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続・樹の散歩道
  スイカズラ属のいかにも美味しそうな実を食する


 ある樹木園で鮮やかな紅色の薄皮に包まれた、いかにも美味しそうな実(液果)が目に入った。対生の葉の表面に沿うように果柄を伸ばして対で2個の実を付けていて、既製品の樹名板には「ネムロブシダマ Lonicera chrysantha var. crassipes」とある。初めて聞く名前である。外観は「ねえ、お願い! 食べて!」と言っているような美味しそうな外観である。まずは美しい果実の写真を撮ってから、試食することにした。
 期待しながら一粒を口に入れると、全く甘みがなく、さらに言えばそもそも味が全くない。がっかりしてプッと吐き出した。この果実に関して図鑑ではどんな解説をしているのかを知るため追って確認してみた。  【2014.6】
  


   奇妙な名前の低木の正体   
     
 
  実の形は個性があり、やや扁平で中にはおむすび型に近いものもある。しかも先端部には花のあとが2つあるのはまるでハスカップ(クロミノウグイスカグラ、ケヨノミ)のようであり、この点も個性的である。帰宅後に早速図鑑を開いてみた。


 (写真の様子は後ほど紹介)  
            ネムロブシダマの樹名板
 
   
   じぇじぇじぇじぇじぇっ!! 

 ネムロブシダマの果実は〝有毒〟とある!!

 しかも、「ブシ(附子)」とはトリカブトの意とある!! ウッウ~・・・・

 まずくてすぐに吐き出したものの、しっかり口に入れたことを思い出した。
ところが、図鑑の説明や写真と見較べてみて、またもやびっくりであった。「ネムロブシダマ」として植栽されていたものは、何と明らかに全くの別物であることがわかったのである。

 にわか勉強したところでは同じスイカズラ科スイカズラ属のヒョウタンボクの仲間である「エゾヒョウタンボク」と同定した。 
 
     
 
 
            エゾヒョウタンボク
      果柄の長いのが特徴となっている。
          エゾヒョウタンボクの果実
  果実は2個が合着したものとされ、ヘソが2つある。   
   
   
        エゾヒョウタンボクの果実
 果実の形態には幅が見られるが、ひょうたん型にはなっていない。 径は1センチほど。実に美味しそうである。
          エゾヒョウタンボクの種子
    種子の径は6ミリほど。
 
     
    実は、こうしてわかっても、全く安心材料にはならない。何しろ一般に有毒のイメージが定着している「ヒョウタンボク」の文字が入っている。しかしながら、このエゾヒョウタンボクに毒性があるのか否か、肝心なこの点に関する明確な記述が見当たらない。そもそも、正確な知見が得られているのか、いよいよ気になったことから、さらに他の図鑑類で調べてみることとした。   
     
   スイカカズラ属の仲間の毒性は?

 図鑑類その他の情報で、特にヒョウタンボク類を含むスイカズラ科スイカズラ属植物の毒性に関して触れた部分に着目して抽出すれば、以下のとおりである。
 
     
 
分類 名称 花色 果実の様子 食用可否 メモ
スイカズラ節 スイカズラ
(ニンドウ)
白色→黄色
(唇型)
液果・黒熟   Lonicela japonica
・ スイカズラ(吸蔓)の名は、花冠の奧の蜜を吸って遊ばれたことから。
・ ニンドウは中国名の忍冬(冬でも茎の先の葉が残ることによる)の音読み。
・ 花蕾、茎、果実には薬効がある。(薬用木本植物野外鍳別手册)
ハマニンドウ 白色→黄色
(唇型)
液果・黒熟   Lonicela affinis
つる性低木。
キダチニンドウ 白色→黄色
(唇型)
液果・黒熟   Lonicela hypoglauca
名は低木状であることにちなむ。(新牧野日本植物図鑑)
キンギンボク節 ヒョウタンボク
(キンギンボク)
白色→黄色
(放射相称)
液果・赤熟
(合着)
不可 Lonicela morrowii
・ 実はおいしそうだが苦くて食べられない。(植物の世界)
・ 果実は有毒で食べられない。(樹に咲く花)
劇毒がある。(新牧野日本植物図鑑)
・ 果実は2個並んで付き基部で合着、ひょうたん型になる。(樹に咲く花)
・ 果実は有毒であるとされている。果実が黄熟するものをキミノヒョウタンボクと呼ぶ。(日本の野生植物)
・ キンギンボクの名は花の新旧で白と黄とが入り混じる有様を金と銀にたとえた。(新牧野日本植物図鑑)
ハナヒョウタンボク 白色→黄色
(唇型)
液果・赤熟
不可
Lonicela maackii
実は甘くて食べられる。(植物の世界)
有毒植物(東京都薬用植物園)
有毒植物。全木、特に液果の毒性が強い。(公益社団法人東京生薬協会)
・ 果実は2個並ぶが合着はしない。果柄はごく短い。(樹に咲く花)
・ 茎葉、花に薬効がある。(薬用木本植物野外鍳別手册)
ネムロブシダマ
白色→淡黄色
(唇型)
液果・赤熟 不可 Lonicela chrysantha var. crassipes
・ 果実は2個並んでつくが合着はしない。有毒。(樹に咲く花)
・ 北海道の根室に多く、附子(ぶし:トリカブトの子根)のように毒がある丸い果実をつけるというのでこの名(根室附子玉)がある。(植物の世界)
イボタヒョウタンボク 淡黄色
(唇型)
液果・赤熟 不可 Lonicela demissa
果実はつややかでおいしそうに見えるが、有毒。果実は2個並ぶが合着はしない。名前は葉がイボタノキに似ることによる。(樹に咲く花)
ケヨノミ節 ケヨノミ 黄白色
(漏斗状)
液果・紫熟 Lonicela caerulea ssp. edulis
液果は甘みがあり生食に適する。(日本の野生植物)
・ 北海道ではクロミノウグイスカグラとともにハスカップと呼ぶ。
クロミノウグイスカグラ 黄白色
(漏斗状)
液果・紫熟 Lonicela caerulea var. emphllocalyx
果実は甘く生で食べられる。北海道ではハスカップと呼びジャムなどに利用する。(樹に咲く花)
・ ケヨノミの変種。
ウグイスカグラ節
Isika
ヤマウグイスカグラ バラ紅色
(漏斗状)
液果・赤熟 Lonicela gracilipes
液果は食用となる。
(日本の野生植物)
ミヤマウグイスカグラ 淡紅色
(漏斗状)
液果・赤熟 Lonicela gracilipes var. glandulosa
果実は甘みがあり食べられる。
(樹に咲く花)
花冠、果柄、果実などに腺毛が多い。ヤマウグイスカグラの変種。
ウグイスカグラ 淡紅色
(漏斗状)
液果・赤熟 Lonicela gracilipes
Lonicela gracilipes var. glabra
果実は地方によってはグミとかアズキグミと呼ばれ、甘みがあり食べられる。(植物の世界)
・「ウグイス」は ウグイスが鳴き始める頃に咲き、「かぐら」は花の形を神楽の舞にたとえたものという。
ヤブヒョウタンボク 暗紫色 液果・赤熟   Lonicela linderifolia
岩手県でまれに見られる。
コウグイスカグラ 淡黄白色
(漏斗状)
液果・赤熟
(合着)
  Lonicela ramosissima var. ramosissima
果実は普通2個が合着している。(樹に咲く花)
アラゲヒョウタンボク 白色→淡黄色
(漏斗状)
液果・赤熟   Lonicela strophiophora
果実は苞に抱かれ、2個並ぶが合着はしていない。(樹に咲く花)
ハヤザキヒョウタンボク 白色
(漏斗状)
液果・赤熟   Lonicela praeflorens var. japonica
果実は2個並ぶが合着はしない。葉の展開前に花が咲くのが特徴。(樹に咲く花)
ツシマヒョウタンボク 淡黄色 液果・赤熟
(合着)
  Lonicela harai
果実は下部で合着する。対馬にだけ産する。(日本の野生植物)
ウグイスカグラ節 エゾヒョウタンボク 淡緑黄色
(唇型)
液果・赤熟
(合着)
  Lonicela alpigena ssp. glehnii
果実は1個のように見えるが、2個が合着したもので、ヘソが2つある。
(樹に咲く花)
ウスバヒョウタンボク 帯黄白色 液果・赤熟
(合着)
  Lonicela cerasina
液果は下部で合着する。(日本の野生植物)
オニヒョウタンボク 白色→淡黄色
(唇型)
液果・赤熟
(合着)
不可 Lonicela vidalii
・ 果実は2個合着してひょうたん型になる。名前は樹皮の裂け方など全体に荒々しい印象を与えることによる。(樹に咲く花)
・ (果実は)有毒である。(牧野新日本植物図鑑)
チシマヒョウタンボク 暗紅紫色
(唇型)
液果・赤熟
(合着)
  Lonicela chamissoi
液果はほとんどが合着する。(日本の野生植物)
ベニバナヒョウタンボク 暗紅紫色
(唇型)
液果・赤熟
(合着)
  Lonicela maximowiczii var. sachalinensis
果実は2個が合着し、ほぼ球形になる(樹に咲く花)
オオヒョウタンボク 白色→淡黄色
(唇型)
液果・赤熟
(合着)
  Lonicela tschonoskii
実は苦くて食べられない。(植物の世界)
・ 果実は2個がひょうたん型に合着。(樹に咲く花)
・ 名はヒョウタンボクよりも花も葉も大型なのによる。(新牧野日本植物図鑑)
ニッコウヒョウタンボク 白色→淡黄色
(唇型)
液果・赤熟
(合着)
不可 Lonicela mochidzukiana
・ 果実は2個が合着し有毒。(樹に咲く花)
・ 名は初め日光で発見されたのにちなむ。
ヤマヒョウタンボク 白色→淡黄色 液果・赤熟
(合着)
  Lonicela mochidzukiana var. nimurana
ニッコウヒョウタンボクの変種で、葉がやや小型で花も少し小さい。(樹に咲く花)
  ツキヌキニンドウ 朱橙色
(筒状)
液果・赤熟   Lonicela semperviens
北米原産。
飛び入り セッコウボク
(シンフォリカルポス)
淡いピンク色 液果・白熟   Symphoricarpos albus var. laevigatus
北米原産。漢字は雪晃木
 
 
注1: 分類に関しては、いろいろな見解がある。
注2:  ヒョウタンボクの有毒部分は主として果実。イリドイド化合物として果実にモロニシド、キンギシド、脂肪油、ペクチン、若葉にスベロシド、ロニケロシドを含む。果実は苦い。果実による小児の中毒症状として嘔吐、下痢、痙れん、昏睡などを起こすことが報告されている。【牧野和漢薬草大図鑑】 
注3: 飛び入りの「セッコウボク」はスイカズラ科セッコウボク属のつる性木本。 
 
     
   以上のリストで概観すれば。

 スイカズラ属の果実では食べられるものと有毒のものの両方が混在する。 
 ヒョウタンボク類の毒性に関する情報は極めて乏しい。 
 ハナヒョウタンボクについては、相反する可食説と有毒説が見られる。(本種はヒョウタンボクの名があるが、果実は2個並ぶもののヒョウタン風に合着しない。)
 
 といったことを確認した。

  ヒョウタンボクの仲間に関する図鑑の記述では、特定の種について有毒としているものをしばしば見るものの、個々の種(しゅ)では必ずしも毒性に関して統一的に触れているものではないことがわかった。つまり、現在に至るも、体を張って個々の種の毒性に関して検証をした人がいないということである。たまに、ある種で「苦くて食べられない」とだけ記述した例も見られるが、その後の具体的な症状(変調をきたしたのか否か等)の記述がないのは実に残念であり、不満である。
そもそも、毒性に関しては、如何なる重篤な症状に陥るのかについての実証的・客観的な記述こそが大切である。

 口に含むだけなら普通は問題はないから、せめて甘いのか苦いのか、あるいは舌がピリリとするのかだけでも横断的に調べればレポートになるが、これさえ見かけないのは果敢な挑戦者がいないということなのであろう。(もちろん、当方は妻子が大切であるから、挑戦する気持ちはさらさらないのは言うまでもない。)

 とりあえず、仕方がないので、説明の混乱が見られたハナヒョウタンボクについて、恐る恐る口に含んでみた。「果実は甘くて食べられる。」としていた図鑑がみられたが、甘味は全く感じられず、「食べられる」とした内容も益々怪しさを感じる。 
 
     
   さらなる怪しい看板の存在

 
なお、怪しい樹名板のあった樹木園には、ヒョウタンボクの仲間として他に「キンギンボク」「チシマヒョウタンボク」とした樹名板のある植栽木も見られた。改めて樹名板にとらわれることなく、素直な心で検証してみると、キンギンボクは正解であったが、チシマヒョウタンボクとしていたものは、花時期の記憶では花色が確か白色~黄色であった記憶があり、またしても間違いのようである。こうなると、もう楽しくて仕方がない。
 そこで、撮った写真を図鑑と見較べると、何と! 「チシマヒョウタンボク」の看板を掲げた低木こそが「ネムロブシダマ 根室附子玉」そのものと判明したのである。以下の写真は(たぶん)真正のネムロブシダマと思われる個体の写真である。 
 
     
 
       ネムロブシダマの葉
    ネムロブシダマの花 
 花は当初の白色から黄色になる。
    ネムロブシダマの果実
 名前の「ダマ」は果実が球形である
ことによる。
 
     
    この公的な樹木園(場所はマル秘)では、ほかに例がないほど実に楽しく魅力的な “ミステリーゾーン” をしばしば発見できることから、大好きな樹木園の一つとなっている。   
     
   スイカズラ属のきれいな花と美味しそうな果実たち 

 以下はスイカズラ属の変化に富んだ美しい花と、いかにも食欲をそそる美味しそうな果実たちの例である。ただし、「スイカズラ」だけは食用になりそうもないことが直感的にわかる。   
 
     
 
ウグイスカグラ   ウグイスカグラ  ミヤマウグスカグラ ミヤマウグイスカグラ 
       
ハスカップ(ケヨノミ)   ハスカップ(ケヨノミ)  スイカズラ スイカズラ
       
キンギンボク   キンギンボク ベニバナヒョウタンボク   ベニバナヒョウタンボク
       
 
 チシマヒョウタンボク チシマヒョウタンボク  チシマヒョウタンボク   
       
 ハナヒョウタンボク ハナヒョウタンボク   (飛び入り)セッコウボク  (飛び入り)セッコウボク
 
:飛び入りの「セッコウボク」はスイカズラ科シンフォリカルポス属  
     
  <追記:西日本での同様の事例>   
     
   以下の写真は西日本のある公的な樹木園で、「ヤマヒョウタンボク」とした樹名板を付された低木であったが、これほど鮮やかな紅色の花を付けているから、明らかにヤマヒョウタンボクではない。では、北海道に分布するベニヒョウタンボクかとなると、花の様子が異なるし、葉には毛がないからどうも違う。
 これはたぶん、しばしば園芸的な利用実態があるとされる外来のアカバナヒョウタンボク(赤花ヒョウタンボク) Lonicera tatarica 又はその栽培種と思われる。ヒョウタンボク類は樹木園の鬼門か? 
 
     
 
 アカバナヒョウタンボクの花 アカバナヒョウタンボク  アカバナヒョウタンボクの果実