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続・樹の散歩道
  クスノキ科の花はよくわからなーい!!


 クスノキ科のいろいろな樹木は、いずれも黄色の地味で小さな花を慎ましやかに付け、一部で花序に花をボンボン状にたっぷり付けるものを除き、花が咲いたことさえ気付かないほどである。  また、花は両性又は単性(雌雄異株)であったりしてややこしい。肉眼ではよくわからないため、写真を撮ってから図鑑に当たってみると、雄しべ、仮雄しべ、腺体の数についておおよその解説があるものの、やや鮮明度に欠けた自分の写真と照らしても何だかよくわからない。植物形態学をキッチリ学んだ者にとっては極めて初歩的な次元の話と思われるが、結局のところ、図鑑を見たがために、却ってストレスが貯まってしまうということになる。そこで、仕方がないため、図鑑情報等を概略整理した上で、改めて写真と照らしてみることとした。 【2015.6】


 1  クスノキ科の樹種の花の様子   
   
 
            クロモジ(雄株)の花 1         クロモジ(雄株)の花 2 
 
   
   クロモジでも、これほど豊かな花房をつけたものは少ない。一般にクスノキ科の各種の樹木の花はいかにも地味であるため、人の目を引きつけることはほとんどない。

 クスノキ科の樹種の花の様子の事例を掲げると以下のとおりである。 
 
     
 
   タブノキの両性花
 花被片6,雌しべ1,雄しべ9,仮雄しべ3、腺体6
Machilus thunbergii
   クスノキの両性花 
 花被片6,雌しべ1,雄しべ9,仮雄しべ3、腺体6 
Cinnamomum camphora
  ヤブニッケイの両性花 
 花被片6,雌しべ1,雄しべ9,仮雄しべ3,腺体?
Cinnamomum japonicum
  ヤマコウバシの雌花 
 花被片6,雌しべ1,仮雄しべ9,腺体6 
Lindera glauca
       
   ダンコウバイの雌花
 花被片6,雌しべ1,仮雄しべ9,腺体?
Lindera obtusiloba
  ダンコウバイの雄花
 花被片6,雄しべ9,腺体6 
   シロモジの雌花 
 花被片6,雌しべ1,仮雄しべ9,腺体?
Lindera triloba
   シロモジの雄花
 花被片6,雄しべ9,腺体? 
       
   アブラチャンの雌花
 花被片6,雌しべ1,仮雄しべ9,腺体6
Lindera praecox
  アブラチャンの雄花
 花被片6,雄しべ9,腺体6 
    クロモジの雌花
 花被片6,雌しべ1,仮雄しべ9,腺体6
Lindera umbellata
   クロモジの雄花 
花被片6、雄しべ9,腺体?
       
   ゲッケイジュの雌花
 花被片4,雌しべ1,仮雄しべ4,腺体8?
Laurus nobilis
  ゲッケイジュの雄花
 花被片4,雄しべ8〜12,腺体? 
   シロダモの雌花
 花被片4(写真では6)、仮雄しべ6,腺体4
Neolitsea sericea   
   シロダモの雄花
 花被片4,雄しべ6、腺体4 
       
セイロンニッケイの両性花 
 花被片6,雌しべ1,雄しべ9
Cinnamomum zeylanicum
 ジャワニッケイの両性花 
 花被片6,雌しべ1,雄しべ9
Cinnamomum javanicum
 テンダイウヤクの雌花
 花被片6,雌しべ1,雄しべ多数(9とも)
Lindera aggregata 
 テンダイウヤクの雄花
 花被片6,雄しべ9 
 
     
   手近な図鑑に記述のある範囲で個々の花の構成要素に関する情報を付記したが(印は明記がなかったもの。) 、自前の写真でそれらを確認するのは至難の業である。クスノキ科の花は総じて小さい上に花被片を十分平らに開いてくれないものも多く、接写能力の高いカメラを持っていないと、あるいは持っていたとしても、構造がわかりやすい写真が撮り難くてもどかしい。実体顕微鏡で解剖する以外に確認する術がない印象である。

 ところで、写真を並べてみて、カナクギノキ、カゴノキ、アオモジ、バリバリノキ等の花のアップ写真がないことに気づいた。そこで、とりあえあえずは一般にあまり目を向けられていないカナクギノキの代替写真である。 
 
     
 
     カナクギノキの葉 Lindera erythrocarpa   カナクギノキの樹皮 
 
     
 
カナクギノキの冬芽 カナクギノキの花  カナクギノキの果実 
 
     
   花の構造に関する整理表

 クスノキ科の樹種の花の構造について、 一般的な図鑑での記述(注:必ずしも均質なものとなっていない。)の範囲で抽出して整理すれば以下のとおりである。
 
     
 
樹種 花の区分 花被 雌しべ 雄しべ 仮雄しべ 腺体
タブノキ属 タブノキ 両性花
@樹に咲く花
深く6裂する。(花被片は6個) 1個
花柱は細く、柱頭は肥大する。
9個・葯4室 3個 最も内側の雄しべの基部の両側に、柄のある黄色の腺体がある。(6個)
両性花
A牧野新日本植物図鑑
花被片は3個ずつ2輪に配置。 1個 12個
4輪に配列し、最も内側にある3個は仮雄ずいになっている。
  (言及なし。)
クスノキ属 クスノキ 両性花
@樹に咲く花
筒型でふつう6裂する。 1個
花柱は細く、柱頭は盤状に肥大する。
9個・葯4室
ふつう3個ずつ3輪に並ぶ。
雄しべの内側には退化した仮雄しべが3個ある。 最も内側の雄しべの基部の両側には黄色の腺体がある。(6個)
両性花
A牧野新日本植物図鑑
6裂し、各裂片は3個ずつ内外の2重の輪を形成する。 1個 12個
内外4重の輪を作り、最も内側の輪の雄しべは仮雄ずいとなる
  (言及なし)
クスノキ属 ヤブニッケイ 両性花 6裂 1個 9個 3個  
クロモジ属 ダンコウバイ 雄花 花被片6個   9個・葯2室
外側6個、内側3個
   内側の花糸の両側に黄色の腺体がつく。
雌花 花被片6個 1個   9個
外側6個、内側3個
内側の花糸の両側に黄色の腺体がつく。
クロモジ属 シロモジ 雄花 花被片6個   9個・葯2室   花糸の両側についた黄色の腺体が目立つ。
雌花 花被片6個 1個   9個
糸状又はへら状
花糸の両側についた黄色の腺体が目立つ。
クロモジ属 アブラチャン 雄花 花被片6個   9個・葯2室
外側6個、内側3個
  内側の花糸の両側に黄色の腺体がつく。
雌花 花被片6個 1個   9個
外側6個、内側3個
内側の花糸の両側に黄色の腺体がつく。
クロモジ属 ヤマコウバシ 雌花
(国内には雄株はないとされる)
花被片6個 1個
柱頭は盤状に広がる。
  9個
外側6個、内側3個
(内側の仮雄しべは、それぞれ腺体を2個ずつそなえている。(牧野))
クロモジ属 カナクギノキ 雄花 花被片ふつう6個   ふつう9個・葯2室
外側6個、内側3個
  (内側の雄しべの下部に2個ずつ小腺体をもっている。(牧野))
雌花 花被片ふつう6個 1個   1個 (最内輪の3個は腺体をもつ)
クロモジ属 クロモジ 雄花 花被片ふつう6個   9個   (内側の雄しべの両側に腺体をつける)
雌花 花被片ふつう6個 1個   (外側6、内側3) 子房のまわりを黄色の腺体(6個)が包む。
クロモジ属 テンダイウヤク  雄花  花被片6個     9個・葯2室     最内輪の基部に腺体がある。 
雌花  花被片6個  1個     多数(9)  ?  
ゲッケイジュ属 ゲッケイジュ 雄花 花被片4個   8〜12個・葯2室   内側の雄しべの両側に黄色の腺体がつく。
雌花 花被片4個 1個   4個 仮雄しべの両側に黄色の腺体がつく。
ハマビワ属 カゴノキ 雄花 上部で6裂   9個・葯4室   (最内の3個の雄しべに腺体がある(牧野))
雌花 上部で6裂 1個   9個
シロダモ属 シロダモ 雄花 花被片4個   6個・葯4室   (腺体は4個)
雌花 花被片4個 1個   6個 (腺体は4個)
 
     
 
(注) 花被片:クスノキ科では萼と花弁の区分がなく、花被片と呼んでいる。 
  仮雄しべ:縮小退化して花粉を作らない雄しべを指す。 
  腺体:蜜を分泌する構造。蜜腺とも。
 
     
  <気づきの点>
 ・  雄しべの配置について、仮雄しべを含めて、3個ずつ4輪に12個としている場合と、仮雄しべを別扱いして3個ずつ3輪に9個として表現している場合がある。 
 ・  蜜を分泌する腺体の数に関して、タブノキ、クスノキ、クロモジで6個(これが基本パターンなのかも知れない。)、シロダモで4個あるようであるが、一般的な図鑑では各樹種について詳しくは触れていない。 
 
     
 
<参考:クスノキ科の総論メモ>  −朝日百科 植物の世界ほか より−
 ・  クスノキ科は30属約2500種からなる。 
 ・  花は小型、同花被花(萼と花冠の区別がない。)で、6,4,9裂し、放射相称で、両生又は単性(雌雄異株)。4,9裂片は2輪にぶ。 
 ・  多くは3数性であるが、シロダモ属ゲッケイジュ属2数性。 
 ・  花被片は多少とも合着して、時に花被筒をつくる。 
 ・  雄しべ(ここでは仮雄しべを含む)は2〜3本ずつ3〜4輪に並ぶ。葯は弁開、花粉に発芽孔がない。 
 ・  子房は1室で果実はふつう液果又は石果で1この種子がある。 
 
     
   タブノキとクスノキの花の構造の理解

 出来の良い写真が撮れないため、既存の説明資料等に照らして理解に努めてみることにする。
 普段は見慣れないものであるが、福岡教育大学の福原氏が公開している情報に、以下のタブノキの花式図がある。  
 
     
 
 
 図鑑に照らしながら解釈すると、 
@ オレンジ色で表示されたものが花被片で、外側に3個、内側に3個存在。 
 A 水色で表示されたものが雄しべで、一番外の輪の位置に3個、二番目の輪の位置にも3個あり、さらに三番目の輪の位置にも3個の雄しべがあって、その両側には腺体(黄色で表示)が存在する。(図の形態は個々の葯が4室あることを示していると思われる。) 
 B 四番目の輪の位置に黄色で表示されたダルマ型のものが仮雄しべで3個存在。 
C 中心部の紫色で表示されたものが雌しべで1個存在。 
  結果として、一番目の輪の雄しべと三番目の輪の雄しべが同じ角度で位置し、2個ずつ3セットが重なっている。
タブノキの花式図(by FUKUHARA)   
 
   
   次はタブノキクスノキの花の写真に即して各構成要素(構造)を何とか照合してみたものである。   
     
 
   タブノキの花は、花粉放出前の雌性期の段階で構成要素を比較的確認しやすい。

 花粉放出期には、写真のC1〜C3の雄しべが中央に寄って来てごちゃつく印象があって、観察しにくくなる。   

 個々の雄しべに長楕円形の葯が4室ある。クスノキ科では葯室の側壁の一部が弁状にまくれ上がって花粉を放出することが知られている(後出)。

 腺体と仮雄しべの間に蜜が溜まって輝いている。
 
 花被片6 
 雌しべ1
 雄しべ9
 腺体6
 仮雄しべ3
タブノキの花の構造(花粉放出前・雌性期)   
   
 雄性期には内側の3本の雄しべが直立状態となるが、写真撮影の都合で、この3本の雄しべについては少々広げさせてもらった。

 雄しべのすべての葯は開弁状態となっている。

 4つの弁をもつ葯の様子については確認しにくいので、次の写真を参照。

 雌しべは受粉済みと思われ、柱頭が褐色となっている。 
タブノキの花の構造(花粉放出中・雄性期)   
   
 写真で見ると、花粉は各弁の内側にまとわりついていて、開弁に伴って花粉が露出している。 
タブノキの葯の様子(弁開中)   
 
 クスノキの花はタブノキよりも遥かに小さいため観察しにくい。 

 花粉放出期の花であるが、C1〜C3の雄しべが巻き込んでいるような印象で見にくい。

 それ以上に仮雄しべが見にくい。

 写真では中心の雌しべは表示を省略している。


 花被片6
 雌しべ1
 雄しべ9
 腺体6
 仮雄しべ3
クスノキの花の構造   
 
     
   とりあえずはごく一般的な存在であるタブノキとクスノキの花のおおよそのイメージを持つことはできた。