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木あそび
 
  栗材にこだわった漆器 郷原漆器
             


 栗材の落ち着いた材色、質感が好みで、どんなものが作られているのかを調べているうちに、栗材のみを使用して漆器を生産している工房があることを知った。岡山県北部の蒜山高原に立地する「郷原漆器ごうばらしっき)」である。歴史は古いものの戦後に衰退・滅亡した経過があり、平成の世になって関係者の努力によって見事に復活を遂げたものである。轆轤(ろくろ。木工用旋盤)加工が基本で、木地は伝統を継承して栗(ヤマグリ)のみを使用しているのが何よりの特徴である。【2008.10】   


   標準的な仕様の郷原漆器

 木地はクリ材。外側は摺り漆。内側の朱色には明るい朱色とやや暗色の朱色の製品がある。
          郷原漆器の汁椀の例  
 郷原(ごうばら)の名は現在の岡山県真庭市蒜山西茅部の集落の名に由来するという。現在の生産拠点は、岡山県の支援のもとに県北の真庭市蒜山に設置された「郷原漆器の館」である。
 1階が木地作りのための木工作業場で、2階に塗りの作業場と製品の展示スペースがある。1階の木工作業場にいた若いお兄さん(あとで年齢は32歳と判明)からは製品を見ながらいろいろな話を聞かせて貰った。木工作業場にはもう一人ジイ様がいて「親方」と呼ばれていたから、この二人は師弟関係にあることがわかった。
 2階の塗り作業場を覗くとなんと、驚くべきことにパートタイマー風のおばちゃん2人が和やかに、そしてにこやかに漆塗りの作業をしていたのだ。こうした仕事は難しい顔をした親爺が緊張感を漂わせながらやるものと思っていたし、よそ者がどかどかと来て覗き込もうものならチリ、ホコリを嫌うから追い出されるものと思っていたから驚いてしまった。
 工房内の展示・販売製品の例。うれしいことに全品栗づくしである
 後日わかったことであるが、1階のジイ様は復活した漆器の工房を当初から支えてきた木地師である徳山俊治氏である。先のお兄さんは請われて途中から参加した高月国光氏で、なんと、郷原漆器の館館長さんでもあった。岡山県に生まれ、大学卒業後に石川県立山中漆器産業技術センター石川県挽物轆轤技術研修所で4年間の本場の修行を終えた後に声が掛かってこの工房に参加したとのことである。
 
 お爺ちゃん、若者、そしておばちゃんと、なかなかいい組み合わせである。国指定の伝統的工芸品に指定された有名漆器産地に比べたら非常に小規模ではあるが、誠実なものづくりに努めており、更なる活躍と発展を期待したいものである。
<郷原漆器メモ帳>

郷原漆器の従前からの特色
 木地はヤマグリのみを使用。
 木取りは芯持ち(芯は中心に位置する。)で、生材のままロクロにかけて一気に仕上げたあとで乾燥してサンドペーパー研磨する。

(注)  ふつうは漆器木地は年輪の中心を避けて木取りしている。言うまでもなく芯を持っていると乾燥によって割れが入りやすいことから、これを避けるためである。しかし別項で紹介したニマ工法で見られたように、生材を一気に薄く仕上げれば芯持ちでも割れにくいことが知られていて、これと共通したものと思われる。さらに工房で聞いたところでは、栗は特に割れにくいとのことであった。
    ノミで仕上げたクリ木地の表面    少し拡大した写真で、きれいな刃痕である。

昔の郷原漆器との違い

 従前の製品は全体に色漆を塗っていたが、現在は木の木目を生かすために外側は拭き漆とする仕上げに改めていること。
 従前の製品は柿渋を使った下地としていたが、現在は下地を「本堅地造り」として品質の向上を図っていること。
 内側の中心部に「布着せ」の技法を導入して品質の向上を図っていること。

   製品のしおりには次のようにある
             「郷原漆器」のしおり

 美しく雄大な蒜山三座の麓、真庭市蒜山西茅部部の郷原地区で、明徳年間(1390〜1394)に始まると言い伝えられている「郷原漆器」は、6百年の伝統をもつ岡山県を代表する漆器として、長い間、人々の暮らしを支えてきました。
 「郷原漆器」は木地にヤマグリの木を用い、素朴な塗りながら、上部で美しく、しかも安価なところから、大山道を行き交う人々の人気を集め、買い求められたものでした。
 しかし残念なことに、昭和10年代の戦乱期を迎え、漆の入手が困難となってきたため、漆器の生産は次第に衰退し、終戦を境として途絶えてしまいました。
 世の中が落ち着くにつれて、かつては、日本文化のシンボルでもあった漆の良さが次第に見直され、「郷原漆器」の復興を望む声も高まり、平成元年から岡山県郷土文化財団の指導のもとに、地元有志によって復興への取り組みが始められ、次第に生産に従事する人が増えてきました。
 復興した「郷原漆器」は、昔ながらに地元蒜山で育ったヤマグリの木を輪切りにして生木のままで挽き、あとで乾燥させるという技法によって木地を作り、ひとつひとつ心をこめて塗り上げております。
 平成4年11月には、「岡山県郷土伝統的工芸品」の指定を受け、平成8年4月には、生産の拠点となる「郷原漆器の館」が完成しました。
 また、平成18年3月には、郷原漆器が「岡山県指定重要無形民俗文化財」に指定され、その技術を継承して活動する郷原漆器生産振興会が、「民俗技術」の保持団体として特定されました。
 そのうえに、平成19年3月には、真庭市蒜山川上歴史民俗資料館収蔵の、昔の郷原漆器製作道具557点が、岡山県では初めて国の「登録有形民俗文化財」として登録されました。
 祖先の知恵を今に生かした「郷原漆器」は、使えば使うほど、漆の艶が潤いを増し、ぬくもりを感じていただけると存じます。
 何卒、ご愛用のほどお願い申し上げます。
 なお、この「郷原漆器」は、塗り面が損傷しても、塗り直しができますので、その節はお問い合わせ下さい。

郷原漆器生産振興会
 岡山県真庭市蒜山上福田425「郷原漆器の館」内 電話0867-66-5611 
(旧真庭郡川上村上福田)

財団法人 岡山県郷土文化財団     
 岡山県岡山市石関町2-1 電話086-233-2505