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続・樹の散歩道
  フウセンカズラの花は両性花なのか あるいは
  雌雄同株なのか それとも雑居性なのか 


 フウセンカズラは風船状の果実や、面白い模様のある種子が個性的であることから人気があり、しばしば公園等での植栽が見られるほか、野生化しているともいわれていて庭先で栽培する人も多く、ときに果実や種子をおすそ分けしてもらえることもある。花の構造も個性的なようであるが、自分で栽培したものでもない限り、花をバラして観察するのは困難である。おおよそのことを知りたいと思っても、外来種であるためか、国内の図鑑では例えば花の性型に限っても触れている事例は限られている。そこで、まずは種子を植えて、花が咲いたらじっくり観察することとして、とりあえずは既存の情報によりフウセンカズラの花の様子について調べてみることにする。 【2019.3】 


    フウセンカズラの葉、花、果実
 お馴染みの風景で、3稜のある風船状の果実がかわいい。葉は互生で2回3出複葉。
    フウセンカズラの花
 総状花序に小さな花をつけ、萼片、花弁は4個、さらに中央に小型の花弁状の鱗片が4個見られる。黄色の部位については後ほど確認する。
   フウセンカズラの種子
 個性的な模様があって親しまれている種子の様子。
 
     
 フウセンカズラムクロジ科フウセンカズラ属のつる性草本。 Cardiospermum halicacabum
 本来は多年生草本とされるが、温帯で栽培される場合は一年生草本扱い。原産地については国内の図鑑等では北米(南部)原産としていることが多く、他地域のものは帰化したものと見なす見解があるほか、世界の熱帯、亜熱帯に広く分布し、中国にも分布しているとの見解があり、一方で原産地ははっきりしないと正直に記述している例もある。
 英語名のうち Balloon Vine は和名の元になったものであろう。その他 Heart Pea, Heart Seed Vine などがある。
 中国名は 倒地铃 が一般的で、地上に落ちる姿を鈴に見たてている。ほかに和名と同じ风船葛 の名もみる。果実は(下方が裂開し)地上に落ちた後に風に吹かれて転がってゆき、種子を散布するとした記述(世界の植物)をみるが、国内でこうした風景が一般に見られるのかは確認していない。

  フウセンカズラの果実、かわいい種子及び芽生えのくわしい様子はこちらを参照)
 
 
 フウセンカズラの花の性型に関する諸情報  
 
 フウセンカズラの花の性型に関する記述情報例  
 
資料 フウセンカズラの花の性型に関する記述例
A: 園芸植物大事典 フウセンカズラ属の花は単性または雑居性で、腋生の総状花序につく
(フウセンカズラの花の性型についての個別具体的な言及はない。)
B: テキサス大学
       biosci.utexas.edu 
フウセンカズラ花は両性で、左右相称 
C: 植物の世界  フウセンカズラは集散花序に少数の両性花をつける。 
D: 日本植物生理学会
    みんなのひろば
フウセンカズラの花はふつうは雄しべも雌しべも備わった両性花です。しかし雄花、雌花の単性花もあるようです
E: シンガポール国立公園局 フウセンカズラ雌雄同株で、同じ植物体に雄花と雌花が見られる
F: Flowering Plants of the Galápagos:
     Conley K. McMullen
フウセンカズラの花はふつう単性(植物は雌雄同株)で、ときに両性で、腋生の花序につく。
G: 世界の植物  フウセンカズラ雌花と雄花が雑居している。 
H: 中国植物誌  フウセンカズラ属(中国名:倒地铃)の花は単性で、雌雄同株または雌雄異株である。
さらに、フウセンカズラ(中国名:倒地铃)の説明で、雄花と雌花に固有の属性を区別して書き分けている。)
I: 中国高等植物図鑑  フウセンカズラ花は雑性、両性花と雄花。 
 
     
 図鑑等の記述は見事にバラバラで、見ただけでめまいがするほどで悩ましいが、これらを眺めても着陸地点は見いだせない。

 そこで、花の外観をざっと見た印象に基づけば、フウセンカズラの花は、雌雄同株又は両性花と雄花が混在している可能性を感じるが、本件はとりあえずは保留とし、あとで観察して検討する。 
 
 
 
     フウセンカズラの雄花と思われるもの
 のぞき込んでも雌しべの柱頭は見えない。
   フウセンカズラの雌花又は両性花らしきもの
 
3裂した花柱が雄しべよりも伸び出ている。花柱はときに4裂している。
 
    注:以下記述の便宜上、写真での上方2個の花弁を「上花弁」、下方の2個の花弁を「下花弁」と呼ぶことにする。  
     
 フウセンカズラの花の構造に関する詳細情報  
 
 フウセンカズラの花の構造に関しては、国内の図鑑では詳細な記述がないが、これが分布するとされる中国の「中国植物誌」や、その他英語サイトでも詳しい情報が得られる。以下は「中国植物誌」「フウセンカズラ属」および「フウセンカズラ」主として花に関する説明部分を抜粋・編集・統合したもので、まずは学習用素材として記録に留め、現物と照らし合わせる際の基本資料とする。  
     
 フウセンカズラCardiospermum halicacabum L. 倒地铃属 倒地铃 中国植物誌(抄)

 フウセンカズラはつる性草本で、葉は互生、2回3出複葉で、托葉は小さく早落性。つる長約1~5メートル。茎、枝は緑色で、5または6稜と縦溝があり、稜上を皺曲柔毛が被う。(以下、葉に関する説明は割愛する。)

 少数の花をつけた円錐花序は、長さが葉に近いかやや長い。総花梗は直で長く、長さ4~8センチ、第一対の分枝は変態して巻きひげまたは刺状となる。巻きひげは螺旋状。苞片と小苞片は錐状(?花は単性で、雌雄同株または異株で(:下線のフレーズは、フウセンカズラ属について述べたものである。属内を包括した表現と思われ、フウセンカズラ単独でこの表現となるのかは不明。)、左右対称、細長く関節のある花梗をもつ。

 萼片は4個で縁毛に被われ、瓦状に配列し、外側の2片は円卵形で、長さは8~10ミリ、内側の2片は長楕円形で、外面の2片の約2倍の長さがある。

 花弁は4個で(隣り合った)2つずつが対をなし、乳白色、倒卵形、それぞれの内面の基部付近には大型の鱗片(?があり、外側の(隣接した)1対の花弁(注:下花弁を指す)の鱗片は左右不対称で、背面には広い翅状の付属体があり、内側の(隣り合った)1対の花弁(注:上花弁を指す)の鱗片の上端は折れ曲がって毛に被われ(?、その背面の頂部近くには鶏冠状の付属体(?がある。花盤は分裂していて2個の大きな腺体状の裂片をなし(?、内側の1対の花弁基部に位置する。

 雄しべ(雄花)は8個、長さは花弁と同じくらいかやや長く、花糸はまばらで長い柔毛に被われる。

 子房(雌花)は倒卵形または時に球形に近く、短い柔毛に被われ、3稜角があり、3室、花柱は短い。胚珠は室ごとに1顆、中軸の中部に着生する。

 蒴果は膨張し嚢状、梨型で貝独楽状倒三角形または時に楕円形に近く、3室、果皮は膜質または紙質で、脈紋があり、高さ1.5~3センチ、幅2~4センチ、褐色で短柔毛に被われる。

 種子は室ごとに1顆あり、球形に近く、黒色で光沢があり、直径約5ミリ、種臍(種子のへそ)は心形、若いうちは緑色、熟すと白色となる。胚には大きな子葉があり、外側の1片はアーチ型で、内側の1片は二つ折りとなっている(?

 花期は夏秋で、果期は秋から初冬である。

 中国では東部、南部、西南部でごくふつうに見られるが、北部では少ない。広く全世界の熱帯と亜熱帯地域に分布する。全株薬用となり、味は苦、性は涼で、清熱利水、凉血解毒と消腫等の効果がある。


 具体的な図または写真による説明がないと、文中の「①~⑦」のイメージがさっぱりわからない。やはり、現物の花や種子を解体しないことには、らちがあかない。 
 
 
3   フウセンカズラの種子の胚の検分  
   「胚の子葉の外側の1片はアーチ型で、内側の1片は二つ折りとなっている(?   
     
   まずは、フウセンカズラの種子の胚について、中国植物誌で外側の1片はアーチ型で、内側の1片は二つ折りとなっているとしているが、現物で胚の子葉がどのように収まっているのかを確認してみた。   
     
 
     フウセンカズラの種子の胚 1
 種皮を除いた丸い胚は、尖った幼根のみが確認できるが、全体がアルマジロのように丸まっていて、2個の子葉がどのように収まっているのかは、この外観からは判断できない。
     フウセンカズラの種子の胚 2
 キッチリ締まった子葉を少し緩めると、外側の1片は大きく湾曲し、内側の1片は外三つ折り(蛇腹三つ折り)となってることが確認できた。中国植物誌の説明と少し異なっている。
 
     
   せっかくの機会なので、フウセンカズラと同じムクロジ科のムクロジ(ムクロジ属)の種子の胚の様子も確認してみた。   
     
 
       ムクロジの種子の胚 1 
 厚くて硬い果皮の中で胚は太めの胚軸と幼根を出し、やはり子葉がフウセンカズラと同様にアルマジロのように丸まって収まっている。
       ムクロジの種子の胚 2 
 子葉を少し緩めると子葉の収まり方がはっきりし、外側の1片は単純に湾曲し、内側の1片はフウセンカズラの場合と少し異なっていて内三つ折り(巻き三つ折り)となっていた。
 
     
   植物の種子の胚の形態はいろいろで面白い。胚乳の中に小さな胚が鎮座していることがあれば、トチノキやクリのように巨大な子葉に栄養をため込み、子葉を閉じた状態で地上に置いたままにして発芽するものがあったりと多様である。旧ムクロジ科の仲間は、多分胚の子葉を縦方向に丸めていて、発芽すれば直ちに長い子葉を吹き戻しのように展開し、わずかな光合成を行いつつ子葉の栄養を成長のために供給し、程なく役割を終えて脱落するようである。    
     
 フウセンカズラの花の検分  
 
 フウセンカズラは屋外では4月に播種するのが一般的とされるが、11月に室内で植木鉢に播種し、様子を見ていたところ、程なく芽ばえて、2個の肉質の長い子葉を展開し、細い茎をスクスクと伸ばした。追って対生の3小葉を出し、その後3出葉の葉を互生に出し続け、1月下旬には花を付け始めた。
 フウセンカズラの花は径が4~5ミリほどで小さく、各部位の詳細を確認するのは難儀であるが、次に可能な限り中国植物誌の記述内容を確認することにした。
 
   
 
    フウセンカズラの花序
 葉腋から出た茎の先に小さな花序をつけ、手前に巻きひげが対生している。
      フウセンカズラの萼片の様子
 十字型に萼がつき、写真の縦方向(内側)のものが横方向(外側)のものよりもはるかに長い。
 フウセンカズラ
 の茎

 複数の溝がある。 
 
     
(1)  苞片と小苞片は錐状(?   
   葉や巻きひげの基部に托葉を確認できるほか、これと紛らわしいが、花序の基部と個々の花柄の基部に鱗片のような葉が確認できる。前者がで、後者が小苞と理解すればよいのであろうか?    
     
 
      フウセンカズラの葉柄基部の様子      フウセンカズラの花序の周辺の様子 
 
     
(2)  それぞれの花弁の内面の基部付近には大型の鱗片(?がある   
   2個の上花弁2個の下花弁のそれぞれの内側に見られる小型の花弁状のものを「鱗片」と呼んでいると解される。花を分解すると、鱗片としているものは花弁の基部近くについているから、これは「花弁の付属物」と理解してもいいのではないかと思われる。したがって「鱗片」ではイメージが広すぎるから、むしろ「副花冠(片)」と呼んだ方が馴染むように思われる。
(ということで、以下「副花冠(片)」と呼ぶことにする。) 
 4個の副花冠は花弁よりも閉じ気味の形態となっているから、蜜への経路を狭めて、少しでも送受粉を確実に行うための構造であると思われる。
 
     
(3)  外側の(隣接した)1対の花弁の鱗片は左右不対称で、背面には広い翅状の付属体がある   
   2個の下花弁の内側で見られる鱗片(副花冠)を指しているが、ものが小さいこともあって、左右不対称としている点は確認しにくい。「鱗片の背面に翅状の付属体がある」としている点について、現物では鱗片の腹面(向軸面)に2個の補強板のような翅を確認できた。図鑑とは 位置が違っているほか、ささいなヒレ状のものを「付属体」と呼ぶのは大げさで違和感があり、本件はペンディングとする。。  
     
 
 
    フウセンカズラの1個の下花弁と副花冠 1
 
    フウセンカズラの1個の下花弁と副花冠 2 
 矢印部分がヒレ状になった部分である。雄しべに必要以上に密着しないようにするための補強板のように見える。
 
     
(4)  内側の(隣り合った)1対の花弁の鱗片の上端は折れ曲がって毛に被われ(?、その背面の頂部近くには鶏冠状の付属体(?がある。   
   2個の上花弁の内側にある鱗片(副花冠)には毛があって、先端が垂れ耳のように曲がっており、さらに別途黄色い部位が先端についていて、これを「鶏冠状の付属体」と呼んでいることが確認できる。これについては納得である。
 なお、黄色い色はふつうに考えれば蜜標(蜜がなければ虫寄せ)の機能を有しているものと思われる。 
 
     
 
       フウセンカズラの上花弁と副花冠        フウセンカズラの1個の花弁と副花冠 
   
    フウセンカズラの上花弁の副花冠の付属体 1    フウセンカズラの上花弁の副花冠の付属体 2 
 
     
   上花弁の副花冠は下花弁の副花冠と随分異なっている。上花弁の副花冠では、たぶん、黄色の付属体でこちら側にポリネーターを招いて、内側を覆った長めの毛でポリネーターを雄しべの葯側に押しやって、送受粉の成功率をできるだけ向上しようとする構造と思われる。   
     
(5)  花盤は分裂していて2個の大きな腺体状の裂片をなし(?、内側の1対の花弁基部に位置する   
   2個の下花弁の内側基部には2個白い線体状の突起が確認でき、これを指しているものと理解できる。蜜腺体となっている可能性が高いと思われるが、蜜がしっとり出ている姿は確認できなかった。     
     
   と、以上のとおりである。花が小さいから、図鑑の記述内容について、現物に照らして確認するだけでも容易ではないが、おおよそは納得できた。ただし、文中では触れなかったが、本図鑑では1対の上花弁が内側、1対の下花弁が外側にあるとして記述しているが、この点に関してはよくわからなかった。

 なお、花弁の内側の鱗片(副花冠)について、一部の個人ホームページでこれが「花盤である」としている例があって、広く引用、コピペされているが、たぶん何かの理解違いと思われる。調べてみると、英語でも petaloid appendage花弁状の付属物)と呼んでいる。
 
     
5   フウセンカズラの花の花性について   
   
   目にした2種類の花の雄しべと雌しべの観察が不可欠であり、その様子は以下のとおりである。    
     
 
   
  フウセンカズラの雄花と思われる花の
  雄しべ

 葯が花粉を出し始めている。雌しべの子房や花柱が確認できない。雄しべは8個。
  フウセンカズラの雌花と思われる花の
  雄しべと雌しべ

 3裂した花柱をもつ雌しべの子房が大きいが、雄しべは花粉を出していない。雄しべは8個。 
   
  フウセンカズラの雄花の貧相な雌しべ
 小さな退化した雌しべがあり、花柱も3裂している。
  フウセンカズラの雌花の3裂した花柱 
 雌しべの柱頭は小さな突起が覆っている。上方の黄色のものは、上花弁の副花冠の付属体である。
   
 
   フウセンカズラの雄花の雄しべの葯
 葯が裂開して花粉を出している。 
    フウセンカズラの雌花の子房の断面
 胚珠が確認できる。この花では花柱が4裂していた。
 
     
 花性について、栽培中の個体をざっと見た限りでは、雌花雄花が存在しているように思われた。雌花の雄しべはしっかりしていて、その外観は一見すると退化しているようには見えないが、花粉を出していなかった。図鑑によっては、両性花と雄花が存在するとしている例が見られるが、雌花では花粉を出さない雄しべがしっかりしているために、これを両性花と誤認している可能性が考えられるが、個体によっては雄しべが機能を持った両性花が存在するのかも知れない。  
 
 メモ:
 上記で、雄花、雌花とした区分でとりあえず記述したが、いつも感じることながら、本当のところは基本的には両性花としての潜在的な能力をもつものの、植物自身が全体バランスを考えて、雌花はエネルギーを消耗するから一部の花の雌しべの子房のみを成熟させることとして、その他の多くの花では雄しべの葯のみを成熟させているに過ぎないような印象を受ける。つまり、雄しべや雌しべが不完全に退化したように見える雌雄同株の植物では、雄花と雌花は完全に分化したものではなく、植物が生育の過程で生理的なコントロールをした結果としか思えない。