トップページへ   樹の散歩道目次へ

樹の散歩道
スギの兄弟たち
セコイアオスギ、セコイアメスギ、メタセコイア、ラクウショウ
ポンドサイプレス、スイショウ、コウヨウザン、タイワンスギ


 スギは日本に固有の針葉樹で、日本の広い範囲の気候に適合してよく育ち、その木材は建築等に欠かせまいものとして評価されてきた。このため、古くから人の手でも植栽・育成され、各地で見られるスギ山は日本の実に日本的景観を形成してきた。
 植物の歴史の視点では、かつてはスギ科の樹木は地球上に広く繁栄していたものの、気候の大きな変動の下でその勢力範囲を大きく減少させ、原生のものはその生き残りと考えられているという。流れとしては、たそがれグループであるが、世界の限られた適地で実に元気に、時に巨大に育っている。【2009.9】


 スギ科の樹木は、世界に約8属15種が知られているという。マツ科は世界に約9属200種が広く分布しているとされるのに較べると、随分少ない。以下にスギを除く外国産のスギ科樹木8種を紹介する。
 セコイアオスギ(ジャイアントセコイア)
 Sequoiadendron giganteum  旧学名:Sequoia gigantea
 スギ科セコイアオスギ属
 米国カリフォルニア州に自生する常緑高木
 Giant sequoia, bigtree, Sierra redwood
  セコイアオスギの巨大年輪盤(神戸市立森林植物園 森林展示館)
   寄贈:芙蓉グループ

 説明書きによれば、この輪切りは、米国カリフォルニア州マウンテンホーム州政府保護林の自然倒木から州政府の特別許可を得て切り出したもので、直径5.4メートル、重さ約17トン、林齢約2000年、米国外に運び出されたものとしては最大であるとしている。
 一方、1980年時点の州政府の来場者向け英文説明(ポートピア'81芙蓉グループパビリオン入場者向け)が掲示されていて、そこには直径は4.88メートル、林齢(1980年時点)は、およそ20年前の暴風で倒れた時点で1800年と見積もられ、不規則な外周の形態は山火事に由来するものであるとしている。
 直径の数値に違いがあるが、樹皮が剥離していることや、直角二方差し等の測定数値の処理方法の違いが考えられるが、詳細は不明。
 左の写真は上記年輪盤の外周部(部分)である。この林齢に至るまで、成長していたことを確認できる 
 世界最大(最も体積が大きい)の木が存在することで昔から有名である。その木はカリフォルニア州セコイア国立公園(Sequoia National Park)内にあり、シャーマン将軍 General Sherman)の名を持ち、蓄積(樹幹部の体積)は1,487m3、樹高は83.8mあるという。
(概説)
 樹皮は厚く、30〜60センチに及び、老樹ではスギの如く赤褐色、縦裂して繊維状に剥離す。葉は暗青緑色、斜立し幼樹及び大木の下枝のものはやや対生、短柄鋭尖、線形又は披針形、鱗片状、スギの葉に似る。果枝上のものは尖錐状、幅広し。【樹木大図説】
 赤枯病などのために(日本では)ほとんど生育できない。【平凡社世界大百科】
 日本で従来かなり播種試験を行ったが成木しているものはない。【樹木大図説】
 ヨーロッパでは多く見られるという。
(材の特徴・米国での利用)
 生息域ではその美しさと科学的な意義により価値があり、区域外の米国他地域、多くの他国では、装飾用として注視されている。【USDA】
 成熟木の材は耐朽性があるが、繊維質で脆く、建築用としては不向きである。かつては伐採されたが、自重と脆さのために、伐採するとしばしば地面に打ち当たって砕けてしまった。材は主として屋根板、フェンス支柱あるいはマッチに使用された。【英語Wikipedia】
 材は決して有用ではない。最も一般的な用途はフェンス支柱、マッチの軸木や屋根材であった。ところが自由奔放な伐採が進み、広大なコンバース・ベイスンの森(3,500エーカー)はほぼ完全に製材工場の餌食となってしまった。【The Gymnosperm Database 】
 セコイアメスギ(センペルセコイア、レッドウッド)
 Sequoia sempervirens
 スギ科セコイア属
 米国オレゴン州南西部、カリフォルニア州北西部に自生する常緑高木
 Redwood,coast redwood,California redwood
 ザクザクした厚い樹皮が特徴      葉表       葉裏  
(概説)
 世界で最大樹高の木があることで有名で、その木はカリフォルニア州レッドウッド国立公園(Redwood National Park)内にあり、ハイペリオン Hyperion(ギリシャ神話のヒュペリオン)の名を持ち、樹高は、115.55m とされる。
 属の学名(セコイア)はアメリカ先住民のチェロキー族の酋長(言語学者、首長とも。アメリカインディアンに読み書きを教えたという。)、セクォヤ(Sequoyah、Sequoyar、Se-quo-yah)を記念したもの。【平凡社世界大百科事典ほか】
 日本に入ったのは明治中期とされ、植物園ではしばしば大きく育ったものを見る。
 樹皮は厚く赤褐色、深い溝あり、繊維状に剥離す。葉は互生、2型あり、軟質、やや鋭頭、側枝上のものは柄基少しく捻曲、櫛歯状、線状披針形、上面暗緑色、溝あり、下面は主脈著明、左右に2条の白色気孔線あり。【樹木大百科】
(材の特徴及び米国での利用)
 辺材は白色、心材は暗赤褐色。心材は耐朽性に優れ、耐久性を求められるところで使用される。耐朽性は外側から中心に向かって低下する。高齢材は若い材の5倍ほどの耐朽性がある。材は建築、太梁、橋梁用材、板材、外壁、サッシュ、ドア、単板、家具、冷房装置?、合板、パルプ、パーティクルボード、屋根板、ブドウ棚支柱、杭に利用される。【USDA】
 レッドウッドの際だった特徴はバール(瘤杢)を形成することで、これを利用してテーブルの天板、化粧単板、ボウル、ろくろ加工品が製作される。小さなバールには多数の休眠芽を内包していて、これを切り分けて浅いコンテナを利用し、湿度を保つことで発芽させることができる。こうした生きたバールは、魅力的な室内用植物となる。【USDA】
 レッドウッドのもう一つの特徴は、極めて強靱な繊維質の樹皮である。この樹皮はホグフューエル、断熱材、庭園用マルチに利用される。【USDA】
(国内でのその他の“レッドウッド”の名称)
 国内の木材業界では,ヨーロッパアカマツ(オウシュウアカマツ)の製材品をレッドウッドと称している。ヨーロッパでの市場名もレッドウッド(redwood)の名称が用いられるというが、ホームセンターではフィンランド産のものにレッドパインと表示している例も見た。
(セコイアの名称)
 英語名の セコイア sequoia は、セコイアメスギ(レッドウッド)を指す場合と、セコイアオスギを含めた総称として使用する場合がある。
 メタセコイア(アケボノスギ)
Metasequoia glyptostroboides
スギ科メタセコイア属
中国南西部原産の落葉高木
中国名は「水杉
    葉は対生する。
     雄花
     球果
 1946年に中国で実物が確認されるまで、化石でしか知られていなかったため、「生きている化石」として有名で、公園樹、街路樹として広く植栽されている。
 化石植物の研究で著名な大阪市立大学理工学部教授三木茂理学博士が、国内の化石からセコイア属やラクウショウ属のものは異なるものを発見し、1941年にメタセコイア属として発表の上、和名としてイチイヒノキと命名。一方、重慶の林務官王戦氏が重慶の北東230キロ、揚子江の南側の一支流四川省磨刀渓の奥地で森林調査中に、湖北省との省境近い万県の地域で祠の神木なっている見知らぬ大木を目にし、これを国内で鑑定依頼したところ、三木博士の発表したものと一致。そして、1946年に中国に化石ではないメタセコイアが存在するとする報告が南京の地理雑誌に掲載された。
 本種の種子については、当初は種子採取の依頼と共に資金協力をした米国の学者に渡り、日本には、1949年にその種子及び苗が初めて伝えられている。 【樹木大図説】
 初めて確認された個体は、現在は観光名所になっているという。「朝日百科植物の世界」に写真が掲載されている。
 和名の「アケボノスギ」は、英語の「ドーン・レッドウッド」(dawn redwood)を訳したものといわれ、木村陽二郎博士の命名とされる。
注1  「イチイヒノキ」の名は使用されていない。
注2  メタには「変化、変容、後の」 の意があり、メタセコイアは「違ったセコイア」の意とする説明と、「後のセコイア」の意とする説明があって、日本人が命名したにもかかわらずすっきりしない。
 ラクウショウ(落羽松
 Taxodium distichum
 スギ科ヌマスギ属
 北米東南部・メキシコ原産の落葉高木
 Bald Cypress,Gulf Cypress,Red Cypress,Swanp Cypress,White(Yellow)Cypress
 別名ヌマスギ
秋の風景
 しばしば気根(膝根)を出す。
 球果は次のポンドサイプレスとそっくりである。
(概説)
 Bald Cypress の名前は、落葉性であることによる。
 長枝の葉は鱗片状、螺旋状につき、短枝の葉は線形、2列に付く、秋には短枝と共に葉は落下する。一見羽状複葉に見える。筍のような一種の気根膝根とも。英語では Cypress knee )を形成することで広く知られる。水湿地、沼沢地、水中にまで植えられる特性を持ち、国内でも庭園樹、公園樹として各地に広く植栽されており、都内井の頭公園のものは有名。【樹木大図説ほか】
 ラクウショウ(落羽松)の名は、秋になると鳥の羽根のような形をした葉が枝ごと落ちることに由来する。
(米国内での材の利用)
材は建築構造材、フェンス支柱、船の板張り、川杭、ドア、ブラインド、フローリング、屋根板、ガーデンボックス、棺、室内装飾、家具用として重要。【USDA】
 ポンドサイプレス
 Taxodium ascendens
 スギ科ヌマスギ属
 北米東部、東南部原産の落葉高木
 Pond Cypress
 葉が少ない印象でスッキリした樹形である。 雄花
 葉は鱗状で、つんつんと上方を向くのが特徴であるが、好き勝手な方向に葉を出したタイプも目にした。      雌花


      球果


 国内での植栽例は非常に少ない。
 ラクウショウと同属であるが、葉の印象は全く異なる
 排水不良の沼沢地、湖沼地、河畔(石灰質殊によい)に好んで生ずる。ラクウショウに比し北方種で、樹皮は深裂し、葉は紐状鱗片形。花も球果もラクウショウと大差ない。【樹木大図説】
 乾燥した土壌でも生育可能で、湿地では気根(膝根)を形成する。【USDA】
 樹幹が狭い特性があり、狭い空間での街路樹、都市部の植栽樹としても適している。
 心材は極めて耐朽性が高く、屋根板、室内装飾部材、とりわけ温室用のベンチや棚用の材として有用である。
 スイショウ(水松)
 Glyptostrobus pensilis
 スギ科スイショウ属
 中国東南部産、水辺、沼沢地、河岸に生ずる落葉高木
 中国名は「水松」。
(概説)
 和名は中国名を音読みしたもの。
 植物園等での植栽がしばしば見られる。
 葉は三型あり、@第一は実生木、幼木の枝につくもので鋭頭、扁平線形、2列又はラセン状につき、長1.2センチ、A第二は成木の短枝につくもので鎌形針形、断面菱形、帯赤黄色気孔線あり、不鮮明に2列につく、これは時に半常緑であるが通常短枝と共に落下す、著しく鋭角につく、B第三は成木の長枝又は果枝につくもので圧扁鱗片状、覆瓦状につく、何れも秋季には美しい褐色に変ずる。球果は有柄、直立、梨実状又はやや長く倒卵形ラクウショウよりやや小形。日本には明治末期に入り、関西では「宝塚植物園」の池中にある中島に植えられたものはかなり太い。【樹木大図説】
「宝塚植物園」の名が登場したが、上記資料の出版年は昭和34年である。宝塚ファミリーランド時代は「宝塚植物園」の名称があったが、現在は「宝塚ガーデンフィールズ」内の施設となっていて、スイショウは現在でも健在であると聞いた。さらにたくましく育っているのであろう。(2009.8)
 中国南部の水田地帯で幸福と豊作をもたらす木として植えられてきた。中国名の「水松」このことにちなみ、和名はそれを音読みしたもの。【朝日百科植物の世界】
(材等の利用)
 長江流域で植栽されて建築や家具材に用いられ、さらに枝葉が鎮痛剤として薬用にされている。【朝日百科世界の植物】
 老木で生じる気根(膝根)の材は軽軟であり、中国人はこれを伐って木履、ビンの栓に利用していた。【樹木大図説】
 コウヨウザン(広葉杉)
 Cunninghamia lanceolata
 スギ科コウヨウザン科
 中国、台湾原産の常緑高木
 中国名は「杉木」。
 葉裏は二本の白色の気孔帯が目よく立つ
 小径木では幹から直に葉が出ていて、原始のシダ植物を思わせる風情がある。       球果

(概説)
 植栽されてものをしばしば見かける。つやのある独特の形状の葉が印象的であるが、葉先が鋭くとがっていて痛いため、親しみにくい存在である。中国では南部での最も重要な造林用樹種とされる。
 日本に入ったのは江戸時代末期である。葉は剛強、密生、鎌状長披針形、鋭尖、光沢ある濃緑色、細鋸歯あり、下面に幅広き2条の白色気孔線あり。【樹木大図説】
 コウヨウザン(広葉杉)の名は和名。
(材の利用)
 台湾ではシロアリの害を受けないことで知られ、建築材や器具材に利用される。
【山渓樹に咲く花】
 材は軟らかく軽いが曲がりにくく、(中国?では)重要な林業樹種として広く植栽されていて、種子の油は工業用にも利用される。【朝日百科植物の世界】
〔中国〕材質は優良,木理通直、質軽軟、細密,乾燥後の反り・割れなし,加工容易,耐腐朽,香気あり,中国では最も普遍的で重要な用材,広く建築、橋梁、造船、電柱、建具、家具、板料、木桶、木盆等とし、その他優良な製紙原料となる。樹皮は森林区の家屋あるいは工事現場の小屋の屋根として利用できる。【中国樹木誌】
 タイワンスギ
 Taiwania cryptomerioides
 スギ科タイワンスギ属
 台湾、ミャンマー、ベトナム・ラオカイ省【Gymnosperm Database】に分布する1属1種の常緑高木
 中国名:台湾杉台杉、【樹木大図説】松蘿、亜杉
 英語名:Taiwan cryptomeria
(概説)
 小枝端は下垂する。葉は変異性あり。老樹のものは粗着、短鋭先、長0.5〜1.5断面は菱形、両面に気孔線あり。1904年小西成章氏が台湾新高山、海抜2000m認知、早田理学博士が属名を付け、これを台湾爺属と主唱した。【樹木大図説】
 葉は硬く尖り、手に非常に痛いため触れない。
 計測された最大樹高のものは約65メートルの記録がある。【Gymnosperm Database】
 中国大陸の雲南省とその周辺に固有の Taiwania flousiana があるが、これはタイワンスギの変種とする説がある。【森林・林業百科事典】
 タイワンスギが中国雲南省にも分布するとする記述が見られるが、「中国樹木誌」では台湾中央山脈に産するとしていて、中国本土に存在するとしていない。
(材の利用等)
 台湾では優秀な木材として利用されてきたが、天然資源は減少している。日本でも栽培は可能だが成長が遅いためあまり植栽されない。【森林・林業百科事典】
〔台湾〕心材は紫紅褐色、辺材は深黄褐色、木理通直で、建築、橋梁、造船、家具、板材、製紙原料等に供する。台湾では主要用材樹種の一つであり、また主要造林樹種である。【中国樹木誌】
参考:ナンヨウスギ Araucaria cunninghami
 これはスギ科ではなく、ナンヨウスギ科ナンヨウスギ属の常緑高木である。
 ニューギニア、オーストラリアに自生。
 日本には明治時代中期に導入され、庭園樹として、しばしば見かける。