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前口上
木のメモ帳,木のミニうんちくタンクとして

 明治45年に発行された「木材の工藝的利用」(木材の工芸的利用)と題する本があります。昔の林野庁に相当する農商務省山林局が編纂したもので,当時の国内における広範な木材の利用に関して全国的な実態調査を行うと共に,各地の工人,古老からの聞き取りを行うなどした成果を集大成した千三百ページ余に及ぶ大冊です。
  各種木材の特性を知り尽くした上での使い分けは昔からの長きにわたる経験の積み重ねにより到達した知恵の結晶ともいえるものです。しかも,明治時代は木材の利用が手道具とともに頂点に達していたであろう江戸時代を継承しつつ,明治維新以来,世の中が大きく変化する中で,木材の利用面でもその変化に対応した取り組みをうかがうことができ,これを概観するだけでも興味深いものがあります。
  もちろん,現在に継承されているもの,既に他の素材に置き換えられたもの,無用となったもの,過去に木材で作られていたことが名称のみに残されているもの等があり,現状は様々ですが,これ自体が歴史であり,民俗学の世界でもあります。
  数ある樹木の図鑑を見ると,木の種類ごとに解説の最後尾にその用途について孫引き的に簡単に触れているのが普通の体裁で,その内容は定型的に列挙される形式が多く,また,なぜその利用に適しているかは自ずと守備外となり,その木材そのものに着目した興味に結びつきにくいのが現実です。
  上記文献はこの「なぜ」に多く答えていると共に,職人的講釈も興味深く,非常に貴重な業績といえます。しかし,広範大量の資料が含まれているほか,構成が少々参照しにくい点もあることから,メモ的にポイント部分を抽出し,その他の文献の内容と併せて,樹種又はモノをキーワードとした整理を出発点としました。
  木材の知識を仕込んで樹木を見れば興味の幅が広くなり,さらには木工,木材製品にも関心が高まって,間違いなく木とのより親密な関係が生まれることでしょう。