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刃物あそび
    日常生活のはてな
     銀象なのに金象印とはこれ如何に!!


 スコップは日本の国づくり、国土保全のための最も基本的な手道具として、昔から現在に至るまでほとんど変わらぬデザインで存在し続けている。典型的な製品はシラカシの太い柄に頑強な成型鋼板の頭部を備え、その重さも半端ではないが、これはもちろんハードな長期間にわたる利用に耐えるための仕様である。柄部には各メーカーのマークがあって、ゾウさん富士山トンボ等々が思い浮かぶ。

 さて、あるときのことである。ふと目をやったスコップに“銀色のゾウさん”のイラストを描いたシールが貼付されていた。高いシェアを有するメーカーの製品であり、これだけなら別に何ということはないが、大きな文字で 「金象印」 とある。思わずうなり声を上げざるを得ない怪しい風景である。実害はなくともごく普通の素朴な感性を混乱させ、平穏な日常生活を不安に陥れる恐れがある。一体これはどうしたことなのであろうか。【2013.2】 


   グチャグチャの呼称

 本題に入る前に、少々うっとうしいことであるが、呼称の実態に関して触れざるを得ない。

 今回の主役たる道具類には、スコップシャベルショベル等の呼称があって、勝手に定義している例があるほか、地域差があるとか、もうどうでもいいような話が蔓延していて実に迷惑をしている。自分は周囲の慣例に従ってすべてスコップと呼んできたから、特に改めるつもりはないが、くどい解説・講釈は実に煩わしい。そこで、整理のために実態論を総括すれば簡単なことで、次のとおりである。 
   
 
 英語に由来するシャベルの語(ショベルは日本で訛った別称であるが、重機のパワーショベル(油圧ショベル)の略称としても使われている。)とオランダ語に由来するとされるスコップの語は、成り行きとして慣習による地域差、個人差があるとしても、一般的には国内で同じ意味で使用されることが多い。
 
②   日本工業規格(JIS)が形状の図を示して、さじ部がなで肩で、すくう形態のもの(アルミ製のものは雪はねに多用される。)をスコップ、先端部が剣型(丸型とも)、角型かを問わず肩が直角状のものをショベルとして、実態にはお構いなしに勝手に仕分けため、これに忠実に従っているメーカーがある。(混乱の大きな要因である。) 

③   土方のアルバイトをしたことがあるが、ベテランのおっちゃんは先端部が剣型のものを「剣スコ」、四角い形状のものを「角スコ」と呼んでいた。これぞ日本国で最も使用頻度の高い人達の実態上の呼称である。 

④   なお、JASの記述で、スコップの語に英語の scoop (スクープ)の語を併記しているのは適当ではない。英語のshovel scoop の関係が、日本語のシャベルスコップの関係とピッタリ一致するものではないからである。さらにオランダ語の schop (スコップ)と英語の scoop の語意が一致するものでもない。
 
 ちなみに、実際の商品としての呼称も、スコップとシャベル(ショベル)の呼称区分はグチャグチャであるが、何も困らないし、誰もそんなことは気にしているようでもない。 
参考資料は最後に掲載 
   
   製品の様子

 話を戻して、謎の“銀色の金象印”の件であるが、都合のいいことに、比較可能な安心の“金色の金象印”の製品と、“銀色の銀象印”の製品も一緒にあったため、次に並べて紹介する。また、幸いにも3種類の製品の木製の柄材がそれぞれ異なる樹種であることも確認できたので、ついでに楽しむこととする。なお、紹介するゾウさんのマークの製品は大阪に本社を置く浅香工業株式会社製である。同社では、「ショベルは主に掘る用途に使い、スコップはすくう用途に使います。」として、実質的に(仕方なくか?)JISにひれ伏した定義をしている点は少々残念なことである。

 まずはお馴染みの金色のゾウさん銀色のゾウさんに登場願う。よく見たら、鼻でスコップを持っていた。 
   
 
金象印(浅香工業)  銀象印(浅香工業) 
   
   以下は身近で目にした製品である。 
   
  ① 金象印 ASK柄付・磨き丸 (メーカーではショベルと呼んでいる。) 
   
 
  間違いなく金色金象印である。 
 
   
  この柄材は一目でわかる。 
   
  ② 金象印 アルミ合金スコップ (メーカーではスコップと呼んでいる。) 
   
 
  どう見ても銀色なのに金象印となっている。 
  太い道管を持つ環孔材である。
   
  ③ 銀象印 ASK柄付スコップ#2 (メーカーではスコップと呼んでいる。) 
   
 
  間違いなく銀色銀象印である。 
 
  の柄材とは明らかに異なる。 
   
   上記製品の柄材について

 柄部の素材に関して、は明らかにシラカシで、最もハードな利用に供される製品にふさわしい素材であり、オーソドックスな選定である。は多分ヤチダモで、強度の割に軽いため、アルミの頭部を持った製品とは相性がいい。は多分ミズナラで、シラカシ同様に重いが、十分な強度が期待できる素材である。中国ナラであれば、多分シラカシより安価であると思われる。 
   
   謎解き

 まずは製品カタログで検証する。
 会社のウェブ上の製品カタログを確認すると、「銀象印」として区分しているのは、頭部がアルミの製品であることがわかる。これに対して「金象印」はこれ以外の頭部がスチール、アルミ合金、ステンレスの製品、さらにはプラスチックの製品と、ほとんどの製品が対象になっていることが確認できた。

 アルミ合金製よりも価格・品質的に格下のアルミ製品のみをわざわざ「銀象印」として区分しているものと理解されるが、僅かな製品について、こうしてグレード区分することが果たして販売上のメリットをもたらすものなのかは疑問があり、よくわからないが、とりあえず、カタログからはこのように受け止めた。

 しかし、実は前項で紹介したとおり、カタログには存在しない“スチール製の銀象印”の現物が存在した。ではこれがグレード的に低位なものなのかであるが、柄材がシラカシではなくてミズナラであることで、わざわざ低位なものに位置付ける意味があるのかは理解しにくい。

 ここまで見た限りでは、敢えて「銀象印」を設定する意味はあまりないように思われ、メーカー自身もそれほど強いこだわりをもって厳密に区分しているとは思えない。現状がわかりやすいものとなっていないが、材質表示はなされているから、消費者としてはこの区分は気にする必要はないと思われる。なお、「金象印」は登録商標となっているが、「銀象印」は登録商標となっていない。

 さて、次に銀色の金象印の件である。これはどう見ても、単なる手抜きか、エラーとしか思えない。まさか金色に蒸着したものが紫外線により簡単に退色するとは考えにくいからである。日常生活に重大な影響を及ぼすことでもないし、まあ、どうでもいいことであるが、商品として広く陳列されるものである以上、子供に質問されて、「ホント、訳わかんないよねえ・・・」などと言わずに済むようにしてもらったほうがいいに決まっている。 
   
  <参考資料> 
   以下のとおり、シャベル(ショベル)とスコップに関する辞書類の説明も一定していない。 
   
 
【平凡社世界大百科】
シャベル
人力で土砂などを掘削するのに用いられる土工用具。正しくはショベル shovel
)。刃先の形状によって丸形,角形などの種類がある。スコップ scoop) とも呼ばれるが,本来,スコップは刃先が平らで,シャベルより深みがあり,石炭や鉱石などをすくうのに用いられるものをいう。なお,動力を利用して土砂の掘削を行う機械はパワーショベルと呼ばれる。

【広辞苑】
スコップ【schop オランダ】①粉・土砂などをすくい上げ、また混和するのに使う、匙形(さじがた)の鋤(すき)。シャベル。掬鋤(すくいぐわ)。②〔機〕ボイラーに石炭を投入する時の一掬いの量。
ショベル → シャベル
・シャベル【shovel】砂・砂利・粘土など軟らかい土質を掘削し、すくうのに用いる道具。匙(さじ)型鉄製で、木柄をつけたもの。シャブル。ショベル。スコップ

【新明解国語事典】
スコップ〔オ schop〕柄の短い、シャベル型の器具。シャベルと同義にも用いられる。
シャベル〔shovel〕土砂や石炭などをすくったり穴を掘ったりするのに使う道具。スコップと同義にも用いられる。
ショベル〔shovel〕①→ シャベル ②〔shovel roader〕動力で土・砂などを掘ってすくい、運搬車の中に入れるための、バケットのついた土木工事用の機械。

【大辞林】
スコップ〔オランダ schop〕主に土砂をすくうために使う道具。ふつうシャベルよりも小型のものをいう。〔関西ではふつう大型のもの(シャベル)を指す〕

シャベル〔shobel〕 土砂をすくったりまぜたり、また、穴を掘ったりするために使う、長い柄が付いて先端がさじ形の道具。ショベル。〔関西では移植ごてなど小形のものをいう〕

【大辞泉】
スコップ 〔オランダ schop〕小型のシャベル。
シャベル 〔shovel〕土砂・石炭・雪などをすくったり掘り起こしたりするのに用いる、さじ状の道具。ショベル。→スコップ[補説]スコップはシャベルより小型のものをいうことが多い(
)が、地方によって逆の場合もある。また、土を掘りやすくするために先が尖っていているものをシャベル、雪かきをするための先がまっすぐなものをスコップという場合もある。あるいは、土などを掘る際に、足で踏んで掘り下げるための足踏みがついているものをシャベル、ついていないものをスコップといって区別する場合もある。

【研究社新英和大辞典】
shovel[ʃʌ'vəl ] ①シャベル ②(砂糖・小麦粉などをすくう)すくい ③シャベル一杯(分)(shovelfil) ④(口語)=shovel hat ⑤power shovel
scoop[skúːp] ①(穀物・銅貨・砂糖・石炭などをすくう)スコップ、小シャベル、しゃくし、ひしゃく、大さじ ②(英)石炭入れ ③(機)(ドレッジャーの)バケツ、泥すくい ・・・・ ⑧スクープ ・・・・

(管理者注)
(digging)shovel  → 剣スコ
square shovel → 角スコ
snow shovel → 雪かきスコップ
snow scoop → スノーダンプ(ママさんダンプ)
candy scoop → 菓子スクープ、菓子スコップ
ice cream scoop → (アイスクリームを丸くすくい取る)アイスクリームスクープ、アイスクリームボーラー

【研究社新和英大辞典】
スコップ a scoop ; a shovel (シャベル)
シャベル a shovel
ショベル = シャベル
 

【講談社オランダ語辞典】
schop シャベル、スコップ 英語の shovel , spade
schep スコップ、シャベル 英語の scoop , shovel

【ENGELS WOORDEN BOEK  ENGELS-NEDERLANDS】
shovel → schop
scoop → schoep, schep, schop