トップページへ  樹の散歩道目次へ   続・樹の散歩道目次へ
続・樹の散歩道
  ハナニラの繁殖戦略とは


 ハナニラは強力で執拗な繁殖力を持つことが知られているが、栽培上の増殖はもっぱら子供を作る球根を分けることによっている模様である。敷地内のはびこり植物として困り果てて、これを退治するのに悪戦苦闘している者はもちろんこんなことはわざわざやらない。しかし、球根だけで目にするようなたくましい広範に渡る繁殖が可能なのかと疑問を持つ者が少なからずいるようである。そこで、球根による繁殖とは別に、恐るべき種子散布能力があるのかと言えば、不思議なことにハナニラの種子繁殖の特性について講釈している情報はなく、種子の写真さえ目にしない。実際に、ハナニラの果実が裂開して種子を散布している風景は記憶がない。国内では園芸目的での種子販売の例も目にすることはなく、園芸サイトでも種子がこの世には存在しないかのように、まったく触れていないのが普通である。 
 さて、ハナニラの本当の姿は? 【2017.8】 


 大群落状態のハナニラ       縁石沿いでしぶとく生きるハナニラ  
 
 
 ハナニラTristagma uniflorumIpheion uniflorurm)はウルグアイ、アルゼンチン、チリ原産のヒガンバナ科(ユリ科)ハナニラ属の多年草で、多数の栽培品種が存在する。品種の識別はできないが、青、ピンク、白の花をよく目にする。ニラに似ているが有毒で、食べると下痢をする(植物の世界)という。ややこしいが、食用のいわゆる「花にら」とは別物である。  
 
 まるでハナニラは種子ができない三倍体植物であるかのように見られている印象があるが、改めてこのはびこり植物の姿をよーく観察したところ、果実や種子がふつうに存在していることを確認した。

 つまり、この植物は花をつけた後の5月にはしなしなとしおれて、営業を終了してしまうのであるが、倒れた植物体をかき分けてみれば、まだ緑色の果実を確認できる。

 この倒れた状態で、果実はやがて成熟し、先端が裂開して黒い果実がこぼれるのを確認した。こうして、一見するとよくわからないうちに種子をタレこぼすために、ハナニラが球根の他に種子でも殖えることが一般に意識されていないようである。

 ただし、果実が裂開しても種子を飛ばすわけではないから、種子繁殖のイメージは、果実をつけた茎がバタンと倒れながら、その範囲で種子を散らすものと思われる。種子は風で飛ぶわけでもないから、何とも地味で愚直な繁殖拡大戦略を採用していることがわかった。もちろん、葉を付けた短い期間で球根も一生懸命につくっているようで、5月時点で掘り出してみると、大小多数の球根を目にした。
 
 
 ハナニラの花を上から見た状態
 手前に3個、奥に3個の雄しべが見える。 
    ハナニラの花の裏側
 花弁は6個で、中央の紫色の筋が特に裏側で目立つ。  
  ハナニラの花を展開した状態 
 雄しべは上下に3個ずつ2段についている。
     
   ハナニラの裂開前の果実
 べったり寝た葉をかき分けないと存在を確認できない。
     果実内の若い種子
 3室に区画された果実の1室当たりにトウモロコシのように30個以上の若い種子を見るが、全部は成熟しない。  
    ハナニラの成熟種子
  種子は黒褐色で、表面に小さな凹みが多数ある。1果実当たり、20~30個の種子が見られた。
 
     
   
             採取後に裂開した果実
 果実は茎が倒れた状態で裂開するため、自然状態では裂開した果実を見るのは困難である。
          ハナニラの多数の球根
 1株を掘り起こしたもので、大小の球根がひしめき合っていた。太い根は牽引根とされるから、周辺に小さな球根を定着させることにこれが貢献しているものと思われる。
 
 
<参考1:ハナニラの種子に言及したわずかな図鑑等の例>  
 
 ・   繁殖は分球、種まき【原色園芸植物図鑑】
 ・  球根が鱗茎で全草にニラ臭がある。性質の強い球根で、盛んに鱗茎から分球してふえるばかりでなく、実生でもよく育つから、2年に一度は調節の意味で間引きするとよい。【園芸植物図譜】 
 ・  日本では結実しない(注:誤り)ので、分球でふやす。【生物大図鑑 園芸植物】 
 ・  ハナニラ属は通常は晩夏に植え込みの一部を掘り上げ、球根を分けて植えることで殖やす。この方法は名前のある品種の遺伝的な同一性を確保するためには必須である。春にタネで殖やすのは有効であるが、混合家系となってしまう。【The Telegraph 】
:海外情報では種子に言及したものは多数見られる。 さらに、ハナニラ及びその品種の種子も販売されている。
 
 
<参考2:ハナニラに関する基本情報>  
 
 【ガーデニング・フローラ(翻訳書)】
 ハナニラ属はネギ科に属するが、かつてはブローディア属トリテイア属、およびミラ属の仲間と考えられており、現在も一般的な園芸では混乱が残る。トリストグマ属に含めるように提唱してきた植物学者もいる。
 南アメリカ原産の球根多年草で、葉をこすると腐ったニンニクのような臭いを放つ。花は星形、上浮きで多数つく。手入れの不要な強健な植物で、温暖気候の水はけのよい日向でよく育つが、寒冷気候では霜除けが必要。休眠期にも湿気を保つ。春に実生か、葉枯れしたら分球で殖やす。
 ハナニラIoheion uniflorum 英名 Spring Star Flower)はアルゼンチン及びウルグアイ原産。強健で雑草化しやすい。花は星形で密生し、真冬から春の半ばまでの6~8週間にわたって日中だけ開花する。夏に休眠する。
 ‘アルベルト・カスティリョ’
は、よい香りのする白色の大形の花。
 ‘フロイル・ミル’は大形、濃紫の花弁。
 ‘ロルフ・フィドラー’
は芳香のある鮮やかな青色の花。花喉は白色。
 ‘ウィズレー・ブルー’は人気のある薄青色品種で、青みがかった花弁に濃い主脈がある。 
 【A-Z園芸植物百科事典(翻訳書)】
 Ipherion イフェリオン属(ハナニラ属)
 小型の球根製宿根草で、10種が南アメリカの高知や草地、がれき地に自生する。星形で、強く甘い匂いのある花のために栽培される。花は通常、春に単生または二つ組で咲く。
 繁殖は、種子が熟してすぐまたは春に、コンテナに播種して無加温フレームに入れる。休眠している夏に株分けする。
 Ipherion ‘Rolf Fiedler’ ロルフ・フィードラー
 花は鮮やかな青色
 Ipherion uniflorum ユニフローラム 和名 ハナニラ
 花はうすい銀青色、中央脈が濃くなることが多い。原産地はアルゼンチン、ウルグアイ。
 Ipherion uniflorum ‘Album’ アルバム
 純白色の花をつける。
 Ipherion uniflorum ‘Froyle Mill’ フロイル・ミル
 暗い青紫色のはなをつける。
 Ipherion uniflorum ‘Wisley Blue’ ウィズリー・ブルー
 藤青色の花をつける。 
 【原色日本帰化植物図鑑】
 ハナニラ Bordiaea uniflora
 多年草。無毛、茎や葉にはニラ臭がある。鱗茎は卵形、径1~2cm、白色、頂きより葉が数個向かい合って出て、下部は互いに抱き合っている。・・・ 花は径3cmほど、花被の下部は合着して筒状となり、内面に6個の雄ずいがつき、うち3個は花口に近く、3個は花底近くにある。・・・
 南米原産。明治中期、園芸用として渡来、現在では広く栽培され、しばしば野生化している。日本のアマナは外形が似ているが、葉は1茎に2個しかなく、ニラ臭がなく、花被は離生するので見分けられる。 
 【世界大百科事典】
 ハナニラ(花韮) spring starflower∥Ipheion uniflorum Raf.
 星のような淡青色の花をつけるユリ科(ヒガンバナ科)の球根植物。和名はニラ臭があるためついた。原産地はアルゼンチン。本種は昔より植物学者の間で科や属の所属について論争があったが、ユリ科のハナニラ属として取り扱われるようになった。ニラに似た葉を出し、4月中旬ごろより10cmあまりの花茎を伸ばし、1茎に1~2輪の星形の6弁花をつける。花茎は次々と出て20日間以上も続開する。ハナニラ属 Ipheion は20種あまりが南アメリカに分布しているが、園芸品としてはハナニラが著名である。 
 
 
<参考3:ハナニラに関する雑情報>  
 
 「花ニラ(花にら)」と表記するとまったく別種の野菜を指すことになる。
 花にらの原種は、中国北部からモンゴル・シベリアに自生するヒガンバナ科ネギ属の Allium ramosum とされ、ニラと同じ先祖であるが、花にらはもっぱらとう立ちした花茎を食べるもので、専用の品種が栽培されている。
 花にらの原種は、中国北部からモンゴル・シベリアに自生するヒガンバナ科ネギ属の Allium ramosum とされ、ニラと同じ先祖であるが、花にらはもっぱらとう立ちした花茎を食べるもので、専用の品種が栽培されている。