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刃物あそび
 
  なぜニッケルメッキ仕上げなのか        


 刃物でニッケルメッキ仕上げは少数派である。一般的なクロムメッキはやや冷たい感じがするのに対して、ニッケルメッキはわずかに黄色みを帯びた銀白色で、見方によっては高級感を表現できるといえなくもない。それとも、単に低コストであることから選択されているのだろうか。はたまた古くから利用されてきた技術ゆえのノスタルジーの演出か。【2007.8】 


身近な道具類の表面仕上げを見てみると、次のようなものがあることがわかる。

黒皮 

鍛造した鉄そのまんまで、例えば槌目の残ったようなワイルドな菜切包丁が黒い色をしているそれである。製造過程で高温になることから形成された黒錆で、赤さびを防ぐ効果がある。化学名は四酸化三鉄(俗に四三酸化鉄という。)、化学式は Fe3O4 である。
黒染

鉄をアルカリ処理して、化学的に四酸化三鉄の防錆皮膜を形成したもので、色は黒色、平滑できれいな仕上がりとなる。鋏でもしばしば見られるが、わかりやすいのはペンチの黒い色である。
ステンレス鏡面仕上げ

刃物に限らずステンレス綱の表面をピカピカに磨き上げたものが鏡面仕上げで、しばしば機械的又は化学的処理によるつや消し仕上げも見られる。 
クロムメッキ仕上げ

鉄の錆を防ぐためのオーソドックスな手法で、強度に優れるとともに外観も美しいために最終仕上げとして多用されている。単独仕上げでは割れやピンホールが生じやすいという欠点があることから、それをカバーするために下地処理として銅やニッケルメッキが併用される。
ニッケルメッキ

下地、仕上げのいずれのメッキにも利用されている。素地の保護能力に優れ、各種工業用部品に適しているという。クロムに比べると軟らかいので傷がつきやすいとされる。仕上がりはクロムメッキやステンレスとやや色調が異なり、銀白色気味である。先に紹介したフェザーの爪切り PaRaDa は「パールニッケルメッキ仕上げ」とのことである。

 写真は日本橋木屋がイタリアのコマックス社に発注して自社ブランドのアドラー名で販売している鋏である。欧州系のオーソドックスなデザインである。仕上げはニッケルメッキである。工業生産による部品類ではニッケルメッキ製品は多く見られるが、刃物類としては現在では少数派で、クラシック系になっている。本製品がニッケルメッキ仕上げとしていることについて聞いてみると、特別のこだわりや、美意識があって選択しているわけでもないようである。

【追記 2007.9】

 新規開店した東急ハンズ銀座店を覗いたところ、スペインの高級クラシック文具メーカー「エル・カスコEl Casco)」の製品群が鍵のかかったショーケースに陳列されていた。クロムメッキのシリーズと金メッキのシリーズを揃えていて、銀座を意識しての品揃えとしたのであろう。洋鋏も3サイズ、クロムメッキと金メッキのそれぞれを並べているのは珍しい風景である。製品はいずれもとてつもなく高い。こうした製品に負けない格調高いデスクが事前に必要である。