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続々・樹の散歩道
 ナンヨウスギ、チリマツ、パラナマツ、カウリマツ・・・ 
 国内で見かけたナンヨウスギ科の仲間たち


 南方系のナンヨウスギ科の奇妙な樹木をしばしば見ることがある。植物園はもちろんであるが、これとは別の集客施設周辺の緑化木として利用されていることもある。何れの場合も、珍奇なものを見せるサービスであることは共通している。これらの樹名板を見ていて気づくのは、和名を持つものが意外に多いことで、このことは特に屋外での栽培が可能なものについては導入された歴史が比較的長いことを示しているように思われる。ただし、同属の樹種ではよく似た印象があって、特定の施設で多くの種類をまとめて植栽している例はないから、比較検分する機会は案外ないのが現実である。そこで、復習と整理を兼ねて、あちこちで目にした本科の仲間たちの写真を拾い出して、基本的な情報をまとめてみることにした。【2022.2】 


  ナンヨウスギ科Araucariaceae は太平洋を囲む南半球の大陸及び島々を中心に分布する針葉樹で、3属40種ほどが知られているという。葉がスギに似た形状であることからこの名があるようであるが、日本にスギがなかったらアラウカリア科と呼んでいたかも知れない。元祖がどちらかはわからないが、中国語でも「南洋杉科」である。系統的にはスギ科とは全く関係がなく、針葉樹のほかの科と遠く離れた分類群である可能性が高い(植物の世界)ともいわれ、その珍奇な枝振りや葉の形態は異端児的で実に興味深い。  
 
 ナンヨウスギ属  
 
 本属では約20種が知られている。この属の樹種で、植物園等にしばしば植栽されているものにはちゃんど和名が与えられている。葉の様子は珍奇なスギ風のものとコウヨウザン(スギ科。新分類ではヒノキ科)を思わせるようなものが見られる。中国語ではやはり「南洋杉属」であるが、英語名はふさわしいものが無いようで、何れも○○パイン(pine)で、すべてをパインで片付ける扱いは日本民族にとっては少々違和感がある。  
 
 ナンヨウスギ Araucaria cunninghamii
  英語名:Hoop pine フープパイン
 
     
          ナンヨウスギの外観
 この雰囲気は見慣れた風景とは明らかに違う。
           ナンヨウスギの葉
  確かに、杉の葉と少し似ている。
 
 
 
 ・  ニューギニア島やオーストラリアに自生する植物で、スギに似た葉を付ける大高木。樹皮が横方向に箍(たが)のように剥離するという特徴がある。日本には明治時代中期に導入されて、国内でも鉢植えや庭園樹にされている。(植物の世界) 
 ・  葉は幼木ではらせん葉序、成木の葉では枝上で重なり合ってつき、両面に肋があリ、鱗片状。(新樹社:樹木) 
 ・  葉は2種類あって、若木や側生の枝のものはらせん状に配列して、披針形ないしは長三角錐形で5~15cm、まっすぐに鋭く尖って広がり、全縁で緑色ないしは灰緑色であるが、老木の葉は短くて互いに重なり合って、湾曲している。(熱帯の有用樹種) 
 
 
 チリマツ Araucaria araucana  ヨロイスギ(鎧杉)とも
  英語名:Chilean pine , Monkey puzzle モンキーパズル
 
 
チリマツ  チリマツの鋭い葉 
 
 
 ・  南アメリカの南緯37度以南、アンデス山脈の両縁に分布する高木。傘状の樹冠を形成する。葉は硬くて先端が鋭く、サルも登るのに窮するだろうということで、「モンキー・パズル monkey puzzle 」という英名もある。種子は大型で食用になる。(植物の世界) 
 ・  葉は鱗片状、10~15年間は枝や幹に残存し,落葉しない。(新樹社:樹木) 
 ・  成樹になると丸型になり下方の枝を失う。
 (A-Z園芸植物百科事典) 
 
 
 パラナマツ Araucaria angustifolia  ブラジルマツとも
  英語名:Parana pine パラナパイン
  ブラジル名:Pinheiro do paraná ピニェイロ・ド・パラナー
 
     
 パラナマツ パラナマツ 
 
 
 ・  ブラジル、パラグアイ及びアルゼンチンに分布する。チリマツより葉が細く軟質。種子は食用となる。南米諸国で植林されている。(植物の世界ほか) 
 ・  ブラジルのパラナ州に多いことからこの名がついた。日本には明治末期に渡来。(樹名板) 
 ・  IUCN は本種をCritically Endangered (CR) - (深刻な危機、近絶滅種、絶滅危惧種)としている。
( iucnredlist.org) 
 
 
 ヒロハナンヨウスギ Araucaria biduwillii  ヒロハノナンヨウスギとも
  英語名:Bunya-Bunyaブンヤブンヤ(ブニャブニャ)、Bunya pine ブンヤパイン
 
 
 ヒロハナンヨウスギ ヒロハナンヨウスギ 
 
 
 ・  オーストラリアのクイーンズランド州周辺を原産地とする。球果が長さ約30センチと大きい。種子は食用となる。(植物の世界) 
 ・  成木の葉は卵形、小枝に重なり合ってつく。アボリジニにとって神聖な木であり、また堅い殻を持つ大きな種子が食用になることでも重要。(新樹社:樹木ほか) 
 ・  日本には明治末期に渡来。(樹名板) 
 
     
   シマナンヨウスギ Araucaria heterophylla  コバノナンヨウスギ、ノーフォークマツとも 
  英語名:Norfolk island pine ノーフォークアイランドパイン
 
     
 
 シマナンヨウスギ(コバノナンヨウスギ)  シマナンヨウスギ(コバノナンヨウスギ)
 
     
 
 ・  南太平洋のノーフォーク島原産。ナンヨウスギに似た細い針葉を特徴とし、しばしばナンヨウスギの名で園芸用に売られている。整った円錐形端正な樹形のため、鉢植えや暖地の街路樹として日本でも人気が高い。(植物の世界) 
 ・  葉は幼木では細く尖り、成木ではうろこ状。(新樹社:樹木) 
 
     
   クックパイン Araucaria columnaris  アラウカリア・コルムナリス、コーラルパインとも 
  英語名:Cook pine , New Caledonian pine , the Coral reef araucaria
 
     
 
   
クックパイン(温室栽培)  クックパイン(温室栽培) 
 
     
 
 ・  ニューカレドニア原産の樹高60mに達する高木。(植物の世界) 
 ・  葉は幼木では針形、成木では三角形に近い。(新樹社:樹木) 
 
     
   クリンキーパイン  Araucaria hunsteinii  アラウカリア・フンステイニイ 
  英語名:Klinki pine
 
     
 
 ・  ニューギニアに分布する大高木。葉はナンヨウスギとヒロハナンヨウスギの中間的形態を示す。(植物の世界) 
 ・  若木はピラミッド形、成木になると樹冠の頂きは平らになる.(新樹社:樹木) 
 
     
   ナンヨウナギ属(ナギモドキ属、アガティス属)   
     
   本属では約20種が知られる。葉は一般に属名のとおりナギ(マキ科)に似て、十字対生又は偽対生する。この属の木材は専ら「アガチス」と呼ばれて、国内では当たり前のように広く利用されていて、珍しくも何ともないが、植栽樹を見ることは非常に少ない。総じて気候条件が適合しないともいわれている。
 中国名は「貝殻杉属」となる。英語ではKauri カウリが総称名となっていて、個々の樹種も○○kauri としているのが一般的であるが、一部にまた「パイン」を付した名も登場する。 
 
     
 
 ・  日本ではカウリマツやダンマルジュ、ダンマルマツなど、ナンヨウナギ属の種を総称して「ナンヨウナギ(南洋薙)」とよぶ。スギに似たナンヨウスギに対して、マキ科のナギに似ていることから和名がつけられた。属名の「アガティス」はギリシャ語で「手鞠」を意味し、本属樹種の丸い球果の形に由来する。多くの樹脂を含み、採取される樹脂はコパールとよばれ、ニスやペンキの原料として用いられる。(植物の世界) 
 ・  原産地はニュージーランドで、オーストラリアのクイーンズランド、ニューカレドニア、ニューヘブリデス、フィジー、ニューギニア、ソロモン、フィリピン、ボルネオ、ジャワ、スマトラ、マラヤ、インドシナ半島など南太平洋並びに東南アジアに広く分布している。
 アガチスの天然林の南限は、ニュージーランド北島のオークランド北部であったが、植林が行われ南島にも及んでいる。最も広範囲に分布しているものは Agathis alba で、前記の分布全域特にジャワに多く見られる。(熱帯の有用樹種) 
 
     
  <参考:葉の形態が似た国内で見られる他の種の例>   
 
    マキ科ナギ属のナギ Nageia nagi
 日本、中国等に分布する裸子植物の変わり者。
    キジカクシ科ナギイカダ属のナギイカダ
 葉は退化していて、葉に見えるものは茎とされる。地中海沿岸原産のお馴染みの小低木。 Ruscus aculeatus 
 
     
   カウリマツ Agathis australis = Agathis australe  カウリ、カウリパインとも
  英語名:Kauri カウリ , Kauri pine カウリパイン , 特に同属他種と区別する場合は、Southern kauri サザンカウリ, New Zealand kauri ニュージーランドカウリの名がある。 
 
     
 
             カウリマツの葉
 いかにも異国の樹木といった風情で、葉は厚く頑丈で、前出の葉の薄いナギとは全く違う印象である。 
      カウリマツの巨大根株(土埋木由来)
 広島県内の温泉宿泊施設「女鹿平温泉クヴェーレ吉和」の前に展示されている。経営主体が木材関連事業も行っていて、ニュージーランドの所有地内で掘り出したものとしている。手前のベンチは記念写真用である。
 ■女鹿平温泉クヴェーレ吉和
    広島県廿日市市吉和4291 
   
   
            上記根株の説明看板
 
この看板では「ビッグカウリ」、「アガチス」とだけ表記し、種名は明示していないが、Big Kauri , Large Kuri , Huge Kauri , Giant Kauri として言及されるものは通常カウリマツを指している。
 
     
 
 ・  ニュージーランドの北島に分布する高木。葉先は丸く、葉質は角質で、ナギにはあまり似ていない。ニュージーランドでは、カウリマツの古代の森林があった場所の地下に、琥珀状になった化石コパールが堆積しており、カウリコパールとして新鮮な樹脂とともに重要な商業資源となっている。(植物の世界) 
 ・  樹皮は灰色から紫色のまだら模様。マオリ族はこの材でカヌーをつくった。(新樹社:樹木) 
 ・  カウリKauri の名はマオリ語より。ニュージーランドでは最大材積の樹木で、現存する最大材積のカウリはTāne Mahuta タナマフタ(マオリの森の主の意)の名があり、樹高51.5m、幹周り13.77m、材積244.5m3ある。(teara.govt.nzほか)
:データはいろいろあり 
 ・  クヴェーレ吉和の館内の売店では、カウリマツのクラフト製品が販売されていた。その材の質感は、国内で一般的に見られるアガチス材とは少々異なる印象があった。なお、ニュージーランドの現地では、わずかに残るカウリマツの天然林は保護対象となっていて、伐採は禁じられている模様である。  
 
     
  <参考:アガチス材の様子>   
     
 
   お馴染みのアガチス材である。
 この輸入材は、例によって木材業者が勝手に自分の都合でナンヨウカツラ(南洋桂)とか新桂ナンヨウヒノキ(南洋檜)とか呼んで、消費者を惑わしている。

 カツラの代替材としての印象が強く、引き出しの側板、ドア材、折り将棋盤、折り碁盤などの材料としてよく目にする。

 なお、この写真の材がアガティス属(ナンヨウナギ属)のどの樹種なのかはさっぱりわからない。本属の輸入材の樹種別のシェアも不明。 
 
     
  <参考:ナンヨウナギ属の種名不明樹>   
 
   
 天下の筑波実験植物園でも同定が困難なようである。   ナンヨウナギ属(アガティス属)の一種(温室栽培)
 本種では前出のナギの葉とそっくりである。
 
     
   ダンマルジュ Agathis dammaraA. loranthifoliaA. alba
  英語名:Indonesian kauri 
 インド、マレーシア、フィリピン及び東南アジアの島々に分布する種で、葉はナギに似る。カウリマツと同様に樹脂(現地でダマールと呼ばれる)の採取が行われ、マニラコパールノキシンガポールコパールノキなど産地に応じた名前で呼ばれる。(植物の世界)
 
     
   ダンマルマツ Agathis robusta  クイーンズランドカウリとも
  英語名:Queensland kauri
 オーストラリアのクイーンズランド州周辺が原産地とされる。(植物の世界)
 葉は堅く、成木では葉は線形から楕円形。(新樹社:樹木) 
 
     
   アガティス・コルバッソニイ Agathis corbassonii
  英語名:Corbasson's kauri
 ニューカレドニア島の北半分にある標高300~700mの地帯のみに分布。伐採により激減し、危機に瀕している。(フローラ)  
 
     
   アガティス・オウァタ Agathis ovata   
     
   アガティス・ランケオラタ Agathis lanceolata   
     
  <参考:コーパル>
 

 ナンヨウナギ属の樹脂はコーパルCopal として知られ、樹脂を生産するものとして、東南アジアではAgathis alba 、ニュージーランドではAgathis australis が特に知られている。コーパルの最優良品は地下で長い年月を経て堅硬した地下コーパル(Damar tanah)で、光沢ある淡黄色を呈する。特に古代の樹の下には大量の化石樹脂が地下2~3mのところにあり、Kauri gum カウリガムと称して琥珀状の透明な塊となっており、特に良質なことで知られている。(熱帯の有用樹種) 
 なお、日本語の表記としては、「コパール」とも表記されるが、英語の発音は「コウパル」の音に近い。
 
     
   ウォレミマツ属(ウォレミア属)   
     
   ウォレミマツ Wollemia nobilis が本属唯一の種。ナンヨウスギ属とナンヨウナギ属の中間的植物で、1994年にオーストラリアのシドニー郊外ウォレミ国立公園内で発見された。葉は大きく細長い披針形で枝上に4列に並ぶ。(植物の世界) 
 国内の植物園等では広く植栽されているが、特に面白味はないため、全く目を引いていない。。
 
     
 
   
        ウォレミマツの幼木         ウォレミマツの葉
   
 左の説明板の記述内容(抄)

 裸子植物木本の新属記載は非常にまれで、20世紀最大の植物発見といわれている。中生代(2億年前)から絶滅せずに残った種と考えられており、原始的な外部形態を持ち合わせていることから、「生きた化石」とよばれている。(筑波実験植物園)