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続・樹の散歩道
   「品川巻き」の試練


 「品川巻き」とはもちろん細長いあられに海苔を巻いた古くからあるもち米原料の米菓で、広辞苑でも認知されている。かつて品川あたりが海苔(江戸前浅草海苔)の生産地であったことに由来する名称とされ、いつまでも変わらない日本の味である。海苔とあられ・おかき・せんべいとの相性のよさは、ご飯と海苔の相性のよさと全く同じであることをしみじみと感じる。そして、海苔を使った米菓、海苔巻き寿司、おにぎりはきっと永遠に不滅であろうことを確信することができる。
 さて、日本伝統のあられの一つの共通の仕様でもある品川巻きであるが、このいかにも日本的な製品が、またもや残念なことに中国でも生産され、激安製品が輸入されている厳しい現実を確認した。【2013.6】  


    品川巻きの名称は決して登録商標ではないから、国内の多くの事業者がこの名を使用しており、一方、同様の仕様の製品であっても、必ずしも品川巻きの名を使用しているものでもない。
 また、形態的にもベースとなるあられの太さや大きさもいろいろであり、さらに、平たいかき餅に海苔を付けた製品までの間に連続的な形態的変化が見られ、どこまでが品川巻きかなどという定義などはないから、このことにこだわることもない。あくまで、もち米のあられと海苔のハーモニーを楽しめばよい。
 全く個人的に、こうした製品が大好きという理由で、3種類の品川巻き仕様の製品を並べ、これらを比較することで現実を直視することにした。
 
     
 @  事例1   
     
 
名  称:米菓 品名:品川巻
原材料:もち米、海苔、醤油、砂糖、調味料(アミノ酸等)、でん粉、(原材料の一部に小麦、大豆を含む)
内容量:90g(525円)
100g当たり583円

あきおか 東京都品川区北品川
 
 
     
   まさに品川当地の品川巻きである。創業明治28年の老舗で、旧東海道に相当する北品川本通りに店を構えている。この店の品川巻きはかなりスリムな形態である。そこで店で話を聞いてみると、製品としての品川巻きは、時代により仕様を変更しているとのことである。かつてはもう少し太めで、帯のように真ん中だけに海苔を巻いていたが、食感のよさを求めて現在の仕上げとしたとのことである。細いから海苔を手で巻くのは手間がかかりそうである。単価はやはりやや高めであるが、海苔の艶がよく、上品な印象である。   
     
 A   事例2  
     
 
名  称:米菓 品名:金盃 のり巻あられ
原材料名:もち米(タイ)、醤油(大豆、小麦)、海苔、砂糖、増粘剤(加工でんぷん)、調味料(アミノ酸島)
内容量:35g(105円)
100g当たり300円

製造者:株式会社旭屋 大阪府堺市
 
 
     
   こちらはダイソーで販売されていた製品であるが、タイ産のもち米使用で、どちらかといえば普通の単価の一般的な製品といった印象である。   
     
 B  事例3   
     
 
名  称無選別 徳用海苔巻き
原材料:米(中国産)、海苔、砂糖、しょうゆ、デキストリン、ガーリックパウダー、食塩、オニオンパウダー、かつおパウダー、加工デンプン、調味料(アミノ酸等)、パプリカ色素、香辛料抽出物、(原材料の一部に小麦、大豆を含む)
内容量:160g(105円)
100g当たり66円!

原産国名:中国
販売者:二幸商事株式会社 東京都台東区東上野
 
 
     
    これもダイソー扱いの製品で、何かの間違いではないかと思わせるような安さであった。中国産の米で中国国内での製造で、百円(税抜き)で160gと安さでは突出していて、その単価たるや@の製品の何と8分の1以下である。安定的に商品が入っているようでもない。  
     
C  事例4 【2015.10 追記】   
   (2014.4.1から消費税率変更)   
 
名称:米菓 品名:海苔巻ミックス(久助のり巻きあられ) 
原材料:もち米(タイ産)、しょうゆ、砂糖、海苔、はっ酵調味液、デキストリン、食塩、魚介エキスパウダー、たんぱく加水分解物、加工でんぷん、ソルビトール、調味料(アミノ酸等)、カラメル色素、乳化剤、酸味料、香辛料抽出物
内容量:200g(321円) 100g当たり160.5円
原産国:タイ(製造は国内)
製造者名:株式会社サンコー 愛知県名古屋市
(ハナマサでの販売用)
 
     
    残念ながらAとBは店頭では見なくなったが、これは健在である。「久助」となっているが、実際には割れはごくわずかで、日常用としてはお気に入りの製品である。添加物は賑やかであるが、この程度のものは気にならない。ただし、@の製品におけるは添加物の種類が少ないことが際立ってしまう。  
     
   以上、サンプルとしての3製品であるが、特に@とBを比較するのは過酷なことである。
 いつものことながら、中国の原料価格と人件費を考えれば同様の製品ではとても太刀打ちできるものではないことは明らかであるからである。しかも、Bの製品は、海苔の巻き付けこそややそそっかしいが、味に関しては特に問題は感じない。この手の製品に限らず、日本の事業者が技術指導している例が多いから、この製品の場合も同様としか思えない。 日本の先端技術でも、退職者が短期間だけ厚遇されることで、企業秘密に相当する技術さえ垂れ流されている現実あるから、食品などはいとも簡単に同等の製品を製造する技術を身に付けることができると思われる。輸入販売者する事業者はそれでいいが、旧来の製造者にとってはたまらない現実である。今回のケースでは、伝統の製品は結果として日常用と言うよりは上質な贈答品街中散歩人のお楽しみ用として棲み分ることで生き延びているものと思われる。

 こんなことを言いながら、実は先のBの製品を初めて見たときには、その安さに感動して、少々不安を感じつつも、ついつい3袋もまとめて買ってしまった。自家用となると、どうしてもこうした行動となってしまう。

 なお、海苔(乾し海苔)に関しては幸いにも国産品が健在である。しかし、怪しげな激安韓国産乾海苔が、産地の明示がないままにいつの間にか加工食品に浸透しているという話も聞く。

 以下は今回参考として調べた海苔に関するメモである。 
 
     
  <参考1:江戸前浅草海苔のメモ>

 江戸時代に幕府の許可を得て海苔づくりを行った村々は、現在の品川区域では品川宿の海晏寺(かいあんじ)門前、品川寺(ほんせんじ)門前、南品川宿、品川猟師町、大井村、太田区域では不入斗(いりやまず)村、大森村(当時は東・西・北大森村の3村)、糀谷(こうじや)村とされる。
 東京湾という場所の宿命で、後年の東京港の埋め立て計画に伴い、昭和38年春に江戸時代から続いた当地での海苔づくりは残念ながら幕を閉じている。
 
現在、江戸前海苔を名乗っているのは東京湾の千葉県側に置き換わっていて、千葉県の富津市、木更津市、船橋市、市川市が主な産地となっている。

 このことをかつての元祖江戸前海苔を担っていた地域から見れば、心境は複雑であるに違いない。大森海苔のふるさと館限定で販売されていた製品(大森本場乾海苔問屋協同組合が選定したもの)は、千葉県産ではなく、有明産であった。
 
     
 
        大森 海苔のふるさと館 
       (東京都大田区平和の森公園2-2
) 
              同
 
     
 
     海苔づくり用の竹製の粗朶木
 浅瀬にヒビと呼んだ竹の粗朶木(そだぎ)を建て、その枝に育った海苔を採取している風景
(大森 海苔のふるさと館 展示写真)
 
        海苔づくり用の「海苔網」
  昭和30年頃からは竹ヒビに代わって海苔網が使用された。 (大森 海苔のふるさと館 展示写真)
 
     
 
      品川最後の海苔乾燥風景(昭和38年)
      (品川区 展示写真)
         海苔簀(のりす)
 海苔の表面(裏側)には必ずこの模様が残っている。
(大森 海苔のふるさと館 展示品)
 
 
     
  <参考2:浅草海苔の名前の由来に関するメモ>   
     
 
 1  大森 海苔のふるさと館の展示資料 
   
 
その1:  昔は浅草で採れたことによるとする説
古い時代には浅草まで海の入り江で、その地で海苔採られていて、それを浅草海苔と呼んだというもの。
その2:  浅草寺の門前で売られていたことによるとする説
昔、海苔が浅草の金龍山浅草寺門前(現在の仲見世)で売られていて、土地の名前から浅草海苔と呼ばれたというもの。
 
その3:  浅草紙と同じ作り方であったことによるとする説
昔、浅草辺りでは古い紙を利用した再生紙「浅草紙」が作られていて、板海苔にする方法が、紙を漉く方法に似ていたことからこの名になったというもの。
 
 
   平凡社世界大百科事典 
 
 干しノリの総称を浅草海苔というようになったのは江戸初期からのことで、品川、大森あたりで養殖採取したノリを浅草で製品化し、その品質の良さがうたわれたためだという。