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樹の散歩道
  樹皮の豊かな表情 (ミニ樹皮図鑑)


 木々の樹皮にはそれぞれ個性があって、特にその個性が強いものについては樹皮を見ただけで同定できるものも多い。また落葉時期には樹皮は有力な識別情報となり、図鑑類でも樹皮の写真を掲げているものが多い。中には樹皮の写真を重点的に掲載した図鑑も存在し、その場合は1枚の写真では対応できない樹齢による変化も示すため、複数の樹皮写真を掲載していて、時に参考となる。
 これら多様な樹皮の表情は、いろいろな視点でグループ分けすると記憶を整理できるし、並べてみるだけでも面白い。以下は各地でメモ代わりに撮影した樹皮写真の例である。【2012.6】


   樹皮は樹体を保護する役割を担っているのであろうことは見ればわかるが、その対応の方式が自ら選んだのか、成り行きなのか、そもそもその外観にあまりの幅があって、必然性があるものなのかはよくわからない。
 マツの樹皮は次々に内側から形成される樹皮をほとんどそのまま残して、結果として径が大きくなるにつれて自ずと亀裂が生じることになる。
 ナツツバキのようなツルツルの樹皮の場合は、薄い樹皮を次々と脱ぎ捨てて、結果として地衣類やコケなどは付着するスキもないといった風情で、常にきれいな状態を維持している。

 ところで、例えばブナの樹皮は決してぺらぺら剥がれることもなく平滑であるが、ふと疑問を感じた。そもそも径が徐々に大きくなる(肥大する)にもかかわらず、なぜ表面の平滑さを維持できているのであろうか。ゴムのように自在に伸張しているのか、あるいは目視できないミクロのレベルで少しずつ樹皮表面の剥落が生じているのであろうか。しかし、表面の地衣類が安定した姿を示しているのを見ると、特に後者の現象は考えにくい。この点に関してはわかりやすい講釈を聞いたことがない。 
   
 1  ツルツルの樹皮   注:印は樹齢の違い等で複数回登場するもの。以下同様。
   ツルツルの樹皮はよく目立ち、しかも誰もがペチャペチャと叩き、なでさする。  
   
 
 
ヒメシャラ    サルスベリ 1 
  (中国原産)
サルスベリ 2 
よそ様のお庭植栽樹
ナツツバキ  シラカンバ *
 
 
シマサルスベリ 1  シマサルスベリ 2   リョウブ  バクチノキ  クイズ
(正解は最後) 
   
 2  滑らかな樹皮 
   
 
ヤブツバキ  エノキ  エゾエノキ  アオハダ  ブナ 
 
ヤマハンノキ イスノキ *中径  アオダモ  フジキ  ホオノキ 
 
ハクモクレン  アオギリ  オオバボダイジュ  コシアブラ  アズキナシ 
   
 3  縦にペラペラ剥がれる樹皮 
   
 
ヒノキ  アサダ  オーバータヒッコリー
(北米原産) 
トウカエデ
(中国原産) 
ユーカリノキ 
(オーストラリア原産)
 
ムラサキハシドイ
(ヨーロッパ原産) 
ネジキ  クロビイタヤ  クロミサンザシ  ムクノキ *中径 
   
 4  横にペラペラ剥がれる樹皮 
   
 
シラカンバ *   ダケカンバ ウダイカンバ  ヤエガワカンバ  ヤエガワカンバ
(部分) 
   
 5  ペカペカ剥がれる樹皮 
   
 
カゴノキ  モミジバスズカケノキ
(交雑種) 
ヤマボウシ  アキニレ  ケヤキ 
 
イチイガシ  アカガシ  ニッケイ  カリン
(中国原産) 
イスノキ *大径 
 
サンシュユ
(中国等原産) 
ナギ  シマトネリコ  シロマツ  ムクノキ *大径 
   
 6  ゴツゴツひび割れる樹皮 
   
 
ヨーロッパシラカンバ
(ヨーロッパ等原産) 
クロマツ  エゾノコリンゴ  ハナミズキ
(北米原産) 
カキノキ 
   
 7  深浅縦割れの樹皮 
   
 
ハリギリ  ヤチダモ  サワグルミ  ハルニレ  ミズナラ 
 
スギ カツラ  カイリョウポプラ
(交雑種)
ヨーロッパクロマツ
(ヨーロッパ等原産)
セコイアメスギ
(米国原産)
   
 8  チクチクの樹皮 
   こうした刺は、明らかにほ乳類の接近を拒否していることを感じる。  
 
サイカチ  カラスザンショウ  タラノキ  ジャケツイバラ 1  ジャケツイバラ 2 
 
ハリギリ *小径  サンショウ 1  サンショウ 2  アメリカサンザシ
(北米原産)
 
ウコギ 
   
 9  模様となる樹皮 
   
 
イヌシデ  ミズキ  アカメガシワ  イチョウ
(中国原産) 
ムクノキ *中径 
   
10  皮目の目立つ樹皮 
   
 
キンモクセイ  ヤマナラシ  ドロノキ  イヌエンジュ  タブノキ 
 
イイギリ  ネムノキ  ハシドイ  エゾヤマザクラ  ネズミモチ 
   
11  コルク質の樹皮
   
 
アベマキ  アベマキ(部分)  コルクガシ 1
(地中海沿岸域原産)
コルクガシ 2  マルバチシャノキ 1 
 
マルバチシャノキ 2
(部分) 
  キハダ 1 *小径 キハダ 2  キハダ3  こんにちは! 
   
   
  <参考:樹皮写真を掲載した図鑑の例>

 樹皮ハンディ図鑑:梅本浩史(永岡書店 287P)→ 原則として樹種毎に3枚の樹皮写真を掲載
 樹皮ハンドブック:林 将之(文一総合出版 80P)→ 原則として樹種毎に3枚の樹皮写真を掲載
 樹皮・葉でわかる樹木図鑑:菱山忠三郎(成美堂出版)→ 樹種毎に複数の樹皮写真を掲載
 樹に咲く花(山と渓谷社)
 葉っぱ・花・樹皮でわかる樹木図鑑(池田書店)  
   
  *クイズの正解コンクリート電柱でした。なお、ケヤキの人工林では、本当に遠目に樹皮が電柱のように見える。  
   
  <参考:メモ>

 随分前のことであるが、ある知り合いが「樹皮から樹種を同定できるようなわかりやすい図鑑がないものだろうか・・・」と言っていたことを思い出した。それがどういう事情であったのかは記憶がないが、たぶん、落葉期の同定に役立つものがあればという思いであったのかも知れない。

 しかし、どんなに美しい樹皮の写真を多数掲げた図鑑があったとしても、同定の修行が十分でない場合にあっては、いきなり樹皮から樹種を同定しようとするのはほとんど無理なことと思われる。したがって、樹皮の写真に特化した図鑑はあくまで写真図鑑を部分的に補完する存在であり、フィールドで役に立つものとは思えない。

 森林調査、植生調査のベテランは、落葉時期でもホイホイと同定できるのは、十分に樹種の特徴を体感的に身に付けているからで、その場合、高木であれば樹皮の表情は有力な判断材料となるはずであるが、そもそも不断の努力による目慣らしができているから樹皮の表情も一つの情報として活用できるということなのであろう。