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続・樹の散歩道
  ヘクソカズラが大好きな奇妙な虫など


 ヘクソカズラの葉の裏側に面白い虫がしばしば見られる。葉の表面が白くなっていれば、この裏側にほぼ間違いなく見られる。肉眼では葉裏の全面が何やら薄汚く見えるだけであるが、虫らしきものにターゲットを絞って拡大して見ればびっくりである。3ミリほどの小さい奇妙な虫を確認でき、その前翅と附属器官らしきものが繊細・精緻なステンドグラス工芸のように見えるのである。この工芸品的な自然の造形物の実に奇妙な形態と美しさには本当に驚かされる。 【2016.5】 


   ヘクソカズラの葉を吸汁する虫の正体   
   
   この虫の正体は近年広く知られるところとなっているグンバイムシ(軍配虫)の一種のヘクソカズラグンバイ Dulinius conchatus である。1996年に大阪府池田市で初めて発見されたという外来昆虫で、よりにもよってヘクソカズラの葉裏に取り付いて吸汁し葉を白変させる。国内で着実に分布を拡大している模様で、都内でも既にごくふつうの存在となっている。   
   
 
 
 葉表が白くなったヘクソカズラ 
 雑草であるから特に気にする人はいない。
      汚れた葉裏の様子
 
汚れはこの虫の付着性の糞と大小の多数の幼虫に由来する。
 食事中のヘクソカズラグンバイ
 
肉眼ではその質感を実感することはできない。 
 
     
 
       ヘクソカズラグンバイの成虫 2 
 網目模様の構造と透明の膜がまるでステンドグラスのようで美しい。頭部と背部の上には風船状の構造が見られる。
       ヘクソカズラグンバイの成虫 2
 左斜め上から見た様子で、背部の膨らみが案外高いことがわかる。 
   
         ヘクソカズラグンバイの成虫 3
 別の個体を左斜め上から見た様子で、こちらでは背部の風船には縦に割れが入っている。  
      ヘクソカズラグンバイの成虫 4(腹側) 
上方からは体の様子がわかりにくいが、こうすることで初めて頭を含めた体型がわかる。ストロー状の口がある。
 
     
 
 ヘクソカズラグンバイの成虫 5
この角度で頭部が少し見える。
  ヘクソカズラグンバイの幼虫 1 
  全身トゲだらけである。
  ヘクソカズラグンバイの幼虫 2 
 たぶん若い幼虫と思われる。
 
     
   この虫は突いていじめたり、葉から剥がしたりしない限りはじっとしていてくれるので、写真は撮りやすい。 
 体長は約3ミリほどで、カメムシのような吸汁のためのストロー状の口を持っている。実に不思議な形態で、前翅と意味不明の付属器官は上から見ると精緻・複雑なステンドグラス工芸のようである。前翅のステンドグラスは平板状のつくりであるが、付属器官としての左右の半球状の器官(翼突起、翼状突起)はガラスドームのようであり、さらに頭部と背部の上方に見られる風船状の器官(前突起、嚢状隆起)は、小さなガラスの楕円球体状である。眺めていてもこれらがどんな機能を有しているのかは全くわからない。(注:複雑な各部位の呼称や機能については、図鑑で詳細にわたる解説が見られないため、よくわからない。)
 この造形を本当にステンドグラスで製作したら、美しいインテリアになりそうである。

 なお、これとは別にヘクソカズラの葉をむしゃむしゃと食べる虫がいるようである。しばしばひどく食われた葉を見かける。犯人の姿はまだ目にしていないが、これを食草としているスズメガ科のホシホウジャクホシヒメホウジャクの幼虫の仕業とされる。
 
     
  <グンバイムシに関するメモ>

 グンバイムシ(軍配虫)カメムシ目(Hemiptera)グンバイムシ科(Tingidae)に属する昆虫の総称。 
 葉に白い斑点(かすり状の脱色斑点)が見られるのはこの虫に吸汁されていることを示す症状である。 
 英語名はその質感から lace bugs と呼ばれている。グンバイムシ科の昆虫は世界で約2000種,日本で約70種が知られている。 
 従前からツツジグンバイ、ナシグンバイ、キクグンバイなどが一般に知られている。さらに近年、侵入種として確認されているものがヘクソカズラグンバイ、プラタナスグンバイ、アワダチソウグンバイの3種とされる。
 多くのグンバイムシは翼突起前突起のデザインに実に多様性があり、まるで他種を意識して独創性と美しさを競っているようにも見える。  
 【世界大百科事典】
 小型の扁平な陸生カメムシで、大部分の種は体長2.5〜4.5mm、最大のものでも8mmに満たない。頭部は小さく、単眼を欠く。触角は4節で、第3節が最長。前胸背および前翅は細かな網目状となる。
 通常、前胸背には前方中央に帽状部、側縁に翼突起、後半に3本の縦隆起を備える。前翅は透明あるいは不透明な膜質で、革質部を欠き、水平にたたまれる。翅をたたんだ形が一見軍配に似るのでこの名がある。

注:奇妙な各器官の呼称は一定していない。
 
     
 2  その他の浸入グンバイムシ(外来グンバイムシ)2種の様子   
     
   そもそも、在来のグンバイムシに関して全く関心がなかったため、その様子を観察したことはなかったが、身近なヘクソカズラのグンバイムシがきっかけになったので、とりあえずは他の2種の浸入グンバイムシについても併せて様子を確認してみることにする。  
     
(1)  プラタナスグンバイ Corythucha ciliata   
     
   先のヘクソカズラグンバイは道端の雑草でもあるヘクソカズラに取り付く昆虫で、葉を白化させるものの、何しろ雑草であるから、多くの人はほとんど気付かないし、知ったとしても気にもされないに違いない。
 一方、実は都内でも街路樹として多用されているモミジバスズカケノキも既にプラタナスグンバイの餌食になっているようである。交通量の多い道路の街路樹として植栽されていたモミジバスズカケノキの少々白くなった葉を裏返してみてぞっとした。プラタナスグンバイの成虫がウジャウジャいて、葉は糞で汚れている上に大小の幼虫もウジャウジャで、身近な樹のひどい現実を実感した。しかしである。成虫を拡大して観察すると、今度は網目模様の枠が純白で、このことから英語でグンバイムシを指すレースバグズ lace bugs (レース虫)の名前のとおり、繊細なレース模様のようでこれもまた実に美しい。 
 
     
 
   
         プラタナスグンバイの成虫 1
  何ともおしゃれで優美な姿である。 
         プラタナスグンバイの成虫 2
  こちらの個体では頭の上の風船状の器官の下に辛うじて目が見える。
 
     
 
 
  プラタナスグンバイの成虫 3
  (腹側)
 
   プラタナスグンバイの幼虫 1
 プラタナスグンバイの幼虫 2
 
 
     
(2)  アワダチソウグンバイ Corythucha marmorata    
     
   葉が白みがかって怪しさを感じるヒメムカシヨモギが目に入り、早速葉裏を見ると案の定アワダチソウグンバイが取り付いていた。よく見れば、付近のキク科の雑草でも同様に餌食となっていた。

 やはり他種との違いを主張するかのようにデザインが異なっていて、翅と付属器官は白と単褐色のシンメトリーのまだら模様で、これもおしゃれで美しい。色艶から受ける印象は、まるで甲殻類のようである。前翅の小室の中心部のみが透明である点は前出の2種と異なっている。また、よく見ると小室の枠部分にはよく目立つ鋭いトゲが多数あって凶悪さを秘めているようにも見え、クリンゴン星人の宇宙船のデザインにも応用できそうである。 
 
     
 
   
       アワダチソウグンバイの成虫 1
 標準的な色合いのアワダチソウグンバイである。
      アワダチソウグンバイの成虫 2
  この個体は少々色が濃いタイプである。
   
   
       アワダチソウグンバイの成虫 3
 たまに淡色のものが見られた。成虫となって間もないことによるものであろうか。   
      アワダチソウグンバイの成虫 4(腹側)
 3種の装いは個性的であるが、体の本体の形態はほとんど同じである。 
   
   
             成虫の上半身
 成虫の編み目の枠部分には鋭いトゲが見られ、この点は3種とも共通している。
         アワダチソウグンバイの幼虫
 全身トゲだらけの様子は3種とも共通している。
 
     
 3  浸入グンバイムシは経済的な被害を引き起こしているのか   
     
   従前から国内で確認されているいわば在来のグンバイムシとしては、ナシ、リンゴ、サクラなどに寄生・加害するナシグンバイ Stephanitis nashi、ツツジ類につくツツジグンバイ S. pyrioides、アセビ、カキなどに寄生するトサカグンバイ S. takeyai、キク類を食害するキクグンバイ Galeatus spinifrons などが著名(世界大百科事典)とされるが、特に重大な被害を引き起こしているとの情報は目にしない。ただし、庭木では美観を損なうことから、適合薬剤が提供されており、また、果樹では一般的な害虫防除の際に十把一絡げで対応している模様である。

 新たな浸入グンバイムシのうち、ヘクソカズラグンバイについては寄生植物が雑草たるヘクソカズラであるため、行政の関心外となっている。プラタナスグンバイについては自治体が管理する街路樹の美観を損ね、アワダチソウグンバイについては寄生植物がアワダチソウに限らず、園芸種や一部で農作物にも及んでいる例があることから、各県等が警戒していて、関係情報が一般に提供されている。

 浸入グンバイムシは着実に国内で分布域を拡大してきた経過があるものの、現状ではとんでもない被害をもたらすまでには至っていないようである。   
 
     
 4  在来種代表のツツジグンバイ   
     
   ついでなので、在来種のグンバイムシの例として、ツツジの木があれば必ず見られるツツジグンバイStephanitis pyrioidesに登場願うことにする。ツツジは庭木、庭園木として多用されているほか、都市部の歩道脇にも多く植栽されているから、この虫はたぶんどこにでも生息していると思われる。点々と白くなった葉を裏返してみれば、簡単に見つかるごく普通のグンバイムシである。   
     
 
         ツツジグンバイの成虫 1
 やはり、皆さんそれぞれに個性あるデザインが異なっているのは驚きである。写真の右下に変なものが見える。
        ツツジグンバイの成虫 2(腹側)
 
 
     
   ツツジグンバイムシの写真を見ると、黒くて平たい虫のようなものが写り込んでいる。以前にカゴノキのヤスマツコナジラミこちらを参照)を見たことがあるが、調べてみるとやはりコナジラミの一種で、ツツジに取り付く ツツジクロコナジラミ Aleurolobus rhododendri と判明した。都内ではどこにでもはびこっている。
 暗褐色の艶やかな蛹殻には白い謎めいた紋章のような模様があり、体周には長くて艶のある毛(これがロウ物質であると説明している例を見る。)を持っている。 
 
     
 
          ツツジクロコナジラミ 1
 ありふれた存在となっているが、詳しいことはわからない。拡大して見ればデザイン的にも美しい。
        ツツジクロコナジラミ 2
  デザインはキッチリ同じで様式化されている。 
 
     
   【追記 2016.9】   
   ネジキの葉裏で見られたトサカグンバイ   
     
   ネジキの葉裏でも満遍なくグンバイムシが取り付いているのを確認した。トサカグンバイ Stephanitis takeyai の名があり、
アセビやネジキで多く見られるグンバイムシとして知られている。

 1匹だけ取り付いていた葉を持ち帰って撮影しようとしたところ、いきなりブーンと飛んでいってしまったが、再度捕獲し、透明の容器に拘束してやっと撮影できた。なかなか落ち着きのない虫であった

 アセビやネジキはツツジ科の樹木であるが、この虫は同じツツジ科のツツジ類に取り付くツツジグンバイ(前出)と前翅の模様が似ている。よく見ると、頭の周辺のデザインが少々異なっている。ざっと見た限りでは、トサカグンバイでは頭の上の風船が暗色で周囲に毛が見られ、翼突起はやや低いように見える。 
 
     
 
          トサカグンバイの成虫 1         トサカグンバイの成虫 2(腹側)
   
       トサカグンバイの成虫 3 (頭部)      トサカグンバイの成虫 4 (頭部・側面)
 何とも仰々しい兜を身に着けているものである。
 
     
   【216.10 追記】   
   リンゴの葉裏で見られたナシグンバイ   
     
   ナシの木の葉裏でナシグンバイの幼虫をしばしば見かけたが成虫がなかなか見つからず、リンゴの木の葉裏を見たところ、こちらで成虫を拘束することができた。リンゴの葉の上にいても、あくまでナシグンバイである。バラ科樹種の葉を好むことが知られている。
 
 姿を観察すると、前翅の模様はツツジグンバイやトサカグンバイと似ている。しかし、グンバイムシでは珍しく、頭の上の風船が垂直方向に薄くて小さいため、上方から目が見える。翼突起は丸く張り出している。 
 
     
 
          ナシグンバイの成虫 1         ナシグンバイの成虫 2 (腹側)
   
        ナシグンバイの成虫 3 (頭部)     ナシグンバイの成虫 4 (斜め上方から)
 
     
 【2017.7 追記】  
   アブラチャンの葉裏にもグンバイムシがザワザワと見られた。姿形は限りなくトサカグンバイに似ているが、同定に自信がないため、とりあえずは「トサカグンバイ?」とする。    
     
 
 アブラチャンのトサカグンバイ? 1 アブラチャンのトサカグンバイ? 2 
   
アブラチャンのトサカグンバイ? 3  アブラチャンのトサカグンバイ? 4