しい特色は、大きな肉質の円盤状の柱頭が雄しべのついた花冠の下方・内面を完全に閉鎖していることである。Aspidistra lurida (訳注:中国、台湾に分布するハラン属の常緑多年草。中国名:九龙盘(九龍盤))の花柱はナメクジに対する誘引と報酬の役割を持ち、ナメクジは柱頭を少し食べて下方の雄しべに到達し、結果として受粉がなされるものと信じられている。(Richards,A.J)

 ハランは中国や日本で広く栽培されているが、日本の南部のわずかな小さな島だけに自生すると考えられている。鹿児島県黒島の高標高部(300-622m)では、常緑のカシ林が覆っており、その下層はハラン類が覆っている。我々は1995年の3月に、当地で花粉媒介者の訪花を観察した。
 柱頭が損傷した花は見られなかった。89個の花を抽出して解剖した結果、37%は以下のように様々な節足動物が訪れていた。

  等脚類   8%
  端脚類   8%
  トビムシ類14%
  シミ類     1%
  双翅類     3%(キノコバエ科の肉食幼虫)
  ムカデ類    2%
 
 28%の花では消化された花粉からなる黄白色の糞が見られたが、来訪者は確認できなかった。これらの花ではほとんどの花粉粒がなくなっていた。仮に生物によって花粉が食べ尽くされることがなければ、花粉は花の底に溜まっていたはずである。

 どの節足動物がこの糞を残したのかを見極めるため、ハランの花で最も頻繁に目にする以下の5種の節足動物を実験室で観察した

  コシビロダンゴムシ属の一種(甲殻亜門:等脚目:コシビロダンゴムシ科)
  トゲモリワラジムシ属の一種(等脚目:ヒメワラジムシ科)
  ニホンオカトビムシ(端脚目:ハマトビムシ科)  訳注:いわゆる陸生のヨコエビである。
  ムラサキトビムシ属の一種(昆虫綱:トビムシ目:ムラサキトビムシ科)
  Scolopocryptops 属の一種(唇脚綱(ムカデ綱):メナシムカデ科)

 これらの節足動物は花の中や周辺部から集めたもので、横に切ったハランの花と一緒にプラスチックケースに収めた。研究した節足動物の中で、端脚類とトビムシ類は花粉を食べ、端脚類はその生息地の花に残す糞と同様の糞を排泄した。島で唯一見られたナメクジであるイボイボナメクジはカタツムリを補食するが、決してハランの花を訪れない。

 ハラン属の葯は上部にある円盤状の柱頭からは隔離されているため、生物が訪花しなければ自花受粉はあり得ない。自生地で確認できる結実と端脚類が頻繁に訪花している形跡は、端脚類が最も有望な花粉媒介者の候補であることを示唆している。

 端脚類の花粉媒介者としての地位は、以下の証拠によってさらに強固なものとなる。

①   円盤状の柱頭と花冠の間には4個の小さな狭い穴があり、端脚類はこれを通って雄しべに到達できる。柱頭は雨や花を損傷する別の節足動物に対する防御としての働きがあり、さらに選ばれし花粉媒介者のための門となる。 
 端脚類は花粉を食べるために訪花し、体に花粉をつけてその花から去る。 
 端脚類は飛ぶことはできないが、非常にすぐれた跳ぶ虫(hoppers)であり、よって花粉を遠くに運ぶことができるであろう。 

(最後に、ハラン属が多数分布する中国南部でのさらなる調査の必要性を指摘している。) 
 
     
   ということで、ハランの原産地たる南の小島のひとつ(黒島)では、陸生のヨコエビがポリネーターである可能性が高いという内容である。一方、キノコバエの一種が花粉媒介者であるとする見解がある。   
     
 
 【昆虫の集まる花ハンドブック:田中肇 株式会社文一総合出版 2009.4.16】

 ハランは地上に直径3センチほどの赤褐色の花が咲き、かすかにキノコのようなにおいを発する。匂いに誘われて体長2.5 ミリほどのキノコバエが訪れ、雌しべの上にあるひだに産み込もうとする。そして雌しべの傘と花びらのすき間から花の内部に入ると、出てくるときは白い花粉にまみれており、花粉はハエについたままほかの花に運ばれる。
花に餌はなく、匂いでハエを誘い、だまして花粉を運ばせる。キノコバエの一種は雌しべの上で交尾する。 
 
     
   ハランの花とキノコバエの物理的な位置関係と移動の必然性がわかりにくく、またどこまで検証されたものかはわからないが、観察魔で知られる著者によるひとつの見解である。花にキノコの臭いがあるのかについてであるが、花冠部は青臭い匂いがあり、柱頭部は青臭さはなく、キノコ臭といわれればそうなのかなという程度の匂いがあるのを確認した。 

 さて、自分でも都内産の複数のハランの花を観察したのであるが、残念ながら花筒の中で陸生のエビちゃんが花粉をバクバク食べている姿は確認できなかった。また、体を花粉まみれにして徘徊しているその他の虫も見られなかった。わずかに見られたのは、1匹の小さなアザミウマのようなものだけで、これはポリネーターにならない。

 ハランは自生地とされる南の小島以外の国内で広く栽培されていて、現に都内でも豊かに結実している姿をふつうに見るが、果たしてこれらの花粉媒介者が誰なのかについては、地域による違いも含めて色々な可能性があると思われる。根気があれば誰でもこの件には参戦できるであろう。要はハランの花の花粉を体につけながら、花粉をムシャムシャ、モリモリ、バクバク食べている虫を現行犯として拘束し、同定(あるいは鑑定サイトに投稿)すればよいのである。

 こうした虫がハランの花粉を求めて花から花に渡り歩いていれば、他花受粉に貢献することになる。しかし、ハランのひとつの花の花粉量は多いから、小さな虫が複数の花をはしごするのか疑問がある。ハランは受粉に役に立つであろう虫を想定して変わった構造を選択しているが、せっかく複雑な構造を保持していても、案外ある虫が媒介することによる同花受粉が多いような印象がある。

 【追記 2017.12】

 ハランの花粉媒介に関して、国民の血税で運営されている神戸大学と森林総合研究所による鹿児島県黒島での調査により、遅ればせながらキノコバエが担っていたケースを再確認した旨の報告があり、先の田中 肇氏の観察結果を裏付けるものとなっている。 

 なお、先の加藤 眞氏の記事中、花粉媒介者がもぐり込む小さな穴が4つあるとしていることについて、特に意識はなかったため、念のためにハランの花の柱頭部の形態をもう一度確認してることにした。 
 
     
6   ハランの花の虫の通路(出入り口)を念のために確認すると・・・   
     
   下の写真で、矢印部分が4つの穴の箇所と思われる。      
     
 
     
  花筒の横断面で見た雄しべ
 花粉を食べる虫が目標とする雄しべの様子である。ふつうは8個であるが、写真の場合は9個見られる。 
    柱頭の縁の切れ込み 1
 傘の十字の方向に小さな切れ込みが見られ、これが小さな穴として虫の出入り口となっているようである。  
    柱頭の縁の切れ込み 2 
 切れ込みの大きさや形状は個体差が見られた。切れ込みの位置は柱頭の8個の放射状の突起があるうちの4個の部分の縁である。
     
     
    柱頭の縁の切れ込み 3
 傘の縁の形状は、8つのフリルのついたビーチパラソルのようである。フリルの欠けた8箇所のうち4箇所に切れ込みがある構造である。 
    柱頭の縁の切れ込み 4 
 フリルがある場所に向けて補強用と思われる骨が放射状に伸びている。この位置は柱頭の表側の放射状の突起の間に位置している。
 柱頭と花被片が接していた部分
 柱頭の上面には8個の放射状の突起にそれぞれ1~2条の溝があり、一方で花被片には1~2条の突起があって、これらがチャックのように噛み合っている。 
 
     
     
   <参考:カンアオイの花の様子と花粉媒介者>  
   カンアオイ類の花も一見するとハランの花に似た印象があるが、構造的には柱頭が花冠にフタをしているものでははく、のぞき込めば6個の花柱が立っている姿が見られる。花冠の内側には奇妙な格子模様がある。こちらも従前から、ネコノメソウ、オモト、クワズイモ、ミズイと同様に蝸牛(かたつむり)媒花で、カタツムリやナメクジによって花粉が媒介されるとの説もある。

 さらに、カンアオイ類では種子にエライオソームがあり、アリさんが種子を運ぶという。

 この花の個性的な形態にどんな機能があるのであろうか。花粉媒介者にとって何か都合のよいことがあるのであろうか。格子模様が単なる補強用のハニカム構造もどきであったら、ちっとも面白くない。 
 
 
 
      カンアオイの葉
 ウマノ スズクサ科カンアオイ属の多年草。 Asarum nipponicum
      カンアオイの花
 この花の本体は萼筒とされる。
   カンアオイの花の内部 
 雌しべは6個で花柱がつんと立っているが、雄しべは花糸がごく短くて12個あり、下方で花粉を出している。
     
   カンアオイの萼筒の内面 
 不気味な雰囲気が漂っている。 
     タマノカンアオイの葉
 名前は東京都の多摩丘陵で発見されたことによるという。 
 Asarum tamaense
     タマノカンアオイの花
 萼片の縁が波打っている。
 
     
   カンアオイの受粉に関しては研究報告が色々あるようであるが、一般向けの図書に次のような記述が見られた。   
     
 
 【フィールドウォッチング】
 ナメクジはタマカンアオイの花の中に侵入すると雄しべや雌しべを食べてしまうので、花粉媒介者とは見なしがたい。ケヤスデ、イシノミ、ハサミムシ、ワラジムシは萼筒内で同花受粉を助けていると思われる。最も有効な花粉媒介者はキノコバエ(双翅目昆虫、Cordyla の仲間)であろう。キノコバエは産卵のためにタマカンアオイを訪れ、萼筒の内壁のひだの間に卵を産み付ける際に受粉(注:同花受粉)を助けているであろう。(菅原 敬) 
 
     
   この見解を踏まえたものなのか、田中肇氏が以下のように述べている。    
     
 
 【昆虫の集まる花ハンドブック:田中肇】
 タマノカンアオイの花は褐色でしかも地表近くで咲く。キノコのような匂いにだまされ、幼虫が食べて育つキノコバエが来る。花の内部に並ぶ小さなくぼみがキノコのひだに似た感触で、キノコバエはそこに卵を産む。その際、体に花粉がつき、キノコだと思って訪れた次の花の雌しべに花粉をつけるのだという。キノコバエの卵はこの花の中では孵化できない。 
 
     
    ハランの花粉媒介者の論議に登場していたキノコバエがまた登場した。

 外界に露出していない植物は観察がしにくいのは確かで、地域的な違いの有無を含めた受粉システムの真相を理解するのはなかなか難しいようである。