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刃物あそび
  ○○○投げ あるいは○○○スローイングの快楽


 手裏剣とか投げナイフの語には年齢に係わりなく変わらぬ魅力の響きがある。幼い頃から目にした映像の影響が大で、忍者の車剣や武士の裏技としての棒手裏剣投げ、アクションもののナイフ投げ、さらには戦慄的必殺戦法ともなるトマホーク投げ等々、誰もが一度はやってみたい誘惑に駆られたはずである。
 表題の○○○の中には別にナイフ、手裏剣に限らず、身近ないろいろな道具を入れて楽しむことが可能である。【2010.2】


スローイングナイフの例

 ドイツ、ゾリンゲンの製品。 レザーハンドルで、仕上げはきれいである。昔の製品で、現在扱いがあるかは不明。ボーカー(BOKER)社製。
 忍者御用達のトゲトゲの手裏剣である車剣は今でも隠れファンがいて、昔と変わらず多様な製品が販売されている。また、かつては手裏剣投げに関しては武芸たる「手裏剣術」として複数の流派があって、これには棒状の棒手裏剣が使用された模様で、実はこの手のものについても販売されている。こうした製品をだれが購入してどこで遊ぶのかは分からないが、その情景を想像すると、場所の制約もあるから何やら秘密めいた雰囲気が漂い、少々人目を気にせざるを得ない印象がある。
 一方、ナイフ投げ(ナイフスローイング knife throwing )については欧米では明るい遊びとしての需要が多いのか、ファクトリーナイフメーカーが多様な投げナイフスローイングナイフ throwing knife )を堂々と販売していて、投げる技術に関する英語のハウツー本も多く見られる。こうした状況を見ると、欧米的ナイフ投げの場合は、オモテ世界の軽いゲーム、レジャーとして楽しんでいる雰囲気が伝わってくる。

 さて、ナイフ投げの醍醐味などと大げさな言い方をする必要はないが、回転する刃物が的(まと)に到達して、計算どおりに見事にグサリと刺さる感触は理屈抜きの快感である。しかし、現在の一般的な生活環境の中では条件的に厳しいものがある。こうした中でのささやかな浅い経験を以下に紹介したい。
 標的の調製

 小型刃物の的としてはやはり丸太の輪切りが一番であろう。硬さ、発生音、外観といった特性において木材の木口面は特に相性がいい。広葉樹では少々硬いから、針葉樹、とりわけスギは最適な素材の一つであろう。10センチ程度の厚さで、贅沢を言えば直径が50センチ程あれば文句なしである。
 ただし、屋外であれば余分な心配は無用であるが、室内の場合は解決すべき問題がある。標的を外したときや、回転の計算を誤って落下したときの壁や床の何らかの保護措置が必要である。これは条件に応じて考えるしかない。
 写真は手に入れた輪切りの標的である。左がスギ、右がヒノキで、いずれも直径で40センチ弱である。
 贅沢を言えばきりがないから、これくらいで我慢である。
 何を投げるか

 その気になれば、大工道具の鑿(のみ)でも柳刃包丁でもワイルドで面白そうであるが、毀して本来の使用に支障が生じてはいけないから、やはり理性が必要である。
@  千枚通し投げ

 まずは、最も身近な道具からである。本体(刃部)より柄部が重い道具は、柄を持って投じるにはバランスを採りにくく、回転の調製が難しい。したがって、千枚通しの場合も針部分を軽く握って180度回転させて的に当てるのが適当であろう。最初に足元から1.5メートル程の地点に平置きした的で回転の感触を掴んで、後は距離に応じたリリースポイントや感触を身に付けるべく精進するだけである。(以下Dまで同様。)
 なお、千枚通しにも色々あり、真鍮口金の貫通タイプのものが強靱でお薦めである。類似のものとして、本当に使い分けているのかは知らないが、商品としてコンクリートケビキ縁引き針(ふちひきばり。畳職人用。)、敷針(しきばり。畳職人用。)等の名の比較的丈夫そうな商品も見られる。
A:商品名は「貫通柄千枚通し」。柄はハンノキか。
B:商品名は「貫通千枚通し」。柄はカエデと思われる。
C:商品名は「コンクリート針」。柄はシラカシ。
D:商品名は「貫通千枚通し」であるが、畳用の「敷針」であり、針は太く頑丈である。
E:五寸釘。先端補正、焼き入れ済。
A  五寸釘投げ

 昔のガキは五寸釘を地面に突き刺す遊びを知っていたから、この延長で考えればよい。もちろん子供の遊びでは回転投げはなかったが、考え方は、@と同じである。ただし、釘は尖りが鈍いため、木に突き刺すにはグラインダーで先端を鋭くする必要がある。ついでに、軟鉄ではほとんど効果はないと思われるが、お遊び気分で焼き入れすれば色も黒くなって外観が引き締まる。
B  肥後守投げ

 これも以前試してみたが、カシメの締め強度や拡げた角度にバラツキが見られるなど、少々扱いにくいため、積極的にお薦めはできないが、使えなくはない。
C  待ち針投げ

 待ち針(まちばり)といってもここで登場するのは裁縫用の待ち針(小町針)ではなく、古来から変わらぬ畳職人のための美しくも簡素なデザインの道具としての待ち針である。畳表を仮止めする針で、真鍮製の穴の空いた丸い頭が印象的である。エッ、待ち針なのになぜ穴があるの? と思われるであろう。もっともな話であるが、これを待ち針と呼んでいるから仕方がない。この穴は針を抜きにくい時に別の針を頭に通せば簡単に抜けるという機能がある。頭が少々重ため不安があったが、針の側を手にすると非常に投げやすいことを実感できる。美しいデザインの伝統的道具は、是非とも華麗に投げたくなる一品である。
F:待ち針(畳用)
G:商品名は「頭付きコンクリート針」としていた。
H:ケビキ
I:ロープ止め。先端補正。
D  その他投げ

 上記以外に、道具箱のケガキ針、小型のロープ止めも異なる条件下での練習教材となる。
E  スローイングナイフ投げ(ナイフ投げ、ナイフスローイング)

 さて、棒手裏剣について見渡してみると、細めの鏨(たがね)あるいは尖った鉄の棒といった風情で、長めのドライバービットを細工すれば自作できてしまいそうで、ややデザインとして面白味がないから、個人的にはわざわざ購入する気になれない。
 次にスローイングナイフであるが、これも悩ましい。冒頭に紹介したものは美しい仕上がりの製品であるため、勿体なくて投げられない。かといって、通販されているものの多くはナイフのような形をしているが、ステンレス板を単に打ち抜いて削り出した安直な製品が多い。それならばむしろ現実的な選択としては、シンメトリーデザインで機能優先のシンプルな形態の製品に主眼をおいた方がよいと思われる。
 ナイフ投げについては、詳しい講釈ができるほどの経験はないが、棒手裏剣の投げ方に関しては柄部を持ってほぼそのまま当てる直打法(じきだほう)が普通のようである。これはリリースのタイミングと角度に独特のコツがあるようである。また、ナイフの投げ方に関しては、刃部を持つ場合(ブレードグリップ、ピンチグリップ)と柄部を持つ場合(ハンマーグリップ、ハンドルグリップ)があり、ナイフとの相性で選択すればよい。英語の教本やネット情報が豊富にある。
 よく目にするタイプのスローイングナイフの例で、いずれも米国のメーカーの扱いであるが、生産地は中国で、残念ながら仕上げは雑である。丸投げ生産委託で、品質管理を放棄した製品のようである。  
 上段の製品のハンドルはナイロンの紐巻きであるがすぐにゆるんでしまった。角の処理もまちまちである。3本セットであるが、仕上げの細部の仕様も統一されていない。ステンレスの板は5ミリ厚。
 下段の製品は滑り止めとしてABSの板で挟んでいるが、真鍮のリベットがゆるゆるである上にABS板も接着不良であるため、投げた衝撃ですぐに剥がれて飛んでしまった。ステンレスの板は2.5ミリ厚。
 特に下段のものは情けない製品で、いずれもステンレスのただの板と考えた方が良さそうである。練習用と割り切って、追ってハンドルに別の素材を巻く予定である。
 
F  スローイングアックス投げ(斧投げ、アックススローイング)

 残念ながら、これは一度も体験したことがない。そもそも斧を投げるなど、自然と穏やかに共生してきた日本民族には全く考えも及ばないことであり、これ自体が完全に異民族、蛮族の習慣としか思えない行為であると感じつつも、ちょっと興味をそそられる。
 重くてアンバランスな形態の斧が変則的な軌道を描きながら、多分1回転して標的にドスンと刺さる様は想像しただけでもゾクゾクしてしまう。こうして夢想するのみで、巨大な丸太の木口面を標的にできる生活環境がなければ楽しめない遊びである。彼の米国ではナイフスローイングに加えてアックススローイングの競技会まであるそうである。
 ナイフ投げの達人

 国内、国外には手裏剣術、ナイフ投げ、斧投げの達人がいるようで、多くの投稿ビデオで紹介されていて、達人自らがいろいろ講釈している。
 また、TVで見るサーカスの定番メニューとして、美女の体をかすめる投げナイフの技の披露があって、昔の児童、青少年たちはドキドキしながら息を凝らし、画面に釘付けになったものである。こうした技術は変わらずに存在するのであろう。
 独り言 

 レジャー、ストレス解消の場として、刃物投げ放題のサービスがあれば支持されるのではないかと考えている。これはいわば束の間の野生への回帰、日常生活の理性からの解放の場の提供となりうる。投擲具としては、考えつくものを何でも用意してもらえるとありがたい。斧、出刃包丁、柳刃包丁、牛刀、鑿(のみ)、鏨(たがね)、マサイ族の槍、忍者の手裏剣、ランボーナイフ・・・等々いろいろ思いつく。ついでに標的についてもいろいろ演出したら盛り上がってしまう。これぞ刃物投げ天国である。スッキリすること請け合いであるが・・・
 参考
 手裏剣術の技法は、直打法(じきだほう)、反転打法回転打法の3種に大別できる。手裏剣の形は多種多様であるが、短刀形、針形、釘形、剣形、車剣形に大別できる。おもな流派には、根岸流、白井流、実用流、知新流、柳生新陰流、香取神道流、本覚克己流、諸賞流などがある。
【平凡社世界大百科事典(抄)】
注1: 「反転打法」の呼称は、「半転打法」又は「半回転打法」としている場合もある。 
注2:  手裏剣投げでは、回転させない技法を「直打法」と呼んでいるのに対して、ナイフ投げの場合は、一般的に「無回転投げ」 spinless throw と呼んでいる。
 刃物投げは、しくじった場合には刃物が跳ね返る恐れがあり、特に標的が近い場合には体にまで及ぶことがある。このため、自分を守るための注意はもとより、見物人まで巻き込むことのないよう細心の注意が必要である。