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刃物あそび
 
  刃物店の爪切り
             


 刃物店は基本的に刃物の販売だけに特化してそれを業としているのが普通で、製造と販売の両方を担っている例は少ない。したがって、老舗の刃物店でも、歴史の浅い刃物店でも自分の店のお眼鏡にかなった製品の製造所又は問屋に発注して商品を仕入れ、自らの店の責任で販売することになる。その際、特に打刃物の場合は店の責任を明示するために店の登録商標となった屋号を製品に刻印している例が多い。【2008.1】   



 刃物の産地は数が限られているから、結果として同じようなところに発注しているケースも多いと思われる。しかし、包丁などを見てもどこの産地の製品なのかはさっぱりわからない。例えば日本橋の木屋では、和包丁は新潟県の三条が主で、洋包丁は関が主だそうである。もちろんそのことは明示していないし、店が自信と責任を持って販売する以上、製造所を明示する必要性はないということである。

 しかし、面白いことに爪切りのような規格化されたシンプルなデザインの量産品は、見た目で製品を比較しやすい。このため、店の名前を入れてあったとしても、「これはどこかで見たような・・・」ということになる。

@ うぶけやのツメキリ(この店では小型タイプ)  

 写真の製品はクロムメッキの梨地仕上げで、屋号が印字されている。ごくオーソドックスなツメキリで、飛散防止のカバーは付いていない。長さは67ミリ。うぶけやの扱うクリッパー式の爪切りは、大きさは大小2種あって、仕上げはコールドとシルバーの2種類のクロムメッキ梨地仕上げがある。
A 木屋の爪切り(この店では大型タイプ)

 写真の製品は黒染めの仕上げで、屋号の“KIYA”の文字が刻印されている。プラスティックカバー付きである。カバーを除く本体長は67ミリ。木屋が扱うこのタイプのクリッパー式の爪切りは、大きさは大小2種あって、仕上げは黒のみである。うぶけやの小型は木屋の大型に相当する。相当するというよりは仕上げ違いの全く同じ製品である。
B 菊一文字の爪切り(この店では小型タイプ)

 写真の製品は黒染めの仕上げで、屋号の「菊一文字」の文字が印字されている。プラスティックカバー付きである。カバーを除く本体長は47ミリ。菊一文字が扱うこのタイプのクリッパー式の爪切りは、大きさは大小2種あって、仕上げは黒のみである。木屋の小型と全く同じ製品である。製品の裏には“ITEZA HATTORI(イテザ・ハットリ)の文字が刻印されている。
C 東急ハンズ扱いの爪切り(この店では小型タイプ)
 写真の製品はクロムメッキの梨地仕上げで、透明プラスティックカバー付きである。カバーを除く本体長は47ミリ。刃は直刃である。もちろん、展示されている製品は曲線刃もあり、大きさもいろいろである。製品の裏にはどこかで見たような“ITEZA HATTORI”の刻印がある。


 以上見た製品は、どう見ても同じ工場の製品である。さらに、無印良品の爪切りにもニッケルメッキの梨地仕上げの製品があるが、レバー部がわずかにシンプルとなっている以外、ヤスリ目の形状、プラスティックカバーまで、上記のものとの違いは認められなかった。Cの製品はパッケージに次の社名が記されていた。製品の卸元であろう。

 株式会社 北正(きたしょう)本社:岐阜県関市栄町5丁目1番11号

ということは、“ITEZA HATTORI”は関のいずれかの製作所(又は問屋)の製品であると推定できる。打ち刃物と違って、こうした製品は量産品で、そのお陰で価格も比較的安い。多くの店ではその他昔からおなじみの貝印、フェザーの製品が見られるほか、グリーンベルの名の製品も多く見られる。実はこれらはいずれも岐阜県の関に生産拠点を有する企業である。かつては都内でも爪切りが生産されていたが、現在ではほとんどが関の製品なのだろうか。

 クリッパータイプの爪切りは、目にするものはすべて量産品であり、特定メーカーの寡占状態の中で、職人技が発揮されるような分野ではないのは明らかである。オーソドックスなデザインのタイプはいずれも実用上は一定の水準にあるから特に問題はなく、逆に他と一線を画すような抜きん出た品質の製品があるわけでもない。その意味で、選ぶ楽しみがない分野になっているのは事実で、少々残念である。

<参考>

貝印株式会社(明治41年創業)
本社を東京に置いているが、創業地は関で、製品の開発・製造の拠点は関市である。

フェザー安全剃刀株式会社(昭和7年創業)
本社を大阪に置いているが、創業地は関で、製品の開発・製造の拠点は関市である。

株式会社 グリーンベル(昭和43年創業) 
歴史は新しく昭和43年に大阪に設立。本社を大阪市に置いて、工場は関市にある。
 
【追記 2013.6】 

 “ITEZA HATTORI”の刻印のある爪切りは、以下の事業者の製品であることを確認した。

   有限会社 服部利器製作所
     岐阜県関市栄町 3−6

 やはり関市の事業者であった。ところで、“ITEZA” とは一体何なのか。わからない事は聞くのが一番で、実は、その由来は先々代が射手座の生まれであったことから来たものだそうである。これで、イテザの謎が解けた。
 なお、この事業者は広く OEM 生産も手がけている模様である。