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木あそび
 
  繊細で美しい梳き櫛  その時代背景             


 木櫛の中に「梳き櫛(すきぐし)」の名の櫛がある。現在でも一部で製作されているが、
ほぼ過去の文化財となってしまった。櫛の中でも非常に目の細かいもので、もちろん本来は薄い鋸で精密に挽いて磨き上げたものである。

昔は鏡台の引き出しには必ず納まっていたのであろう(子供の頃に目にしたような気がする)。この繊細な櫛で黒髪を梳いてさらにつややかなものにしていたのか・・・と思っていたら、この櫛の本来の役目は髪の汚れやフケ、シラミなどを梳くことにあった! 櫛の美しさとの落差にガックリである。【2007.7】   


 手前左がツゲの両歯の梳き櫛である。このタイプでは、使用時に手で歯を痛めないよう片歯を覆う鞘がついている。
 右はツゲの片歯の梳き櫛である。

 浅草の「よのや」の製品である。繊細な櫛であり、手間もかかることから値段も相応のものとなる。
 



よのや
東京都台東区浅草1-37-10
            梳き櫛の販売品の例(手前側)  
   
 昭和初期の梳き櫛で、展示用として寄贈されたものである。よく見ると、鞘は広葉樹であるが、櫛本体は竹製であることが分かる。



台東区下町風俗資料館
台東区上野公園2番1号
                 梳き櫛の例(展示品)  


 考えてみれば、かつて、平安時代では公家でも入浴回数は月に数回で、その間は行水で済ませていたといわれ、これらを合わせても何日かおきとされ、江戸時代に至っても入浴頻度は高くなかったとされる。

 入浴自体がこの有様で、洗髪はこれとは切り離されていたようである。日本髪を洗ったのは月に1回程度とも聞く。ちょっと昔を思い返しても、家庭に水道のない時代に風呂桶に水を満たすこと自体大変な労力であったこと間違いないし、さらに薪で火の番をしながら炊いたわけである。

 ところがである。わが家の女房、娘たちときたら、ボタン一つで風呂が沸くのをいいことに、なんと毎日入浴しているのである。全くもって地球に優しくない。悪いくせが付いたものである。

 と、話がそれてしまったが、結局のところ梳き櫛の衰退は戦後、シャンプーが普及したことや、洗髪の頻度が高まったことが背景となっているようである。

 そこで念のため、ある櫛屋の店員さんに梳き櫛の需要があるのか聞いたところ、ここ最近、(懐かしい人にはなつかしい)アタマジラミが勢いを盛り返しており、子どもたちが学校でもらってくるケースがあって、その対策で購入するお客さんがあるとのことである。

 確かに、シラミ対策用として、その先進国の米国からシラミ専用の梳き櫛を輸入しているようである。黄色のプラスティックの持ち手に医療用ステンレス(surgical stainless steel )の細かい歯を付けた製品で、名前は“LiceMeister Comb”、全米シラミ症協会(the National Pediculosis Association)のお墨付きまである。米国内では10ドル弱であるが、輸入品の価格は跳ね上がって3,675円となっている。どちらが機能的に優れているかはわからないが、複雑な心境になる。それぞれの時代背景の下に梳き櫛は永遠に・・・・か。

 しかし、現在でも梳き櫛は絶滅していないわけであり、どこかに、この梳き櫛で美しい黒髪を梳いて、よりつややかなものとしている美しい女性がいるかもしれない。