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続々・樹の散歩道
街路樹や緑化木としてのヤマモモのある風景
街路樹の突然の大きなヤマモモの果実にビックリ!!


 街路樹としてのヤマモモは、マテバシイと同様に地味な常緑の便利屋樹木として広く利用されている。ヤマモモは雌雄異株で、一般にどのような選定がなされているのかは承知していないが、身近な場所でも10ミリほどの径の何とも貧相な果実をつけている姿はふつうに目にすることができる。また、公園や庭園の緑化木としても目にするものは、なぜか総じて果実が小さいことが多いように感じる。ところが、まれに径が30ミリほどもあるむっちり大きな果実をつけている場合があって、果実の大きさの差が激しいことに驚かされる。確かにヤマモモでは径がピンポン玉大の40ミリにも達するほどの中国伝来とされる大きな実をつける栽培品種の苗木も販売されているようであるが、街路樹や緑化木は株の雄雌や果実の大きさ自体は関心の対象ではないから、苗木生産者が提供するものをたぶん素直に受け入れているものと思われる。この結果が目にする風景となっているのであろう。  【2019.8】 
注: 以下、10ミリ前後の果実をつけるものを小果系、20ミリ前後の果実をつけるものを中果系、30ミリ前後の果実をつけるものを大果系と呼ぶことにする。 


 ヤマモモの様子   
     
 
 
           ヤマモモの栽培園の果実の様子(高知県香美市)
 果実は成熟前であるが、中果系の印象であった。
 ヤマモモ(山桃)はヤマモモ科ヤマモモ属の雌雄異株の常緑高木 Morella rubra (Myrica rubra)で、 日本、中国、台湾、フィリピンなどに分布。中国名は杨梅(楊梅)
 ヤマモモの名は、字義のとおり「山のモモ」の意味で、山に自生して食べられる果実がなる樹というところから名づけられたものと受け止められている。中国ではヤナギのような葉をもった梅に似た果実をつける樹木と見ているのとは異なっている。
 ヤマモモは高知県の県花であり、また、徳島県では県木に指定されている。
 
     
 
   比較的大きな鋸歯を持ったヤマモモの葉の例
 葉はふつうは全縁であるが、しばしば鋸歯が見られ、特に幼木や芽生えでは深い鋸歯が見られる。鋸歯のある葉は先祖返りと信じられている。
           ヤマモモの芽生え
 写真は芽生えの例で、2個の子葉と深い鋸歯を持ったヤマモモらしからぬ本葉が確認できる。 
   
          ヤマモモの葉の葉脈
 透過光で葉脈がクッキリ見える。
         ヤマモモの葉裏の油点
 葉裏には淡黄色の透明な油点が散生し、これには芳香のある成分を含むという。よく見ると菊最中のような放射状の模様が見られる。
   
      花粉を放出中のヤマモモの雄花序
 これを見ても雄花の構造はわからない。花粉はサラサラと流れ落ちる。 
    裂開し始めたヤマモモの雄花序の雄花
 雄花、雌花とも花被はなく、雄花序では密に多くの雄花がつき、雄花には雄しべは5~8個あって、苞腋の2~3個の小苞に包まれる表現される。葯は2室で縦に裂ける。 
   
        ヤマモモの雌果序の様子
 雌花序は1センチほどと短いが、赤い花柱が目立つ。
       ヤマモモの雌花序の雌花
 赤い花柱は深く2裂している。 
 
     
 都内の街中で目にしたヤマモモの果実の大きさの多様性  
 
          小果系のヤマモモの果実の様子(径10~12ミリ)
 写真を見ただけでは果実の大きさがわからないが、小粒の果実はこの写真のように多数が密集して実り、大粒の果実の場合は果序につく実の数が少ない。 
 小粒の果実は残念ながら果肉が薄くてほとんどが核であり、果汁も少ないため、積極的に口にする気にはなれない。目にした範囲では、小粒の果実をつけるヤマモモは、葉も全体に小振りであった。
 
             中果系のヤマモモの果実の様子(径20ミリ前後)
 街路樹、緑化木では、この程度の大きさの果実であれば上出来である。ヤマモモの果実の甘酸っぱい果肉部分は、外果皮が液質に肥大したものとされ、表面には密に粒状の突起がある。 
 
            大果系のヤマモモの果実の様子(径約28ミリ )
 街路樹で見かけた30ミリ級の果実の例で、大果系の栽培品種が混入したのであろうか。
 これだけの大きさがあると、果肉がひときわジューシーで、ヤマモモの果実の本当の味を堪能できる。この際、多少のヤニ臭があっても自然の風味であり、全く気にならない。
 これがヤマモモの果実で、食べられることを知らない人が多いのはもったいないことであるが、被害が抑制されることにつながるから幸いである。
 
     
 
              大果系のヤマモモ果実
 果実は傷みやすいため、長距離の輸送には難があり、店頭で販売されている姿は見たことがないが、
     中果系果実の果肉断面
 果肉の断面を見ると、表面の突起が組織的に真っ直ぐに内部につながっているのがわかる。外果皮には見えない。 
 
     
 
                     大果系、中果系、小果系ヤマモモ果実の比較
 
これだけ大きさに差がある果実は珍しいように思われる。大きな果実を口にすると、小さな果実は馬鹿馬鹿しくて食べられない。写真の大果の径は28~32ミリ、中果は15~16ミリ、小果は10ミリほどである。
 
                大果系、中果系、小果系ヤマモモ果実の核の比較
 核は扁平な卵形で中には1個の種子が入っている。
 念のために果実の大小が核の大きさに反映しているのかを見てみると、核の大きさは果実の大きさがそのまま反映していることがわかる。核はモモと同様に淡褐色の毛に覆われていて、果肉の離れがよろしくないため、写真撮影のために果肉を除去するのに苦労した。果肉の離れのよい品種が望まれるところである。
 写真の大果の核は、縦12ミリ×横10ミリ×厚味7ミリほどで、小果の核は、7×6×4.5ミリほどである。
 
     
 
         核を割って取り出した種子の様子
 核は厚く頑丈で、写真は核を縦に割って種子を摂りだした状態である。 
         種子の子葉
 種子は無胚乳で2個の子葉からなる。
 
     
   身近なヤマモモの果実でジャムづくりに挑戦する人がしばしばいるようである。径が10ミリ程度の小粒の果実では、核を除くための裏ごしに際して大変な苦労を強いられるようである。それもそのはず、小粒の果実では果肉は薄く、ほとんどが核といった状態にあるからである。径が30ミリほどの果実(たぶん栽培品種であろう。)であれば、果肉がたっぷりで、果汁がしたたるほどであるから、生食の食感は良好であり、もちろん、ジャムづくりも楽が出来ると思われる。

 ヤマモモは徳島県や高知県など、一部の県で選抜品種による生産が行われている模様であるが、生の果実は店先では目にしたことがない。果実が軟弱で持ちが悪いため、昔から遠隔地への輸送が難しかったようである。ちなみに、通販の状況を調べてみると、生果実の販売が見られるほか、果実が軟弱な弱点をカバーするため、冷凍品として販売している例も見られる。 
 
     
3   どんな栽培品種が存在するのか   
 
 ヤマモモの果実を目的とした栽培品種には国内選抜品種や中国から導入された品種が栽培されていることを確認したが、実際に一般向けとして苗木ネット通信販売されている品種を含めて、例えば以下のようなものが存在するようである。  
 ヤマモモの品種例   
 品種名 特徴など 
1 東魁 浙江省原産。果実は20~25グラムに及ぶ超大果系統。果実はピンポン玉大という。ネット通販あり。
2 瑞光 中国福建省温州から大正2年頃導入。果径は約2.5センチ。ネット通販あり。
3 森口 中国広東ないし台湾から導入された超大粒の系統。ネット通販あり。
4 秀峰 大果で核が小さく、可食部が多い。森口、瑞光よりひとまわり大きい。松脂臭が少ない。ネット通販あり。
5 亀蔵 高知県南獄死の島田亀蔵の樹に由来。径2.5~3センチで果実が硬いため比較的輸送に耐える。松脂臭が少ない。ネット通販あり。
6 白桃 白に近い淡色の品種。ネット通販あり。
7 阿波錦 徳島県の山林で発見された大果の晩生種。隔年結果性。
8 御前 徳島県の山林で発見され大果でやや白い淡紅色。名前は殿様に献上されたことによる。
9 中山早生 高知県で発見された黒色、大果系統。
10 紅玉 徳島県で発見された大果・早生品種。
 
 
 上記は寄せ集め情報であるため、個々の品種のおおよその平均的な果実の大きさが明らかではないが、栽培品種となれば、たぶんいずれも少なくとも20ミリ以上の径と思われる。
 30ミリの径があれば御の字であるが、特に中国から導入された「東魁」はピンポン玉波の大きさといわれており、ということは径40ミリほどとなるから、驚きである。
 
 
 道端でつまみ食いするときの注意点とは  
 
 植物観察事典に気になることが記述されていた。以下のとおりである。   
     
 「ときどき果実の中にショウジョウバエの幼虫が入っているので、生で食べるときはよく洗ってから食用にする。」  
 
 これは是非とも真相を理解しておかなければならない。調べてみると、確かにある種のショウジョウバエがヤマモモの樹上果実や落果を加害していることを確認した。具体的には、生果内又は生果表面に産卵して加害する複数種のショウジョウバエが知られていて、加害の防除に関しても研究がなされていることを確認した。ということで、洗っても果実内のうじ虫や蛹についてこれを除くことができないのではないだろうか?     
 
 つまみ食い派としてはいやなことを知ってしまった!!      
 
 ヤマモモの薬効  
 
 ヤマモモの樹皮については、中国名の「楊梅皮」の名前で国内でも漢方や、民間薬としての利用がなされてきたようである。これらはたぶん中国から伝来した知見に由来するものと思われる。  
     
   【楊梅皮(ようばいひ)】
 山桃の樹皮をはがして乾燥したもの。漢方で、下痢、打撲症の治療に用いる。また民間では、皮膚病、利尿に用いるほか、煎汁やエキスを染料とする。ももかわ。(精選版 日本国語大辞典)
 
     
   現在、国内では生薬としてのヨウバイヒ(楊梅皮)ヨウバイヒマツ(楊梅皮末)については、日本薬局方外生薬規格が具体的に定められている。   
     
   一方、中薬としては、ヤマモモの樹皮のみならず、ヤマモモの各部の薬効について詳述している。   
     
   (ヤマモモの各部の薬効:中薬大辞典より)   
 
中薬名   基原 薬効と主治 
楊梅 ・ヨウバイ ヤマモモの果実  津液を生じ渇きを解く、胃を和ませ食滞を消すの効能がある。煩渇、嘔吐と下痢、痢疾、腹痛を治す。 
楊梅核仁 ・ヨウバイカクジン ヤマモモの種仁  脚気を治す。
楊梅の仁を取り出すには、柿漆(柿渋に同じ)に核を入れてかき混ぜたのち、日にさらすと、自ら裂けて出てくる。 
楊梅根・ヨウバイコン  ヤマモモの根  気を理える、止血する、瘀を化すの効能がある。胃痛、膈食嘔吐、疝気(ヘルニア)、吐血、血崩、痔血、外傷出血、打撲傷、歯痛、やけど、悪瘡(悪性のかさ)、疥癩を治す。 
楊梅樹・ヨウバイジュ  ヤマモモ科の毛楊梅(M. esculenta)の樹皮あるいは根皮  消炎する、収斂する、止瀉する、止血する、止痛するの効能がある。痢疾、腸炎、崩漏、胃痛を治す。 
楊梅樹皮・ヨウバイジュヒ  ヤマモモの樹皮  痢疾、打撲傷、目翳(隔膜混濁)、止痛、やけど、悪瘡疥癩を治す。 
 
     
  <ヤマモモに関する雑件メモ>   
     
 
 ・ 中国語の楊梅には梅毒の意味があり、たぶん楊梅瘡の名に由来すると思われる。楊梅の語が登場しているのは、梅毒の第2期の赤い発疹や丘疹がヤマモモの果実に似ることによるといわれる。 
 ・ ヤマモモの根には空中窒素を固定する放線菌類が共生し、根粒をつくる。そのため花崗岩地帯にでも生存できる。(植物観察事典) 
 ・ 果実は甘酸っぱく、生食、煮食、ジャム、ゼリー、塩漬け、砂糖漬けのほか、楊梅酒の原料とし、酢もつくる。シロップ煮(シロップ漬け)の缶詰が中国から輸入されている。樹の皮はモモ皮といって褐色の染料として、漁網などを染めるのに用いられた。また、夏の土用のころ樹皮をはぎ、日干ししたものは楊梅皮といって、これを入れた風呂につかるとあせもなどに効果があるという。(園芸植物大事典) 
 ・ 市販品とするには熟度の早いものを選んで送るから売品はうまくない。
ヤマモモとタブノキの皮の汁で染めた織物が三宅丹後であり、これが鳶八丈といわれる。(樹木大図説) 
 ・ ヤマモモの 材は乾燥すると堅くなり、ろくろ細工、ボタンなどに用いられた。(世界大百科事典)
 
     
  <参考:ヤマモモ科の変わり者のヤチヤナギの様子>   
     
 
            ヤチヤナギの様子
 ヤマモモ科ヤチヤナギ属の落葉小低木
 Myrica gale
var. tomemtosa
 名前は外観がヤナギに似て、低湿地(谷地)などに生えることによるとされる。雌雄異株。
 基準変種 Myrica gale var. gale セイヨウヤチヤナギはヨーロッパ、北米に分布。
    ヤチヤナギの冬芽(9月上旬・北海道) 
 たぶん花芽と思われる。果実は2ミリほどで食用にならないし、花も微小で目立たないため、花の写真を写しそびれたままである。おもしろくも何ともない植物であるが、意外な個性があるようである。
 
     
   興味深いのは、次のような記述が見られる点である。      
     
   ヤチヤナギは 全株麻酔性芳香があり、枝葉そのままタンスに入れれば防虫の効あり、枝を煎じ刺虫の痛をとめるに役だった。(樹木大図説。植物の世界にも同様の表現が見られる。)   
     
   特に「麻酔性芳香」というのは気になるところであり、こんなことは知らなかったため、クンクンしたことはないが、機会があれば香りを堪能してみたいものである。

 本種の芳香に関しては既に成分分析もなされていて、精油成分の鎮静作用抗菌作用が確認されているようである。マイナーながら、成分を活用しナイトクリームチーズまで存在している。セイヨウヤチヤナギが分布するヨーロッパでは、ハーブとしてビールの香り付けにも利用された長い歴史があるという。

 そこで、「麻酔性芳香」の表現であるが、何やら妖しくも魅力的な響きがあるが、科学的に妥当な表現なのか不明である。